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真田十勇士

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巻ノ百一 錫杖の冴えその五

「そうなる」
「そうされますか」
「うむ、ただな」
「ただとは」
「母上がおられるから今はここにおってな」
 それ故にというのだ、今の後藤は。
「他の家からも仕官の願いが来ておる」
「その様ですな」
 幸村は後藤のその言葉を聞いて彼に言った。
「後藤殿は天下の豪傑ですし」
「何かと申し出がある」
「それでは」
「うむ、おそらく幕府からも来るであろう」
 このことは後藤自身の読みだ、諸藩が声をかけているが幕府つまり家康もそれは同じということを。
「その時たまたま何処にも仕官しておらぬとな」
「その時はですか」
「母上と供の者達のこともある」
 だからだというのだ。
「わしは士官する」
「そうされますか」
「わしは一人ではない」
 それ故にというのだ。
「仕官を選ぶ」
「では」
「その時は真田殿と敵同士になるやも知れぬ」
 このことは確かに言うのだった。
「しかしな」
「はい、その時はですな」
「宜しく頼む」
 後藤は幸村を見て笑みを浮かべて言った。
「敵味方に別れ様ともな」
「お互い武士としてですな」
「戦いたい、しかし出来るならな」
 仕官はするがというのだ。
「真田殿とは戦いたくはない」
「そう言って頂けますか」
「共に轡を並べたい」
 これが幸村の心からの願いだった。
「是非な」
「それがしはおそらくはです」
 幸村はここでこう後藤に話した。
「幕府には仕えられませぬ」
「真田殿はそうであるな」
「それがし幕府とはどうも縁が浅からぬものがありまして」
 そのせいでというのだ。
「どうしてもです」
「幕府からも声はかからぬしか」
「はい、それがしから幕府に申し出ることもです」
 それもというのだ。
「ありませぬ」
「そうか、やはりな」
「それだけは」
「そうであろうな、真田殿は」
「どうしても」
「それが真田殿の事情であるな」
 後藤もこのことはわかった、幸村そして彼に絶対の忠義を誓って仕える十勇士達のことはだ。
「幕府には仕えられぬ」
「父上も含めて」
「他の藩ならと思うが」
「しかしそれもです」
「声がかからぬか」
「はい、どうにも」
「幕府に遠慮してであろうか」
「そうでしょうな」
 真田家自体が幕府にとって鬼門と言える相手だ、それで流石に諸藩もというのだ。
「それは」
「やはりそうか、だからか」
「今は浪人のままです」
 九度山においてその立場だというのだ。
「今も」
「そうか、しかしな」
「時が来れば」
「また飛び立つ時もあろう」
「それまでですか」
「誰しも潜む時がある」
 後藤は幸村に確かな声で話した。
「だからな」
「今は潜みですか」
「時を待つべきじゃ」
「そして時を待つ間にですな」
「鍛錬と学問を忘れることのない様にな」
 是非というのだ。 
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