| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

日本を今一度

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

愉快なメンバーさん

第三の目を開眼したままの社長と、スーツ美女に引きずられ、梦見は廊下を歩いていた。
「社長さん、前見えてるんですか?」
すいすいと廊下を進んでいく社長に聞く。さっきは壁に激突したのに。
「あぁ、この目でも見えるし、何故か遠近感も分かる。余計なことを知らなくて済むから、出来るだけこの姿で過ごしてるんだ」
頭良いだろ、と得意気に言う彼に、梦見は微笑むことしか出来なかった。

さて、社長室から出て30秒。
四人はモニター室に居た。
かなり広いこの部屋には、壁に多数のモニターが並んでいて、そのどれもが、それぞれ違う景色を写し出している。せかせかと働く人たちは、新顔の梦見のことなんて目にも留まらぬ様子で、仕切りに機器を操作していた。
「雪那、この依頼は何班に回した?」
「はい、反乱軍による暴動の鎮圧ということで、三班を」
「いつも的確だな、流石雪那」
社長に褒められ、雪那はわたわたと慌てる。
「いっ、いえ、私など戦闘に不馴れな新参者。このくらいでしか皆さんのお役に立てませんので」
心なしか、雪那の頬が赤い。……可愛い。
「三班は…お、居た居た。おーい、弥救!」
社長の声に反応して、モニターに向かっていた緑髪の青年が振り返る。
片目は前髪で隠れていて、どことなくミステリアスな印象だ。あと頭に生えているあれは…ツノだろうか?
「初めて見る子が居るねぇ…?へぇ、梦見ちゃんっていうんだ」
「えっ」
初対面の人にいきなり名前を言い当てられた梦見は、驚きに固まる。
まさか弥救さんも悟りなんですか?そう口に出して質問しようとした瞬間、彼が口を開いた。
「あぁ、違う違う。僕は"件"だよ。ちょっと先の未来が見えるだけ」
「くだん…?」
「牛の姿をした神とも言われる妖怪だ。弥救は託宣能力者で、件の力を持っている」
社長の説明を聞いて、梦見は弥救を羨ましく思った。未来が見えるなんて、本当に便利な力!
「そうでもないよ?件といっても、僕の力はまだまだ弱くて、10秒程先のことしか見えないんだから」
また先回りされた…。
梦見が驚きで微妙な顔をしているのが紫翔にも分かったのか、くす、と笑われた。そりゃあ紫翔さんは慣れてるかも知れないけどっ…!
「最初は驚くけど、慣れると楽やで?先回りして話してくれはるし」
「…そういうもの?」
梦見には微妙に納得がいかなかったが、とりあえず頷いておく。でもやはり、心が読まれているようで落ち着かない。
「僕は未来が少し見えるだけだから、口に出そうとしていないことは分からないから安心して良いよ。二人の関係とかも僕には分からないし」
楽しそうにクスクスと笑う弥救。…とてもからかわれている気がする。
「自分は…」
「ただの保護者?だから僕に言われても分からないって。でもそんなことばっかり言ってると彼女傷付いちゃうかもよ」
彼の言葉にドキッとする。やっぱりこの人、心が読めるんじゃ…。
梦見が一人悶々としていると、モニターの一つに影が映った。
「おい、弥救!ちゃんとナビしてくれよー!」
それは、身長が155cmの梦見と同じくらいの赤髪の男性?男の子?だった。
周りのビルから察するに、そこは15階建てくらいのビルの屋上だろう。彼の後ろでは黒髪ストレートの女性―メー〇ルの黒髪版のような―が優雅にコーヒーをたしなんでいた。なんというミスマッチ。
「あぁ鳳凰。見てごらん、可愛い新入りさんだよ」
新入りは私しか居ない。多少の照れを感じながらも、梦見は頭を下げた。
「梦見と言います。宜しくお願いしますっ…!」
「おう、宜しくな!見たところ、まだ学生みたいだけど、今幾つだ?」
「おい鳳凰、初対面の女性にいきなり年齢を聞くでない、失礼であろう」
黒髪の女性がスタスタと鳳凰に歩みより、思いっきり頬をつねった。
「ぎゃあぁぁっ、おい黒羽!痛い、止めろよ!」
バタバタと両手足を動かして黒羽に抵抗する鳳凰だが、彼女の方が身長が高い=腕が長いので効果がない。
「お前はもう少し、心身共に成長した方が良いのではないかの?それこそ、学生に戻って」
「俺はもう19だ、立派な社会人だぞ!」
……梦見には、そうは見えなかった。
「ほらほらそこまで、仕事に戻ろう。…対象は目視出来るかい?」
「んー、こっからじゃ見えはしないな。声の聞こえる方角的に、将軍の邸宅の前っぽいけど」
「黒羽、」
「いつものであろう、分かっておる」
黒羽はそう言うと、ロングコートの裾をバサッと翻し、ビルから飛び降りた。
「えっ!?」
早く助けないと。
そう梦見が思ったのも束の間、何かが黒い翼をはためかせて飛び上がって来た。
「ふふふ…慌てなくとも良いぞ若人よ。妾は"烏天狗"、故に飛べるのじゃ」
烏天狗…。闇に紛れてはっきりとは見えないけれど、烏の翼で悠々と飛ぶ彼女は格好いい。先ほどの鳳凰と比べたら、天と地ほどの差がある。
「ふむ…ざっと二千人、というところかのう。ただのデモ隊じゃ。将軍の邸宅前で叫んでおる」
「なんだ、デモ隊かよ…」
がくっと肩を落とす彼に、黒羽さんはくすくすと笑いながら告げた。
「ただ、白熱してきそうじゃ。今のうちに止めんと、血が流れるぞ」
「それを早く言えよ!」
鳳凰の目が途端に輝き出す。随分と好戦的な人なのだろう。
「弥救、どうする?」
彼は、にやり、と笑みを浮かべながら、モニター越しにこちらを見た。弥救はそれに不敵な笑みで答え、
「さぁ、行っておいで二人とも。命の灯を守ってあげようじゃないか」
それを聞いた二人は待ってましたとばかりに頷き、各々画面から姿を消した。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧