魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica3-Bマリアージュ事件~Unidentified~
†††Sideルシリオン†††
アンバーから本局へと戻って来た俺たち特務零課・特殊機動戦闘騎隊は、俺とシャルの2人だけで回収した暗殺者の遺体を第零技術部へと運んで来た。
「それじゃあ、すぐに調査をしてみるから、少しの間だけ待っててね」
「うん、お願いね、すずか」
第零技術部、通称スカラボの主である月村すずか。俺たちチーム海鳴の1人だ。彼女は、横たえられた遺体乗せられたストレッチャーを、「ウーノさん、ドゥーエさん、ストレッチャーをラボへとお願いします」と、シスターズの長女ウーノと次女ドゥーエに託した。
「ええ」
「判ったわ」
そう頷き返した2人はストレッチャーを奥の部屋へと運んで行った。そしてすずかも「ごゆっくり~」と俺たちに手を振って、奥の部屋と入って行った。シャルも「ありがとう~」と手を振り返し、俺は「ああ」と頷き返した。
「・・・さて。イチャイチャする❤」
俺の隣に座っていたシャルが身を寄せ、その豊満な胸を俺の左腕にくっ付けて来た。だから「馬鹿を言え。すずかの今のセリフはそういう意味じゃないぞ」と、シャルの頭に軽く拳骨を降ろした。
「あたっ? もう。最後までやろうってことじゃないんだからさ~。もう少しは私に夢を見させてもいいんじゃない?」
頬を膨らませながら居住まいを直したシャル。そうやって夢を見せ、さらに想いを募らせてしまうのは逆に可哀想だ。だったら突き放し続ける方がシャルやはやて達の為になる。とは思うんだが・・・。シャルはソファから立ち、ここ応接室から去ろうとした。
「ん? どこへ行くんだ?」
「お花を摘みに~」
トイレの隠語を答えとして俺に返し、シャルは出て行った。彼女の居ない今が、ちょっとした機会かも知れないな。通信端末を起動し、ある娘へと通信を繋げる。わりとすぐに『はい、こちらティアナ・ランスター』と通信が繋がった。
「やあ、ティアナ。久しぶりだな」
ツインテールという髪形をやめ、ストレートにしたことで随分と大人っぽくなっているティアナ。俺からの個人回線を通しての通信ということでか、『え? ルシルさん!?』と目を丸くして驚いている。
『お久しぶりです、ルシルさん。何かありました・・・?』
『ああ。今、本局に居るんだけど、少し時間を貰えないだろうか。出来れば2人きりで話がしたい』
例の“スキュラ”暗殺の被疑者の1人の中に、ティアナの兄であるティーダ・ランスターが居る。魔力パターンを解析した結果、何かしらの施術を受けていると思われ、0,1~0,9%の差異はあるがまず本物と見て良いと判断が下された。
(その事を通信やメッセージで伝えるわけにはいかないだろう・・・)
ティアナからの返答を待とうとしたところで・・・
『ちょっと待ってください! ルシル様、浮気ですか!? 浮気なのですか!? 私、イリス、はやての3人から愛の告白を受けておきながら! 浮気は男の甲斐性~♪で済ますレベルではありません! 若さですか!? やはり若さですか!? 20代はもはやおばさんですか!?』
ティアナの前に躍り出て来たのは「トリシュ!?」だった。モニターに食いつくように顔を寄せ、微塵も思っていないような事を並べ立てまくってる。そもそも何故そこに居て、騎士甲冑姿なのかも判らないんだが・・・。
「いやそうじゃない。というか、すぐにそっち方面に勘繰るのはやめてくれ」
トリシュもまたシャル化してきたな~。最初の犠牲者はルミナだったが、今度はトリシュだ。そんなトリシュの言葉に呆れていると・・・
『あのルシルさん。申し訳ないですが、今ある事件を捜査中なのでしばらくミッドから離れられません』
ティアナが申し訳なさそうに目を伏せた。今のティアナは執務官で、世界をいろいろと巡っているわけだが。彼女も防護服を着用しているところを見ると、もしかしたらトリシュも事件の捜査に関わっているのかも知れないな。
「そうか・・・。通信やメールなどで済ませるような内容じゃないからな~・・・。判った。事件解決の折、また俺に連絡をしてくれないか?」
『判りました』
だったら事件解決後にもう一度話そうと判断。頷き返してくれたティアナの側に居るトリシュにも「トリシュ。またちゃんと話そう」と伝えておく。すると彼女は満面な笑みを浮かべて『はい❤』力強く頷き返した。
「ふぅ・・・」
通信を切ると、「で? 浮気なの?」とドアが開くと同時に「シャル・・・」からもそう訊かれたため、俺は「判り切った質問をするのは愚だと思うが?」と返す。
「だよね♪」
まぁすぐに機嫌を良くして、俺の座るソファに回り込んで来た彼女は「よいしょ❤」と、俺の膝の上に座ろうとした。尻が最後まで乗る前に「待て、待つんだ」と腰を両手で鷲掴んで止めさせる。
「ひゃん!」
「よっこらせと」
シャルをそのままにした上で俺は席をズレてから、今まで座っていたところにシャルを降ろす。彼女は「いいじゃない、膝の上に座るくらい」と頬を膨らませた。シャルの部隊に入ってからというもの、肉体的なスキンシップが激しくなった。何度注意しても止めようともしない。
「ダメだ」
「はやてへの義理の為?」
「俺なんかを好きになった君たちの未来の為だ」
「・・・なるほど。堅物というか、律義というか、くそ真面目というか・・・。ま、そんなあなただからこそ、私やイリス、はやて、トリシュも好きになっちゃったわけだけど❤」
一人称が僅かに変化し、自身を指しながらも“私”と“イリス”という風に分けたシャル。これはまた随分と「久しぶり」じゃないか。
「ええ、本当に。ここ数年はイリスも精神的に安定していたし。前世の私が表に出るのはダメだって思ってさ」
彼女はシャルロッテ・フライハイト。イリスの前世であり、かつては俺の敵であり、同僚であり、親友だった女性だ。シャルの言うように、5年ほど彼女がイリスの表層意識として上がって来ることはなく、ひょっとしてもう二度と逢えないんじゃないかと思っていたわけだが・・・。
「じゃあ今日は一体何をしに?」
「それよ、それ。ルシル! とりあえず私の頭を撫でなさい!」
「ああ!・・・はあ?」
シャルが「ん!」と頭頂部を俺に向けてきたから、「よしよし」と彼女の頭を撫でてやる。手を放そうとすると、「私が、もういい、と言うまで続けて~♪」と猫なで声でリクエスト。久しぶりの再会だということで、俺はリクエストに答えて彼女が満足するまで頭を撫でることにした。
「はぁ。やっぱり好きな人に撫でてもらうのは気持ちが良い~♪」
「そうか」
「ねえ、ルシル。ルシルがこれまでと同じように対人契約で残ることが出来ない。それは解ってるよ。でもさ。何か遺してあげられないの? あなたとの思い出だけじゃなくて、もっと形のあるものをさ」
「そんなことを言われてもな・・・。その日が訪れるまで稼いだ財産くらいしか遺せないぞ?」
少なくともあと数年は生き残りそうだから、それまでに稼いだ金は相当な額になるだろう。遺産と言うわけだ。だがシャルは納得がいかないのか「違~う。そうじゃないっしょ~」と頭をグリグリする。
「じゃあ一体、何を遺せると?」
「どうせなら子供を遺せばいいじゃない。愛する人との子供なら、きっと――」
また突拍子もない提案をしてきたシャルの言葉を遮るように「喜ぶわけないだろうが」と言い放つ。
「俺との間に子を成す? 俺との失恋でいつかはまた、彼女たちも新しい好きな男が出来るだろう。そこに俺との子供が居たら邪魔になってしまうだろうが。それに片親というのも子供が可哀想だ」
彼女たちと子供を成すのは俺だって別に嫌じゃない。俺だって普通の人間だったら、恋をして、結婚をして、家庭を持って、年を取って、そして家族に看取られて逝く、そんな当たり前な生き方を歩みたかった。だが俺は人間じゃない。そして同じ時間を過ごすことが限りなく短い宿命を背負っている。そんな俺との間に子供を成す彼女たちが可哀想だ。
「それでもルシルと結ばれたいと思うよ?」
「たとえそうでも・・・。さっき言ったように失恋から新しい恋が芽生えることだってある」
「じゃあさ。はやてやイリス、トリシュが、自分の知らないところで、自分以外の男と恋に落ちて・・・っていうか、ソイツのものになって悔しくないの?」
頭を上げたシャルが両手で俺の顔を挟み込んで、アザレアピンクに輝く瞳でジッと俺を見詰めてきた。そんな彼女の両手の上から俺も手を添えて、「彼女たちの幸せを願うだけだ」と見つめ返す。先の次元世界のフェイトのように対人契約で残ることも出来ないのなら、俺に出来るのは彼女たちの未来が健やかであるように願い、祈ることだけだ。
「ああもう! 男なら、女の子からの誘いを断らずに、そのままの勢いで食っちゃえよ!」
「食・・・っ!? なんつう言い方だ! お前も女性ならばもう少し恥じらいを持つべきだと思うが!?」
「もういいや! 既成事実を作っちゃえば、あなたからも遠慮とかいろいろの抑圧が消えるでしょ!」
「!!? ちょっ、おま――」
俺をソファに押し倒すとシャルは、「よっこらせ」と腹の上にドスンと座り込んでのマウントポジションを取り、あろうことか制服のジャケットを脱いだ。さらには「待て待て待て!」俺のジャケットのボタンまで外しに掛かる始末。
「やめろと言って・・・って、おい、魔力で身体強化!? そこまでするかお前は!!」
突き飛ばそうにも今のシャルは身体能力が魔力で強化され、並の膂力ではビクともしない。しかも彼女は自身のブラウスのボタンを外し始めた。開けた胸元からピンク色の下着が見えてしまっている。
(おいおい、さすがにまずいだろう、これ・・・!)
これ以上は好きにさせられない。ならばこちらも本気を出す、と考えたところでプシュッとドアが開く音がした。音がしたのは転送室へと続く側のドアからだ。そっちを仰ぎ見れば、顔を真っ赤にしたすずかと、呆れ顔のウーノとドゥーエの3人だった。
「あの、その、お、お邪魔しましたぁぁぁーーーー!」
すずかが慌てて奥の転送室へと引き返した。そしてウーノは「ここはラブホテルではないわよ?」と嘆息し、ドゥーエは「今すぐお引き取りを♪」と笑顔を浮かべているが、まぁ目が笑っていない。
「違う! これは・・・! シャル、退いてくれ!」
「・・・いいところだったのに。・・・ルシル。これだけは忘れないで。あの子たちは何があってもあなたを好きで居続ける。素直になっていいんだよ。あなたも1人の人間なんだから~♪」
シャルが俺の両手を取って、その豊満な胸を掴ませてきた。ドッと嫌な汗が溢れ出た。普通に柔らかく温かい。慌てて引き剥がそうにも強化がまだ効いているらしく、ビクともしない。
「私だって、いつまでもこうやって表に出て来るわけじゃないからさ。・・・あなたの最後の幸せ、私も見てみたいのよ」
シャルがボソボソと何か呟いたようだが、「一体なにをやっているのです!?」ウーノの怒声に掻き消されてしまって聞こえなかった。
「なあ、シャル! 今すぐ俺の手を放してくれ、なっ?」
「・・・・。え? ルシル・・・? あれ、わたし・・・?」
一人称がシャルからイリスのものへと戻った。ほんの僅か呆けた後、俺が自身の胸を鷲掴んでいるという状況に気付いたシャルは、「~~~~~っ!!??」一瞬にして顔が真っ赤になり、目が潤み始めてすぐに涙がポロポロ流れ出た。
「きゃあああああああああーーーーーーッ!!!!」
「待っ・・・――ぶっ!?」
俺の手首を離し、即座にマウントポジションのままで連続パンチ。しかも魔力で強化されているためすごく痛い。そこで一旦、俺の意識は途切れた。
「・・・ん・・・んぁ・・・?」
次に目を覚ました時、「ゴメンね、ルシル」と謝るシャルの声が耳に届いた。目を開けると彼女の顔がすぐ目の前にあった。どうやら俺は今、シャルの膝枕に頭を置いているようだ。
「なんか生き苦しい・・・?」
「あ、ごめん。鼻血出てたから鼻栓してるの」
鼻の方に手を伸ばすと、丸められているティッシュが鼻の穴2つに突っ込まれていた。鼻血の対処法としては、実はティッシュ詰め込みは間違っているんだがな~。上半身を起こすと、テーブルを挟んだ向こう側のソファには「すずか、ウーノ、ドゥーエ」の3人が腰かけているのが判った。
「すずか、ウーノ、ドゥーエ、先ほどの事は・・・」
「あ、大丈夫。シャルちゃん越しに騎士シャルロッテから事情を聞いたし」
「ええ。話には聞いていましたが、騎士シャルロッテがあそこまで大胆な女性だとは・・・」
「あなたも隅に置けないわね。イリスだけでなく、前世の騎士シャルロッテからも想いを寄せられるなんて」
ドゥーエが楽しそうに流し目で俺を見つつほくそ笑んだ。でもそうか。ちゃんと釈明はしてくれたんだな、アイツは。まぁそれくらいはやってもらわないと割に合わない。
「一応、私の治癒魔法で治したから、傷は残らないよ」
「ありがとう、すずか。世話になった」
「どういたしまして♪ それじゃあルシル君も目を覚ましたことだし、シャルちゃん達が搬送して来た彼について、お話ししようか」
ようやくここスカラボへ来た目的に辿り着けた。シャルと2人して居住まいを直して話を聞く姿勢をとる。ウーノが「まず、彼の機体構造を調べてみたのだけど・・・」とテーブルの上にモニターを4枚と展開。表示されたのは件の暗殺者のレントゲンのようなものや、拾い集めた部品などだ。
「結論から言うと、彼は、プライソン製の機体じゃないよ」
すずかから暗殺者の機体性能がどれだけのものだったかを、モニターを交えて教えてくれた。簡潔に言えば、プライソン製作のサイボーグである“スキュラ”姉妹、そのスペアであるガイノイド、さらにシスターズのスペックを数値化した上で、暗殺者のスペックには遠く及ばないことが判ったとのことだ。
「アルファからのイプシロンと、スペア各機の技術進化を確認してみて、暗殺者の方にはプライソンの技術が何1つとして使われていなかったのよ」
「さらに言えば、暗殺者の機体に使われていた技術は、そのどれもがプライソンの技術以上。これらの状況を見て、暗殺者を開発した科学・技術者は、まず間違いなくプライソンより天才であると思うわ」
ウーノの言葉にシャルが「マジ・・・?」と呟いた。ドクターやプライソン以上の技術力を持つ者など想像も出来ない。ただ、なんとなくだが今回の事件の裏にフィヨルツェンが居るような気がした。なんのメリットがあるかは判らないが、“エグリゴリ”は必ず巨悪の側に居る。となれば今回もきっと・・・。
「そういうわけで今後も警戒を続けた方がいいと思う。平均出力でS+ランクの魔力なんて。最大発揮時は、今のルシル君やシャルちゃんのようなSSクラスと同等になるかもしれないから」
「ん。ありがとう、すずか。肝に銘じておくよ」
「今日はありがとう、すずか、ウーノ、ドゥーエ」
暗殺者についての情報はまた後日、纏めて提出してくれるとのことで、俺とシャルはすずか達に感謝を述べてスカラボを後にした。そしてその足で特騎隊のオフィスへと向かう。
「う~ん・・・。今回の暗殺者は雑魚だったけど、これから現れるかも知れない連中はそれ以上の実力者ってわけね」
「だろうな。3年前、戦役時に護衛艦アンドレアルフスをバラバラにしたあの風系魔法の使い手。今日相手にしたあの男とはまた別人であることは判る」
今でもあの映像は忘れない。ああいった真似は俺やシャル、特騎隊のメンバーなら出来ることだから、大して驚くような事じゃない。だが正体不明の魔導師か騎士かが行ったことが問題だ。どこの誰かが判っていれば対策も打てるが、判らない内は何事も後手に回ざるを得ない。
「うん。同じ槍持ちだったけど、直接見てアイツとは違うって判ってたし。ま、遭遇したらどれだけ強かろうが全メンバーとっ捕まえるけど、ね♪」
シャルが右拳を突き出してきたから、「ああ」と俺は左拳を突き出してコツンと打ち合わせた。改めてオフィスへ向かおうとした時、コール音が俺たちの間に鳴り始めた。
「あや? 通信だ。しかも母様から。ルシル、先に行ってていいよ」
「別に急ぎじゃないし。終わるまで待っているよ」
「あはっ♪ そんな優しいルシルが大好き~❤」
抱きついて来ようとするシャルの両手から逃れつつ、「早く出ろ、切れるぞ」と注意すると、「おお、そうだった」ようやく通信に出た。
『あ、イリス~♪ ママよ~♪』
いつまでも若く見えるシャルの母・マリアンネさんが展開されたモニターに映る。彼女は俺にも気づき、『あら~、ルシル君♪ 次はいつ泊まりに来るの~♪』と手を振ってくれた。シャルの家へは、特騎隊設立祝いのパーティを開いた際に1泊させてもらった。その帰りにも、また泊まりに来てね、と誘われてはいたんだが。もうそんな暇が出来ることもなく、随分と時間が経ってしまった。
「もう、母様。ちゃんと後日、ルシルを招待するから。今は本題にゴーゴー!」
『もう。でもまぁ今は本題の方が重要なのよね。トリシュタンとアンジェリエから、古代ベルカはガレアの王、冥王イクスヴェリアの私兵であるマリアージュが確認された、と連絡を受けたの』
「マリアージュ!?」
「イクスヴェリア・・・!」
イクスヴェリア。本当に懐かしい響きを耳にしたな。彼女と共に過ごした時間はあまりにも短いが、個人的な付き合いも僅かながらにあった戦友だ。
――私の本当の名はイクスヴェリア。フィロメーラは偽名なのです。ごめんなさい。あなたを騙していました――
――永遠の別れとなる前に、あなたにお礼とお別れを告げておきたかったのです。改めて、ありがとうございました。そしてさようなら。どうかあなたの戦いが、あなたの望む形で終わるよう祈っています――
――イクスヴェリア陛下。おやすみなさい。またお逢いしましょう――
――はい。おやすみなさい。いずれまたお逢いしましょう――
イクスヴェリアと過ごした最後の時間が思い起こされる。彼女の頭を撫で、そして彼女の両手で包まれた右手を見る。再会の約束か。当時は、まさかこんな時代まで生き続けるとは思えなかったため、かの約束を果たせる事は二度とないと思っていたが・・・。
(果たすべきなのだろうが、俺の正体を知る人物をこれ以上増やすのも勘弁だな)
アイリは俺を一番に考えてくれているから、あの子から漏れる心配はない。アインスの口封じも完璧だ。俺が存命中の内は、俺の真実は口に出来ない、という条件付けをしているからな。だが、知っているという事実が危ういんだ。
(フォルセティと共に、オーディン・・・と言うよりはセインテスト家の子孫として接するしかないか)
『今のところは私の独断だけれど、イクスヴェリア陛下を教会に招きたいのよ。手が空いていればだけれど、あなた達もミッドに降りて捜索を手伝ってもらいたいの。アンジェリエの話だと、ティアナ・ランスター執務官という局員が、この事件の担当者らしいから』
「おお、ティアナ! 知り合い、友人、戦友だよ、母様! ね? ルシル!」
シャルに「ああ」と頷き返しながら、先ほどの通信でティアナは、事件の捜査中、と言っていたのを思い返す。やっぱりトリシュとアンジェも捜査協力していたんだな。
『それで、どうかしら? 私には騎士団を動かす権限が無いから、娘やその友人にしか頼めないのよ』
「ん、判ったよ、母様。わたしとルシルでミッドに降りて捜査協力をするから。アンジェ伝手でティアナに、わたし達も手伝うよ~、って伝えて」
勝手に今後の予定を決められて、「ちょっ・・・!」と止めようとするが「まったく」と諦めた。確かに今日はもう予定は無いからな。我が隊の部隊長の我が儘を聞こうじゃないか。とりあえず「ルミナ達に連絡して、解散するよう伝えておこう」と思う。
『ありがとう、イリス! ルシル君も❤ お礼はたっぷりしてあげるから♪』
ウィンクするマリアンネさんに、シャルが「母様! いい歳したオバサンがルシルを誘惑しないで!」と怒った。さすがにそれは言い過ぎだぞ、シャル。実年齢ではそうだろうが、見た目ではまだ30代前半だと言われても信じられる。
『おばっ・・・! 確かにそうだけれども・・・』
母子のそんなやり取りを微笑ましく眺めつつ、「ああ、ルミナか。実はな――」と事後会議を中止しての解散と、イクスヴェリアの保護を俺とシャルで行う旨を伝えた。
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