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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第90話 腕

 
前書き
遅くなって申し訳ありません!

予想よりも長引いて戸惑っています 

 
学園都市の大停電が解除される数十分。
「これって......?」
夢の中で渡された巻物を掲げながら筒の中を透かすように中心部を覗き込んでみる御坂。
一枚の羊皮紙が重なり数ページ分の太さとなっている。
もちろん中身なんて確認出来ない。
不審な厚さや小細工も見受けられない分、これが戦いに於ける有効な武器になんて繋がる訳もない。
あるとするならば棍棒のように振り回して戦うしかなさそう。

見方を変えてみよう
これが直接武器になるというのは短絡的くつ原始人並の発想だ
あたしだって巻物の用途が棍棒ではない事は百も承知
「やはり中身かしらね」
忍者と云えば巻物って思い浮かぶし、もしかしたら敵の弱点が書かれているかもしれないわ
あの弁慶にだって泣き所があるんだから、ゼツって奴の情報があるかも

巻物の結び目を解いて一呼吸置いてから一気に開封してみる。
カビ臭い匂いが立ち込む。
達筆な字が並ぶ中で中心に大きな円があり、円の中に「腕」と記載されている。

ん?
腕?!
腕が弱点なの?
でもあたしの能力吸収されたし、腕って何処から何処までだっけ?
関節部分かしら?
でもそうなると丁寧に「肘」って表記して欲しいわー
でも肘の付け根って痺れるわよね
ファニーボーンって云ったような......

「よし!腕の情報は手に入れたわ。よっしやってやるわよ」
御坂は巻物を広げたままテーブルの上に置くと今後どのように動くべきかを思案した。
「まずは暁派閥の皆に連絡を......って電波がやられていたんだったわ」
このご時世に通話手段を封じるのは敵ながらによく練られた策だと思う。
スキルがあるのならば狼煙を使ってみるのも手だがあくまで煙を出すくらいしか出来ない為断念。

ガチャリ!
「っ!?」
慌て机の下に滑り込むように入ると息を殺してテーブルと椅子の脚から覗く隙間から様子を伺う。
銃を持ちゴーグルを着用した御坂妹がメイド服のままで入ってきた。

な、なんでよ?
あの馬鹿げた実験は終わったんじゃ?
というよりなんでメイド!?
「......」

メイド服の御坂妹はジッと机を眺めると
「どうかしら?」
銃口にキスをしながら悪巧みをするようなキラキラした瞳を......
キラキラした瞳?
「食っ!?」
ピッ!
と声を挙げようとした御坂だったが間抜けなボタン音がすると御坂の電磁バリアが無意識的に反応して守るが当の本人には殴られたような痛みが走る。
「!?ッ」

ピッ!
「痛っ!?ちょ」
ピッ!
「アダダっ!」
ピッ!
「痛ーー!?痛いって言っているでしょうが!」
御坂が威嚇ばりに電撃を放ちながら頭を抱えているとメイド服の御坂妹は不敵に笑いながら屈みこんで楽しそうに眺めていた。
「本物みたいねぇ。やっぱり厄介よね電磁バリア」
「ってかアンタ食蜂!?何してんのよ?」
「別にぃ。ララに言われた通りの潜入捜査。丁度良かったわぁ、この先電子ロックで開かない所があって困っていたのよ」
「は、はい?」
ニコリと上品そうに踵を返すと御坂の腕を掴んでペース等御構い無しに出入り口へと誘導していく。
「さあさあ、いくわよぉ~。お.ね.え.さ.ま」
「んなっ!?言うな虫酸が走る!」
「可愛い妹の頼みよぉ~」
「アンタなんか妹にした覚えないわ!」

豪華な扉が閉まる音がすると部屋のテーブルの上に置き去りにされた巻物が僅かな隙間風ではためいているとボンッ!と煙が出て、「腕」という文字は消失しカラクリ人形のような無機質な右腕が出現し、強張るように幽かに動き出そうとしていた。

******

白く光るピアノ線のような無数の糸を頭から出して、神々しくニタニタと笑う白ゼツ。
「......理論通りだね」
「??」
訝る天道達を尻目に白ゼツは身体から溢れ出てくる力に興奮しながら身体全体で笑いを享受しているようだ。
「あははは~。これが仮想人柱力だ。木山で実験しておいて正解だね......もっと欲しくなる」
やたらと長い舌を出しながら真っ赤に眼を光らせる。

「舐めやがって!」
修羅道が腕を振り上げると皮膚がズレて中から細長い弾頭のミサイルが光り、照準が全て白ゼツに狙いを定める。
「ファイア!」
一斉に角度を決めると煙を上げながら発射していくが白ゼツは高速で印を結ぶと
「クク、テレポート」
着弾して大爆発をするが白ゼツは空間移動を行い、ミサイルを発射し終わり予備動作をしていない修羅道の腹部を回し蹴りをした。
「ぐっ!?」
「それっ!」
腹部を蹴られた事により胃の内部にあった空気が圧縮されて口から吐き出されるが、白ゼツは逃さずに口の中にアルミ缶を押し込んだ。
「......!?」
「グラビトン」
アルミ缶の中心が歪み出して高エネルギーが高まり、修羅道の上半身を焼き尽くすように爆発した。
一瞬の閃光の後に周囲を巻き込む爆風に一仕事終えた白ゼツが手を叩きながら埃を払う。

「君達さ~。オリジナルよりも弱いね。正統な継承者ではないにしろもう少しヤルかと思っていたけどね。あー、木山の教え子だから頭の出来は知れたものか。師匠が愚かなら弟子もまた愚かだしね」
「......」
天道はズレたカチューシャを正すと隣に居る餓鬼道と顔を合わせた。
餓鬼道は組んでいた腕を解くと橙色の鎧を揺らしながら天道を抱えて肩に乗せた。

「おやおや?ひょっとして逃げるのかな?意気地がないな~」
「貴様は救いようのない馬鹿だ。私らの前で言ってはいけない言葉を並べての悪辣な態度......吐き気がする」
「言うだけなら容易いよね。一人殺されてムザムザ逃げるなんて臆病も良いところだね
「修羅道を殺したと思ったのなら間違いですよ......この程度で倒される輩ではない」
餓鬼道が天道を抱えたまま飛び上がり、街灯の球体部に着地をし、ギロリと輪廻眼で見定める。

「サンキューな天道」
爆風の中から異形な姿へと変貌した修羅道の影が出現し、揺らめく火災を計6本の腕で払い除けると紫線が加速して脚を組み替えながら三重のパンチを弾丸のように打ち出した。

「三連主砲!」
「ぐがっ!?」
修羅道の両側には怒りと悲しみを模した顔が映し出されて、それぞれが腕を生やしており戦闘の神『阿修羅』のような風貌となっている。
通常の三倍の威力を走らせた拳の衝撃はチャクラで操り時間差で白ゼツの身体に襲い掛かり加重が増すごとに周りの空気ごと圧縮される。

「ワイヤーセレクト......親に捨てられたゴミクズのような俺達への悪口なら一発殴って許してやるが......先生の悪口ならゼッテー許さねぇ!三倍だろうがな!」
ガチャンと腰椎部分が迫り出して束になったワイヤーが飛び出すと一斉に吹き飛ばされた白ゼツを追跡して四肢に巻き付いた。
「っ!?」
すると伸びていたワイヤーがピタリと止まり修羅道へと巻き上げていく。

「生意気だね......」
レーザーを放とうと自由があまり効かない腕を上げて狙いを定めようとするが。

ズシン......!
「!?」
最後の一撃の余波が白ゼツの身体を激しく揺らして脳天からひっくり返させる。
その間に修羅道は、両脚を地面に突き刺すと三本の右腕はカチャカチャと噛み合わせを変えて腕の半分を覆う砲台を出現させた。

「エネルギー充填......30%......64%......87%、98%」
反動を抑止するためと姿勢保持の為に補助ジェットを点火し、人工的に真っ赤に光るチャクラを砲台に溜め始めた。
白ゼツが気付いて身体の自由を獲得しようともがくが既に限界まで溜まりきったようで空気が張り詰めていく。

「地獄の炎で焼かれやがれ!超業火砲(バルク)!!」
一瞬だけ砲台から出るとあまりの高音に周囲の空気からバチバチと電撃を帯びていき、真っ赤な焔が一直線に放たれる。

「ぐっ!?がああああああああああああああああああああああああー!?!」
ワイヤーで固定されたまま修羅道最大出力の技を喰らった白ゼツの身体を貫いていき真っ赤な閃光に包まれていった。

それを見ていていた天道は餓鬼道に指示を飛ばした。
「影響が出ないように修羅道のバルク余波を吸収してください」
「分かった」
餓鬼道が飛び降りてチャクラを吸収していくのを確認すると天道は印を結び出した。
輪廻眼を使い正確に白ゼツの場所を見定めると両手を合わせて神に祈るようなポーズをする。

地爆天星!

業火に包まれている白ゼツの周囲に黒い核が出現すると強大な引力が発生し、修羅道の超業火砲ごと白ゼツを飲み込んで上へ上へと修復された高速道路を引っぺがすようにして上がっていく。
「悪いですが......限界まで押し潰します」
更に黒い波動を飛ばして引力を強くしていく天道。

******

しかし......
巨大な岩石の塊の上からはまだ白く光る線が伸びており、それは学園都市で意識を失っている人々へと繋がっていた。

「......!?」
「?......!」

一斉に身体をのたうち回らせて声にならない叫びをあげて人一人の力では押さえ込めない勢いて暴れ出していく。
「あっ......ぐ......?!」
それも白ゼツに敗れた白井も例外ではなく、縛られたベッドから転げ落ちる勢いで身体が強張りベッドサイドに脚を叩きつけている。
「し、白井さん!どうしたんですか!?しっか、しっかりしてください!!」
側で世話をしていた初春は普段の凛としたジャッジメントの先輩とは程遠く、まるで獰猛な野生生物を相手しているような感覚に陥る。

必死に暴れる白井を大人しくさせようと腕を抑えているが、固定していたベルトが外れて抑えていた初春に白井の無自覚の拳が振り下ろされていく。
「......え......?」
殴られる衝撃に初春はバランスを崩して床に倒れ込むがサソリから渡された砂がフワフワと浮かび上がり、初春を守る。
そのまま砂が暴れている白井の上に来ると暴れていた白井はまるで鎮静剤を打たれたかのように平静さを取り戻してゆっくりと横になっていく。

「??」
初春が起き上がると斜めに姿勢を崩した白井の額に人形の左腕が乗っており、ゆっくりと枕元に転がっていく。
その様子はまるで親が病気の子を優しく介抱する手のようにも見えた。 
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