世界に痛みを(嘘) ー修正中ー
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この世界で生きる
3日目
異世界に転生していたことが発覚した。
空いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。
まさか自分は死んでしまったのだろうか
身体が若返り、絶海の孤島に放り出されたのもそれが影響しているのか
疑問が尽きることはない。
この世界は自身の記憶が確かならば、海賊が蔓延る世界であったはずだ。
何と危険な世界であろうか。
加えて、この島の正確な位置も分かっていない。
「─」
こうなれば嫌でも自分が置かれた状況を理解せざるを得なかった。
落ち着いたところで現状の把握に移ろう。
現状、この絶海の孤島にいるのは自分ただ一人
今や世界では海賊と海軍による抗争が絶えず起きている。
この世界を唯一踏破し、大海の果ての島であるラフテルへと到達した伝説的な海賊海賊王G・ロジャーの存在
彼の死後、幕を開けた大海賊時代
世は正に大海賊時代
急激に増加した荒くれ者の集団である海賊達と世界の秩序を守るべく奮闘する海軍という集団の存在
正に弱肉強食の世界、力がものを言う世界だ。
仮にこの島を脱出することに成功したとしても海賊達に遭遇する可能性は極めて高い。
そうなってしまえば自分の命はいとも簡単に散ってしまうことは想像に難くない。
ならば先ずは、この波乱万丈な世界で己の身を守るべく、心身を鍛えることが当面の最優先事項であろう。
しかし、先ずは食料と清潔な寝床、衣服の確保が最優先だ。
前途多難である。
◇
修行を開始して1年の月日が経過した。
走り込み、筋力トレーニング、寒中水泳、思いつく限りの修行方法を模索し、身体を苛め抜いた。
勿論、食糧は自給自足
最優先事項はこの世界で生き抜くことだ。
強くなければ自由に生きていけず、己の意志を貫くことも出来ない。
故に、身体を鍛え、強さを追求する。
◇
修行を開始して半年が経過した際に、珍妙な果実が海岸に流れ着いていたのを発見した。
その果物は薄い紫色をしており、実全体に波紋が如き模様が広がっている。
お世辞にも美味しそうにも見えないが、貴重な食料だ。
文句など言ってられない。
その日の修行を終え、食卓にデザート風に薄くスライスしたその果実を口に運んだ。
その瞬間、美味とは程遠いこの世の不味さを凝縮したかの様な不味さが口内に広がる。
完全に失敗であった。
しかし、貴重な食料を無駄にするわけにはいかない。
その日は、不味さとの戦いであった。
◇
修行を開始してから2年の月日が経過した。
どうやらこの世界は鍛えれば鍛えるほど飛躍的に身体を強化することが可能らしい。
2年前と比較し、肩幅や足腰は逞しくなり、筋肉も相当付いた自信がある。
現在、自分は悪魔の能力者
約1年前、死ぬほど不味い実を食すことで能力者となった。
食料が尽き、心身共に疲れ切っていた時に足元に転がっていた奇妙な実を食し、珍妙な能力を手にした。
海から流れ着いたのか、最初からその場に落ちていたのか分からなかったが、とにかくその実を貪った。
途端、口内に広がる不味さ
涙腺は崩壊し、余りの不味さに嘔吐してしまいそうであった。
だが貴重な食料を捨てるわけにはいかず、根性と気力で全て食べ終える。
身体から珍妙な力が湧き上がる。
能力は引力と斥力を自分を中心に発生させる能力
しかし、悪魔の実の特異な能力が発現してから数多の苦難が始まった。
身体から微力に発生する斥力と引力の力に翻弄され、身動きもままならない。
出力を抑え切ることが出来ずに、足元が陥没し、何度も地面をバウンドする。
ある時は斥力の出力を誤り、上空へと吹き飛び、受け身を取ることが出来ずに墜落した。
ある時は能力込みの疾走に失敗し、顔面地滑りをすることにもなった。
引力の出力を誤り、引き寄せた物体に逆に激突し、吹き飛ばされた。
感情の高まりにより能力が発動し、周囲の物体が軒並み引き寄せられ、身体を潰された。
ある時は大気を踏み締め、宙を駆ける最中、能力の持続に失敗し、湖へと落下し、命辛々生還した。
そして、ふとした行動が周囲の森林を破壊し、自身の家までも破壊した。
四六時中、能力が発動し、全身がズタボロへと早変わりする毎日
傷は癒えず、生傷も絶えることはなかった。
絶海の孤島に放り出された影響か、生物の本能とも呼ぶべき生存本能に突き動かされ、能力を切ることが出来なかった。
就寝時にも能力が発動し、自身に迫る脅威を排除していた。
目を覚ませば、周囲が更地と化していたことも珍しくない。
嵐が去った後か、ふとした拍子に能力が暴走したかの二択であったが
こうして悪魔の実の能力の制御には予想以上の時が要されることになった。
◇
修行を開始して更に1年が経過
ただ切実に人肌が恋しい。
万全を期すべくこの島で何年も心身を鍛えてきたが流石に限界が近付いてきた。
否、当の昔に限界は訪れていたが、目を背けていただけだ。
このやるせなさをただひたすら修行へと打ち込むことしか今は出来なかった。
◇
近頃対人戦の訓練の必要性を感じた。
修行へと励み始めてから更に1年経過
遇にこの島を強襲するモーガニアと呼ばれる海賊達を実践の的にしているが、それだけでは圧倒的に経験が足りない。
金品や食料を巻き上げた後、奴らをこの島の近隣に位置する海軍本部へと輸送する日々
稀に捕まえた賞金首である海賊を換金するのだがいかんせん使い道がない。
初めて海軍本部を訪れた折に正義の門の門番と一悶着あったが、今では顔パスで賞金首の換金に応じてもらえている。
自分1人の換金のために正義の門を開けるわけにはいかず、門の前での換金という形であるが特に問題はない。
しかし、食料には困らないが、金品は増えていく一方である。
今では、以前、この島にて発見した摩訶不思議な貝に収納し、ネックレスとして加工することで首から下げている。
誰でも良いから話相手になってくれないだろうか
◇
更に1年経過
出会い、出会いが欲しい
誰でも構わないから自分の話し相手になって欲しい。
このままでは心身共に死んでしまいそうだ。
水面に映る自分に話し掛けたり、エア友達と言葉を交わしたりしたことも一度や二度ではない。
末期の症状だ。
しかし、この島を遇に訪れるは荒くれ者の海賊のみ
奴らに対話の意志を有しているわけもなく、交戦以外の選択肢など存在しなかった。
現実は非情
神は死んだ。
◇
更に1年経過
最早自分は修行の虫である。
ただ無心に拳を鍛え、能力に磨きを掛ける毎日
身体を効率良く動かし、能力を併用する。
修行に真摯に励む最中、前方に海賊船を発見し、何時もの様にこの島へと上陸した海賊達と交戦した。
だが即行で敗北
どうやら相手は自分より圧倒的に格上だったらしい。
後悔先に絶たずである。
目を覚ませば先程、交戦した男と彼の仲間達が此方を覗き込んでいる。
聞けば彼らはただこの島を活動拠点とするべく上陸しただけとのこと
完全に此方に非があった。
素直に謝罪し、頭を下げる。
眼前の男は気さくに笑い、許してもらえた。
器がとても広い。
名前を尋ねてみたところ眼前の隻腕の男は
─シャンクス─
と名乗った。
どうやら彼らは「四皇」と呼ばれる世界でも4本の指に入る海賊とのこと
彼らにこの世界について尋ねてみたところ海賊と海軍に加え、政府公認の「七武海」という三大勢力が存在することが判明した。
この島は偉大なる航路の前半の海である最終地点・シャボンディ諸島から少し離れた場所に位置しているらしい。
この島にて生を受けてから数年、漸くこの島の位置を知ることができた。
彼らは約3年の間、この島を拠点として活動するらしい。
この折角の好機に便乗し、自身の修行に付き合って欲しい旨を伝えると、心良く了承してくれた。
それ以上に話し相手に出会えたことが純粋に嬉しかった。
◇
シャンクスに頼み込み、修行を開始して1年
惨敗、相手にすらならなかった。
攻撃は当たらない。
能力は断ち切られる。
身体能力、戦闘経験、全てが別次元であった。
シャンクスの身体能力が高過ぎる。
反射速度、見切りの早さ、咄嗟の時の対応能力、全ての戦闘力が別次元だ。
疲労困憊の状態で地面に転がり、空を仰ぐ。
井の中の蛙、それを実感した。
自身の能力の更なる可能性を模索し、貪欲なまでに力を求める必要性を感じた。
修行2年目
またしても惨敗
だがシャンクスの攻撃に反応することが出来るようになった。
対処することは未だに出来ないが
能力の発動時間も延び、戦闘のノウハウを掴むことに成功した。
修行3年目
何とかシャンクスの相手がつとまるようになってきた。
能力込みの話ではあるが
しかし、自分にとっては大きな進歩である。
だが、自分が対処出来るようになったことがシャンクスは嬉しかったのか、本領を発揮してきた。
「覇気」と呼ばれる不思議な力を用い、自身の能力を完全に無視してきた。
五臓六腑に染み渡る痛みを感じ、即座に意識は暗転する。
悪魔の実の能力の特異な力というアドバンテージを完全に無視する力に触れ、新たな自身の可能性を感じた。
まだまだ自分は強くなれることを確信し、修行に明け暮れる日々を過ごした。
こうしてシャンクスとの長いようで短く感じられる修行は瞬く間に終わりの刻を迎えた。
▽▲▽▲
天気は良好
空には一切の雲が存在せず、太陽の光が爛々と照り付ける。
「これまで大変お世話になりました、師匠」
アキトは感謝の意を伝えるべく、シャンクスに頭を下げる。
これは一種の礼儀であり、別れの意志を込めたものだ。
「気にするな。こっちもお前の住んでいた島使わせてもらったんだからよ。あと、師匠はむず痒いから普通にシャンクスで良い。敬語も止めてくれ」
らしくねぇぞ、と朗らかに笑い、シャンクスは此方を見据える。
「分かった、シャンクス」
「この3年でお前さんずいぶん強くなったな。師匠として鼻が高いってもんだ」
シャンクスはどこか得意気な表情だ。
「これから俺は世界を見て回るつもりだ。シャンクスはこの島を出るつもりなんだろ?」
本当にここまで強くなれたのはシャンクスのお陰だ。
戦闘ド素人の自分では鍛え続けたとしても限界があっただろう。
「ああ、まあな」
何か悲しくなるな……
どうやら自分はシャンクス達とこの島で過ごす日常を思っていた以上に気に入っていたようだ。
感傷に浸るアキトに背を向け、シャンクスは仲間達と共に船に乗り込み、出航する。
アキトは彼らの姿が消えるまで目を逸らすことなく、シャンクスの姿を目に焼き付けていた。
シャンクス達と別れたアキトは今後の行動方針について考える。
身体は良好、体力は充足している。
活力は漲り、一人でも生き抜く力を身に付けた。
この島を出る時だ。
シャンクス達同様、船出の刻である。
偉大なる航路に止まるか、それとも赤い土の大陸の向こう側の海に行くか、否か
新世界に行くという選択肢は初めから存在していない。
今のアキトの実力では新世界の強者達と渡り合えないことは分かりきっている。
アキトはふと今は原作においてどの時期に当たるのか気になった。
この島で過ごして今年で9年、これまで原作について考えたことはなかった。
身を粉にして修行に励み、強くなることに精一杯であったからだ。
少なくともルフィは現時点では海賊にはなっていないはずである。
シャンクスからルフィのことは聞いている。
頻繁に彼の口から語られ、その度にルフィに対するアキトの興味は膨れ上がっていた。
これから世界を見て回る予定であるアキトはルフィ達に会ってみるのも良案ではないかと思い始める。
折角、この世界に偶然にも生を受けたのだ。
彼らに会ってみるのも悪くはないだろう。
ならば方針は決まった。
アキトは先ず、ルフィがいる東の海に向かうべく上空へとその場から飛翔する。
瞬く間にアキトの姿は虚空へと消え、島々の上空を跳んでいく。
アキトのこの世界での時間が進み始めた。
後書き
賞金首の換金の仕方は本編オリジナルです。
原作とは全く関係ありません。
[ 設定 ]
10歳 : 孤島に転移
10~19歳 : 修行に明け暮れる
16歳 : シャンクスと邂逅
19歳 : 旅にでる
シャンクスはルフィとの別れから7年の月日が経過しています。
主人公と邂逅した場所はシャボンディ諸島の近くの島であり、シャンクスは偶々偉大なる航路に戻っていた設定です。
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