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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第100話 救出


 場面はランス達に移行する。


 ランス達はかなみの案内の元、地下からリーザス城内部へと向かっていた。

「おいかなみ。さっさと案内しろ」
「判ってるわよっ!」

 一応 最短コースを進んでいるんだが、勿論ランスのちゃちゃは入る。
 かなみは もうランスと結構長い付き合いだと言っていい。それと同時にユーリともとても長く感じる。(前者(ランス)は かなみにとって ほんっとどうでも良いが後者(ユーリ)に関しては嬉しく感じる、と言うのは当然の事である)

 ランスをあしらう様にする術もそろそろ学んできていたのだが、今は出来なかった。
 かなみの頭の中はリアの事でいっぱいだからだ。だから……平常心ではいられないから。

『リアの事は きっと大丈夫』

 その皆の言葉を、ユーリの言葉を信じてただただ進み続けていた。

「かなみさん。この道、ヘルマンの人達は知っているんでしょうか……?」
「一応、隠されてる道だから……。大丈夫だって思う。……多分、だけど」

 リーザスの中でも 中枢の人物しかしらない秘密の抜け道ではあるが 絶対の自信はない。ヘルマン側が虱潰しに探したともなれば……100%とは言えないんだ。だから かなみは言葉を濁す。すると それに反応するのが当然ランスだ。

「全く何をアホな事を言ってるんだ。シィル! それにへっぽこ忍者」
「ひんひん……」
「うっさいわね!!」

 シィルを拳骨して、かなみには へっぽこ呼ばわりだ。

 だが、今回はランスの意見は 数少ないまともなものだった。

「アレだけ騒いだんだ。つまりは上に大量に集まっている筈だろうが。多少ヘルマンの雑魚が集まった所で、オレ様がずばーっと斬って終わりだ。つまりどっちでもいい。上よりはマシ。それだけ考えてれば良いだろ。だからちゃっちゃと城に行くぞ」

 湿った足場を踏みしめつつ、道を進んでいる間に何度も聞こえる。コンタートルやデカントであろう咆哮。それらの大型モンスターが暴れている影響であろう地響きが続いていたのだ。

























 そして 地上では。

「鋼飛車、横歩取り!!」

 バレスの暗器の1つである懐に忍び込ませていた鋼の駒を矢の様に飛ばし、ヘルマン兵の眉間に叩きこんだ。

「ぐぁぁっ!!」

 頭から血飛沫が噴き出した後。

「やぁっ!!」
「フッ!!」

 ハウレーン、そしてメナドの剣撃が飛ぶ。
 ヘルマン兵は、瞬く間に崩れ落ち動かなくなった。

「ふむ。ここら一帯の制圧は完了じゃ。……それにしても トーマがこちら側につくとは……。長生きはしてみるものじゃな」

 バレスは先ほどの事を思い出す。
 トーマとユーリの2人が合流を果たしていた事を。

 普通であればトーマは 敬意を払う相手、好敵手であるとは言えど ヘルマン側。つまりは敵兵だ。それもトーマはヘルマン軍の象徴とも言って良い存在であり、国に忠を尽くす彼が敵側に寝返る様な真似は天変地異が起きても有り得ないとバレスは思っていたが……、現状は予想だにしない方向へといっていた。
 確かに トーマははっきりと『寝返る』や『こちら(リーザス)側に着く』と言ったりはしなかった。あくまでパットン皇子を魔人の手から守る為に剣を取ると言う理由だった。元々魔人を連れてきたのはパットンだから、矛盾している発言だと言えるが、内情はそう単純じゃないのだろう。
 何よりも、トーマが魔人を使うとはどうしても思えなかったから。


 そして、結果を見れば ユーリと共にリーザス城へと向かっていった。

 強大な戦力を歓迎、とも言えるかもしれない。魔人と言う巨凶がいる以上尚更だ。……リーザス側とすれば、ただで通す訳にはいかない、と言うのが筋かもしれないと言う想いはある。リーザスと言う祖国を踏みにじられ、守るべき者をも踏みにじられたのだから。

 だが、それでも私情は押し殺さなければならない。

 何度も言う様に 今は普通の戦争じゃない。人魔戦争とも言える戦いへと移行する可能性が高いのだから。



 
「……魔人」

 ハウレーンは リーザス城の方を見た。
 あの時 ハウレーンは確かに見た。そしてその身に感じたんだ。

 魔人と言う者の力をその身に。

 あの様な人外が複数いるリーザス城。何度も見ている筈の城がまるで魔物の城の様に感じてしまう。……見えてしまうのだ。

「ハウレーンさん。私達は私達が出来る事を全力でする事。……それがきっと勝利への近道だと私は信じてます」
「メルフェイス……」
「そーだおーっ! ハウ姉は難しく考えないで、ユーリを信じれば良いだけだおーっ!」
「っ……そう、ですね。はい」

 紫軍のトップの2人が諭す様に言った。
 中でも一番年下であるアスカは 心に正直にストレートに話していた。

 そう、こちら側が魔人の襲撃を防いだのも事実だ。それは偉大な剣士がいてくれたから……。軍が手も足も出なかった魔人サテラ。奪われた仲間を奪還した。そして複数の使途を引き連れた魔人アイゼルを退けた。

 『皆の力だ』と幾ら彼が謙虚で否定をしていても 全ては アイスの町の偉大な冒険者の所業だとハウレーンは強く想っていた。



『がーーっはっはっは!』



 と笑う男については当然のことながら意識の外へとシャットアウトするが。



「はぁ……(どうしてこうも極端なのか……。それに リア様も何故 あのような……)」

 未来のリーザスでは、必ず七不思議の1つに数えられる事だろう、と思いつつも進撃を開始していくのだった。
 
 





「デビルビーム!」
「ぐあああっ!!!」

 街中では まだまだヘルマン側の残党と戦っている。
 トーマが現れた為、兵達は大人しくなったのは事実だったが、それが全土に及んだか? と問われればまだなのだ。負ければ死以外の何物でもなく、落ち延びたとしても ヘルマン側には期待は出来ない。皇子の本国での扱いをよく知っているからだ。……戻ったとしても、どう扱われるか判らない。死罪になる可能性だってある。そう強く考えた後にとった行動が 特攻だった。
 或いはまだ魔人がいるから勝機は十分にある、と思ったのかもしれない。

 だが、魔人が手を貸す事は最早有り得ない事を この場の誰もが知る由もなかった。
 リーザス側には大義があるがヘルマン側にとっては 不毛だと言って良い戦いはまだ続いていく。

「志津香。どんな時でも背後は注意しろよ。こんな戦場だったら尚更だ」
「ええ。……ありがとね、フェリス」

 統率はされていないものの、魔物の数はまだ非常に多く、ヘルマン側の兵力もリーザスに集中している為か これまでよりも数を考えたら圧倒的に多い。そんな中で、志津香を初めとした魔法使いの部隊は 戦士の攻撃だけでも致命傷になるかもしれないから、より注意が必要だ。

 そこを見越してこそのフェリス。

 空から戦況を見据えて、時には魔法で 時には大鎌で敵を攻撃。全体のフォローをしているのだ。

「ひゅ~ さっすがだねぇ。フェリス。惚れ惚れするよ」
「口動かしてないで、身体と手を動かせ。ミリ」
「へいへい。これ終わったら アンタとは一緒に浴びるくらい飲みたいよ。……どうだい?」
「………すこしくらいなら。だから今は手動かせ。五体満足の方が良いだろ」

 悪魔と酒を飲み交わす。
 フェリスも以前までなら戸惑い、或いは魂の回収をするために、と打算的に利用するだけだっただろう。
 だが、もう彼女の中にはそんな感情は一切ない。……勿論 人間の魂の回収は仕事だから せっせと済ませているが、リーザス側は もう大切な仲間なんだから。

「『こうして、悪魔っ子は ユーリ・ローランドだけでなく リーザス側随一の性技の使い手であるミリ・ヨークスにも身体を赦し、更なる快楽地獄へと落されていくのだった』」
「誰がだコラぁぁぁぁ!!! この不良神官ンンン!!!!」
 
 そんな時に色々とちゃちゃを入れるのはランスの女版だったり、悪魔より悪魔と呼ばれたりする、最凶のシスター ロゼだ。

「あっはは。そっかそっか、違うわよね~? 地獄じゃなかったかしらぁ~? 天国ね天国。悪魔っ子が天国行っちゃマズイと思うけどぉ~♪」
「うっさい!!」
「うはっ! 飲んだ後にオレとユーリとフェリスで3Pってのも悪くない、どころか望む所だよ! いつでもオープンだぜ?」

 きゃっきゃと遊んでいる様子な3人。当然志津香はと言うと。

「アンタたち、物凄い余裕ねぇ!? 何時までも遊んでるんじゃないわよ!」 

 ミリとロゼを叱りつけて戦闘に参加させるのだった。

「わりぃわりぃ。志津香も入れなきゃな? 4Pかー。うんうん 男1人の4Pは正直初めてかもだぜ。誰がユーリをイかせられるかの勝負だな??」
「うっさいっっ!! ほんと いい加減にしないと……」
「おーーっと、それは止めてくれよ。オレ、魔抵値低いし 志津香の強いんだから! それに同士討ち~なんて ダサいぜ?」

 志津香の手には炎が宿る。明らかに火爆破の構えだったから 早々に白旗を振るミリ。

「志津香~? あたしの仕事増やすてくれるのなんてひどいじゃな~い。こう見えても クルック―と一緒に皆のサポートしてんのよん?」
「はい。ロゼさんと回復の雨を定期的に」
「それにダ・ゲイルだって活躍してるんだからさぁ。ま、あの男達に比べたら圧倒的に霞んじゃうけど」

 ロゼは、先の方を見た。
 そこでは 無数の魔物を蹴散らして無双している者が若干2名。
 そして、その後衛では1名が控えており、撃ち漏らしを完全になくしている。
 
 当然だが リックと清十郎、そしてレイラだ。

「あいつらは半端じゃないからな。とりわけ男2人はもう人間じゃないって」

 フェリスは最前線で暴れてる2人、いや 3人を見てそう呟く。
 志津香のおかげで、フェリスはとりあえず平常心に戻る事が出来た様だ。

 あの3人の中に ユーリがいれば 最早 魔人が今襲ってきたとしても蹴散らすのではないか? と思えてしまうのも仕方ない。フェリス自身は見ていないが ユーリ達は悉く魔人を退けているんだから。
 

 そんな現在、ここで戦ってるメンバーの中では人類最強と盤上一致な2人はと言うと。


「数は多い。……この量が暫く続くなら 時間が掛かる」
「はい。……特にデカントは 動きは遅くとも耐久度が高い。我々の剣でも絶命に至るまでに時間が掛かるかと」
「身体のデカさと言うのは そのまま生命力に直結するからな。……仕様がないとは言えるが」

 と、リックと清十郎が会話をしているのだが。

「あのねぇ…… そうは言っても 結構あっさり倒しちゃってるのに、それ以上欲張ろうって言うの? ……ほんっと、2人と一緒に戦ってたら 自信喪失につながるわ」

 レイラがため息を吐きながらそう言った。
 確かにデカントだけは蹴散らす事が出来ていないが、それでも 僅かなタイムロスに繋がる程度。タイムアタックでも狙ってるのか? と思える様な勢いで突き進んでるんだ、この2人は。

「誰しもが得手不得手がある。レイラにはレイラにしかない物がある。……そうだろ?」
「そうです。我々は一本の槍。必然的に撃ち漏らしが出てきます。それを見逃さず、全てを正確に仕留めてくれるレイラさんは尊敬できます」
「ああ。背を預けるのに十分信頼できる」
「はは……どーも。私もこれでも親衛隊長……。遅れをずっと取る訳にはいかないからね」

 そう言ってくれるのは嬉しい。それに リックにそう言われる事が何よりも嬉しかった。
 その淡い心を表情には出さない様にしていた。


「だが、早くにここを抜ける事が第一だ。……あの時は納得したがトーマとユーリと逸れている現状はあまり良いとは言えん。……この先に魔人がいるのであれば尚更だ。逃げてくる、と言ったが そう易々とさせてくれる相手でもあるまい」

 ユーリとトーマの実力を信じていない訳じゃないが、魔人の力は清十郎やリックもよく知っている。清十郎は直接的には戦っていないものの、使途と呼ばれるガーディアンとは死合った。強大な力を内包しており、3対2で五分と言って良い結果だ。使途よりも魔人が弱い訳はない。更には固有結界を保有していると言う話だ。全ての攻撃を遮る結界を。

「如何にお2人と言えど、複数の魔人を相手にするのは至難です。……早く合流して、そして 唯一対抗しうる事が出来るカオスを……!」

 そう、今優先するのはカオスの存在。
 リアの救出とカオスについてだった。魔人を倒す事が出来る力を手中に収める事だ。

「ああ。……そこはランス達に期待するのが一番だろう。オレ達は城を目指しつつ敵を減らす事に集中だ」
「ええ」
「そうね。……頼んだわよ。ランス君。……それに ユーリくんも」

 其々の戦場で戦っているであろう2人を思い浮かべながらそう言うレイラだった。


















 ここで場面は、ランス達に戻そう。

 ランス達一行は ただただ只管歩く、歩き続ける。カビ臭いと言っていい道をただ只管に。勿論ランスの文句も健在だ。

「ええい! 城はまだなのか? オレ様のブーツが台無しだぞ」
「もうちょっとで着くわ。……位置的にはもう王城の傍。真下辺りよ。後は出口に出るだけで」
「それは迷子になってなければ、だろうが」

 ランスの言葉にかちんっ! と来たかなみだったが 今はしなければならない事がよく判っている。何よりも優先しなければならない事に集中しなければならない為、何とか自律したかなみ。

「……言っておくけど、こんな時に道に迷ったりしてないから。迷う訳ないでしょ」
「当たり前だ。幾ら間抜けな忍者でも、ここはお前の地元だろうが。そんなトコで……」

 ランスが言っている最中だった。また、ずずんっ! と地下にまで響く騒音が響いたのは。

「ま、また上から…………」
「おい。なんでまだ上で戦ってる音がするのだ! さっきから進んでないんじゃないのか!」
「そんな訳ないでしょ! リック将軍や清十郎さんが攻め続けてるんだもん! 私達よりも早く進撃してたって不思議じゃないわ」
「む……それは有り得そうだ。あの戦闘狂どもなら。だが、それはオレ様の軍だ。つまりは流石はオレ様、と言う事だな、がははは!」
「マリアさんや志津香さん達もきっと頑張ってくださってる筈です。ランス様」
「当然だ。オレ様の女は軟ではないからな」
「(馬鹿? マリアさんは兎も角、志津香は明らかに絶対違うでしょ……)」

 
















 さて、次の場面はマリア達に変わった。

 モンスター達の暴走は街中に広がっているが、なだれ込んだ解放軍がリーザス民への被害を最小限に抑えていた。 そしてマリアのチューリップも大いに活躍をしていた。デカントでも全く押されず、踏み越え 時には砲弾で蹴散らし 今の今までは白兵戦でユーリや清十郎、リック達に活躍の場を奪われてた? と思われがちだが 歴史的な兵器としての活躍を現在、十分過ぎる程誇示しているのである。
 まぁ、実を言えばランスやユーリ、清十郎、リックと主力メンバーががいないから、嫌でも目立つ状況と言うのは置いといて。

「工場長! ご無事で!?」
「カスミ! そっちもね。状況は??」
「ここまで来ると、最早リーザス軍の独壇場だと思います。確かにモンスターの量が多く進みずらい状況である事は変わりませんが、こちらの被害は殆どありません。第三軍の将トーマがこちら側へ来た事でヘルマン軍もほぼ機能していないと言えるでしょう。それに……」

 カスミが周囲を見渡す。

「リーザス軍は帰ってきた! 国を取り戻すもう少しだ!」
「国民達よ! 後少し、後少しだけ辛抱してくれ! 直ぐに平和なリーザスを取り戻して見せる!!」

 混乱を極まっていたのはヘルマン軍だけではなく民も同じだった。その民を落ち着かせる為に、二次災害を起こさない為に魔道拡声器を使用して民に呼びかけていた。

「まさに名案ね。暴動の様なのが続いて、モンスターも暴れててって状況じゃ 不安感が溜まっていくわ。溜まりに溜まって爆発でもすれば住民たちも危険だもの」
「それに、あの拡声器での声は士気を上げる為にもしているって思うわ。……もう、ここがゴールだしね」

 マリアをフォローしていた志津香も頷いていた。

「うん。なら私達は主にサポートに回った方が良いわよね。正面から突っ込んでくるデカントは粗方片付けたし、チューリップを撃ちまくって街を破壊しちゃうのも本末転倒だし」
「はい。工場長。了解しました。そのように舞台には伝えておきます」
「………………」

 マリアは、ちらりと視線を変えた。それは 王城の方向。

「……工場長? 王城の方が気になりますか?」
「へっ!?」
「いえ、王城の方と言うよりは……」
「い、いやいや! 別に。ランスなんか大丈夫でしょ! 何だかんだでなんとかしちゃうだろうし!」
「(名前はまだ出してないんですけどね……)」
「(盲目……)」

 はぁ、とため息を吐くカスミと志津香。だけど、志津香。貴方は他人の事言えません。と言わんばかりにカスミは 志津香の方を見た。

「……それは志津香さんにも言える事ですけどね」
「……うるさいわね」

 否定もせず、ただただ進撃を開始する。

「でもマリア。止めときなさいよ。あんな馬鹿……」
「な、なんのこと? あははは…… あ、でも私は止めときなさい~とか言わないからね!? 志津香っ!」
「………ふんっ」

 仕返し、と言わんばかりに言い返すマリア。志津香は 自分自身でも少なからず自覚があったんだろう。ミリやロゼに色々と言われてて それとなく2人から離れてきてたから。

「駄目ですかねーー! トマトも行くですかねっ!!」
「志津香……、私も、私も! よーやく出てこれたんだからっ!!」

 トマトとラン、参戦決定! と言うか本当に2人も頑張ってくれてる。なのに少々出番が……アレなのは仕方ない。うん。

「ほんっとに報酬たんまりと貰わないといけないわよねー。ここまでの仕事ギルドでもないわよ」
「……ってか、何で私達まで……。普通にリーザス観光してただけなのに」
「良いじゃん良いじゃんアテンちゃんっ♪ もっと頑張っちゃおうよー! これも旅の醍醐味だよー? 旅は道連れーってねー?」

 ネカイ、アテン、ジュリアと どんどんと……。そう、つまりは 人が多くなってきたから。と言う事だけ。不遇な扱いは堪忍してもらうしかないのである。でも、しっかりと陰ながら戦ってくれてるのはここに明言しておこう。彼女たちの活躍があってこそ、とも言って良いのだから。

「アンタたち! 少しは緊張感もってやりなさい! まだ敵モンスターだって多いんだから!!」

 志津香の激が飛ぶ。

「むむ! 確かにまだ多いですかね……。でも、トマトはユーリさんと合流を果たすまでは負けられないですかねっ! 止まってられないですかねーー!!」

 自分の身体……程はないが大きな剣を平気で振り回しながら突っ込むトマト。

「トマトさん! わたしも行きますっ!!」

 まだまだ危なっかしいと言う事で しっかりとランがフォローをする。

「はぁ……、行くしかないのよね。戻るにしてもあのモンスターが絶対邪魔だし、ここでの単独行動は典型的なヤラれキャラの末路だし。……早く終わんないかなぁ……?」
「えいえいおー! いけいけゴーゴーっ♪」
「そして、なんでコイツはこんなに元気なの……」

 アテンとジュリアの謎コンビ。テンションに差が明らかにあって、少々危なっかしい気もするが、アテンが渋々とさせながらも、しっかりとジュリアの事をフォローしてあげてるから大丈夫そうだ。やっぱり何だかんだと面倒見が良い。

 
 こちら側の戦いでは大きな問題は無さそうだ。そう、全ては王城での戦いにかかっている。大きな闇がそこにあるのだから。

















 場面はランス達一行。

 王城を目指しているランス達は 漸く下水道から上がる階段を発見した。

「おっ…… ここか。前と変わらず、じめじめと陰気な場所だな。明かりがあるだけマシだと言えるが」

 ランスが見覚えがある様に周囲を見ながらそう言う。
 そう、地下からの侵入口、王城のこの牢獄へと通じているのだ。ベタだと言えるかもしれないが、構造上最も配置しやすく作りやすい。牢獄は地下に作っている為。

「何? 来た事あるの? ああ、なるほど 捕まるくらいおかしくないか、ランスだし」
「ランス懲罰チョップ!」

 かなみの発言を訊いて、反射的にランスのチョップが頭上に炸裂する。

「いたっっ!! な、何するの!」
「馬鹿者が! オレの様な聖人君子が捕まる訳ないだろうが! ユーリのガキじゃあるまいし!」
「何でユーリさんが捕まるのよ!! 逆でしょ、逆!! 聖人君子って言うのもぜーーーったいユーリさんの方よ!」

 ランスと一緒で聞き捨てならない言葉が聞こえた為、盛大に抗議するかなみ。

「大バカ者が! あのガキはオレ様の気分を害した罪があるのだ! オレ様を差し置いて妙に馬鹿高いレベルをしていたんだからな!」
「ユーリさんは常日頃鍛錬を怠ってないからでしょ!! ランスも少しは見習え!!」
「ふんっ、オレ様に鍛錬など必要ない! 常に最強なんだからな!」

 やんややんや、と不毛な言い合いが続く。
 見ていられなくなったシィルが止めようとした時だ。

「あ、あの落ち着いて……っ!! ランス様っ! かなみさん! こえ、声が聴こえます!」

 声が、何処かからか、声が聞こえてきた。『きゃーーー……』と言う今にも消え入りそうな声。この密閉された牢獄内部だったからこそ、聞こえたであろう声。

「っっ、い、今の声…… リア様っ!!」

 聴き忘れる筈がない。 例えランスと言い合っていたとしても逃す筈もない。シィルが気付いたと同時に、かなみもその一般人よりははるかに発達している聴力で聞きとれていた。直ぐに行動をしようとした時、ランスにとっ捕まる。

「何するのよ!! 早く行かないと……!」
「馬鹿者が。単独で先行するんじゃない。へっぽこ1人でどうにかなる様なヤツは この城には少ないんだろうが」

 ランスにしてはまともな意見を……と一瞬だけ冷静になりかけた かなみだったのだが。

「それに、格好良く一番乗りして、助ける役はオレ様だ!」
 
 直ぐに頭の中で撤回した。

「そんなのいいから、早くしろ!」
「当然だ。行くぞー! シィルもついてこい!」
「はいっ ランス様!!」

 一行は声のした方を目指し、駆け出した。


 そして、暫くして――――。


「ぜぇぜぇ…… 無駄に広すぎるぞ、この牢獄は! リアの趣味か!?」
「違うわよ。昔からずっと続いているって聞いてるわ」
「ふん。あのサディスト具合だと怪しいだろうが。それにシィル!」
「ひんっ!」

 ランスはぽかっ! シィルの頭を殴った。

「何度も何度も警報機を踏むんじゃない! お仕置きしてやる!」
「ひんひん……。ぅぅぅ ごめんなさい……」
「何言ってんのよ。踏んだの全部ランスじゃない」
「やかましい! 奴隷はご主人様の身代わりになるものなのだ! つまりは、シィルが全部悪い!」
「無茶苦茶言ってんじゃないわよっ!」
「あ、か、かなみさんもどうか落ち着いて…… わ、私は大丈夫ですから」

 シィルは、何処となくかなみも志津香の様に強気な強烈ツッコミをランスに入れそうで、色んな意味で長くなりそうだし、怖い(自分が叩かれそう)から事前にとめたのだった。

 暫くは、少なからずランスとかなみの言い合いも続くのだが、ここで違和感を覚えた。それは敵兵の少なさにだった。最初こそ 警報が鳴ったら直ぐに出てきていたヘルマン軍だったのだが、今はもう気配すらない。倒しきったのか? とも思えるがそれにしては数が少なすぎる。リアを監禁している以上それなりの戦線を組んでいてもおかしくないと言うのに。
 そんな時、角を曲がった所で漸く人影に遭遇した。

「むっ! 見張りか!」 
 
 ランスは咄嗟に剣を構えるが、その人影は反応が全くなかった。

「あ、あれ? ランス様、その人…… なんだか青くないですか?」
「む? ん? んんん??」

 改めて眼を凝らして見てみると、青い彫像だった。ヘルマン軍に似ている彫像……と言うより、殆どヘルマン軍そのものと言っていい。何処まで精密に作ればここまでになるのか判らない程の精巧さだ。

「なんだこりゃ?」
「…………これは、死体だわ。ホッホ峡でこんな風に結晶化する魔法の被害者が出たって話が……」
「はぁ? そんなのあったのか?」
「はい。ありました。志津香さんが珍しい魔法だ、って……。確か藍色、破壊光線……だと」
「なんだ? そのなんちゃら破壊光線とは。長くて噛みそうな名だが 役に立ちそうな魔法だな。よし、シィル。使ってみろ」
「む、無理ですランス様……かなり高度な魔法で……」
「ええい! 役立たず」
「ひんひん……」

 無茶なランスの要求はさておき、よくよく周囲を見渡してみると、同じような彫像がいくつも転がっていた。つまり、この彫像の数だけ兵士がいて、全て殺されていると言う事だ。

「内輪もめ……? 確かに自暴自棄になってもおかしくない現状だとは思うけど……」

 かなみは、彫像を見てそう呟く。
 内輪もめの可能性はあるだろう。だが、現状で残存する兵力をイタズラに消費する様な真似をするだろうか? と言う疑問も残った。完全に攻め込まれ、全ての将がいない現状で……。

「まぁ良いだろう。ラッキーだと思って先に進むぞ」

 不安要素は多々あるが、ランスを先頭に突き進んでいく。
 到着当初は、警報機を踏んだ時に遭遇したヘルマン兵のみであり、後は全ての敵兵が無力化していた為 問題なく進む事が出来た。

 そして、数分後の事。

「む……? お前ら、静かにしていろ」

 ランスが歩みを止めて 耳を澄ませた。
 かなみにも微かに聞こえてくる声。……ランスの方が先に気付くのは ある意味では凄いと言えるだろう。恐らくは女の声だと言う事と、今何が行われているのか、その理由に依存するのは言うまでもない。

 今リアは凌辱されている。マリスと一緒に……。



















~牢獄内~



「ぁっ……ぐっ………」
 
 今にも消え入りそうな弱弱しい声が響いていた。
 そんな中で、妖艶さと下衆さが合わさったかの様な声も響く。

「ふふ、最近は少し苦痛にも慣れてきたかしら? それとも衰弱しているだけ?」
「…………ぁっ……」

 返答する気力もわかないのだろうか、リアは暗く沈んだ顔で頷いていた。しかし、身体だけはしっかりと拷問に対する恐怖の為か、小刻みに震えている。

「くすくす、見て。今日はいいお土産があるのよ」
「っ……! そ、それ……!」

 リアは、サヤの持つものを見て、リアが身体を仰け反らせた。

「先日から言っていたヘルマン印の入った焼き印よ。ようやく出来たの。魔人のサテラ様が中々許してくれなかったけど、ここしばらくは忙しかったらしく、構ってられなくなったのかもね? 気軽にOKしてくれたわ。サテラ様はアンタたちを庇ってる様にもみえなくも無かったけど…… 一体何をしたのかしら?」

 サヤの言葉に、返事を返す事など出来ない。
 と言うより、仮に万全の状態だったとしても、魔人が自分達を庇う事など想像も出来ず、出来る訳もない為答える事なんて、端から出来ないと言う事だ。
 
 サテラがリアたちを庇う様な仕草をする理由はたった一つしかなく、それを知る由も無ければ、追及する気力もとっくに尽きていたから。

「まっ、どうでも良いか、それよりももっともっと面白い事をしましょう。この焼き印をね、付けてあげるの。そうなったらたとえここを救出されたとしても、もう王女には戻れないでしょうね……。ヘルマンに汚された王女として汚名を抱えて生きていきなさい」
「ひっ! い、いやっ、止めて……ッ!!」

 それはリア自身が嘗て、幼気な少女たちにした仕打ちの1つである焼き印。
 止めて、と懇願を口にするリア。……さりとて 相手(リア)は、それを止めるだろうか。

 いや、かつての自分は止めたりはしない。苦痛に歪めば歪む程喜んだ。もっともっと望み続けた。……眼前のサヤも同じ貉の蟲だ。つまり、止めてくれる筈がないと言う事。

「ふふ。ああ、勿論向こうで延々と犯されてるマリスにも同じ印を付けてあげるわよ。お揃いで羨ましいわ」

 ランスに叱咤されて改心した、とも言って良いリア。
 そしてユーリに叱咤されて、自らが規範となる様に迷った時の道しるべとなる様に努めようとし、まず間違いなくリア以上に改心したマリス。

 嘗ての罪が今降りかかってきている様にも見えた。

「さぁ、今屈服の印をつけてあげる………」

 それでも、例え許されない事をしたとしても。思う事だけは自由だ。

「(ダー……リン………っ)」

 初めて怒ってくれた相手。初めて抱いてくれた相手。初めて痛みをくれた相手。
 もう何度目か判らないが、愛しい男の名を心の中で呼び続けた。
 

「ふ、ふ――――……っ お――っほほほほほほほ!」


 サヤの笑いが牢獄無いに響き渡ったその時だった。

「コラ、待て! 一応リアもオレ様のものだぞ。傷つける事は許さん!」 
「………えっ!?」

 サヤにとってはまさかの展開だ。
 この場に侵入者が現れようなどと誰が想像できるだろうか。王女は最重要人物の1人である為、厳重な警備をしている筈だったから。

 だが、サヤは知らなかった。

 もう魔人側の力は無いと言う事に。魔人自体がこの場へと誘導するかの様にヘルマン兵を排除していた事に。
 
「がーーーーははははははははは! オレ様、参上!」
「きゃあああああああ! ななな、なによ、貴方!?」
「さあさあ、大人しくしていてもらおうか!」

 現れたのはランス。
 サヤの背後を完全にとったランスが、盛大にサヤを揉み下しつつ、羽交い絞めにした。

「きゃ、きゃあ! いや、離して! わたくしに触れるんじゃありません!」
「いて、いててて、お前こそ暴れるな」
「リア様!!」

 次に声が聞こえてきたのは、マリスだった。

「あ、コラ馬鹿かなみ! リアもマリスもオレ様が格好良く助けると言っただろうが!」
「そんなの待ってられる筈ないじゃない!! リア様!! 救出が遅れ、申し訳ありません! ただいま到着しました!」
「あーん、早くおろして― 2人ともーーっ!」
「了解いたしました」

 マリスが手早く、拘束具を一気に解除していった。忍者顔負けの速度で。
 リアを完全に自由にした所で、マリスはかなみに向き直る。

「かなみ。待っていましたよ。……よく、戻ってきてくれました」
「あっ…… は、はい。マリス様も本当に……申し訳、ありませんでした……っ」

 かなみは ……必死だった。
 そして、この日をずっと夢見てきた。
 何度も挫けそうになって、その都度 皆に、……ユーリに支えられてここまで来る事が出来た。感慨極まったからだろう。かなみの目から一筋の涙が流れ落ちていた。

『涙はまだ、取っておこう』

 それは 憧れの人であり大切な恩人であり、……初めて好きになった人であるユーリ。
 ユーリと約束した。涙は 最後に 全部を取り戻した時に取っておこうと、約束してた筈だったけれど、涙が流れ出てきてしまう。 

 そんなかなみの肩に優しく触れるマリス。
 実に感動とも言える空気なのだが……。


「がはははははは、凡人なら兎も角、オレ様なら楽勝だ。この程度!」
「きゃーさっすがダーリンっ! すごいんだー!」
「ぐぎぎぎぎぎ………、こんな、こんなバカな………!」


 外野が非常にうるさいので台無しになってしまっているのは仕方ない。リアがいる以上は マリスもかなみも基本的に忠誠を誓っている為、この程度で咎める様な事はしない。かつて、ユーリとの約束もあり 一国の王女として道を踏み外さない様に 傍で仕えて 見続けているのも嘘じゃない。

「かなみ。……ユーリさんの助力を?」
「あ……っ は、はい。ユーリさんのおかげです。……私は、私だけじゃここまで来る事は不可能だったでしょう。……リア様を、マリス様を救う事が叶わず、命を落としていたと思います。……あの人が、助けてくれたから……」

 また 涙が流れ出そうになるのを懸命に堪え、目頭を擦るかなみ。

「そう、ですか。……ふふ 私達はまた あの御人に救われましたね。成長出来てない事を恥ずべきか、或いは……」

 マリスは かなみを見てにっこりと笑うと。

「白馬の王子様に助けてもらえた幸福を堪能すべきか、かなみはどうでしょう?」
「ふぇっ!? え、えと その!! で、でもっ ゆーりさんに、ご迷惑ばかりわっっ!」
「ふふ、冗談です」

 マリスは 面白おかしそうに笑っていた。
 こんなに笑えたのは随分と久しぶりに感じる。拷問の期間が永久に感じる程長かったから。そこから解放してくれた恩人たちには、本当に何度感謝してもしきれない。勿論、その中にはランスもいるだろう。マリスにとってリアが全て。道を踏み外さない様に仕えつつ、その夫となる(?) ランスの事もある意味では信頼していた。その実力の高さも。

 そんな素晴らしいランスはと言うと。


「がははははは! それでは紳士的にお仕置きをしてやるぞ!」
「はーい、リアもお手伝いしまーーすっ!」
「い、いや~~~~~~ッ」


 当然ながら 盛大にお仕置きを敢行していた。
 リアも あの事件以来(ランス01)女の子への度を越した性暴力、拷問はもうしなくなっていたのだが、昔の自分を思い出したかの様に、妖艶な笑みを浮かべながら 先程まで自分自身に使われ続けた玩具をサヤへと向けていた。

「……ユーリさん。その、これは仕方ない、ですよね? 止めるべきじゃない、ですよね?」
「かなみ。……あのサヤは リーザスの没落貴族。魔人に逆らえなかったから、と言った動機ではなく、逆恨みからの凶行。同情の余地はなしです」
「そうですよね。……リア様に酷い事を沢山したんですから」

 今回の事を皮切りに、また一般人にまで行こうものなら 全身全霊を賭けて止める。だが、かなみはそこまで心配はしてなかった。

 リア自身も、ある意味はランスのおかげで、これまたある意味生まれ変わったのだから。
 

「ねー、この子ってさぁ 絶対に責めるよりも責められる方が輝くって拷問受けながらずっと思ってたのーー」

 
 
 ………直視するのも厳しい恰好になってるリア。生まれ変わった……とまでは言い過ぎだろうか?  

 それは兎も角 あまり そっち方面に耐性がある訳でもないかなみは 顔をただただ赤くさせて 少しだけ視線を下げていた。


「かなみ。それで地上はどのようになっていますか? 簡潔に説明を」
「あっ、は、はい!」

 マリスは 全く問題視せず 現状の事をかなみから聞き出した。

 サヤの悲鳴とランスの大笑い、そして リアの責め言葉をバックに 現状報告をするかなみ。

 非常にやりにくかったのは言うまでもない事だった。







 
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