恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS
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789部分:第六十四話 公孫賛、誰からも忘れられていたのことその四
第六十四話 公孫賛、誰からも忘れられていたのことその四
「曹操、御前とも何度も会っているんだぞ!」
「だから覚えてないわよ」
彼女も本気で返す。
「誰なのよ、本当に」
「こんな有様だったんだ」
場所は変わる。公孫賛は残念といった顔で酒場にいた。そうしてそのうえで夏侯淵に対して話していた。横では夏侯淵のその姉が歌っている。
その歌を聴きながらだ。公孫賛は彼女に訴えていた。
「酷いと思わないか。誰も私のことを覚えていないんだ」
「わかるぞ、その気持ち」
夏侯淵は彼女のその言葉にしみじみとした口調で返す。
「全くな。酷いものだ」
「夏侯淵殿、わかってくれるか」
「わかる。私もそういうところがあるからな」
それでわかるというのである。
「全くな。実にな」
「済まない、しかし貴殿は私の名前を覚えていてくれるか」
「忘れる筈がない。私も色々と苦労してきた」
「そうだったのか」
「幼い頃から姉者と」
実際に姉をちらりと見ての言葉だった。
「麗羽様もおられたのだぞ」
「二人もか」
「そうだ。何かをする度に私はとばっちりを受けていた」
「私はいつも忘れられていた」
「同じだ。だからわかる」
「そうだったのか」
「しかも貴殿はあれだったな」
夏侯淵はここで公孫賛に対してこんなことを話した。
「学園の日々ではまだよかったな」
「しかし夏や交差になるとだ」
「扱いが悪くなっていっているな」
「張角の方が扱いがいいのだぞ」
公孫賛にとってはそれも嫌なことであった。それも実にだ。
「どうなのだ、これは」
「そうだったな。貴殿の苦労は続くな」
「困ったことだ。それにだ」
「これからのことか」
「どうすべきだろうな」
飲みながら真剣に夏侯淵に相談する。
「これからだが」
「一度朝廷に行ってみたらどうだろうか」
夏侯淵はこう提案した。
「貴殿の資質なら朝廷でも用いられるだろう」
「朝廷か」
「そうだ。大将軍も何かと大変だ」
宦官達との対立故である。政治だけではないのだ。
「だからだ。そうしてみてはどうか」
「そうだな」
公孫賛も夏侯淵のその言葉に頷いた。
「そうするとするか」
「それがいい。それではな」
「うむ、そうしよう」
こうしてだった。公孫賛の次の行く先が決まったのだった。そして決まったその時にだ。それまで歌っているだけだった夏侯惇が彼女に言ってきた。
「そこの御主」
「私か?」
「そうだ、御主だ」
名前は言わないのだった。
「御主も歌うか?どうだ?」
「歌か。歌は好きだが」
「私と共に歌うか。どうだ?」
「悪くないな、それではな」
「凛には負けていられないからな」
何気に密かな対抗心も見せる夏侯惇だった。
「だからだ。共にな」
「うむ、そうさせてもらおう」
「歌はいいものだ」
夏侯淵もここでは微笑む。
「気持ちが晴れる」
「そうだな。それでは一曲な」
「一曲と言うな」
夏侯惇がまた公孫賛に告げた。
「何曲でも歌おうではないか」
「そうだな。それではそうさせてもらうか」
公孫賛も頷いてだ。そうしてであった。
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