新訳紅桜篇
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6 恋は人を、盲目にする。
_「失礼します。」
と言いながら、また子の部屋に入ると、また子はデスクの前に座っていた。
とりあえず、借りていたタブレットを返す。
_「あの…これ、お返しします。ありがとうございました。」
また子は事務的な笑顔を浮かべ、「は~い。」と返事をしたものの、
その、どこを見ているのか分からない虚ろな瞳は、暗く沈んでいた。
いつも、あんなにパワフルなまた子が、こんなにしおれている姿を見るのは、
初めてだ。
…気になる。
_「…どうされたんですか、また子先輩ィ?
もしかして、恋の悩みですかィ?」
冗談半分で、聞いてみる。
すると、また子の顔が、ポッと 赤くなった。
どうやら、図星だったようだ…。
お相手は…たぶん、高杉だろう。
しばらくたって、また子が重い口を開いた。
_「わたし最近、晋助様のことを無性に、考えてしまうッス。
でも、私には、晋助様に「好きだ」と伝える勇気がないッス。
会うたびに、言おうとするんスけど、いざ言おうとするとき、口が思うように、
動かないッス。」
……あのまた子がねぇ…紅い弾丸と謳われる、また子がねぇ…。
まさか、本当に好きだったとは…ねぇ…
この場合、励ましの言葉でも行っておくべきなのか?
私はとりあえず、それに従うことにした。
_「…ま、先輩ィ…頑張ってくださいよぉ。先輩ならきっと、できますって。
弾丸並みに、率直に。
きっと、高…総督に…伝わりますって。」
また子の目が希望の光を帯びて、こちらを見上げる。
…先輩が、なんか…かわいい!!
_「そう?アンナも、そう思う?」
_「はい。そう思いますよ。」
_「ありがとう……気持ちが楽になったッス。
今度、勇気を出して、頑張ってみるっス。」
_「いいえ…応援しまさァ。
もうこの辺で、部屋に戻ろう。
では、私はこの辺で、失礼します。」
そう言って、私はまた子の部屋をあとにした。
部屋に向かいながら、考える。
_やはり、また子は高杉と、お似合いだと思う。
きっと、いい恋人…もしくは、お嫁さんになれるだろう。
また子にとっても、いいことではないか…。
そう思いながら部屋の前に来ると、なぜか、高杉がいた。
_「お前、何をしている?」
高杉は、煙管をふかしながら、こちらを見て言った。
_「お前、今日はオレと一緒に寝ないか?」
…なんだ、突然。おもりか?
_「…なぜ?…寂しいのか?1人で眠れぬのか?」
私はそう言って、高杉の反応を見る。
_「いや、お前と相談したいことがある。
ほかのものに聞かれると、厄介なのでな。」
…なんだ、相談か。なんか胡散臭いが、付き合ってやろうか…。
だがとにかく、証拠は隠滅しておかないと…。
バレたら、困る。
_「…なるほど。分かった。では、準備をしてくるから、しばし待たれよ。」
_「ああ。待ってやらァ。」
そして私は、とりあえず、魔法の部屋へ行き、周りに人がいないかを確認した後、
呪文で、鍵を開けた。
急いで出来上がっているポリジュースに栓をして、薬箱のポーチに入れた。
そして、魔法でラベルを書いて、張らせた。
それをしている間に、暖炉の火を消して、戸締りをしてきた。
そして、来た時と同じように、またロックをかけた。
そして、羽織をはおりなおし、タンスからペンダントを取り出して、首にかけた。
寝ている間に獣が動かないように、封じるための魔法がかかっている。
準備を済ませると、部屋を出て、高杉とともに、高杉の部屋に行った。
部屋に入ると、そこにはもう、寝床の用意がしてあった。
_準備がいいな、おい。
苦笑いしながら、高杉を見る。
だがあいつは、奥のタンスの方へ歩いて行った。
そして、何かの書類を出してきた。
_なに、あれ?
高杉は、その書類を持ってきて私に見せると、口を開いた。
_「いいか、これは、今度の『江戸を火の海にする計画』の、計画書だ。
お前には、これから重要な役割を演じてもらう。
まさか、紅桜をもって、戦う…とかじゃないよね?
_ この計画の、最も重要な部分……つまり、紅桜を真選組にバレないように工作する部分だ。
お前は元…いや、現役の殺し屋だ。スパイ活動だって、今までずっとしてきただろう?
その工作力を、オレたちのために使ってほしい。
どうだ?やれそうか?」
返事に迷う…。いやこれは、素直に聞いておくべきか…。
_「…ああ、分かった。では私は、どうすればいいのだ?似蔵と、タッグを組めばいいのか?」
_「ああ、そうだァ。分かっているじゃねェか…。頼んだぜェ…」
これで終わりだよな?
_「では、失礼する。」
そう言って、高杉の部屋から私は、逃げるように去った。
そうするしかなかったのだ。
少しくらいは、大人になれ。
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