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初詣

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第八章

「飯干のこと好きなんだ」
「そうだったの?」
「明るいし可愛いし」
 その彼女を見ながらの言葉だ。
「だからさ」
「それでだったの」
「本当にいいかな、俺で」
 次第にだ。健一の方から照れ臭そうに言ってきていた。
「交際しても」
「悪い筈ないじゃない」
 まだ夢を見ている感じでだ。未祐は返す。
「そんな」
「じゃあこれから宜しくね」
「うん。じゃあ」
 未祐は健一のその照れ臭そうな言葉に真っ赤になって頷いた。そして。
 不意にだった。後ろからだ。
 背中を誰かがとん、と押してきた。それを受けて一歩前に出た。
 一歩前に出るとそれからだった。足は自然に動いた。
 健一のところに来た。それで彼は未祐の手を取った。すると。
「熱いよ」
「熱いって?」
「うん。何かさ」
 その真っ赤になっている手を取っての言葉だ。
「かなり熱いよ」
「そうなの」
「ちょっと。熱過ぎるから」
 それでだというのだった。健一からまた言った。
「だからね」
「だからって」
「何処か行こう」
 こう言ったのである。未祐に。
「神社から。何処か涼しい場所にね」
「そうね。じゃあ何処か涼しい場所に」
「行こう、二人で」
「うん。二人でね」
 未祐が微笑んで頷くとだ。その後ろからだ。
 背中を押した彼女がだ。笑顔でこう言ってきた。
「あっ、それじゃあね」
「春香?」
「そう。ちょっと望から携帯で連絡があってね」
 春香は自分のことを思い出した彼女に自分から出したメールをこう言い繕った。
「ここでね。悪いけれどね」
「お別れ?」
「今日はね」
 そうなるというのだ。
「それじゃあまたね」
「そうなの。何か急ね」
「何でも急に起こるから」
 こうも言った春香だった。
「そういうものだからね」
「だからいいの」
「そう。じゃあまた今度ね」
「またね」
 春香はすぐに未祐達を二人にした。そうして自分もまた二人になりに彼の場所に向かった。
 残された二人は。笑顔で無言で頷き合いそれからだった。
 神社を後にしてファーストデートをはじめた。初詣が思わぬはじまりになってしまった。何もかもが急に起こって急にはじまるが故に。


初詣   完


                     2012・6・24 
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