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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  窮地との再会

 ところで、僕が楽々と扱い、敵を懐に間合いを詰められずに立ち回れる薙刀だけど、その使い手はかなり少ない。 その理由の殆どは『非常に扱い難い』と言う点だろう。

 まずは数値的火力がかなり低い。 槍に比べて低いのならまだしも、刃の付いていない棍にさえ劣ることもあるのだ。 それは致命的な欠点だろう。
 それだけ火力が低いくせに、適正攻撃特性は斬撃。 もちろん、刺突は可能だし、柄での殴打には打撃属性が付加されているけど、それらは元々低い数値的火力に補正をかけ、更に火力を落としてしまう。 つまり、タンクの陰に隠れつつチクチクと刺すと言う、長柄武器の基本戦術が使えないのだ。
 長すぎるリーチは広い攻撃範囲を生み、前線で振るえば味方すらも巻き込む、なんて笑えない上に足を引っ張る結果になるだろう。

 数値的火力不足故にソロに向かない。 広すぎる攻撃範囲故に集団戦に向かない。

 もちろん、ある程度のプレイヤースキルがあれば、遠心力を使った火力の押し上げや、仲間に当てないように得物を振るうことも可能ではあるけど、やはり使い難い武器であることに変わりはない。 それを好んで使うプレイヤーは、少なくとも攻略組に限って言えば僕だけだ。

 さて、そんな不人気武器筆頭の薙刀の中でも更に異色、超軽量級リーチ重視数値的火力底辺の雪丸を携えた僕は、今にも狼男の爪で引き裂かれんとする《白のお姉さん》の脇腹を突いた。 もちろん、柄頭で。

 前述したように、雪丸の適正攻撃特性は斬撃で、刺突や打撃はシステムによって威力が半減する上、遠心力が乗らないので火力の上乗せができない。 かと言って斬撃では《白のお姉さん》を巻き込みかねないし、刺突や打撃のような中途半端な威力の攻撃だとあの狼男の一撃を弾くことはできないだろう、と言う判断に基づいての行動だ。

 雪丸の柄に突かれた《白のお姉さん》は然程の抵抗もなく、狼男の攻撃範囲から弾き飛ばされる。

 良かった、と安心したのも束の間。
 狼男の一撃が雪丸の柄を上から叩きつけ、《白のお姉さん》を突き出すために片手で保持していた雪丸が、僕の手からアッサリと抜け落ちた。

 武器落下(ファンブル)
 本来であれば最悪に近い事象ではあるけど、そうなるだろうと予測していた僕は慌てることなく雪丸から視線を外し、狼男に肉薄した。

 取り落とした武器を無視するとは思っていなかったのか、狼男の対応が遅れた一瞬の隙をついて、左腰に装備してある短剣を引き抜くと同時に振り上げる。
 胸を斜めに切り裂いた感触を感じる間もなく、分厚い毛に覆われた身体に幾重もの線が刻まれた。
 短剣スキルを持たない僕の攻撃は、それでも徹底的に鍛え上げた敏捷値の高さにものを言わせることにより、ほんの一瞬で7回、狼男の胸を裂く。

 その効果を確認せず、僕はバックステップで距離を取りつつ、呆然としていたお姉さんたちに向かって指示を飛ばした。

 「お姉さんはそこの通路から退避! そっちのお姉さんも早く!」
 「駄目です! ヒヨリさんは麻痺していて!」
 「だったら僕が連れてくからーーーーっ!」

 今度は狼男が僕に向かって突進してくる。
 さすがはレベル89のモンスター。 その凄まじい速度の突進に必然、指示が止まる。

 狼男の右手が瞬く。 状況から推察するに、あの爪が白のお姉さんを麻痺させた原因だろう。 つまり、喰らうわけにはいかない。
 殆ど反射的に上体を反らすと、『キュボッ』と言う音と共に先ほどまで僕の頭があった場所が空気ごと抉られた。 直後、反撃する隙を僕に与えないように、今度は左腕がブレる。
 攻略組トップクラス剣士のそれに匹敵するほどの正確さと速度で繰り出される3連撃。

 1撃目。
 風を切る音さえ置き去りにする速度で振るわれる、首を狙った爪の横薙ぎを最低限のバックステップで回避。
 続く2撃目。
 横薙ぎを振り抜いた勢いが不自然に止まり、そこから繰り出される手刀による再度の横薙ぎは身体を沈ませて回避。 頭上を通過する暴風に肝を冷やしつつ、ニヤリと笑う狼男と目が合った。
 締めの3撃目。
 いつの間にか引き戻されていた左腕の五指を全て揃えた必殺の貫手。 それを頭を振って回避すると同時に、僕は狼男との間合いを完全にゼロにする。

 「悪いね、ジルさん」
 「ガッ……」

 と、同時にガントレットで覆われた左肘を狼男、固有名《ジル・ガルニエ》の右脇腹に叩き込んだ。
 漏れ出した苦悶の声は、ようやく捉えた突破口だ。

 「もっと速くてえげつないくらい正確な攻撃を知ってるからさ。 だから当たらないよ」

 そして、その突破口を逃すほど甘くはないし馬鹿でもない。

 右手に持ち替えた短剣を狼男の左肩に突き込んでから跳躍。 狼男の頭上へと飛び上がった僕は、ポーチからとある液体の入った小瓶をばら撒き、何もない空間を足場にして更に跳ぶ。

 「それに、速さは僕の方が上みたいだしね」

 クスリと笑うと同時に、空中にいるままポーチから今度は鋭く長いピックを放る。 投剣スキルを持っていない投擲ではあるけど、何度も練習しただけあって、ピックは狙い違わず小瓶を撃ち抜き、そして狼男の身に突き立った。

 結果を確認する頃にはもう一度何もない空間を足場にして、今度は大きく飛び退くと、そのまま脇目も振らずにダッシュ。
 白のお姉さんの隣で急制動をかけてから、再び黒のお姉さんに向かって叫んだ。

 「とりあえず撤退! お姉さんが先行して、モンスターが出てくるようなら露払い! このお姉さんは僕が連れてくから!」
 「っ……お願いします!」

 一瞬の逡巡は僕を信用できるか測った故だろう。
 それでもこの状況下では指示に従う以外選択肢はないし、微妙に離れた位置にいる黒のお姉さんがこちらに来てから白のお姉さんを抱えて離脱するほどの余裕がないように見えるはずだ。 少なくとも黒のお姉さんから見れば、だけど。
 僕が指差した通路に片手剣を握って突っ込んでくれた黒のお姉さんの思い切りの良さに感謝しつつ、僕は手早く白のお姉さんを背負う。

 「わーお」

 状況にそぐわない気の抜けた声が思わず出るけどそれも無視して、やっぱり僕も迷わずに撤退を開始する。

 チラリと後ろを確認すると、狙い通りに麻痺して動けない狼男と目が合った。
 そこにあるのは、モンスターにしておくには惜しいくらいの殺意と怒り、だろうか。 妙に人間臭い眼光に苦笑してから前を向く。

 逼迫した状況なのに、背中に押し付けられたふたつの巨大な膨らみに意識がいってしまうのは、年頃の男の子としては仕方がないだろう。

 こんなことでドギマギしていることをアマリに知られたら、僕はきっと潰される。
 そんな嫌な未来を予想しつつ、僕はとにかく走った。














 幸い、撤退中にモンスターと出くわすことはなかった。
 そんなこんなで僕たちが逃げ込んだのは、僕が初めに転移してきた場所。 ここが安全地帯であることは予め確認済みだったので、とりあえずの避難場所にしたわけだ。

 「ここまでくれば安心だね」

 誰に向けるでもなく呟いた言葉と共に、背負ってきた白のお姉さんを地面に下ろす。
 直後、先に安全地帯に入っていた黒のお姉さんがその隣に膝をついた。

 「大丈夫ですか?」

 非常に落ち着いた声音での問いかけだけど、それは無理して落ち着かせているのが明白で、もしもここに僕がいなかったら大声で心配していただろうことが容易に想像できる。
 一方の白のお姉さんはそんな声に反応を返さず、ただ切れ切れの息を漏らすだけ。

 通常の麻痺であれば、たとえその最中にあっても囁き声程度なら発することができるし、緩慢にはなるけど動くことは可能だ。
 だと言うのになんの反応も返さないと言うことは、どうやら予想していた通り《レベル9》の麻痺毒を受けたのだろう。

 レベル9麻痺毒。
 これを受けると身体が全く動かなくなり、声を発することもできなくなる、現時点で確認されている限りでは最強最悪の状態異常。
 耐毒スキルを持たないプレイヤーが自然治癒にかかる時間はおおよそ20分。 しかも、店売りの解毒ポーションはおろか浄化結晶を使ってでさえ治療ができない。
 その時間を短縮するためには、調合スキルをコンプリートしたプレイヤーのみが製作可能なレベル9麻痺毒用ポーションが必須になる。 作るためには、それはもう笑いたくなるくらいのレア素材と多大な時間が必要になるため、市場に出回ることはまずないし、たとえあったとしてもとんでもなく高価(安めのプレイヤーホームが買える、と言えばわかりやすいだろう)なので、持っているプレイヤーは相当に少数だと思われる。
 しかもこの毒は、受けると凄まじい脱力感と息苦しさをプレゼントしてくれるとんでも仕様で、ペインアブソーバーのお陰で痛みを殆ど感じないこの世界に於いて、言ってしまえば最も苦しい拷問なのだ。

 どうやら2人のお姉さんもレベル9麻痺毒用ポーションを持っていないのだろう。 黒のお姉さんが悔しそうに歯噛みし、白のお姉さんは心配させないようにと力なく笑った。

 「まったく以って悪趣味だよね、ほんと。 ねえ、お姉さん」
 「は、はい!」
 「これ、そのお姉さんに使ってあげて」

 そう言いつつ、オブジェクト化したポーションを黒のお姉さんに差し出した。

 僕は調合スキルをコンプリートしている。 加えて、日々の研究の過程で、このポーションの作製に成功しているので、ストレージ内にも数本のストックがあるのだ。
 とは言え、これがとてつもなくレアで高価であることは変わらないけど。

 さすがは()()だけあってその手の事情に明るいのか、僕が差し出したポーションの高価さを一瞬で理解したのだろう。 窺うような視線を僕に向ける。
 あるいは、疑うような、か。

 甘い話しには裏がある。
 SAOをここまで生き抜いてきたプレイヤーにとって、そんなことは当たり前のことだ。 信頼できる者以外の全てを疑うことは、ここで生きていく上での常識だと、疑われている僕本人でさえ思う。
 まして、特殊な立ち位置にいるとは言えこのお姉さんたちは攻略組。 その手の危機意識は当然のように持ち合わせているだろう。
 撤退の時はそこまでの余裕がなかったので白のお姉さんを僕に任せてくれたんだろうけど、落ち着いた現状では疑念が先行して当然だ。

 「別に無理に受け取ってくれなくてもいいよ。 これは言っちゃえば自己満足だしね。 ただまあ、僕を暫定的に信用するか、そこのお姉さんが苦しむ様を20分間何もしないで眺めてるか、どっちが正解だと思うのかな?」

 誰かに信じてもらえるほど高潔な人間ではない僕は、黒のお姉さんを煽るように意地悪く笑った。

 そう。 これはただの自己満足なのだ。
 白のお姉さんを助けたいわけでも、黒のお姉さんに恩を売りたいわけでもない。 誰かが苦しむ姿を見たくないと言う、醜いわがまま。

 「それが本当に解毒用のポーションだと言う保証はありますか?」
 「ないよ。 信じられないなら受け取らなくていいし、受け取った後に僕を拘束してくれてもいい。 もちろん拘束してから奪い取ってもいいけどね」

 どうする? と首を傾げつつポーションを揺らすと、ようやく決心がついたようで、黒のお姉さんはそれを恐る恐る受け取ってくれた。

 「それでは、ありがたく頂戴しますね」
 「どうぞ。 僕は周囲を警戒しておくから、お姉さんが飲ませてあげてね」
 「はい」

 まだ半ば以上疑っているだろうに、それを言葉にしない辺り、このお姉さんはずいぶんと良い人みたいだ。

 黒のお姉さんが白のお姉さんにポーションを飲ませている間に僕はストレージを操作して、フード付きの外套を取り出すと、それを羽織り、フードを深めに被った。
 今更だけど、僕は攻略組との接触を禁じられている身だ。 今回の場合は偶発的かつ緊急だったため、ヒースクリフも文句は言わないだろうけど、一応は体面を取り繕わないといけない。

 さて、黒のお姉さんに宣言したように周囲を警戒しなーーーー瞬間、僕は首を逸らして白銀の片手剣による一撃を避けた。

 「なっ……」

 まさか僕が避けるとは思っていなかったのか、未知の襲撃者は微かに驚愕の吐息を漏らしていたけど、この際それは無視。
 さすがに温厚な僕でも背後から足跡を殺して不意打ちされればカチンとくるので、そのまま相手を確認する手間を惜しんで後ろ回し蹴りでそのプレイヤーを迎撃した。 一瞬だけ漏れた驚愕の吐息に聞き覚えがある気がしなくもないけど、今はそれも無視しよう。 振り返ってようやく捉えた襲撃者……白銀の鎧を身に纏う女性騎士然とした少女に見覚えなんてない、うん。
 完全に不意を突かれたために踏ん張りが利かず、僕の低い筋力値でも吹き飛ばされてしまった白銀のお姉さんを庇うために突進してくる、その小柄な身体を重金属装備で固めた幼女にも見覚えがあるけどきっと気のせいだろう。

 うんうんと胸中で頷いていると、重装備幼女が右手に持ったメイスではなく、左手の恐ろしく重厚な盾の先端をこちらに向けて構えた。
 初対面なので何をされるかわからないけど、何かをされる前に僕から重装備幼女との距離を詰め、微妙に怯んだ隙に身体をズラして僅かな隙間に滑り込む。 アマリ以上の筋力値を有する重装備幼女(いや、有しているかは初対面なので知らないけど)は咄嗟に振り返ろうとするけど、その視界とは反対方向に身体を滑らせ、同時に壁を利用して三角跳び。
 心渡りを使うまでもなく、重装備幼女は僕の姿を完全に見失った。

 「後ろっ!」
 「はえ?」

 けれど、さすがは白銀のお姉さん。 僕の位置を重装備幼女に短く伝えるけど、それでも当然遅い。 まあ、我ながら何がさすがなのかは初対面だからわからないけど。

 着地の勢いそのままに身体を回転させるのと、ガントレットを装備した僕の左腕が色味の薄い青に染まるのとがほぼ同時に起こり、重装備幼女が振り返る前にソードスキルが発動する。

 密着時専用単発ソードスキル、《崩槌》
 回転によって生み出された遠心力を余さず乗せた背面肘打ちは、重装備幼女を軽々と薙ぎ倒す。
 威力の低い《体術》スキルの中でも輪をかけて低いこの技の利点は、完璧にヒットさせれば高確率で相手を転倒させることだ。 そんなスキル固有の補正に加え、不意を突いたことと相手が振り返ろうと重心を移動させたこととが複合して、本来の僕の筋力値では不可能な『タンクプレイヤーを転ばせる』と言う奇跡に等しい事態を生み出した。

 それによって開けた視界に飛び込んでくるのは、こちらに猛然と斬りかかろうとする白銀のお姉さんの切迫した表情。
 このまま何もしなければ斬り殺されかねないので、硬直が解けるや否や、抜いておいたピックを投げて牽制すると、今度は大きく飛び退いて黒のお姉さんの隣に立った。

 「あの、この人は……」
 「彼女たちから離れなさい!」

 ようやく事態を収拾しようと口を開いた黒のお姉さんの言葉を、怒り心頭の白銀のお姉さんが塗り潰す。
 もちろん離れろと言われて離れる理由もないので、僕は動かずに笑った。

 今、白銀のお姉さんと重装備幼女の目には僕はこう見えているだろう。

 全身黒系統の装備で身を固め、フードを目深に被った体術使いの()()()()、と。

 黒系統の装備を使っている理由は隠蔽ボーナスを得るためだし、フードを目深に被っているのは、誰かに見られた時の面倒を減らすためだし、僕のカーソルがオレンジになっているのは白のお姉さんを雪丸の柄で小突いた時にダメージ判定が出てしまっただけだし、体術を使ったのも雪丸を落とした上に短剣は狼男の肩に突き刺したからと言うだけのことだ。 それでも、そんな事情を知らない2人からすれば、全く無名のオレンジプレイヤーが仲間を襲っている、なんて中々に笑えない状況にしか見えないのだろう。

 さて、そろそろ終わりにしないと冗談では済まなくなりそうだ。 もっとも、現時点で既に冗談で済まなそうだけど。
 ちょっと遊びが過ぎたかな? そんな反省をしながら、僕は目深に被っていたフードを払い、()()()()と対峙する。

 2人の表情が驚愕に彩られ、その目が大きく見開かれる様を見て僕は笑った。

 「相変わらず仲が良いようで何よりだよ。 クーネさん、ニオちゃん」

 それから一層笑みを濃くして一言。

 「ドッキリ大成功ー」 
 

 
後書き
フォラスくん大暴れ回。

と言うわけで、どうも、迷い猫です。
ようやく本格的に登場した白のお姉さんはピンチだし、黒のお姉さんは言葉責めにあうし、白銀のお姉さんは蹴っ飛ばされるし、重装備幼女は後ろからど突かれて転ばされています。
いやもう、フォラスくん大ハッスルです。 本編以上に大ハッスルです。
しかも、6600字オーバーなのに話しが一向に進まないと言う惨状。 これぞ迷い猫クオリティー。

sonasさん、すいません。 調子に乗りました(土下座
けど、滅茶苦茶楽しいです、はい。
おそらく次話もこんな調子ですが、どうか見捨てないでください(懇願

ではでは、迷い猫でしたー 
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