ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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涙-ティア-
前書き
ウルトラマンZ放送記念ということで、その師匠ウルトラマンゼロとゼロ魔のクロスである本作のストックエピソードを、今回複数投稿します!
…といっても、内容的にネクサス寄りです。
アルビオンへの偵察および侵入作戦も失敗に終わり、結局トリステインは怪獣災害や侵略者およびレコンキスタからの侵攻に備えての準備を優先せざるを得なかった。
サイトたちは、酷く疲労したシュウを連れて、しばらく元の魔法学院での生活に戻ることとなる。とはいえ、メンヌヴィルが引き起こした魔法学院襲撃事件からまだ日が浅いほうなので、本当に元通り…というには遠かった。
以前サイトたちが、アルビオンから落下したものの調査任務の際に救出した人のうち、村の子供たちはそのままトリスタニアの修道院へ預かることとなった。一方でテファは魔法学院でシュウと共にいることを選び、子供たちはマチルダに託している。当初、家族同然と聞かされていた彼らとテファが、ようやくアルビオンよりも安息できる場所にたどり着きながらも離れてしまうことについて、子供たちは…そしてマチルダは渋っていた。
だが、そんな子供たちを説得したのは他ならぬテファでもあった。自分とシュウを狙ってシェフィールドの刺客やメフィストが現れ、危うく子供達まで巻き込まれたことを考え、マチルダに子供たちのことを託して自分はシュウの傍にいることを決めた。それを受け入れたマチルダは、新任の修道女として子供たちと共にトリスタニアの修道院に留まることになった。…余談だが、サイトたち男性陣はその際、「テファに手を出したら土に返してやる」とマチルダから念を押された。最も、他のUFZ男性メンバーならまだしも、ギーシュのことだから口説きにかかるだろう。その後で自分の身に降りかかる災いのことなど忘れて…。
ヤマワラワだが、60mもの巨体に変身できる彼の扱いについてはムサシと協議することになった。ムサシは元々カオスヘッダーやヤマワラワのように、自分の宇宙から盗まれた怪獣たちを奪還するためにこの宇宙へ来た。もし目を離している間にまたさらわれるなどということは避けたいので、ムサシの目の届く場所に置いておくことになった。普段は人間とほぼ同じくらいの体の大きさであること、この世界が異世界であり使い魔という人外が存在しているので、ヤマワラワが恐れられることはとりあえず無かった。新種のモンスターだと思われるだろうが、ムサシもサイトたちを通じてアンリエッタのお墨付きの待遇をもらっているのでひとまず安心だ。
ムサシについてだが、彼はシュウのことも気にしてどうするか迷っていた。彼は子供の頃から技師としての腕を持ち合わせており、シュウ以外でジャンバードを調べられるのは彼だけだった。以前シュウの手によってビデオシーバーおよびパルスブレイガーと通信回線が繋がれたので、ムサシはジャンバードを調べつつサイトからもシュウと、今学院付近の森に住み着いているヤマワラワの近況を聞けるので、ひとまずムサシはジャンバード解析のためトリスタニアに残ることになった。
これにより、しばらくトリステインは軍用強化と街の復興、そしてあのバリアを打ち破る方法の解決案を出すべく、ここ最近までの通り守勢に回らざるを得なくなった。しかし同時に、敵が自分たちの縄張りに強力なバリアを張ったということは、敵側もこちらを攻めることを一時中断していると考え、しばらくの間トリステインにはつかの間の休息と平和が結果的に約束されたことになった。できればもう何も起こらないことを願いながら、サイトたちは少しでも平和だった頃の日常を取り戻すべく、日々を過ごし始めるのだった。
これにより、魔法学院も校舎の修復作業を進めつつ、急いで通常通りの授業を行う準備を始めた。
ようやく戻ってきたシュウを見て、ずっと彼の帰りを待っていたリシュはロケットのごとく彼の胸に飛び込んできたときも、まるでドミノが倒れたかのようにそのまま学院の芝生の上に横たえたほどの喜びを示したが、ここである出来事が起こる。
これまで連続してハードな戦いが続いた結果…
ついに彼は熱を出して倒れてしまった。
様子を見に部屋に入ったときは、いきなり倒れたさまを見せ付けられたこともあり、サイトやティファニアは特に動揺させられた。当然すぐに水のメイジとしてモンモランシーが呼び出され、発熱に効くポーションを作らされている。
「ぐぅ…うぅ…」
酷い熱だった。ベッドで寝かされたときの彼は大量の汗を流し、かなり赤くなった顔をさらけ出していた。ティファニアはとにかく冷水を絞ったタオルで、彼の汗を拭いていく。
「お姉ちゃん、ずっとお兄ちゃんを拭いてるけど、休まないの?」
傍らで見ていたリシュが不安げに呟く。
「…ずっと彼は無茶してきたんだもの。これくらいなんともないわ」
「でも、お手手が…」
リシュの目に、テファの両手の指先が目に入る。普段は白く美しかった指が、タオルを絞る際に冷水を何度も浴び続けたために、赤くふやけていた。
「リシュのいうとおりだぜ。テファまで無理をしなくたっていいさ」
そのとき、サイトがモンモランシーを連れてやってきた。
「これ、発熱を抑えるポーションよ。飲ませてあげて」
「ありがとうございます…」
テファはモンモランシーからポーションの小瓶を受け取り、シュウの口に流し込む。
「全く、いきなりポーション作れだなんて、ルイズの使い魔なのに人使いの荒いこと」
「悪いモンモン、けどこの人のことすぐに助けないとって思ったら、モンモンが一番頼れるかなって」
惚れ薬なんてとんでもないものまで作ったのだ。水のメイジは治療の魔法も得意だと知り、なら病気に効く薬は手の者だと思ったサイトは、モンモランシーに真っ先に頼み込んだ。
「けど、最初は渋ってたわりに患者がシュウのことだって知った途端、妙に手のひら返したな」
「い、いいでしょ別に。病気の人を見捨てられないし」
サイトから問い詰められたモンモランシーはどこかムキになったようにそっぽを向く。ラグドリアン湖でシュウと偶然会ったとき、彼氏のギーシュの目の前だと言うのに、彼の端正な容姿に目を奪われたくらいだ。当時と同じ理由だろう。
「にしても、ここまで疲労しているなんて…ウルトラマンもいいことばかりってわけじゃないのね」
「え…もしかしてあなたシュウのこと…!?」
モンモランシーの口ぶりから、テファは察する。この人もシュウがウルトラマンであることを知っていたことを。
「あぁ…実は、前にたまたまあいつが変身したところを、この子も俺もたまたま見てたんだ」
「そう…」
サイトの説明で、テファも納得する。しかし、サイトは改めて思い返すと、シュウが少々無用心な気がした。ヒビノ・ミライ=ウルトラマンメビウスの一件や、ミシェルが自分からウルトラゼロアイを奪った件もある。下手に正体が知られることはかなりリスキーなのだ。
「もしかして、あなたも知ってたの?彼がウルトラマンだってこと」
「ええ。薄々そうなんじゃないかって思ってはいたけど…信じたくなかった」
「なんで?」
親しい人間がウルトラマンということはかなりの自慢にもできるはずだ。モンモランシーは疑問を抱くが、テファは首を横に振る。
「戦いなんて、私には辛いだけ…まるで、自分から平和のための生贄になっていくみたいで…」
脳裏に、シュウがウルトラマンとして戦っていたときの光景が蘇る。どの戦いも熾烈を極め、見ているこちらを不安にさせるには十分すぎた。争いを決して好まないテファにとってそんな光景は、たとえシュウが自分たちを守るための正当なものだとしても、苦痛が大きすぎた。
それに…更なる不安もある。
最初に夢で見た時、ウエストウッド村を襲ったムカデンダーと戦ったとき、そしてアルビオンでメフィストとぶつかったときに見せた『あの姿』…。
獣のごとき咆哮をあげ、敵を蹂躙しつくす悪魔同然のあの姿。いつかまた、戦いに赴くことで同じことが起こるのではという不安がよぎる。もしそうなったら、メンヌヴィルがいつぞや言っていたような、絶対にあってほしくないことが起きてしまうのでは?だから願わくば、もう彼には二度と戦ってほしくなかった。
「お姉ちゃん、元気出して?」
「ありがとう、リシュ」
テファの気持ちが沈んでいるのを理解し、リシュが彼女の手を握る。手から感じるそのぬくもりで、少しだけテファは気持ちが軽くなった。こんな年下の子に気を遣われてしまうとは、これでは町の孤児院に預けてきた村の子供たちに顔を合わせづらい
(『生贄』…言い得て妙ね)
テファの反応に対し、モンモランシーは困惑した。だが、わかるような気もした。ギーシュも、本当は臆病で見栄っ張りなくせに、よくかっこつけては危険に飛び込むこともある。なんだかんだ言いつつも自分を案じてくれているモンモランシーの気持ちを顧みずに。
「…言っとくけどモンモン、こいつがウルトラマンだってこと、誰にもいわないようにしとけよ。どっかでこいつに危害を及ぼそうとしているやつだっているんだからな」
「そ、そうなの?でも、正直荒唐無稽すぎて誰も信じないと思うけど」
「実際、俺の故郷を守ってたウルトラマンも正体がばれたせいで危険にさらされかけたことがあったからな」
「…わかったわ」
思い出すのは、かつて実の両親を失って荒んでいた頃の自分をゴシップ記事のネタとして利用しようとした悪徳ジャーナリスト。折角この世界で出会った仲間が、奴と同列の存在になってほしいとは決して思わない。
サイトの忠告にモンモランシーは頷くが、少しサイトは、いつぞやのような意地の悪い笑みを見せてきた。
「よし、覚えたからなその言葉。もし破ったら今度こそ臭い飯食わせるぞ」
「あ、あなた結構蒸し返してくるわね!?もう終わったことにして頂戴…」
また惚れ薬の件を引っ張ってきたサイトに、なんとも変なところで執念深さを見せるのかと、モンモランシーは呆れたと同時に危機感を覚えた。
「臭い飯?なんかおいしくなさそう…」
言い方がどうも子供には難しかったのか、天然なことを言うリシュ。
「えっと…なんのこと言ってるの?」
「な、なんでもないわ!気にしないで頂戴!」
テファも気になってモンモランシーにたずねるが、当然誤魔化された。何せ惚れ薬を作ること自体法律で禁じられているのだから。
「お、そろそろ水が温まってるな。俺が代えてくるよ」
サイトは水桶に手を入れ、シュウを冷やすために用意した水が温くなっていることに気がつく。
「サイト、ありがとう。でもそれは私が…」
「いいって、俺もその人には世話になってたから。テファだってそろそろ休んでろよ。指先がすごいことになってるぞ」
「え?…痛ッ」
サイトに指摘を受け、テファは自分の指を見る。言われたとおり、酷く赤く腫れ上がっていた。痛みも気がついたと同時に走り出す。何度もタオルの水を絞り続けていた結果だろう。それだけ懸命にシュウの看護に集中しきっていたのだ。サイトは少し困った笑みを浮かべ、水桶を抱える。
「そういやモンモン、ルイズたちは?今どうしてんだ?」
「仮にもあの子の使い魔なんだから、そんなこと自分で把握しなさい」
さっきの仕返しを混じらせてからか、モンモランシーはそう言った。へいへい、とサイトは言いながら、今度はベッドの上で熱にうなされているシュウに視線を向け、口を開いた。
「シュウ、無理して動こうとすんなよ?これ以上テファに心配かけんな」
そういい残し、サイトは部屋を後にした。
「…余計な、お世話だ…わかっている」
入れ違うように、目を覚ましたシュウが扉の方を恨めしげに見ているかのように細めながら呟いた。
「シュウ…!」「お兄ちゃん!」
「…寄るな。熱がうつるだろ」
彼の顔を見てテファとリシュの二人が顔を覗き込んでくると、シュウは寝返りを移して近づいてきた彼女たちから顔を背けた。
「…看病してもらってたのにその言い方はないでしょ?」
さっきまで彼の容姿に見とれていたところがあったのが嘘のように、モンモランシーはシュウの言動に対してため息を漏らした。だがシュウはなにも答えようとしなかった。
「…まぁいいわ。そろそろ私もここで引き上げるわ。またギーシュが他の誰かにちょっかい出すかもしれないし。
ティファニア…だったわね。なにかあったらすぐに言いなさい」
「はい、ありがとうございました」
モンモランシーもまた部屋を後にしたところで、テファは再びシュウの方に体の向きを変えた。
「…シュウ、体は平気?」
「…はっきり言って…最悪だ。本当ならこんなところで、寝ている場合じゃないはずなのに…」
「ねぇ、お兄ちゃん。熱、いつ治るの?」
「さあな…いつも以上にしんどく感じる」
つみ隠さず、容態を問われたシュウはそのように答えた。自分の不甲斐無さに対して、彼はまだ引きずり続けていた。
「…情けないよ、本当に。今度こそヘマをしない。そのつもりで戦ってきたのだが…結局知っての通りだ。俺は…助けたいと思っている人であるほど、それを救えずのうのうと生き残るできそこないだ」
虚ろな目で、シュウは空を見上げる。今もなおアルビオン大陸で捕まっているアスカのことを考えていた。アルビオンを包む謎のバリアのせいで、アスカを助けるどころか突入することもできない。ましてや、これ以上戦うと自分がどうなってしまうのかもわからない。ムカデンダーやメフィストと、そしてアスカを助けに向かおうとしたあの時のように、我を失って暴走しだすことも考えられた。
精神も肉体も、こうして体調を崩して静養せざるを得ないほど限界ぎりぎりまで使い果たし、変身したところでとても戦える状態とはいえなかった。
助けたくても、さらに事態を悪化させてしまう可能性が大きかった。
「……」
テファはシュウから話を聞いたあの時、涙がでそうになった。
アルビオンから脱出する際にメンヌヴィルと遭遇したとき、モルヴァイアの花が見せた幻影の愛梨を見たシュウが、彼女がすでに死んでいたことを語っていたが…。人類のためにも、病に侵された彼女のためにも、汚い手に染めてでも奔走していたのに、その全てが否定され、もっとも残酷な形の結果しか出なかった。挙句の果てに、大切に思っていた少女を亡くしていたとは…。心優しさを持つティファニアには、心を痛めずにいられないことだった。
「お兄ちゃんはできそこないなんかじゃないよ。だって、リシュたちはこうして生きてるもん。お兄ちゃんがいなかったら、こんな風に手を握ってあげることもできなかったんだよ?」
「リシュ…」
テファは、シュウの表情に変化が出たことに気づき、自分も彼に言葉をかけた。今なら、自分の言葉も届く。そう確信して。
「リシュの言う通りよ。自分を責めないで?あなたは十分に頑張ったわ。みんなのために、大切な人のために身を削り続けたんだもの。アスカさんも愛梨さんも…許してくれるはずよ?」
シュウにそっと手を触れ、ひたすら強く、彼の安寧を祈りながら、言葉をかけ続けた。
「…頑張った…俺が…?」
少し前の自分なら、『俺にそんなことを言われる資格はない』と否定できたかもしれない。でも、自分がしなければと思ってきたことが全て無残な結果に終わりつつあった今の彼には、彼女たちの眼差しと言葉は、シュウの心を溶かすほどの力があった。
「もう休みましょう、ね?あなたが自分の平穏を望んでも、誰も責めたりなんかしないわ」
「…俺は…………」
自分がかつて死なせてしまった、セラたち内戦地の多くの人たち。その事件で不幸にしてしまった姫矢准。病に侵された果てにビーストに殺されてしまった愛梨。それらの重い過去をただ引きずって、自分を心配する人たちの気持ちを無視する自分に「終わったなんて言ったらだめだ」と、手を差し伸べたアスカ。彼らへの償いのために、シュウは戦った。
罪を背負った自分には優しい言葉をかけられたり、救われる資格なんてない。手を取ってもいけない。そうしてしまえば、過去の罪から逃げることになるから。罪を軽く見ている、甘ったれていると思えてならず、かえって自分が許せなくなってしまうから。
自分の周りで必ず不幸が起こる今、その手を取ったら…自分に手を差し伸べた人さえも不幸にするから。だから、ティファニアやアスカの自分に対する優しさを否定した。
しかし、どれほど否定しても、結局また最悪の結果ばかりが起こる。
繰り返される地獄のような現実に疲弊したシュウは、自分以外の誰かからの優しさを跳ね除ける余裕もなかった。
「済まない…ティファニア…俺は…俺は…」
他者からの優しさを拒否してきた自分のせいで、ティファニアを傷つけてしまったことを謝ることができた。
彼の中から、ずっと溜め込み続けていた水がダムを突き破るように溢れ出た。
愛梨を失って以来、もう枯れ果ててしまったと思っていた…涙が。
「ぐ……うぅ……うあああ…ああ…」
ティファニアは、そんな彼をそっと抱きしめ、自分も涙した。
やっと…彼の心に触れることができた。そう確信しながら。
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