幻影想夜
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第二十七夜「カラスの宝物」
- すっげぇ! -
そう言っているのは、一羽のカラスだ。
そのカラスが見ているものは、陽射しを反射してキラキラと輝いている…壊れたメガネ。何の役にも立たず食べられもしないガラクタだが、そのカラスにとっては凄いらしい。
そのカラスはその壊れたメガネをくわえ、自分の巣へと持って帰った。巣には他にプルタブやグニャグニャの針金、石の抜けたピアスに曲がった釘等々…ゴミだらけだ。
それでもカラスは「すっげぇの見つけた!」と思って集めているのだ…。
カラスは持ってきた壊れたメガネを大切そうにそこへ仕舞うと、「さて、ご飯ご飯。」と思い、バッサバッサと飛び上がった。
どこかに美味しいご飯はないかな…と下を見れば、何か美味しそうなものが落ちている。
- 頂きっ! -
そう言ってそこへ着地すると、いきなり横から別のカラスが割り込んできた。
- これはオレんだ!どっか行け! -
割り込みカラスはそう言って威嚇するが、それでも先に見付けたとこっちも負けじと威嚇する。
- これは僕が見付けたんだ!お前こそどっか行けよ! -
二羽のカラスが睨み合う…。
目の前にあるものは…誰かが投げ捨てたであろうフライドポテトの入れ物。中身も少しばかり入っているようだが…。
そうして二羽のカラスは「カァ~!カァ~!」と威嚇し合っている時、どこからか大きな音が響いてきて、二羽がふと見れば…。
- ウギャ~ッ!! -
慌てて飛び上がる二羽のカラス…ダンプが走ってきたからだ。
そのダンプは物の見事にフライドポテトの入れ物を踏み潰し…恰も道路の模様の様にペシャンコにしていった。
- あ~あ~…。 -
それを見て、二羽のカラスはガッカリしたように飛び去った…。
- もう!あいつさえいなけりゃ食べれたのに! -
そう文句を言いつつ、カラスは再びご飯を探す…探す…。
- あっ! -
何か見付けたらしく、カラスは見付けたものに急降下。
そこにあったものは…。
- おいし~! -
どこかの畑の脇に植えられていた夏蜜柑…が地面に落ちたもの。取り合えず気を使っているらしい。
しかし、そこにもまた別のカラスが…。
- ねぇ!ボクも食べていい? -
そこには沢山の夏蜜柑が落ちている…ので、別に良いんじゃない?と答えて一緒に食べていると…。
「こら!全くこのカラス共がぁ~!」
今度はどこぞの爺さんが杖を振り回して出現…。ビックリして逃げようと飛び上がると…回りには八匹ほどのカラスが集まっていた…。
カラスとて杖で叩かれるなんてゴメンなので、一目散に逃げて行く…。
- もう!もう少し食べたかったのに~! -
カラスを追っ払うとその爺さんは椅子を置き、そこで寛ぎ始めた。ので…戻ってコッソリとはいかなかった。
カラスはガッカリして飛んでいると、今度は何だかキラキラと反射するものが目に入った。
- …何だ? -
そう呟くと、カラスはその光るものへとスッと着地する…そこには…。
- すっげぇ! -
そう、すっげぇ~…ネックレスチェーンの切れ端があった。
カラスは喜々としてそれをくわえると、直ぐ様飛び上がって巣へと持っていった。
- 今日は大収穫だ! -
カラスは喜びながらステップしている。しかしながら…食べ物にありつけないと困るのでは?と思ってしまうのは人間の勝手な考えなのかも知れない…。
カラスはガラクタ…いや、ネックレスチェーンの切れ端を大切に仕舞うと、再び「ご飯~。」と思いながら飛び立った。
- いつものとこに行こう~。 -
カラスはそう言うや、草ぼうぼうの公園へと降り立つ。
そこでは草の種子だったら多種多様で食べ放題…捨てられていたフライドポテトや落ちてた夏蜜柑に比べれば大したものではないが、それでも腹は膨れる。
カラスが着たときには、もうあちこちにカラスだけでなく、ハトやスズメも沢山いた。言ってみれば鳥のレストラン…いや、ファミレスと言ったところか。
カラスはそこであれこれと啄んでいると、どこからかともなく音が響く…。
- なんじゃありゃ~! -
カラスが見たもの…それは草刈り機だ。それも四方から迫ってきている…。
- ウッキャ~!! -
その音と動きに恐れをなし、直ぐに空高く舞い上がった。
カラスは公園の桜の木に留まって暫く見ていたが、草むらは無惨に刈り取られ…刈り取られた草は端から袋に詰められている…。
- どうしてこんなヒドイことするんだよ! -
ヒドイ…訳ではないが、カラスにとってはファミレスでご飯を食べているところで、突然建物が壊されてゆく…と言った風に映るのだ。
しかし、嘆いていても仕方無い…カラスは他のファミレス…いや、餌場を求めて飛び立った。
あちこち見ながら少し遠くへと飛んでいると、ふと…森の様に樹木が密集している場所を発見した。
- おお!ここなら…。 -
カラスはそこへ入って木の枝に留まって見渡すと、そこらじゅうに沢山の木の実が生っていた。
- やった~! -
カラスは喜んで木の実を啄み始めたが…。
- おい!俺の縄張りで何してやがるっ!! -
そう聞こえたかと思いきや、いきなり背中を突かれた。
- 痛っ! -
驚いて飛び退くと、そこには一回りは大きいカラスが睨み付けていた。
- どこのヤツか知らねぇが、ここは俺の縄張りだ!誰に断って入ってきやがった!! -
物凄く怖い…。見れば片目は潰れていて、身体中傷だらけだ。人間で例えるならば…百戦錬磨の老兵と言ったところか…。
- す…すいません!僕…お腹空いてて…飛んでてここを見付けたから…。 -
- だから…?だから勝手に入ってきたってか? -
片目でもその眼力は強く…もう少しで失禁しそうになっていた。
- も…もう来ません!ごめんなさい! -
そう言って飛び去ろうとするも…片目のカラスは先回りして行く手を遮り、その大きな嘴で突いてきた。
- 痛っ!! -
- てめぇ…ただで帰れると思ってんのか? -
怖い…むっちゃ怖い…。
だが、この状況をどうしたら良いか分からない…。
因って…カラスはとある方法を考えた。
- 僕の…僕の宝物を差し上げますので許して下さいっ! -
- ん?宝物だと? -
- はい!一緒に来てくれたら差し上げます! -
それを聞くや、片目のカラスは取り合えずそのカラスについていくことにした。
然して時間も掛からずに巣へ着くと、カラスは片目のカラスへとネックレスチェーンの切れ端を差し出した…。
- お前…。 -
- ヒィッ! -
ギロッと睨まれ、カラスはまた怒鳴られるのかと震え上がった。また突かれてはたまったものではないが…それがどうだろう…。
- すっげぇ!ホントに良いんかよ! -
気に入ったようだ…。
カラスはほっと胸を撫で下ろした。目の前にいる片目のカラスは、ネックレスチェーンの切れ端に御満悦で…こう言った。
- お前、今度からいつでもあそこに来て良いからな! -
そう言って片目のカラスは、ネックレスチェーンの切れ端を大切にくわえて飛び去ったのだった。
- はぁ…突かれなくて良かった…。 -
宝物を失ったことは正直ガッカリだが、餌場を確保出来たことは何より…怪我の功名と言ったところだ。
そしてカラスは再び飛び立った。
- さて…何かないかなぁ~。 -
さっきの出来事なぞ既に忘れ、カラスは悠々自適に風を切って飛ぶ。
そうして暫く空から眺めていると…。
- むむっ! -
何かを見付けた。川辺の草むらの中、そこで何かが反射した様な気がしたのだ。
カラスは光が見えた気がした場所へ着地すると、草むらの中をガサゴソと探し始める。
- おお!これ何だ? -
そう思いながらもカラスはそれを嘴にくわえて言う。
- すっげぇの見付けた! -
そのカラスがくわえたもの…それは指輪だった。それもダイヤのついた…。
それは確かに「すっげぇ!」ものだったが、カラスにしてみれば皆同じ「すっげぇ!」ものだ。
カラスは再び飛び上がり、いつも通り指輪を宝物の中へと仕舞う。
何だか分からないアルミ板…ナット…ピンセット…先の折れ針…そしてダイヤの指輪…。カラスには全て同じ価値だ。
価値なんてものはそれぞれ。人がどれだけ大枚を叩こうが、カラスには関係ない。人がそう思って勝手に価値を決めてるだけなのだから…。
このカラスは、きっとこれからも宝物を増やして行くに違いない。
このダイヤの指輪もずっと…ここにあることだろう…。
...end
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