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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  閑話11「日常の裏側で」

 
前書き
優輝達が一切出ない閑話。
一応、この世界には優輝達以外にも転生者はいるんですよね…。(大抵自滅してる)
 

 




       =out side=





「………………」

 とある海岸で、一人の少年が釣りをしていた。
 彼にとって釣りは趣味のようなもので、釣果は釣れていれば夕食などのおかずになって御の字程度にしか捉えていなかった。
 そして、今日も釣りをしていたのだが…。

「……ん?…えっ?ちょっ……!?」

 今までにない程の重さに、少年は立ち上がって踏ん張る。

「(明らかに、魚の引きじゃない……何かに引っかかった!?)」

 それは魚が逃げようとする重さではなく、重いものを手繰り寄せるような重さ。
 何かを引っ掛けてしまったのかと少年は思い、ゆっくりとリールを巻いた。

「よし、もうす…ぐ……?」

 ようやく姿が見えてきた所で、少年は硬直する。
 何せ、見えてきた“それ”は、緑のような服と茶髪のようなものが見えた。
 …つまり、人の姿をしていたのだ。

「っ……!?」

 引き寄せたため、もう浅瀬まで来ていた。
 少年は慌ててそれに駆け寄り、陸へと上げる。

「…女の子…?」

 釣り上げた“それ”は、柳緑(りゅうりょく)色の着物を着ており、ポニーテールのように茶髪を括っている少女だった。
 尤も、びしょ濡れなため少年にとってそれどころではなかったが。

「し、死んで……」

 ぐったりとしている様子から、ついそう思って触れようとする。
 すると……。

「ぅ………」

「っ…!?」

 “ぴくり”と、少女が動き、少年は手を引っ込める。

「お……」

「……?」

「お、お腹空いた、にゃぁ………」

 ぐったりとしたまま、少女は呻くようにそういった。
 同時に、空腹の証である腹の音が鳴った。

「(どうしよう…今、釣った魚ぐらいしか食べ物ないや…)」

 少年はいつも夕飯には釣りを切り上げる習慣だったので、食べ物を持っていない。
 おやつとして持ってきた食べ物も既に食べてしまっていた。
 よって、釣ったばかりの魚しか食べ物はなかったのだ。

「ま、待ってて今コンビニで何か…」

「……んー……お魚のニオイにゃっ!」

「わっ!?」

 いきなり目を開き、少女は少年が魚を入れていたバケツに飛びつく。
 そのまま、生の魚を食べ始めた。

「え………え……!?」

 それを見て、少年は二度驚く。
 一つは、少女が生で魚を食べ始めた事。
 …もう一つは、少女の頭と腰に猫の耳と二本の尻尾があったからだった。

「……猫…又………?」

 別に詳しい訳ではない。だが、ポピュラーな妖怪であるため、少年にも分かった。
 自分の事を言われたのに気づいたのか、少女は振り返る。
 ちなみに、魚は既に食べ終えたようだ。

「にゃ?……あ、化けるの忘れてたにゃぁ。お腹空いて海まで流されてたから…ついにゃ」

 “てへっ”と言った感じに手を頭に当てる少女。

「よ、妖怪……!?」

 対して、少年は恐怖していた。
 あまり詳しくないとはいえ、猫又も妖怪の一種であり、妖怪は大概人を襲ったり害を為すような存在だという事は知っていたからだ。

「にゃー、そんな怯えなくても襲ったりなんかしないにゃぁ。むしろ、恩人だから困った時は助けるにゃ」

「え…えっと……」

「最近はあっちの方の山で暮らしてるから、困った時は来るといいにゃぁ。それじゃあにゃあ」

 そういって少女は耳と尻尾を隠し…その場から消え去った。
 残された少年はただただ呆然としていた。

「……帰ろ」

 まるで狐に化かされた気分(猫だが)になり、少年は釣り道具を片付けて帰宅した。







   ―――そんな、日常に潜む非日常の一端。























 廃墟となったビル。そこに三つの人影があった。

「はっ!」

「くぅ!」

 投げられた御札と、放たれた雷が靄のようなものを貫く。

「……これで完了かしら?」

「……うん、そうだね」

 御札を投げた、着物を着た少女の声に、巫女服を着た女性が答える。

「那美と久遠も強くなったわね。何か切欠でもあるのかしら?」

「あはは…そんな大したことじゃないよ…」

 少女の問いに、女性…那美ははぐらかすように答える。
 一応優輝に無闇矢鱈に伝えるのはやめるように口止めされているからだ。

「ふーん…まぁ、那美の性格だと強くなっても無害っぽい感じだけど」

「そ、そうかなぁ…?…って、私、(すず)ちゃんより年上なのに、なんでこんな頼りないんだろう…」

「それが那美だからよ」

「鈴ちゃんは私の何を理解して肯定するのかなぁ!?そんなに!?そんなに私って頼りなく見えるの!?鈴ちゃんに負ける程お姉さんっぽくない!?」

 退魔士としての仕事…幽霊退治が終わったばかりとは言えない空気が流れる。
 落ち込み崩れ落ちる那美に、久遠は“よしよし”と頭を撫でた。
 …残念、那美にはお姉さんらしい素質がないようだ。

「とりあえず、途中まで送るわよ」

「うぅ…ありがとう…」

 どちらが年上なのか…。そう思える程の雰囲気だった。
 そのまま二人は廃墟を後にし、帰路に就く。

「それにしても鈴ちゃんは凄いね。今まで苦戦した事ないの?」

「そんなに凄くないわ。苦戦だって頻繁にするもの」

「そっかぁ…」

 途切れ途切れな会話をしつつ、那美と久遠は鈴と呼ばれた少女に見送られた。
 残された鈴は、見送った後にぼそりと呟く。

「…ええ、あの子達に比べたら、私なんてまだまだよ」

 それは、遠くにいる誰かを想うようで…何かを、悔やむようでもあった。









 少女の名は、“土御門鈴(つちみかどすず)”。
 由緒正しい陰陽師の家系の末裔と言われている一族の娘である。ただし分家だが。
 当主の座こそ長男に譲られているが、その実力は群を抜いていた。

「(…朝、ね。昨日は那美と仕事を終わらせたから、ゆっくりできるといいのだけど…)」

 そんな事を考えつつ、起床した鈴は日課の鍛錬を始める。
 その様は、まるで前からその動きを知っていたようで…。

「……まだまだ、ね。全然届かないわ」

 しかし、それでは彼女は満足しなかった。
 それも当然だった。何せ、彼女が目指す人物の強さは、この程度ではないのだから。

「…………」

 “どうして、私だけ”。…そう、いつも彼女は考える事がある。
 それは、今はもう遠い過去となった時の想いで、決して忘れられないものだった。

「お嬢様、食事の準備ができました」

「分かったわ」

 召使の一人が鍛錬を終わらせた鈴へ声を掛ける。
 それを聞いた鈴は汗に濡れた服を着替え、朝食へと向かった。





「……また、悪霊の討伐か…」

 鈴は朝食の後に渡された指令書を見て溜め息を吐く。
 最近は自分に仕事が回ってくる事が多く、あまり休日がないのだ。
 しかも、鈴は高校生。学業も疎かにはできない。

「ここの所多いわね…。おまけにやけに強いし…」

 本来なら、他の退魔士に回されるはず。
 そんな指令書がなぜ鈴に渡されるのか…それは、偏に彼女の実力が高いからだ。
 最近増えた悪霊の討伐は、そのほとんどが強敵だった。
 並の退魔士では敵わないとなり、それで鈴に回されたのだ。
 実際、鈴は何度も強力な悪霊を討伐しているため、実力は認められている。

「ハッ、嫌ならやめていいんだぜ?」

「……………」

 “嫌な奴が来た”と言わんばかりに、鈴は声の方へ振り向く。
 そこにはどこか鈴に似た顔立ちの青年がいた。
 彼は鈴の家の長男であり、次期当主と言われている男である。
 …尤も、性格に難があるが。

「…他に適任者がいないから私に回ってくるのよ?受けない訳にはいかないわ。…それに、実戦の経験も積めるもの」

「…ちっ、澄ましやがって」

「いちいち感情的になっても意味ないもの」

 嫌悪感丸出しで睨んでくる兄に対し、鈴はごく冷静に答える。
 …実は、鈴はあまり家族に好かれている訳ではない。特に、兄からは。
 やけに大人びた佇まいに、土御門の者らしからぬ在り方。そして実力。
 それらが家族からは好意的に見られなかったのだ。

「実力が高いからって、いつまでも調子に乗ってるんじゃねぇぞ?」

「あら、貴方こそその傲慢な態度はやめた方がいいわ。……由緒正しい土御門の名が汚れるわ」

 だが、彼女にとっては、その家族たちこそ、土御門の者らしからぬかった。
 “知っていた”からだ。本当の“土御門”を…ライバルであり、友人であった者を助けるために、憎まれ役さえ買って出た一人の少女を、知っていたから。
 だから、分家の一つとはいえ、今の土御門を認めたくなかった。

「てめぇ…!」

「じゃあ、そう言う事で」

 人を殺しそうな程睨んでくるが、鈴はまるで気にしないように去って行った。
 実際、どうしようもできないのだ。例え情報操作した所で、鈴は気にしない。
 孤立させても、彼女は一人で生きていける程の度胸もあった。

「さて、場所は…」

 支度を済ませ、鈴は目的の場所へ向かった。
 示されている場所はどこかの山奥。人気のない場所だった。





「人気がないのが相変わらず幸いね」

 目的地周辺に着いた時には、既に日が暮れていた。
 山には熊なども出るのだが、鈴はその心配は大してしていなかった。
 …悪霊の方がよっぽど脅威なので当然と言えば当然だが。

「…今回は、どう来るのやら…」

 何度も強敵と戦ってきた事もあり、鈴は一切の油断もしていなかった。
 今まで戦った強い悪霊の共通点は主に二つ。
 どこかから彷徨ってきた事と、あまりに自己中心的な思念。
 自分こそ最強、自分こそ幸せになるべき、自分こそが主人公。
 …そんな、まるで自分勝手な転生者のような思念を悪霊は持っていた。

「見つけた……」

 黒い瘴気のようなものを感じ取り、鈴はそちらへ近づいていく。
 瘴気の中心には、禍々しい色合いの人型の靄があった。

『…ァァァ……ァァアアアア……!』

「っ…相変わらず、凄い瘴気…一体、どんな欲望を…」

 鈴を認識した瞬間、靄は瘴気を彼女へと向ける。
 落ち着いて鈴は障壁を張ってそれを防ぐ。

『俺は……俺は主人公なんだ………こんな…こんな所でぇ……!』

「…ふーん。…あんた、“転生者”?」

『………!』

 怨嗟の声を聞き流しながら、鈴は一言そう尋ねた。
 その瞬間、瘴気が一気に湧き上がり、鈴へと襲い掛かった。

『お前もかぁ!!お前も転生者か!!俺の…俺の邪魔するんじゃねぇ!!』

「…はぁ、あんたもか…。また流れ着いた“転生者”とやらの魂ね。こんな醜く悪霊化してるって事は、相変わらず自業自得で死んだようね」

 溜め息を吐きながら、触手のように襲い掛かった瘴気を躱す鈴。
 同時に、戦闘態勢を取る。

「まぁ、まず一つ訂正。私は邪魔なんてしにきてないわ。…終わらせに来たの」

『っ!邪魔だ!!』

 御札を投げ、武器…刀を構える鈴。
 投げられた御札は悪霊(元転生者)が放った炎に防がれる。

『はは…ははは!そこらのモブ転生者が、ドラクエの魔法を全部扱える俺に、勝てる訳ねぇんだ!ははは!!くたばれぇ!!』

「魔法…ね。今回は“ドラクエ”なのね。前は…“FF”だったかしら?」

 連続で放たれる炎や氷、風の刃を次々に躱しながら鈴は呟く。
 回避しきれない攻撃は霊力を纏った刀で切り裂いていた。

『なっ…!?』

「霊力…ではないけど、力の練り方が甘いわね。この程度なら余裕ね」

『っ…!なら、これはどうだ!!』

 さらに魔力が膨れ上がり、デタラメに魔法が繰り出される。
 挑発しすぎたかと思考する鈴に、さらに悪霊は直接襲い掛かった。

「(速い…!)」

『死ねぇ!!』

「(…でも)」

 身体強化系の魔法を使ったのか、悪霊の動きは速かった。
 しかし、鈴はそれを冷静に対処し…腕を切り裂いた。

『がぁあああああっ!?』

「はっ!」

『っ!?』

 カウンターで腕を切り裂き、そのままトドメを刺そうとするが、躱される。
 だが、鈴はもう要領を掴んでいた。

「来なさい。その闇、全部祓ってあげる」

『っ…!ァアアアアアアアアア!!』

 その言葉が琴線に触れ、悪霊は瘴気をまき散らしながら鈴に襲い掛かった。







「………終了」

 “チンッ”と刀を鞘に収めると同時に、背後の瘴気が霧散する。

『ぁ…なん、で…俺は、最強の…は、ず………』

「そんな傲慢さで最強など…片腹痛いわ」

 転生者だった悪霊は刀によって一刀両断され、そのまま消えていった。
 対して、鈴は着物が少し破けて煤けているものの、ほぼ怪我を負っていなかった。

「さすがに、慣れてきたのかしらね」

 “一撃でも貰えば危なかった”。それは元転生者の悪霊に共通する事だった。
 一人一人が弱いとは言えない特典を持って転生しているのだから、当然なのだが。
 しかし、そんな相手と何度も戦った鈴にとっては、負ける相手ではなかった。

「長引いたわね。あの子なら…すぐに終わらせただろうに」

 夜空に輝く月を見て、鈴は溜め息を吐く。
 自身の強さが、まだ目指している領域に届いていないと実感したためである。

「……それに…」

 そういいながら、鈴は懐にある御札に霊力を通しつつ振り返る。
 そこには、まるで御伽噺に登場する王子かの如き、騎士のような少年がいた。

「(…連戦になりそうね)」

「君は……」

 気づいたのは、戦闘が終わる少し手前。
 何か大きな力を持つ存在が近くに現れたと鈴は感じ取っていた。

「……ふぅん。まるで西洋の騎士様ね。私には縁遠い存在だけど」

「……ここで、何があったんだ?」

 互いに警戒しつつ、思った事を言う。
 少年の方は鈴が悪霊を滅する直前の悪霊の魔力を感じてここに来ていたのだ。

「自己中心的な思念が悪さしてただけよ」

「何……?」

 はぐらかすような、分かり辛い言い方に少年は眉を顰める。

「…私としては、あんたの方が怪しいわね。突然近くに現れるし、さっきの奴と同じ力も感じられる…。何者?」

「ははは、僕は怪しい者じゃないさ。特に、君のような可愛い子に手を出すだなんて…」

「そんな言葉を言うのなら、まずはその下心丸出しな考えを止めなさい。……上手く取り繕っているみたいだけど、私には丸わかりよ」

 少年の見た目はまさに王子様と言える程に整っていた。
 それこそ甘い言葉を言われたらつい胸に来るほどに。
 だが、その裏から感じられる下心に、むしろ鈴は嫌悪していた。

「へ、へぇ…心外だなぁ…」

「誤魔化しても無駄よ。…そうね、さっきのと同じ雰囲気を持っているし…あんた、“転生者”は知っているかしら?」

「っ……」

「知っているのね」

 少年の反応から、知っていると断定する鈴。

「“転生者”…悪霊の思念から“転生した者”と言うのは分かるけれど…推測だと、前世の記憶を持ったまま生まれ変わるという事かしら?…あら?そうなると私も当て嵌まるわね」

「っ…!お前…!」

 一人でに納得する鈴に対し、少年は敵意を露わにする。

「悪霊になった者と、まだ死んでいないあんたでどう違うか分からないけどね、どっちも自分の好きに振舞おうとしてるのは分かっているの。…それを許すと思って?」

「やっぱりお前も転生者か…!大人しく言う事を聞いていれば、乱暴はしないつもりだったんだがな…!」

「短気ね。それに、“お前も”だなんて同類扱いしないでくれるかしら?…不愉快よ」

     ギィイイン!!

 お互いに武器を構え、ぶつけ合う。
 鈴は刀を、少年は見えない剣を持っていた。

「(何かしらの力を纏う事で不可視となっている剣…厄介ね)」

「殺しはしない。僕の言いなりになるっていうのなら今からでも許してあげるけど?」

「寝言は寝て言いなさい。似非騎士。いえ、似非騎士に失礼ね」

 挑発するかのような物言いに、少年は頭に血を昇らせ剣を振るう。
 …この時点で、鈴の方が圧倒的に精神的優位に立っていた。

「お前ぇ!!」

「っ!」

 不可視の剣が振るわれる。
 それを、鈴は余裕を持って後ろへと躱し、霊力を体中に巡らす。

「奮え、風の刃よ」

   ―――“極鎌鼬(ごくかまいたち)

 大きく間合いを離すと同時に、鈴は仕掛けておいた霊術を放つ。

「っ!?がぁああっ!?」

 霊力で放たれたその風の刃は、少年の魔力で編まれた鎧をあっさり切り裂く。
 それだけでなく、剣に纏っている風も切り裂き、剣の一部分が露出する。

「……ふぅん…」

 それを見て、鈴は冷静に解析する。剣の長さや不可視になっている原理。
 さらに、その剣の正体…とまではいかなくとも、どのような性質なのか。
 それらを瞬時に考え、理解する。

「あんた、力に振り回されてるわね。悪霊もそうだったけど」

「なんだと…!?」

「大方、その剣も含めて貰い物の力ね?だから扱いきれていない」

「っ…うるさい!」

 馬鹿にされたと思ったのか、琴線に触れたのか、少年はさらに怒る。
 だが、次の瞬間には…。

「――――ッ!?」

「シッ!」

     ギィイイン!

 鈴に間合いを詰められ、咄嗟に剣で防ぐ事になっていた。

「くっ…!」

「はぁっ!」

     ギィイイン!

 すぐに体勢を立て直し、鈴の追撃を防ぐ少年。そのまま剣戟が続く。
 鈴の刀による攻撃も、霊術による攻撃も少年は防ぎ、躱す。
 身体スペック自体は鈴の方が大きく劣っているため、そうなるのは当然だ。
 …だが、それでも少年は押されていた。

「な、なんで……!?」

「経験の差ね。それに、力に振り回されていると言ったはず…よっ!」

「がぁっ!?」

 剣を弾き、鈴は懐に潜り込んで霊力を打ち込んだ。
 それに吹き飛ばされた少年は、木に叩きつけられ膝を付く。

「…本当、宝の持ち腐れね。さぞかし、名のある剣なのだろうけど…その力の一割も発揮できているかどうか…」

「うるさい…!うるさいうるさいうるさい!」

 少年の持つ“聖剣”を憐れむように鈴が言うと、少年は喚き始める。

「僕は主人公なんだ!お前のような何でもないモブに負けるはずがない!消えろ、消えろ…消えろぉおおおおおお!!」

〈……非承認〉

「なっ………!?」

 剣に魔力が集束する。しかし、すぐさま霧散してしまう。

「な、なんで……!?」

〈当然の事だよ。こんな自分勝手な事に、騎士達が承認するはずがない。例え、一対一で、精霊との戦いではないとしても。本当の“ボクら”でなくとも、ありえない〉

「っ…!?」

 剣…デバイスに拒絶させられ、少年は癇癪を起したように暴れる。
 それを見て、即座に鈴は少年を拘束するための霊術を使った。

「見てられない程情けないわね。“転生者”とやらは皆こうなのかしら?」

〈皆が皆、そうではない。とだけ言っておくよ。それと、始末するか悩んでいるのなら始末でいいよ。…このマスターは、やりすぎた〉

「…へぇ。一応、内容は聞いておこうかしら?」

〈簡単な事さ。自分の思い通りにならない奴を片っ端から殺した。女の子は無理矢理言う事を聞かせて言うのも憚れるような事をやったさ。……こんな奴、死んだ方が喜ばれるよ〉

 非常に冷めた声で言う剣の声に、鈴は溜め息を吐いて少年に近づいた。

「…今の言葉、事実かしら?」

「っ…それがどうした!僕は主人公なんだから、何やってもいいだろう!言う事を聞かない奴が悪いんだ!お前も、お前も絶対に殺してやる!これ以上ないぐらいに辱めてやる…!」

「……聞くだけ無駄ね。全く…」

 刀の刃を首筋に当てると、ようやく少年は黙った。

「こ、殺すのか?この僕を…。殺す覚悟もない奴が!」

「どの口が言うのかしら?あんたの場合は、殺す責任を覚えなさい」

「ひっ…!?」

 霊術で拘束され、動けない所へ刀を突きつけられる。
 そこで、ようやく少年は死の恐怖に怯え始めた。

「や、やめっ…」

「それに、私…これでも殺人の経験はあるのよ?魂相手だけどね」

「っ、ぁ……!?」

 刀がゆっくりと構えられる。狙う先は、首。
 それが目に見えたため、少年は恐怖で声が出せなくなる。

「せめてもの情けよ。痛みなく終わらせてあげる。……来世では、その醜い魂が治っているといいわね」

「や、やめっ―――!」

     ―――ザンッ!

 少年の制止の声を無視し、首が飛んだ。
 その体と頭を霊術で保護し、地面が血で濡れないようにする。

〈いやはや、ここまであっさり殺すとは思わなかったよ。…ところで、死体はどうするつもりだい?この世界で死体遺棄は犯罪だよ?〉

「悪霊相手なら家が揉み消していたけど…こういう方法もあるわ」

   ―――“火焔旋風”

 霊術によって張られた結界内が業火に包まれ、少年の死体は完全に燃え尽きる。

「魂もついでに浄化。これで完了よ」

〈中々の手際。…やっぱり君、只者じゃないね。というか結局犯罪だよ〉

「まぁ……我ながら普通ではないと思ってるわ。陰陽師な所を除いても。…どの道、こんな存在が世間に知られていないのなら、消した所で問題ないでしょう」

〈それもそうだね。戸籍もないんだし〉

 証拠を消し、残ったデバイスと会話する鈴。

「…それで、あんたはどうするのかしら?見た所西洋で言う聖剣みたいだけど」

〈ボクはただの偽物さ。聖剣と言える程ではない。…そうだね、君について行く…と言うのはどうだい?〉

「………これでも殺した責任は負うつもりよ。あんたがそれを望むのなら、そうするわ」

 そういって、鈴は浮かぶデバイスの柄を掴む。
 すると途端にデバイスは縮み、アクセサリーサイズの剣になった。

「…ナニコレ」

〈デバイスを知らないんだね。まぁ、また後で説明するよ〉

「便利だからいいのだけど……それにしても、最近は面倒な輩に遭遇しやすいわ」

 デバイスを懐に仕舞い、鈴は帰路に就く。
 予定よりも遅くなったと思いながら、ふと溜め息を吐く。

〈…君は、転生者ではないのかい?〉

「“転生した者”であれば私は転生者よ。江戸時代に生き、現代に生まれ直した…ね。只者でない理由は、そういった所と、前世で幽霊になったからとでも言いましょうか」

〈異世界からではなく、過去から転生してきたと言う訳か〉

「そ。だから私はこの世界がどんな物語に沿っているのか知らないし、“神”なるものにも会っていない。…その“転生者”の悪霊のせいで色んな知識は増えたけどね」

 恨みを言うかの如く喚く悪霊の言葉を、鈴は覚えてしまう程聞いていた。
 だから、自分がいる世界は何かの物語に沿っていると知っているし、転生させた神が存在しているのも知っていた。

〈苦労人だねぇ〉

「他人事みたいに言わないでよ。…ところで、あんたは名前とかあるの?」

 ふと、鈴は気になってデバイスに聞く。

〈あるよ。ボクの名前はマーリン。基となった人物の性格とは違うかもしれないけどね。アーサー王伝説のマーリンと言えば、わかるかい?〉

「…悪いけど、西洋のそう言うのには疎いわ。アーサー王と言う名は聞いた事あるのだけど」

〈それは残念だね〉

 名乗られた名前に鈴は心当たりがないか思考を巡らせるが、思い当たらない。
 鈴はアーサー王伝説と言うタイトルは知っていても、内容は知らなかった。

〈ボクが名乗ったのだから、君の名も聞きたいね。いつまでも“君”と呼ぶ訳にもいかないから〉

「そうね。…私は土御門鈴。元幽霊の陰陽師よ。よろしく、マーリン」

〈うん、よろしく鈴。これから、いい関係を築けたらいいね〉

「…早速だけど、胡散臭いわね。あんた」

〈いきなりな意見をどうも。自覚はあるよ〉

 からかい混じりの会話に、鈴とマーリンは少し笑いあった。













   ―――そんな、日常の裏に潜む、陰陽師とデバイスの出会いだった。













 
 

 
後書き
釣りの少年…モブ。釣りが趣味なだけの少年。実は優輝達と同年齢。

猫又…式姫の一人。名前の通り猫又であり、槍を扱う。生魚が好物。色んな所を転々としながら、野良猫に紛れて今を生きている。

土御門鈴…由緒正しい陰陽師の家系の一人。土御門はかの安倍晴明の末裔と言われる家系でもある。群を抜いた陰陽師としての実力を持ち、自滅した転生者の霊などを人知れず祓っていた人物。優輝達の二つ上の年齢。元幽霊の(一応)転生者。

悪霊…転生者が死んで霊となったものが地球に流れ着いた。今回の場合は貰った特典“ドラクエの魔法”で俺TUEEしてた所を現地の魔法生物にパクっとやられた。踏み台気質。実は悪霊なために思念などが精神に干渉して厄介なのだが、鈴はそれに耐性があるため、よく担当していた。

少年転生者…主人公だと思い込む踏み台系。特典は“Fate/prototypeのセイバーの能力”。騎士らしく相手を惚れさせようと目論んでいたが、下心丸見えである。地球に来る前は文面にするだけでR18認定される事をやっていた。真性の屑。

極鎌鼬…風属性依存の防御無視の術。この小説では汎用性のある大きな鎌鼬を起こす。

マーリン…プロトセイバーのエクスカリバーの形をしたデバイス。色々高性能。声はもちろんプロトマーリン。鈴は魔法が使えないが、そんな鈴のアドバイザーとしてこれから同行する事になる。


本編に出てきた以外にも何人か式姫は自力で生きていたりします。今回の猫又はその一人と言う事で出しました。

後半の鈴の話は、優輝達の話の裏側で、転生者は他にもおり、大抵が自業自得で既に死んでいる話です。ついでに鈴は転生者を一人倒してデバイスをゲット。(ただし使えない)
鈴はかくりよの門をある程度進めていると出てくるキャラです。脇役止まりな上、名前もあまり出ないので印象が薄いですが。
ちなみに、もしプロトセイバーの特典を持った転生者を生かしたままにしておくと、その内どこからともなく根源接続者の姫様が顕現します。(そして世界ごと転生者を殺しに掛かります) 
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