色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第28話 「友達」
午後四時近く。
授業が終わり、部活動へと向かう学生達の横を走り抜け、天馬はサッカー棟前の階段へと向かう。
あれから、どうすれば皆に分かってもらえるのか考えてみたけれど、結局何も浮かばなかった。
「もし、アステリの話を信じてもらえなかったら」……そんな一抹の不安を振り払うように天馬は首を振り、前を見据える。
――考えたってどうにもならない
――例え、皆がアステリの話を信じてくれなくても……
「なんとか、しなくちゃ」
そう一人呟くと、天馬は走るスピードを上げた。
待ち合わせの場所に到着すると、フェイ、アステリ……そして朝はいなかったワンダバが天馬の到着を待っていた。
「天馬!」
天馬の姿を見つけたフェイはその名前を呼ぶと、大きく右腕を振ってみせる。
「遅れてごめん」と謝る天馬に「平気だよ」と微笑み返した彼の顔が、なぜだかとても疲れているように見えて、天馬は首を傾げた。
ふと視線を横にずらすと、アステリまでもが怪訝そうな表情で何かを考えているようだった。
「二人共どうしたの? まさか、何かあった?」
心配そうに尋ねた天馬に、二人は互いに顔を見合わせると口を開いた。
クロトの部下であるスキアと言う男に襲われた事。
5対5のサッカーバトルを行う事になった事等……
先程、自分達が体験した出来事を出来る限り簡略的に、それでいて分かりやすいように天馬に説明してみせた。
「……と言う事があってさ」
「なんとか試合には勝てたけど……フェイには、デュプリの操作で大分無理させちゃったね……」
いつもの様に謝ろうとしたアステリの言葉を遮って、フェイは「気にしないで」と笑いかけて見せるが、顔に出た疲労の色は隠せず、話を聞いただけの天馬から見ても無理をしている事は一目瞭然だった。
「フェイ、無理はするな。いくら敵に勝つ為だからと言って、お前が倒れては意味がないんだぞ」
「ワンダバ……」
大切なモノを守る為なら自分の身など顧みない正義感の強さも、その優しさ故、周りに気を使い一人で抱え込んでしまう性格の事も
この中の誰よりも長くフェイと共に同じ時を過ごしてきたワンダバには、よく分かっていた。
自分の事を心配そうに見つめるその瞳に、フェイは口の先まで出かかった言葉を飲みこむと、口を噤んだ。
普段のおちゃらけた表情とは違う。見た事の無い悲しそうなその顔をフェイは少しの間見詰めると、ゆっくり口を開き、微笑む。
「分かった……もう無理ー! ってなったら、ちゃんと言うから」
「本当だな?」
「うん、約束する」
そこまで言って、やっとワンダバの表情も明るくなり、いつものように歯を見せフェイに笑いかけている。
そんな二人の様子を見て微笑むと、天馬は隣のアステリへと視線を移し、その右腕を掴んで軽く引っ張ってみせた。
突然の事に今まで俯かせていた顔を上げると、アステリは丸くなった目で天馬の顔を見る。
「えっ、天馬……?」
「アステリも、いつまで暗い顔してるの?」
「!」
「サッカー部の皆に協力してもらうんでしょ? それなのに、肝心のアステリがいつまでも元気無いままでどうするんだよ」
「天馬……」
天馬の言葉にアステリはしばらく顔を俯かせていたと思えば何かを決意したのか、真っすぐとした瞳で目の前を見詰め、言葉を発した。
「そう、だよね……ごめん天馬。また、面倒かけちゃって……」
「いいんだよ! 俺達は友達なんだから、このくらい」
「え」
天馬の発した言葉にアステリは先程より目を大きく見開くと、とても驚いた様子で目の前の少年を凝視する。
「……ん? どうしたの?」
「いや…………友達……に、なって良いの……? ボク……」
たどたどしくそう言葉を返すアステリに天馬も同様に目を丸くすると、すぐさま笑顔を浮かべ「何を今更」と掴んでいた彼の右腕を両手で優しく握り直した。
「当たり前じゃん! 俺も、フェイもワンダバも、もうアステリの友達だよ!」
「……とも……だち……」
「だから、ボク達に迷惑かけてるとか……そんなの気にしなくて良いんだよ」
そう、不安そうな様子のアステリを元気づけるように、天馬とフェイは笑いかける。
アステリはそんな二人の表情を交互に見詰めると、一呼吸置き「ありがとう」と笑い返した。
「よーし! 全員の気持ちもまとまった所で、そろそろサッカー部の部室に行こうじゃないか!」
「うん!」
ワンダバの声に三人は頷くと、サッカー部のメンバーが待つ部室へと走り出した。
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