世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
月下の疾走者
「宿題おーわった!!」
「はいごくろーさん」
わぁっ!とバンザイして転がるヴィヴィオ。
その後ろであくびをしながら蒔風が相槌を打つ。
時刻にして、すでに11時を回っている。出来れば就寝したい時間だ。
「EARTH」がたとえどのような状況であれ、彼女には明日の学校が待っているのだ。
「どうしても?」
「だめ」
ヴィヴィオもそれなりに戦える、とはいえ、それはスポーツ格闘の範疇でである。
凶刃に魔弾が飛び交う戦場に、立つべき力ではない。
だが、なのはや蒔風が戦っているのに自分だけ、という思いが残ってしまうのもまた然り。
そもそも、自分も護られるだけじゃなくて護りたいから、力になりたいから格闘技を習っていたのだから。
「ダメです」
「でも~」
「デモもストもないですぅ~」
ヴィヴィオも聞き分けの悪い子ではない。
自分の力があの状況では及ばないのも知っているし、実戦向きでないことも重々承知だ。
そんなヴィヴィオをどうにか説得し、蒔風が外に向かう。
「対策会議?」
「おう。あの厄介な四人の能力は知れてるからな」
出て行こうとする蒔風に、なのはが声をかける。
これからまた数人かで集まって、セルトマンはともかくあの四人の対策を立てておかなければならない。
「もう一晩でもあれば、一応回復できるし。ヴィヴィオ任せた」
「うん・・・ごめんね」
「何を・・・とは言わないけど、気にすんな」
そうして、蒔風を送り出すなのは。
その後ろから覗き込むヴィヴィオが、うへぇ、という顔をしてうんざりしていた。
「よそでやってくれないかなぁ・・・・」
そうしてごそごそとカバンを取りだし、明日の用意を済ませておく。
教科書などはビルの中だったのだが、さすがに状況が状況なので明日学校から貸してくれるらしい。
とりあえずありあわせの筆記用具に、アリスに出してもらった制服を用意して・・・・・
「あれ?ママとお父さんのイチャラブデータデバイスがない」
なんてものを撮っているのだこの子は。
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「でだ。四人の能力は以下の通り。そいつら省けば、セルトマンに集中できる」
一階の会議室兼食堂では、蒔風をはじめとする数名のメンバーで話し合いが始まっていた。
多くのメンバーは自宅へと帰っているので、いるメンバーは限られているが。
「じゃあ超攻撃の奴は二人に任せていいのな?」
「ああ。あの時、勇気集束で互角だったからな」
「そこに俺が加勢すれば、まずブチのめせる」
「加々宮は俺が担当で・・・・ホントに面倒くせぇ相手だからなぁ・・・・・また閉じこめるのにも策がいるぞ」
「いや、待ってくれ。いま思いついたんだが、そいつ超再生なんだよな?」
「うん?そうだけど」
「だったらさ、あの二人に頼んで・・・・」
「・・・なるほど。キタコレ」
「ショウ、エッグいこと考えんのな」
「そう言ってないで城戸も考えろよ」
「考えてるっての!!蓮、いい加減お前オレのことだなぁ・・・・」
「「城戸には無理だろ」」
「酷くねぇ!?」
「となると、俺の手が空くな」
「じゃあ蒔風はセルトマン狙いになるのか?」
「出来ればセルトマンには三人がかりで行きたい」
「じゃあ俺と五代さんがいきます?」
「あー・・・・五代さん、大丈夫ですか?」
「世界を壊す相手って言うんなら、仕方ない、よね・・・・」
「全力出しても死ぬような相手じゃないから大丈夫ですよ」
「で、あの軽い奴は?」
「あいつはオレがやります」
「そ。じゃあ任せた」
「はい」
「あ、じゃあ私も行く!」
「いや、唯子には向かってもらいたい場所がある」
「うん?どこですか?」
「ちょうどいま士たちが調べてるここに・・・・」
「あの超硬度の奴には?」
「あれには理樹を当てる」
「理樹・・・ってあれ、理樹は?」
「そういや理樹、落ち込んでたけど・・・・」
「そういや、相手の方が固かったとかで苦戦だったし・・・・」
「北郷がいりゃ、セルトマン相手でも行けるかもしれないんだけどな」
「あいつの万能性はオレらの中でも随一だからな。力の返還が出来る翼人の中でも、あれだけ特化したのは珍しいくらいだ」
「今、魔術教会との交渉だっけか?」
「ん。結構かかるなぁ・・・・」
そんなこんなで会議というにはあまりにも気の張っていない、会話というべき時間が過ぎていく。
一応の割り振り、対策は講じた。
今の状況ではこれ以上のことは望めないし、もしセルトマンに二手、三手があるのならば他のメンバーを総動員で、というわけにもいかない。
各人が手元の簡単な資料をそろえて片づけ、自分の分を手に取り、まとめていく。
頭に入っているものの、他のメンバーにも教える場合は必要だ。
そもそも、対策のためのメモなども入っているため紛失したら大変だ。
その中で
「あれ?私の5ページ目がない」
「誰か2ページ目二枚持ってる奴いないか?」
「おいおい大丈夫か。無いぶんは俺の余ってるから、持ってけ」
ページが何枚かずつ無いらしく、蒔風が余っている資料を配る。
それぞれ持ってい行くと、資料一つ分丸々がきれいになくなってしまった。
「・・・・・」
その光景に、蒔風が腑に落ちない顔をするも、机の上の自分の資料に手を伸ばす。
しかし、それを隣に座っていたショウが取って行ってしまう。
「え」
「え?これ俺のだぞ?」
「・・・・・はい?」
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「理樹」
「あ・・・鈴」
「EARTH」(仮)の屋上で理樹が横になって空を見ていると、そこに鈴がやってきた。
起き上がろうとする理樹だが、鈴が先に、隣に寝そべってしまった。
しょうがないので、一緒に空を見上げる二人。
鈴が何かを持ってきていたようだったが、今はぼんやりと空を見上げたままだ。
空には星の瞬きなど一つもない。
本来、ここは都市部なのでその光に隠れるのだが、今日はこの曇天が理由だ。
雲の向こうにある、月の黄色い光がボンヤリと見え、朧げにその位置を示す程度しかない空。
それを、ただなんとなしに見上げる二人。
「楽しいのか?」
唐突に鈴が聞いてくる。
それが本題でないことははっきりと分かったが、話を逸らしてくるという感じではない。
聞けるなら聴いておこう、と言った感じの質問だろうか。
それに、理樹は答える。
「え・・・・いや、ただこうやってボーっとしていただけ」
意図せず、思った以上に気怠い声が出てきた。
自分ではもう少し元気はあると思っていたのだが。
「皆、下で話してるぞ?理樹はいかないのか」
「いや・・・・僕は」
ここまで声が出て、どう言ったらいいのかわからなくなった。
“僕は相手に全力が出せないから戦えないよ”
本音はそうだ。
だがそれを言うほど、理樹は落ちぶれたくなかった。
口にしたら、それを認めてしまう。
でも、それを胸にとどめれば留めるほど、自分の中で渦巻いていく。
吐き出せば現実に、留めれば煮込まれて。
自分は戦うべきなのだろうが、気づいた以上戦えなくなってしまった。
「鈴」
「なんだ」
「もし・・・だよ?僕らと同じ人間が敵で、鈴はそれを一発で倒すだけの力があって」
「うん」
「でもその力は相手を殺してしまうかもしれないくらい強いんだ」
理樹は聞く。
あまりにも情けないと、自分でも思う。
でも、鈴にだったら、なんでも聞ける気がしたのだ。
「もしそうだとして、さ。鈴はどうする?」
答えを求める。
自分でも考えた。
確かに、相手の硬度は大したものだ。
だが、それは自分が全力を出しても大丈夫なほどなのか?
対抗する硬度を持った者がいない。それほどにまで、強力な硬さを誇る能力。
だからこそ、この力を本気で振るうのが怖いのだ。
そうした時、一体自分は何をしてしまうのかが。
した結果、どうなってしまうのかが、怖かった。
それを、隣の少女は特に表情を変えるわけでもなく聞く。
空を見て言葉を紡ぐ少年の横顔を、首を捻って見つめながら。
そして、聞き終わって自分も空を見る。
星は見えない。月も、探さないとその位置を確認できない。
だけど、少女は簡単にその一言を述べた。
「だいじょーぶだろ?理樹は」
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ガサッ、パキン
「いただきます」
「いただきます」
ペリリ、ズ、ズルズルズルッ!!
「おぉう・・・・」
「よく食べますねぇ~・・・・・」
会議の終わった会議場。
食堂を兼ねるそこで、今だ残ってカップ麺をすするのは地獄兄弟の二人、矢車と影山だ。
一通りの資料の配布を手伝い終わり、食堂にまたやってきた観鈴と往人は、その食べっぷりに一人は感心し、一人は呆れていた。
「明日はまた一段と大きな戦いになりそうだからな」
「兄貴はああ言っていたが、逆に考えればいつ俺たちの出番があるかわからない、ってことだ」
「大兄貴がいつ言って来てもいいように、俺たちは体力を付けなきゃいけないのさ」
そう言って、二人はまだ今食べている分が半分以上残っているうちに、次のカップ麺にお湯を注いでいた。
なるほど~、と感心する観鈴の傍ら、チラリと完食済みの空き容器を見る往人。
もうすでに六個ほど転がっている。つまり一人当たり三つ食い、今ので四つ目、更に五つ目を用意しているということだ。
「偏ってないか?」
「麺類は炭水化物だ。麺類は消化しやすいし、即座にエネルギーになるからな」
「俺たちは戦士さ。そう言った考えはきちんとしている」
ほら、野菜も入っているし、と中身を見せる影山。
きっと往人が言いたいのはそう言うことではないのだろうが、その自信満々の言葉に「お、おう・・・」としか返せない。
そうして、四つ目のスープまでをすすり、五つ目に手を伸ばす。
ちょうど三分なのか、特に時計も用意してないが二人にはわかるらしい。
ズルズルと勢いよく啜りながら、また次のカップめんを器用に用意する。
まだ食うのかこの二人。
「む」
「んふ?どほした?兄貴」
半分口に含んだまま、そして飲みこみながら聞く影山。
一方矢車は何かの勘に引っ掛かったのか、箸を止めて目元だけを上げる。
だが、勘違いだったのかまた視線をラーメンに移して口に運んだ。
「フッ!!」
そして、箸を壁に投げた。
どういう投げ方をしたのか、それは壁にスコンッ!と突き刺さり、スープを二滴ほど壁に伝わせた。
いきなりの行動にどうしたのかと慌てる観鈴。
一方、ここにきてようやく感じたのか、影山も顔を上げて周囲を見渡す。
そして矢車は小さなインカムを取り出して、蒔風に連絡を取った。
「兄貴・・・・誰かいるぞ」
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「僕が、大丈夫?」
鈴の返答に、解らなくなる理樹。
もともと言葉足らずな彼女であるので、そう言うことは特に珍しくないのだが。
「僕は怖いよ。だって」
「相手が死ぬなんてことないだろ」
「そんなこと・・・・」
そんなことはない。
鈴は、それほど本格的な戦場に踏み込んだことがない。
だからこそ言える言葉なのだろうが、その言葉にはそれを踏まえても、いやに自信があった。
「だって理樹の力は守る力だろ?」
「・・・ああ」
そこで、妙に納得した。
彼女は、理樹のことであると納得しながら、その力をどう使っているのかを理解してないのかもしれない。
どうしてバリアを張る理樹の力が、攻撃に使われるのか、と。
だが、そんなことはない。
鈴は今までだって理樹の戦いは見てきたのだ。知らないはずはない。
しかし、理樹は解らない中での自分の回答に、疑問を持たなかった。
「いい?僕の能力は確かにバリアだけど、そのバリアを・・・・」
「うっさいバカにすんな!それくらい知っとるわ!!」
スパーン!と、真上に伸ばされた鈴の左手が理樹の顔面に落ちてきた。
重力に身を任せて降ろされたそれはベチン、と理樹の顔面を打つ。
「いたた・・・・」
「いいか理樹。私が言いたいのはな、そーいうことじゃない」
「う~ん、と?」
さっきも言ったが、彼女は言葉足らずなところがある。
理樹は一瞬、考え込んでしまった。
考えようとして空を見上げると、大きな蝙蝠が飛んで行った。
恐らく、ナイトに変身した蓮が見回りをしているのだろう。
考えが逸れながらも、思考する理樹。
その理樹に、鈴がさらにわかるように説明しようとして
「お前は、相手を考えてないのか」
「え?」
余計に分からなくなった。
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「侵入者?」
「ああ」
深夜の会議室。
むにゃむにゃと眠そうに目を擦る蒔風は、矢車から話を聞いていた。
「どういう奴かはわからない。だが、確実に視線を感じた」
「俺もだ。兄貴が気づいてなかったら、気づかなかったと思う」
どうやら、侵入者らしい。
しかもこの時間の今のタイミングでだ。
そこで、蒔風は思い出した。
そう言えばヴィヴィオが何かをなくしたらしいという話を、なのはがしていた気がする。
お仕置きしておいた、と言っていたがなんなのかは知らないが。
そして、更に資料の紛失だ。
もしこれがその侵入者の仕業ならマズイ。
「姿を見たわけじゃ・・・ないんだな?」
「ああ。だから透明なのか、瞬間移動なのか何かは解らないが・・・・」
「う~ん・・・・だ、めだ・・・ねむ」
緊急事態だと言うことで一応起きようと頑張る蒔風だが、どうしても眠気には勝てない。
目を擦りながら、ついウトウトとしてしまう。
と、そこで一応見回りに向かっていた城戸が帰ってきた。
ミラーワールドからも見てみて、ドラグレッダーと共に索敵したが見当たらないと言うのだ。
「たま~にコイツがピクンッ、てなったから、いるとは思うんだけどなぁ~」
ドラグレッダーが何かを感じた、というのならば、それはいるのだろう。
ただ、ミラーワールド内ではないらしい。
「外だったんだな?」
「ああうん。ミラーワールドの外に感じてた」
完全に寝入ってしまった蒔風を置いて行って、三人は会話を続ける。
そこにさらに、上空から探していた蓮も、変身を解いて帰ってきた。
「空からは見当たらなかったな。ダークウイングも何も感じていなかった」
「じゃあ建物内か」
「なあなあ、透明だったら一体どういう能力なんだろうな?」
「「「は?」」」
事態はかなりマズイ。ショウを起こしに行こうかと考える三人に、城戸の言葉がその場の緊張を破った。
「だってさ、相手は「攻撃の完全」とか「防御の完全」だろ?じゃあ透明だったら「薄さの完全」とかかな~って」
「お前はくだらないこと考えてないで・・・」
「いや、それはありかもしれない」
呆れながら諌める蓮を、矢車が止めた。
確かに、そっちからの考え方はありかもしれない。
あの戦場を見ていた矢車は、勘ではある物の侵入者はあの四人ではないと感じ取っていた。
どれも違う気がする、という程度だが、矢車は確信していた。
「五人目の仲間、ってことだろ?」
「姿を見せない、ということは透明か、存在が薄いのか、それか・・・・」
「高速移動」
どれがしっくりくるかと言えば、高速移動だ。
だが断定はできない。
そもそも、この三つ以外の能力である可能性もあるのだ。
「でも矢車さんが感じたってことは速さじゃねーの?「速度の完全」とか」
「一番それっぽいけどな。だが・・・・」
油断は禁物だ。
姿もなく、音もないのだから、それに該当する能力などは考えればいくらでもある。
あの四人の様に、教えてくれればよいのだが・・・・・
「あちゃ、バレタ」
「「「「え」」」」
唐突な声。
見たこともない顔。侵入者。
速度を上げるためか、全身タイツの男がそこにいた。
手には資料と、恐らく小さいのはヴィヴィオの取られた記憶デバイスだろう。
「「「「変態だァ!?」」」」
「へへっ―――――」
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「そーいやセルトマンさん」
「なにか?」
「なんであいつフロニャルド連れて行かなかったんで?」
「あいつ?・・・・ああ、コールのこと」
「EARTH」ビル内。
今だ歩きながら魔法陣を刻むセルトマンに、いまだに付き添っているフォンが聞く。
コールとは恐らく、今「EARTH」(仮)内部に侵入して、四人に変態宣告をされた男のことだろう。
「君たち四人は各完全の能力を使っても、あの場合ならそんなに怪しまれないけど・・・・彼の場合、そうもいかない」
「確かに・・・・あの動きじゃ確かに、フロニャルドとは思えないかぁ~」
「まあ、そもそも君らでもバレてたから意味無かったけど。あとそれに、彼はついうっかり言葉を漏らしすぎる。今ならともかく、あの時点で私の目的だとかばれたら目も当てられないから」
「あー、そういや口滑らすことに関してはすごいよねぇ~、彼」
「早とちり、と言ったところだな、あれは。まあ彼の完全にあってるっちゃあってるか」
「コールの完全って、たしか・・・・」
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「流石「EARTH」ッ!まさかこのコールの完全が「速度の完全」であることをこうも容易く見破るとはッッ!!」
「あの・・・・」
「だがこのコール、その程度ではへこたれない。この速度についてこれるならちゅいてこい!!」
((((噛んだ・・・・))))
妙に早口の男、コールが聞いてもないのに全部話してくれた。
速度の完全、と本人は言っているが、納得できてしまうほどのインパクトだ。
ともあれ、こんなアホみたいなやつでも敵であり侵入者だ。
このまま帰すわけにはいかない。
「「「「変身!!」」」」
四人が変身し、起動音が響く。
それに対してコールは即座に逃げ、二人がクロックアップで追っていく。
「俺たちは奴の逃げ道を塞ぐぞ」
「っしゃぁ!!」
《《サバイブ》》
たった四人で展開する包囲網。
しかし、四人として侮るなかれ。
二人は高速、二人は変幻自在のカードを扱う仮面ライダー。
追われる者はただ一人。
だが、この四人で捉えきれるかは別問題だ。
to be continued
後書き
理樹君落ち込み中
そして深夜の攻防が始まる。
みんな寝てるし、そもそも先日の疲れも癒さないといけないわけですし、四人には頑張ってもらいましょう。
でも高速くらいならこの四人でどうにかなりそうな気がする
一番とっつきやすいんじゃないか?コール。
理樹
「次回、僕は、リトルバスターズのリーダーだ!!」
ではまた次回
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