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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第16話 転機

H12年1月初旬

 大人がくつろげるバーガーカフェでノートパソコンを広げながら岸本空は今後のことについて考える。

 やはり彼女はこの世界にいないのではないか。年の瀬が迫るころから、ずっと考え続け来た。
 この世界に来て動揺のあまり自分は僅かな希望に縋った。
 ノートパソコン(ありえないもの)を発見して浮かれ不安に対して見て見ぬふりをした。

 この世界に来て既に九ヶ月が経っていた。
 僕は様々な情報源を通じて囲碁界にアンテナを張って常に彼女を探し続けていた。

 すでに彼女の実家があるはずの場所にも訪れた。彼女が訪れそうな場所はすべて探した。

 けれど、彼女に関わる痕跡が……この世界には一切ない。

 そしてヒカルの碁という物語も原作通りに何一つ狂いもなく進む。プロ試験も院生もヒカルやアキラの周りにも変化がない。

 もし名前が変わっていたとしても、
 もし姿形が変わっていたとしても、
 もし別人に乗り移っていたとしても……

 彼女がこの世界にいるなら、彼女の碁は隠し切れない。

 まっすぐで負けず嫌いな彼女が、誰よりも自らの碁に誇りを持ってることを僕は知ってる。
 だからこそ彼女が自らの碁を隠すことは考えにくい。

 彼女の碁による物語への影響がすぐに分かるように、できる限り物語への過度な干渉を避けるよう気を使ってきたが、これ以上は難しくなってきた。

 そして桑原本因坊の神懸かり的な第六感を信じるなら。この世界には彼女はいない可能性が高い。

 諦めなければ……また何処かで会える。
 
 その為に何か自らアクションを起こす必要がある。

 一つだけ分かった重要なことがある。

 和-Ai-の入ったノートパソコンは、他人にはA4サイズの普通のキャンパスノートに見えるらしい。

 最初は大学にノートパソコンを持って行って周囲が気づくか試した。
 次にアキラくんがいないときに囲碁サロンでノートパソコンを使ってみた。
 ついには先日思い切ってアキラくんにノートパソコンを見せた。

 けれど誰一人として和-Ai-には気づかない。画面に映る和-Ai-は見えていない。音声も聞こえていない。

「ヒカルにしか見えない佐為と同じか……」

 進藤ヒカルなら見える?
 藤原佐為になら見える?
 残るは桑原本因坊ぐらい?

「どちらにしろ最後の手段だよな」

 今も指導対局モードで九子置いてもらって和-Ai-と対局をしている。
 思いっきり音声が鳴ってるはずなんだけど静かな店内で誰も気に留めない。
 僕は半月以上に渡り和-Ai-との指導対局を繰り返しているが殆ど上達しない。
 たぶん基礎的な棋力が足りてないし才能とか情熱とか速さとか色々と足りない。

 どうにか碁打ちの気持ちが少しでも分かるように強くなりたくて遙か高みへと必死に手を伸ばすように局面を進める。
 そして対局を終えようとしたとき、背後から女の子に声をかけられた。

「囲碁のゲームですか?」

 突然のことに驚いて振り向きながら言葉を返す。

「これが……見えるの?」 
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