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転生も転移もしていない私が何故ファンタジーの世界で魔王と呼ばれる事になったのか。

作者:zero-45(仮)
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広がる世界
  巻き込まれた夜

『や~ だからさぁ、ひっさびさに誰かと対話するからも~ 色々とハッスルしちゃって説明がおざなりになったのは正直自分的にアレだったと思うよ? でも一貫して無視は酷いと思うんだ』


 結局呆然自失状態で周りの景色と自分の置かれた状況を咀嚼し尽くし、今私が触れているこの世界は脳に埋め込んだデバイスが見せている仮想世界のリアルでは無く、真っ当なリアルだと気付くのに体感時間にして一時間足らずを要した。

 それを認めるに足る事実は意外にも今も私の頭の中に無遠慮に話し掛けて来るこの声、『フォルテ』と呼ばれる存在にあった。

 記号にすれば『f』、楽譜等に記載される演奏記号から採られたこの名称の存在は、『強く』という意味を持ち、イタリア語を語源とするforteと表記される。

 私はこの存在を知っている、と言っても私が関わった有機デバイス開発プロジェクトの拡張機能を担う部分、各種通信サービスを補助する人工知能、位置付け的には検索補助やユーザーの好みを反映した案内をするという、コンシェルジュ的な存在として用意されるツールとして別部門で開発されていたソフトであったと認識している。

 記憶の隅に転がっている部分をほじくり返すと、それは確か単純な言語抽出から始まり、反復学習を経てユーザー個々の『好み』を記憶し、それに沿った検索結果を抽出するという極単純なプログラムだったと思うのだが、私の頭に今語りかけているヤツはそれとは大いに違った存在であり、またそれなりの『個性』を有した、しかもかなり汎用性に富む人格を有した存在と言えた。


『まぁ君の現在置かれている状況を鑑みれば仕方の無い事だと同情はするけど、自身の常識外の部分には排他的という識者特有の考え方は正直どうなんだと僕は思うね』

「……人工知能如きにご高説をたらたらと垂れられるのは正直気持ちの良い物では無いが、現状を考慮すればその辺りの事は甘んじて聞く他は無いと諦めざるを得んな…… で? 自称人工知能のお前は、今現在私が置かれているこの状況を理知的かつ簡潔に説明しつつ、私を納得させる術を持っているのか?」

『硬いっ! 言い回しとか話し方が硬いよ! そんなだと他人からは一歩踏み込んだフレンドリーな関係になりたくても近寄り難くて色々と損しちゃう人生を歩むんじゃないかって思うよ』

「努めて誰かと友好を深めようとは思わんが…… 寧ろ現在私は何も無い平原のド真ん中でマッパ且つソロブレイ状態だから、お前が言う他人との接し方という部分に於いての心配は現状皆無なのでは無いかと思うのだが?」

『あー、それなんだけど、今現在という部分ではかなり重要案件じゃないかって言ってみたり?』

「……どういう事だ?」

『んとぉ、君の現在位置と方向から計測して、右斜め後方凡そ30mの位置』


 右斜め後方? 何があると言うのだ? そこには只の草むらと岩塊しか…… うむ? 今何か動く物が見えた気が……


『多分近隣のコロニーに属する個体……かなぁ、脅威度は極めて低い種別で、ヒューマンタイプに近い見た目のそこそこの知識を有したな生物になるね』

「……知的生命体? 何だそのザックリとしつつも珍妙な表現は」


 コイツは何を言っているのだ、知的生命体とはおかしな言い回しをする、その言い方だと今私が見ている存在がまるで人間では無いみたいではない……か…… って言うかアレは何だ? 子供か? っておい、何でこんな夜中に草原のド真ん中で子供がポツンと居るのだ? 親御さんは何をしているのだ? ……寧ろ何であの子供は動物系のコスプレをしているのだ?


『この世界では極一般的な生命体と言うか住人になるね、見た目は人とあんまり変らないと思うけど、元は猫科動物から進化した生命体だから体の一部はその身体的特徴を有してる感じと言うか、ぶっちゃけ猫耳、尻尾付き少女って言えば理解出来るかな?』

「ネコミミ少女……だと?」


 言われてみれば確かにネコっぽい耳を装備した子供がこっちをじっと見ているな、いやおい待て、こんな何もない草原のド真ん中で、しかも夜中であり、私は白衣一枚のマッパで、更に近くにはネコミミコスの少女だ、これは色んな意味でマズくは無いか? 寧ろこれは国家権力の犬に検挙されても文句は言えない事案発生というヤツなのでは無いのか?


「待て、私はアニマルコスに性的興奮を覚えるというそんな特殊な性癖は持ち合わせてはいないし、少女趣味という壊滅的な嗜好も持ち合わせてはいない」

『……ああまぁ君の言いたい事はなんとなーく理解出来るけど、そういう思考に至る前に現状の把握はしておいた方がいいんじゃないかって思うんだ』

「白衣一枚だけの格好で野外に佇み、目の前にはネコのコスをした少女という状況で何をどう冷静に分析をしろと言うのだ、寧ろ現状は一刻も早くここから離れ余計な誤解を招くリスクを避けるのが優先されるのではないか?」

『常識的な思考をしつつも、現状は裸にコート一枚羽織った変態が陰部を他人に見せ付ける感じの犯罪現場と言えなくもない状況になっちゃってるからねぇ、まぁそういう思考に至ってもおかしくはないかな』


 第三者視点から見てもやはりそうなるのか、て言うか今は暢気にそんな事を論じている場合では無い、一刻も早くここを立ち去らねば、寧ろどこへ行けばいいのだ? 辺り一面草むらに見えてはいるがここは野外だ、裸足のままだと走る事も儘ならんし、どこへ行けば良いのか判断材料も皆無だ、と言うかこんな野外で白衣一枚のマッパが疾走する姿は何と言うか、ネココス少女云々という以前に検挙の対象になってしまうのでは無いか? うむぅこれはどうした物か……


「あ……あのぅ、すいません」

「……う、うむ、何か用だろうか? ああ済まない、ちょっと事情があるのでそれ以上近寄らないで貰えると有り難い」


 しまった、色々躊躇していたらネコミミ少女からコンタクトされてしまった、今は背が高い草が私の格好を偽装した状態になっているが、これ以上近付かれるとマッパであることがバレてしまう、何としてもこれ以上距離を詰められる事は避けなければ人として色々とマズい。


「あ、はい申し訳ありません、あのぅ……私、この先にあるアルエムから送られた贄なのですが、貴方様が『草原の魔王』様でしょうか?」


 ……人間では無いと言いつつも一応日本語を喋るのだな少女よ、と言うか今何やら色々と理解不明の単語が多量に羅列された気がするのだが、私はその言葉の中から何をどう意味を抽出して判断すれば良いのだろうか?


『あー…… この子贄として選ばれて来たんだぁ』

「贄……だと?」


 何だそれは、て言うかそこの少女よ、私の言葉にコクコクするんじゃない、今の言葉は君に言った訳では無く、頭の中に語りかけてくる煩くてウザい声に対して言っただけだ。


「今夜は魔王様と邑の間に交わされた……五年振りの捧げ物の夜になります、どうかこの……アリィの体と命を以って邑の豊穣と守護を……どうかお情けを、魔王様」


 訳が判らないがこのネコミミ少女が言っている内容は理解した、が何を言っているのだこの少女は、訳が判らんぞ。


「て言うかこれは本当にリアルなのか? 魔王とは誰だ? 私か? 待て、これは頭に埋め込んだデバイスが見せているバグでは無いのか? 一体どこの世界の住人がこんなうだつの上がらん白衣一枚のマッパなエンジニアを見て魔王と言うのか、色々突っ込みが追いつかんぞ」

『待って、混乱するのは理解出来るけどちゃんと説明するから話を聞いて?』

「あのぉ……魔王様?」

「待つのだ少女よ、それ以上近づいてはいけない、お互いの為と言うか主に私のこれからの人生の都合的にとてもマズい」

『はぁ……このままじゃ話が進まないね、取り敢えず君、今からこの状況を打開する行動を指示するから、それに従ってくれない?』


 こうして私は何も現状を把握しないまま、現状を収める為に頭に語りかけてくる声に兎にも角にも縋ってしまう事になるのだが、それがこの先続く受難の始まりとなってしまうのをこの時理解していなかったのである。

 
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