衛宮士郎の新たなる道
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第7話 釈迦堂の選択
前書き
ルビが付けられるなら『ニートの決断』と読めますww
百代対シーマの組手稽古?が終わり、ヒュームの運転で帰宅する紋白。
「川神百代め、矢張りトンデモナイな」
「まあ、そうですね」
一応紋白の意見に合わせておくが、ヒュームが気にしているのは百代の相手のシーマだ。
(あれほどの強者がそう都合よく現れるわけがない。そして先の言葉、矢張り藤村組――――いや、衛宮士郎はサーヴァントを有していたか)
赤子と評したは言え、精神面は兎も角実力面では自分の弟子である揚羽を上回った百代と余裕で渡り合えるシーマを、ヒュームはサーヴァントと確信した。
(だが疑問が残る。宝具の真名解放や現界維持は勿論、通常的に戦闘させるのにも僅かながら魔力消費はあるにも拘らず、あんな戦いを行わせている・・・・・・など)
(いや、まさか、受肉していれば大して問題は無いのか。あの影の女王の古のルーン魔術であれば、容易な事やもしれんな)
本人が聞けば買いかぶり過ぎると苦笑する事だろうが、当然本人はいないので控える必要は無い。
そう、自分に自制を掛けない従者は置いといて、紋白は思い出したように携帯をとる。
「松永燕が既に関東に到着していたと有ったな・・・・・・・・・松永燕か?九鬼紋白である」
燕と無事繋がったので、話し出した。
「――――そうか。うむうむ・・・・・・そうだが矢張り、厳しそうか?」
完全な個人的通話内容では無いので、護衛として内容を聞く義務があるヒュームは超人としての聴覚で一切の機械に頼らず紋白と燕の電話内容を聞いていた。
(フン、早くも弱音か?依頼する者を間違えたか)
燕の言葉に誤解ではあるが、嘆息するヒューム。しかしだからこそ次の言葉は彼を以てしても完全に予想外の言葉だった。
『倒すなんて甘い事言わないで、いっその事、殺しちゃっていいんじゃないでしょうか?』
「「は・・・・・・・・・ハァアアっっ!??」」
聞いていた主従同時に驚愕さを露わにする。
『だって今のうちに息の根を止めてしまえば、相手のドヤ顔を見なくてすむし、これ以上の屈辱を味わい続ける必要もなくなる訳じゃないですか?』
「それはそうだが、殺人など如何なる理由が有ろうとも行ってはならぬ大罪だぞ!それに殺人などしては、家名を上げるどころか永久に貶める行為であると理解しているのか?」
『あっ、そうか。すいません、つい本音が』
「本音!?」
最初の驚愕の身声を荒げたヒュームだが今は大人しく聞いている。
ただ別の意味で依頼する相手を間違えたかと、考えていた。
「兎に角殺人は駄目だ。お主も父親の発明を人殺しの道具として有名にさせるなど、本意ではあるまい?」
『はい・・・。ありがとうございます。おかげで我に還れました』
「ならばよい。では、手筈通り川神学園に転入してくれ」
『了解です。それでは失礼します』
燕の方から切られた電話のディスプレイを見て溜息をつく紋白。
「一応、監視を付けますか?」
「いや、その必要はあるまい。何があったかは察せられぬが、声音から狂気は消え失せていると感じられる故、構わぬ」
「・・・・・・・・・」
紋白はこう言うが、ヒュームは紋白の護衛である前に従者部隊の永久欠番の座を預かる身だ。
その為、九鬼財閥にとって不利益をもたらす可能性がある者を見つければ、相応の対処を施すのがヒュームの責務である。
故に、紋白が否と言おうが監視をつける権利をこの殺戮執事は有しているのだ。
(だが人選は慎重にせねばな。赤子とは言え、現武神を倒せる可能性のある娘だ。従者部隊の若手の誰かでは松永燕に気付かれる)
そこである事に気付く。
(これではまるでクラウディオだ)
先程までの自身の思案に対して、珍しくも苦笑していた。
-Interlude-
ヒュームの思案は見事当たっていた。
士郎は百代のくっ付きを持て余しながらも近所のおばちゃん達と談笑中で、問題の燕は・・・。
「殺すにしても物的証拠を残さないようにしないと、家名に傷が付いちゃうな~」
家名を大事としながら暗殺計画を真剣に企てている最中だった。
しかしそこで、
「ん?」
「如何した?」
「あっ、いやなんでも無いけど・・・・・・・・・」
近所のおばちゃん達との談笑を終了させて帰ろうとした所で、振り返る士郎は懐かしい気配を感じたのだが衛宮家への帰宅を百代に促されて気のせいと処理した。
だが最後に、
「燕の気配を感じた様な」
「っ!?」
気配を消しながら隠れていた燕の耳に士郎の呟きを聞き取った彼女は、思わず赤面して感動していた。
「私の事・・・・・・ちゃんと覚えていてくれた・・・?」
その事が余程嬉しかった様で、燕の脳内はその事だけに支配されたので『川神百代暗殺計画』は取りあえず凍結される事になったとか。
-Interlude-
葉桜清楚の歓迎会を家で開いた後の翌日の早朝。
士郎は何時もよりも早く起床して、事前に百代への駄賃をシーマに託してから、とある事情でランニングに来ていた。
「あそこか」
2キロ離れた士郎の向かっている所では、板垣姉弟達と釈迦堂刑部がサバイバルをしていた。
毎月の月初めに士郎からの無償の(食糧法面の)仕送りを受けている彼らが何故そんな事になっているかと言えば、竜と天がはしゃぎ過ぎて冷蔵庫を故障させてしまったのだ。
しかも最悪なのが士郎が仕送りして来た次の日だったのだ。
士郎であれば多少の故障も自力で、重度の酷いのでも魔術の強化で応急処置位は出来たが、彼らは別に藤村組の傘下では無いので、その様にも無理して頼めなかったのだ。
こうして姉弟達+αは今日も腹を満たす為、自然の恵みで飢えを凌いでいるのだった。
「イテテ」
「グゥッ」
ちなみに今回の原因の2人は、亜美から鞭による(見た目ほど酷くは無い)手酷い仕置を受けて、負傷したところを擦り続けている。
そんな彼らの前に殺戮執事が現れる。
「嘆かわしいな赤子。才能の塊だった男がこのような末路を辿るとは」
「あん?手前、昔爺のとこで見たヒュームだったか?」
「フン、そのくらいは覚えていたか。――――お前ほどの金の粒を磨かずに放置しておくなど、鉄心の奴め、孫娘を士郎の小僧に任せている件と言い、怠慢にも程がある」
「っ」
「?」
相当皮肉ったヒュームだが、ここまで捻くれた釈迦堂がこの程度で反応するのが意外だったので、思わず怪訝な顔を向ける。
対する釈迦堂が反応したのはヒュームの皮肉――――などでは無く、士郎と言うキーワードだ。
釈迦堂は以前士郎から突き付けられた決断と期限から逃れる為だけに、隠形の修業と基礎鍛錬を再開する様になったのだ。
勿論そんな事を知る由も無いヒュームは自分の都合を続ける。
「今のお前では川神院に戻る気も無いだろうから、俺が就職先を斡旋してやろう」
「だから堅気になれってか?この俺に?」
「無理無理ッ~♪師匠は社会不適格者だからな~」
「そうだね」
「だな」
「だね~」
「お前らにだけは言われたくねぇんだよ!」
庇うどころか冷やかしてくる弟子たち+αに怒鳴る釈迦堂。
無論茶番に付きあうつもりは毛頭ないヒュームは話を進める。
「だとしたら川神らしく腕ずくだ。俺が勝ったら就職しろ」
「なら、俺が勝ったら俺達に金輪際手を出すんじゃねぇぞ?」
「貴様は俺を見て力量の差が判断できんのか?」
「あー、強ぇーさ。けどだからこそ見せてやるぜぇ、アウトローの底力をな!」
釈迦堂が自分に向けて放ってくる拳をヒュームは見下す。
(ハンデで一発くらい喰らってやるか)
「フン、下らな・・・ッッ!!?」
ヒュームにとっての予想外な程の威力は、彼の年老いたとはいえ未だ無敗(引き分けはカウントされない)を誇り、気によって鍛え上げられた鋼の肉体に多大な負荷を与える程絶大だった。
「グゥッ!」
あまりの負荷により、軽い吐血を口内だけで処理し、決して漏らさなかったのは弱みを見せぬ殺戮執事のプライド故である。
その代わり眼光の鋭さをさらに増して釈迦堂を睨み付ける。
「貴様、偽装していたな・・・!」
「別に態とじゃねぇぜ?俺にも理由が合って、迂闊に全力の闘気を出せねぇんだよ」
「赤子の分際で全力を出さずに俺に勝てるとでも?――――串刺しにするぞ・・・・・・ッ!」
ヒュームは大人げなく一瞬で自分を最高状態まで持って行き、そのまま釈迦堂に対して自身の真骨頂である至高の蹴り技、ジェノサイドチェーンソーを以て沈めようとする。
「けっ!」
それを釈迦堂は両腕から十発のリングを繰り出して、ヒュームの足を覆っている電撃だけを剥ぎ取り、残り二発程度で威力を低下させて片腕で捌き切る。
「チッ」
見事自分の必殺技を捌き切られた事に僅かながらの称賛以上に屈辱だと感じたヒュームは、ジェノサイドチェーンソーに比べれば威力も速度も劣るがそれでも百代の主砲たる川神流無双正拳突きよりは高い二発の拳を繰り出す。
それを今度は威力を殺すことなく正面から受け切り迎撃する。
この攻防を幾らか繰り返してから一旦距離を取るヒュームが沈黙する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・貴様、矢張り自己鍛錬を再開させていたのか?」
「約一月前からな。それに俺は無職だから好きなだけ鍛錬に集中できる。おかげで今じゃ鍛錬をサボり始めた以前よりも力が増してるぜ。この“無限の暇”が俺に力を与えてくれる。如何だ?これが“無職”の力だッッ!!」
『・・・・・・・・・・・・』
堂々と胸を張って言い切る姿にヒュームを始め、身内同然の板垣ブラザーズまで押し黙った。
微妙な空気に一瞬支配される中で、誰もが思った事を年長者が口にする。
「・・・・・・言ってて惨めにならんのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(グスッ)」
如何やら勢い余って自爆したらしい。
ヒュームの指摘に僅かに涙ぐむ釈迦堂。
だが、だが!まだ終わりでは無かった。
彼の不運は、運命は彼を逃しはしなかったのだ!
ぽんっと、不意に釈迦堂の肩を誰かの手が触れた。
これに釈迦堂は直感でヤバイと感じた。
自分の肩に軽く乗せている手は誰のモノだと困惑するが、少なくとも彼の視界には板垣ブラザーズもヒュームも居るので、今迄の騒ぎとは関係のない第三者である事は明白だった。
その正体を確認すべく恐る恐る後ろを向けば――――。
「いやー、探しましたよ釈迦堂さん。約一月もの間、全く逢えなかったので心配しましたが、元気そうで何よりです」
・・・・・・・・・・・・・・・はて?身長ではすっかり背丈を抜かれ、赤銅色の髪がトレードマークで、満面の笑顔を向けて来るこの少年は一体誰だk、ッッぎゃぁああぁあああああぁああああああ!!!??!?」
思わず悲鳴を上げながら、盛大に驚きながら飛びのく釈迦堂さん家の刑部君。
着地も出来ず尻もちを搗く刑部君は、腰を抜かしたまま来訪者たる士郎から少しでも離れようとするが。まるで見下ろすように刑部君の目の前に態々来る。妙に迫力のある笑顔を浮かべたまま。
「酷いですねひも。俺はニートを心配してこんな早朝に来たのに、人の顔を見るなり第一声が悲鳴ですか?」
「ひぃいいいいぃいいやややややや、べべべべ別つにぃぃ、たたた他意ががががあるわけじゃ、ねねねね無ぇんだよよよよよッ!?」
「如何して疑問形何ですか?」
「ふひぃいいいいい!!?」
正直大げさすぎるのではないかと言う釈迦堂の怯えように、一度溜息をついてから真面目な顔に戻して用件を話し始める。
「すいませんヒュームさん。先に来てたのに変な空気にしてしまって」
「いや、貴様が来る前からだったからが良いが、その釈迦堂は如何して怯えている?」
「怯えている理由については分かりかねますが、俺が来た理由はかくかくしかじか何ですよ」
「フン、成程」
士郎の説明を聞いて、改めて刑部君を見下ろすヒューム。
「それで、如何するつもりだ?コイツの更生担当は俺の仕事だが、藤村組に引っ張っていくつもりか?」
「ヤドロクを引き込む方針は別に藤村組にはありません。あくまで俺個人が板垣家を気に掛けていただけなんで。今来たのも辰子が板垣家の冷蔵庫が壊れた件を昨夜連絡されて来ただけなので」
「なら九鬼に引っ張っていくが、いいんだな?」
「問題ありません。それにしても・・・・・・」
士郎は再び刑部君を見下ろす。
「以前も告げた通り、働けるのに怠惰を貪るだけならいざ知らず、人の家で紐状態のままで剰え、就活もせずに俺から告げられた期限からも逃げ続けた上に、ヒュームさんからの提案にも条件付けて戦ってたなんて、良い御身分ですね釈迦――――ひもさん」
「ゴフッ!」
遂に取り繕わ無くなった士郎に紐呼ばわりされた刑部君は、ヒュームから一撃も貰わなかったのにも拘わらず吐血した。
だが士郎は容赦しない。
「ねぇ、ニートさん?ヒュームさんの提案を断るのもいいですが、そうしたらここまで俺からも逃げ続けたんですから、今後俺の絶対監視下の下で俺の決めた職種で働いてもらいますよ?勿論逃げるのもいいですがあまりお勧めはしません。貴方には先程、俺が外さないと取れない気の枷を付けたので、何所に逃げても解りますし♪仮に次見つけた時はヒュームさんや雷画爺さんと話し合って、昔の人道的に反する過剰業務が可愛く思える程の過酷作業を強いますが・・・・・・如何しますか♡」
「ヒィイイイイイイッッ!!?」
あまりの恐ろしさに、刑部君本人か思えなくなるような悲鳴を上げた。
士郎の恐ろしさから逃れるために取った刑部君の選択は、
「ヒュームさん!ヒューム卿!ヘルシング伯爵!!俺僕私!就職するから斡旋先紹介してくださいッッ!!!」
なりふり構わず必死にヒュームを頼る刑部君。
これにヒュームは、こんな茶番をこれ以上朝っぱらからつき合わされたくないと感じた様で、刑部君の懇願を呆れつつも了承する。
「いくつかリストアップしてやるから、その中から選ぶんだな」
「ありがてぇ、ありがてぇ・・・・・・」
これで士郎からの魔の手と圧力から逃れられると思うと、自然と感謝の言葉を口にしていた刑部君。 それを見届けた士郎は板垣ブラザーズを見ながら言う。
「それで亜美さん達は如何するつもりなんですか?」
「俺の担当はこのロクデナシ赤子のみ。だから警戒するな赤子共。鍋でもつついてろ、餅が固くなるぞ?」
士郎の質問に返しつつ、姉たちと妹を庇う様に前に立っていた竜兵に忠告する。
用件は済んだと言わんばかりにその場を去って行ったヒューム。
残された士郎は亜美たちに聞く。
「それで冷蔵庫は捨ててないんですか?」
「まあね」
「なら俺が修理しますんで、勝手に上がらせてもらいますよ。勿論新たに食費代を渡しておきます」
「何時もの事であり難いけど、ホント物好きだねアンタは?」
「それが俺なんで、今さら変えようが有りません」
そうして士郎は板垣家に一人急いで行った。
後書き
英霊剣豪七番勝負で妖術師の奥の手を破壊する“彼”がカッコよすぎる。
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