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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第21話 友と語る、セピア色の懐かしき出会い話

 ダイバンチョウとウラバンチョウ。その二体の合体技でもあるダブルコラボバスターの威力は絶大の一言であり、それを放った当人達は、未だに広大な宇宙をその威力の反動で飛び続けていた。

【あ~あぁ、腹が減ったぜぇ。早く地球に帰って腹いっぱい銀シャリが食いてぇなぁ】
【我慢しろ。それに、さっき高官用エネルギーキューブを食べた筈だろ? あれ一つで大抵一か月は補給無しでも活動出来る筈なんだぞ】
【あんなの一つで満腹になるかよ】
【つくづく燃費の悪い奴なんだな。お前達は】

 動く事の出来ない宇宙空間内に置いては特にやる事もない為に、こうして他愛ない会話をして時間を潰す他なかった。
 重力のない宇宙空間においてはバーニア噴出能力のないダイバンチョウでは動く事が出来ないし、ウラバンチョウも殆どのエネルギーを使い果たしてしまい今は合体している守の生命維持に残りのエネルギーを割くだけでやっとの状態だった。

(番、僕が居なくなった間なんだけど、地球や学校に変わりはなかったかい?)
【あぁ、結構あったぞ。まずはお前が変に法律とか校則に五月蠅くなったりな】
(あはは、イインチョウだねそれは)

 守が眠っている間、イインチョウが守に成り代わり学校生活を送る事となったのだが、余りにも正義を意識しすぎるイインチョウの為か、その性格は余りにも変わっているとしか言いようがなかった。

【す、すまない守。私なりに守を演じてみたつもりだったんだが】
(気にしなくていいよイインチョウ。人が誰かのなりすましなんて早々上手く出来る筈がないんだからね)
【全然違うじゃねぇか。お前守の何を見てあんな性格演じたんだよ?】
【し、仕方ないだろう。私だって地球人になるのは初めてだったんだ。戸惑いだってするさ】
【そうかい?】

 何とも他愛のない会話だった。その会話の時間が三人にはとても楽しい時間に思えた。

【おいお前ら! 俺を忘れてるんじゃねぇのか?】
【おぉ、悪い悪い。お前も居たんだっけな。バンチョウ】
【てめぇ、相棒の事を忘れるたぁどう言うつもりだ?】
【悪かったって。そんなに怒るなよ】

 四人の間には生まれた星の違いなどなかった。ただ、共に死線を潜り抜けた頼れる仲間同士。そんな絆が其処にはあった。

(それにしても、こうして二人でいると、思い出すね。番と初めて会った頃の事を―――)
【何だよ唐突に。しかもあの時の事を思い出すなんてよぉ】
(良いじゃないか。僕にとってはいい思い出だと思ってるよ)
【俺にして見れば恥ずかしい思い出だがな・・・まぁ、あの時の出会いがなけりゃ今の俺がなかった訳だしな】




     ***




 196x年―――
 その年に轟番はこの世に生を受けた。
 優しい母に、強く頼れる父と祖父を家族に持ち、貧乏ながらも番は不自由さを感じる事もなく健やかに成長を続けていた。

「喜べ、番。近くの河原ででかい蛙を拾ったぞ。これで今日の晩飯は蛙のから揚げだな」
「すっげぇ、美味そうな蛙じゃん!」

 仕事から帰って来た父が番に見せたのは巨大な大人のウシガエルだった。大人でも両手で持たないと持てないほどの大きなウシガエルを前に、幼い番は目をキラキラと輝かせていた。

「はっはっはっ、なんだ心。お前もおかずを取って来たのか?」
「父さん」
「爺ちゃん!!」
「しかも蛙かぁ。こりゃ今夜の晩飯が楽しみじゃのぉ。ほれ、わしも良い物を拾って来たぞぃ」

 祖父が拾って来たのは丸々に太ったネズミだった。それも1匹ではなく大量に捕まえて袋詰めにしてあるのだ。

「すげぇっ! こんなにたくさんネズミ捕まえたのかよ爺ちゃん。しかもどれも丸々太ってて超美味そうだぁ」
「当たり前じゃろうが。わしらは昔からこうして生活しとったんじゃ。食材集めなんぞ朝飯前じゃい」

 玄関先で男達が食材を手に大笑いをしていた。

「あら、お帰りなさい。心君にお父さん」
「おう、ただいま」
「めぐみさんやぁ。今夜の晩飯は蛙とネズミを使ってくれやぁ」
「あらあらまぁ、大量ですねぇ。今夜は腕を振るって美味しいご飯作るわね」
「やっほぉい! 楽しみだなぁ」

 其処にあったのは、少し特殊ではあっただろうが、それでも極々普通な平凡な家族の風景が其処にあった。
 幼い番と、それの成長を見守る祖父と父と母。
 それらが轟家の生活風景でもあった。

「馬鹿野郎!!」

 場面は変わり、夕刻時の一時。
 ボロボロになって帰って来た番を父、心は思い切り殴り飛ばした。

「いって~」
「お前、自分が何をしたのか分かってるのか?」
「何って・・・普通に喧嘩しただけだよ」
「別に喧嘩した事を責めてる訳じゃない。負けた事でも怒っちゃいない。だが、その後お前は何をした? 喧嘩で負けた後、その負かした相手を後ろからバットで殴り倒しただろうが!」
「だってさぁ、あいつら卑怯なんだぜ。俺一人なのにあいつら5人で来たんだ! それじゃあぁしなきゃ俺勝てないよ」
「自分が弱いのを相手のせいにするな! 良いか、お前も俺の息子なら二度と卑怯な勝ち方をするな! 男なら正面から戦え! そして、どんなに不利な状況でも必ず勝てるように男を磨け! 分かったな?」
「う、うん―――」

 父が怒っているのは喧嘩で負けた事でも喧嘩をした事でもない。卑怯な喧嘩をした事を怒っているのだ。
 例え、自分に不利な喧嘩だとしても、それらを跳ね除けて喧嘩に勝つ。これこそ男の喧嘩と言えるのだ。
 それを聞いた時、番は自分があんな喧嘩をした事を心の底から後悔した。そして、もう二度とあんな卑怯な喧嘩はしないと心に決めた。

「父ちゃん、俺・・・もうあんな卑怯な喧嘩しないよ。次は5人でも10人でも、真正面から喧嘩して、それで勝つよ!」
「良く言った。それでこそ男だ! だが、喧嘩をやり過ぎてくれぐれも怪我なんてするんじゃねぇぞ。そんな事したら俺が母ちゃんに怒られちまうからな」

 等と、父と子でゲラゲラ笑いあった。それから祖父と母も加わり、狭い家の中で家族全員の笑い声が響き渡った。
 そう、この時まではとても幸せな家族で居られたのだった。
 そんな幸せな時間は、ある日唐突に終わりを迎える事となった―――
 それは、母、めぐみが弟、真を出産して間も無くの頃だった。

「良いか、番。父ちゃんは暫く家に帰れなくなる。だから、その間はお前が母ちゃんを、そして弟を守ってやるんだ」
「何だ、父ちゃん。また仕事か?」
「まぁ、そんな所だ。良いか?」
「おう、任せておけって」

 この時、番は父の言葉を信じていた。そして、父はすぐに帰ってくる。そう信じていた。
 だが、父が家を離れてから1年、2年経っても連絡の一つもなく、徐々に番は不安になり始めた。
 更に、元々貧乏だった轟家に置いて、稼ぎ頭でもある父が居なくなった事は大打撃を被る結果となってしまい、しかも育ち盛りが増えた事もあって生活は一気に苦境に立たされる事となった。
 祖父は、それから一心不乱に働き続け、母もまた子供たちを飢えさせない為にと細々とパート業務を行い始めた。
 それでも、番は父の言いつけを守り、幼い弟の面倒を見ながら出来る限りの家の手伝いをし続けていた。
 何時か、父が玄関から現れて、また楽しい時間が過ごせる。その日を夢見ながら。
 そんな番の心を打ち砕いたのは、祖父の突然の死の報告だった。

「番、お爺ちゃんが・・・お爺ちゃんが・・・」
「嘘だ、嘘だよねぇ。母ちゃん! 爺ちゃんが、爺ちゃんが死んじまったなんて・・・」

 信じたくなかった。だが、祖父が運ばれた病室に着くと、其処には真っ白な布を顔に乗せ、二度と動かなくなってしまった祖父の最期の姿だった。
 あんなに強くて、頼れる存在だった祖父が、番とめぐみの前で物言わぬ死体となって目の前に現れた。
 更に、悪い事は続いた―――
 祖父の突然の死の続いて、今度は母が倒れたのだ。
 元々番の母は心臓が弱かったらしく、父の失踪に続き、祖父の死により母は更にパートの量を増やし、必死に働き続けた結果、無理が祟り職場で突然倒れてしまったのだと言う。

「兄ちゃん、母ちゃん何時になったら元気になるの?」
「・・・・・・」
 
 幼い真の問に、番は答えられなかった。分からなかったからだ。何時になったら母が元気になるのかと言うのもそうだが、それ以上に、此処まで家族が苦しんでいると言うのに連絡の一つも寄越さない父に対して、番の中でとある感情が芽生え始めていた。
 倒れた母も、幼い弟も守れない、不甲斐ない自分。そして、そんな家族を捨てて行った父への底知れぬまでの『憎しみ』だった―――




     ***




 それからの番は、荒れに荒れ狂っていた。目に付いた奴は誰であろうと殴りつけ、喧嘩を売っては買い、買っては売りの行為を繰り返し、相手を徹底的に叩きのめしてしまう最悪の喧嘩ばかりを繰り返し続けていた。
 番が中学生になる頃には上級生は勿論、高校生すらも殴りかかり、挙句の果てには全く関係ない一般人にも喧嘩を売るなどの愚行を繰り返していた。

「番、いい加減にしろ!」
「・・・・・・」

 警察署内の取調室の中で、しょっ引かれた番と、父母の友人である駒木警部の二人が居た。

「今月に入ってもう15件目だぞ。お前が起こした殺人未遂の暴行沙汰は!」
「あいつらが喧嘩を売って来たから買ってやっただけの事だ。俺に悪気はねぇよ」
「じゃぁ何か? お前はただ歩いていた一般市民に対してもそんな事を言って喧嘩を売って、重症を負わせるのか? それがお前の言う喧嘩なのか?」
「・・・分かんねぇよ。そんなの―――」

 駒木の問いに、番は静かに答えた。
 番が喧嘩を売る相手は実に様々だった。とにかく目に付いた奴には片っ端から殴り掛かり、完全に戦意を亡くすまで殴り続けると言った行為を繰り返し続けていたのだ。
 今回、番を逮捕するにしたって、大勢の警察官が番の暴力に巻き込まれ大怪我を負ってしまった。
 其処で、駒木に召集が掛かり、こうしてしょっぴかれたのである。

「良いか、番。もうこれ以上こんな喧嘩をするんじゃない。お前のやってるのは喧嘩じゃない。ただの暴力だ! そんなんじゃ、折角退院出来ためぐみさんだって安心出来やしねぇだろう」
「すまねぇ、おっちゃん。クソ親父が居なくなって、露頭に迷ってた俺達の事を救ってくれたおっちゃんには感謝してる。だけど、だから悔しいんだよ。大事な家族一人守れねぇ不甲斐ない俺自身が、そんな俺達を捨てたあのクソ親父が、憎くて憎くて仕方ないんだよ!」
「・・・今日はうちんとこで寝てけ。そして、少し頭を冷やせ。良いか、これ以上は俺自身も擁護出来ないぞ」

 駒木はそう番にくぎを刺した。本来ならば即刻少年院送りになっても当たり前の筈だが、そんな番を守り続けていたのは他でもない、駒木のお陰でもあった。
 その為、駒木は数あった出世の道を自ら断ち、自分の生活費すら圧迫して番や真、そしてめぐみ達の為に充て続けていたのだ。
 そんな駒木を見れば見るほど、彼に頼り続けている自分自身が情けなくなり、それと同じ位に父が憎く思い、その思いが強くなればなる程、番の喧嘩の頻度は増す一方だった。




     ***




 ある日、駒木は署長室へと呼び出されていた。
 呼び出しの原因は言わずもかな、番についての事だった。

「駒木君。いい加減彼を擁護するのは止めたらどうかね?」
「いいえ、待って下さい署長。彼は絶対俺が更生させて見せます。ですから、ですからどうか、実刑だけは勘弁して下さい」

 署長に対し、駒木はその場で深く頭を下げて懇願して見せた。だが、その駒木の頼みも、署長は苦い顔をし続ける始末だった。

「彼の悪行は凄まじい物だよ。傷害事件多数、器物破損、最近じゃぁヤクザ相手に無謀な喧嘩をしているそうじゃないか。我が署の署員だって、奴に巻き込まれて怪我人を出しているんだ。もうこれ以上あんな危険人物をかばい続けるのは不可能なんだよ」
「分かっています。だからこそ、だからこそ。奴の更生を俺自身にさせて下さい。お願いします!」
「・・・・・・」

 署長は頭を抱えた。駒木の今までの功績から、彼ならばもっと上の席につける事は当然の事だったのだ。
 だが、余りにも暴力行為を繰り返す轟番をかばい続けるが為にその出世への道を自ら閉ざし続けていたのだ。
 その為、かつて居た捜査一課から降ろされ、今は少年課に所属する状態となってしまっており、ついにはその地位すら危うくなり始めていた。

「残念だが、幾ら君の頼みでもこれ以上は聞けない。もし、今度あの少年が事件を起こしたら。その時は我々は容赦なく彼を少年院に送る。これは君の為でもあるんだよ駒木君」
「もしそうなったら・・・その時は、私は警察官の職を捨てます!」
「・・・君は本当に不器用な人間だなぁ。自分の出世を断って、自分の人生を滅茶滅茶にしながらも、尚もあの少年をかばい続ける。我々には理解出来ない事だよ」
「・・・失礼します」

 話を終え、駒木は署長室を出た。彼の顔には疲れの色が多々出始めていた。
 番の暴力事件の収拾に24時間態勢で居たために、ここ数日碌に寝ても居ないし、休息もまともにとれていないのだ。
 
(情けないなぁ、惚れた女一人守れなかった男が、そのガキを守れないなんてよぉ・・・くそっ、あの馬鹿野郎。今何処で何やってやがるんだ・・・早く帰って来い、心!!)

 ふらつく足を何とか保ち、壁に手をやりながら駒木は自分のデスクへと戻って行った。




     ***




 その日は、偉く夕日が赤い日だった。
 その日も、番は相も変わらず暴力に近い喧嘩を繰り返していた。
 
「もう終わりか? この腰抜け共が!」

 番の目の前には、ズタボロにされて倒れた学生達の姿があった。中には腕っぷしのありそうな者も居たが、それ以外はひ弱そうな学生達だった。

「おら立てよ! 喧嘩の続きしようぜ!」
「こ、こんなの・・・ただの暴力じゃないか! 僕達が何をしたって言うんだよ!」
「あぁ? てめぇらが俺の目の前を歩いていたから目障りだったんだよ! だから殴った。それだけだ」
「そ、そんなの・・・ただの、横暴じゃないか!」
「ガタガタ抜かしてんじゃねぇ! やる気がねぇんなら他の奴同様寝てろ!」

 震え慄く学生に対し、番の暴力が振り上げられた。この後は同じ展開だ。また、彼らが意識を失い倒れるまで殴り続けるだけ。
 そう、また同じ光景が繰り返される。
 誰もがそう思っていた―――

「そこまでにしなよ」

 唐突にそれを止める者が居た。その声の主は、声を放ったと同時に番の太い腕を掴み、暴力を止めたのだ。

「何だ! てめぇ、喧嘩の横やり入れるんじゃねぇよ!」
「君の言う喧嘩って言うのは、動けない相手を一方的に殴る事を言うのかい?」
「うるせぇ! そんなに文句があるなら、代わりにてめぇが相手しやがれ!」
 
 有無を言わさず、番は声の主に飛び掛かった。
 年は番と同じ位、細見のひ弱そうな学生だった。
 誰もが、彼が番の暴力でズタズタにされるだろう。そう思っていた。
 あべこべに、番が地面に叩きつけられる光景を目の当たりにする前までは。

「ゲッ、ホォッ!!」
「人の話を聞かないからそうなるんだよ。これに懲りたらもう無茶な喧嘩はしない事だね」
「ふ、ふざけんじゃねぇ! 人の事を投げ飛ばしておいて「はい、終わり」なんて通用する訳ねぇだろうが! てめぇだけは許さねぇ、ぶちのめしてやる!!」

 完全にブチ切れた番は立ち上がり、投げ飛ばした少年目掛けて猪の如く突進していく。
 そして、またしても地面へと叩きつけられる―――
 見ている側から見れば何とも不可思議な光景だった。何しろ、180cmはあるであろう大柄な番を投げ飛ばしたのは細見な少年なのだから。

「んの野郎ぉぉっ!!」
「いい加減諦めたらどうだい? 力任せな君のやり方じゃ僕には通用しない」
「舐めた口利いてんじゃねぇよ! ただ投げ飛ばしただけで俺に勝てると決めつけるんじゃねぇ! 喧嘩ってのはなぁ、最後まで立ってた奴が勝つんだよ!」

 どれだけ投げ飛ばされても、どれだけ地面に叩きつけられても、番は諦めなかった。
 何度も何度も立ち上がり、何度も何度も地面に叩きつけられた。
 
「こんっっちくしょぉおぉぉっぉおぉぉ!!!」
「・・・・・・」

 一体どれだけ地面に叩きつけられただろうか?
 既に番自身は体力も底を尽き、気力だけで立っている状態だった。それに対し、少年の方は息一つ乱れていない。
 実力の差があり過ぎていた。

「まだやるのかい? これ以上やったら、怪我じゃ済まなくなるよ」
「まだ・・・・・・まだぁ・・・・・・喧嘩で負ける・・・位なら・・・腕の一本や足の一本・・・・・・どうって事・・・ねぇ!!」

 負けたくない。ただその思い一心で番は大きく振りかぶった。
 そして、今の自分に込められる全ての力を右拳に注ぎ込み、力いっぱい振りぬいた。
 辺り周辺に乾いた音が響き渡る。
 番の全霊の拳は、少年の両の手の中で納まり、それ以降微動だにせずにその動きを止めてしまった。

「強い拳だね・・・だけど、それだけに今の君の拳は弱い」
「よ、弱い・・・だと?」
「闇雲に人を殴り倒す事が強くなる方法と思っているのなら、それは間違いだよ。本当に強くなる方法じゃない」

 少年の諭すような言葉に、番は反論する事も出来ず、膝が折れ、地面に項垂れてしまった。

「だったら・・・・・・だったら、どうすりゃ良いんだよ!! お前に、お前にそれが分かんのかよ! 俺は、俺はどうすれば強くなれるんだ!? どうすれば―――」

 番の両眼から涙が流れ落ちた。強くなりたい。その一心が彼の目を曇らせ、この様な非道な行為に走らせてしまった。
 そのせいで、今まで番は多くの人を苦しませ、そして悲しませ続けてきた。殴り倒した人たちは勿論のこと、弟や母、そして恩人にまでも―――

「人を殴る事だけが強くなる道じゃない。人を守る事もまた、強さを語る方法なんじゃないのかい?」
「守る?」
「君は今まで悪戯に殴る事だけをしてきた。今度は、その拳を広げてみたらどうだい? ただ人を殴るだけじゃない、人を助ける事だって、君の手なら出来る筈だろう?」
「急にそんな事言われても・・・良く分かんねぇよ」
「難しく考える必要はないさ。ただ、助けを求める声に君が答えれば良い。それだけの事さ」

 少年の言葉に番は大きく胸を打たれる思いがした。
 拳で殴るのではなく、守る為に拳を広げる。
 広げた手で助けを求める人を助け、救う。
 それこそが強さの証となる。そう、少年は言いたかったのかも知れない。

「良く分かんねぇけどよ。何となく分かった気がする」
「そりゃ良かった」
「だけどなぁ、お前との喧嘩はまだ決着ついちゃいねぇからな!」
「まだやるのかい?」
「いいや、今日はもうやらねぇ」

 少年を前に、番は拳を収めた。これ以上戦っても投げ飛ばされるのは目に見えている。
 悔しいが、今の自分では彼には勝てない事は認めざるを得ない。
 だが、このまま負けっぱなしでいるのは我慢が出来なかった。

「また今度だ。今度、俺が今よりももっともっと強くなって、最強の男になった時だ。そん時ぁ、てめぇにいの一番に喧嘩を売ってやる! んでもって、今度は俺が勝つ!」
「気の長い話だね。まぁ、それまで覚えてたら覚えておくよ」

 やれやれと言った感じに少年は承諾した。まぁ、しなくてもどの道喧嘩は売るつもりだったのだが。

「忘れないように俺の名を教えてやる。俺は番。轟 番だ!」
「峰 守だよ。君が強くなる日をそれなりに楽しみに待ってるから頑張ってね」
「んの野郎。今度は俺がてめぇを地面に叩きつけてやるから覚悟しておけよぉ!」

 一触即発な雰囲気から一転、今度は両者とも腹の底から笑い合った。何とも奇妙な出会いではあったが、この出会いの後、番の生き方が大きく変わったのも事実だったりする。




     ***




【あの時、お前に会ってなかったら、俺は今でも荒れ狂ってたかも知れねぇなぁ】
(そうだねぇ、ところで・・・あの頃よりは強くなったのかい? 何なら地球に帰った後でまた喧嘩でもするのかい?)
【止めておく。前にお前に化けたイインチョウと戦ったがてんで歯が立たなかった。俺はまだまだ弱いみたいだ。お前にも、そして・・・あのクソ親父よりも】

 何処か遠い景色を見つめるような感じに番は呟いた。彼が越えようとしているのは今近くに居る峰だけではない。かつての弱かった自分自身と、家族を捨てて行った父親をも越えるつもりなのだそうだ。

【おい、地球が見えて来たぞ!】
【あぁ、どうやらこの進路で会っていたようだな】

 そんな矢先、バンチョウとイインチョウが揃って声を挙げる。後ろを見れば青く輝く地球が四人を出迎えてくれているのが見えた。
 歓喜の声を挙げる一方で、番はまた別の不安が過りだした。

【な、なぁ・・・これって、このまま海に落っこちるのか?】
【そうだが、一体どうしたんだ?】
【俺・・・・・・泳げないんだよ】

 かすれるような声で言う番。だが、そんな番の想いなど知る筈もなく、ダイバンチョウとウラバンチョウは二体揃って広大な海面へと叩きつけられた。

【はえわこあこあkんbなばへわおうおいわ】

 海に叩きつけられた途端器用に溺れ始めるダイバンチョウ。それに対し、ウラバンチョウは飛行能力を有していた為か空を飛んでいる。

【大丈夫か? お前ら】
【げぼぼ、ごぼがぼ・・・だ、だずげでごぼぼぼ】

 器用に溺れているダイバンチョウを見てやれやれと言った顔をしつつ、上空から掬い上げるウラバンチョウ。

【だ、だずがっだ】
【番、てめぇが泳げねぇせいで俺まで溺れ掛けちまったじゃねぇか!】
【るっせぇ! 泳げねぇものは泳げねぇんだよ!】

 今度はバンチョウと喧嘩し始める番。彼の生きる人生、喧嘩ばかりの人生のようだ。

(やれやれ、こりゃ当分騒がしくなるなぁ)
【これから先が思いやられるんだが】

 喧嘩し続ける番とバンチョウを見て笑い続けている守と先行きを不安がるイインチョウ。
 因みに、この後無事に帰国出来た番達ではあったが―――

【何処ほっつき歩いてたんだいこのボケナス!!】

 と、番達が居ない間一人でゴクアク組の侵攻を食い止めていたクレナイバンチョウこと、茜の強烈な右回し蹴りを食らい吹っ飛ばされた事は余談だったりする。




     つづく 
 

 
後書き

「久しぶりに地球に帰って来たし新しい仲間も増えて良い事づくめだぜ。んな時だってのにまたゴクアク組の奴らが来やがった。だけど、今度の奴らは何か違うなぁ・・・なにぃ! レッドの元居た組の連中だとぉ!」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【激突、星雲組!? 男とは、時に敢えて道を踏み外す事もある(前編)】

次回も、宜しくぅ!! 
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