BanG Dream!〜〜命短し恋せよ乙漢〜
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きっかけだとか
前書き
彩は可愛いってはっきりわかる物語
パスパレ&ポピパ推しのドスケベウォールがお送りするバンドリの群青小説(?)ここに降臨。
「──という事だから俺と付き合おうか、彩ちー」
「部屋に入って早々に付き合おう宣言は、凄いなぁ」
8月15日、午後12時半。
──それは俺、向田優菜が幼馴染みの女の子、丸山彩に告白し、見事かわされた記念日。
そして────
~ 命短し歩けよ乙漢 ~
一生というものは儚い。人は八十歳を越えても生き続けると言われるけど、その時その時にできることと言われたら限られてしまう。
例えば、寝て食べて遊ぶことが許される幼少期
例えば、勉学に励まなければいけない学生時代
例えば、社畜となって日本の柱として働く社会人
人並みに遊んで、勉強し、人並みに就職して結婚し、子を育てる。
多くの人は、それで満足し、人生を終えることを望んでいるらしい。
俺のモットーは『命短し歩けよ乙漢』
後ろを振り返る暇なんてない、目まぐるしく進む毎日をどれだけ人より前に歩くことが出来るか。それが自分の成長、輝かしい未来を築く柱となる。
つまりは、挑戦。
つまりは、ポジティブ。
それが、俺のモットーである。
勉強も、スポーツも青春も。何事も積極的に行動し磨くことを大切に、今日まで生きてきた向田優菜に抜かりは無い。
そして今、新たな挑戦へと歩を勧めたわけである。
それは───恋
人は皆、誰しも恋をしている。
誰かに惚れて、付き合って、キスして、肌を重ねる。
そんな経験を、高校になっても未だ経験なし。そろそろ俺にもそんな経験がしたいと思い......近くに対象となる女性がいたわけなんだが───
「彩ちー好きだ、付き合って」
「ごめんね?私そういうの興味なくて......優菜君をそういう目で見たことも無いし、急だと、そのー困るかな?」
苦笑いを浮かべた我が幼馴染みを前に、見事玉砕したわけであった。
「何か、俺に不満がある?」
「不満があるわけじゃないんだけどー、『恋愛経験が欲しい』という理由で付き合うのはなんか嫌」
苦笑いを絶やさない彼女が言うには『もっと"らしい"理由』をご要望のようで、俺が
───花咲川女子学園2年の丸山彩と幼少期の仲で、その頃からアイドルという存在に憧れてオーディションを受けてPastel Palettes(通称パスパレ)という"アイドルバンド"を始めたものの、あがり症、アドリブきかない、涙脆いというこの業界に不向きな面があったり、あんなにも頭をしゅわしゅわさせてくれるような曲やビュジュアルを持ち合わせているのにグループ内の意思の対立だとか、仲良く見える反面の各々の思惑で七転八倒する日々を送り、それでも自分の信念を貫き通し、夢を叶え続けて今日まで頑張ってきた。
そんな頑張り屋な彼女、丸山彩を俺はとうの昔から好きになっていた。
好きにならざるを得なかった。
泣いて、悩んで、もがいて見つけた自分の目指すアイドル像。可愛くて、彼女の魅力的なところを誰よりも知っている俺は誰よりも彩を愛している自信がある。
──そんな俺の気持ちを『付き合ってくれ』という一言に凝縮したつもりなのだが、どうやら悲しいことにそれが伝わっていたかったもよう。
「なら、どうしたら付き合ってくれるんだいマイハニー」
「マイハニーって......というか──に、──なんだけど」
最後の方がもにょもにょと言うもので、聞き取れなかった。何か大切なことを言ったような気がするのだが、直後に口元を両手で隠してしまったので、聞けずじまい。
よく見れば、彩の耳は情熱的な赤に染まっていて、それがまた魅力的に見えてしまうから仕方ない。
「じゃあさ、俺とちょっと手を繋ごうよ」
「え?うん......あっ」
「どや?めっさあったかいだろ?」
彼女の手を握ると、無意識に血流が早くなる。
手汗で不快に思われないだろうか、そんな億劫はまったくの無意味で、彩は嫌がるどころか、俺の手の感触を味わうかのように強く握り返してくれる。
「好きな子に、こうして手を握り返してもらえるって嬉しいもんなんだな。初めて思ったわ」
「えっ。あのね?できればそういう事をさっきの告白で言って欲しかったなー」
「『付き合ってほしい』の一言に全て想いをのせたはずだが?」
「つーたーわーりーまーせーん!」
彩の屈託のない笑みがやっぱり可愛すぎて、見ているだけで胸が熱くて頭がどうにかなりそうで。頭の中のもう1人の優菜が『天使や!!ワイの目の前に大天使がおるで!!あーもっと触れたい抱きしめたいキスしたいいちゃいちゃしたいー!』と叫んでおられる。
しかし、もう1人の優菜の出番はまだない。
1度、荒ぶった感情を深呼吸で静めてからゆっくり、優しくその頃から小さな手を引く。
「あっ......」
「彩ちー、隣座って」
「付き合うっていってもね、私アイドルだよ?」
「パスパレボーカルの丸山彩には実は彼氏がいた!なんて報道されそうなギリギリのラインは、背徳感があって興奮しない?」
「えぇ〜、私は嫌だなぁ〜」
「なら、いっそテレビの前で宣言したら?」
「というか、もうすでに私と優菜くん付き合ってる話じゃん。私、付き合うなんてまだ言ってないんだけど」
『付き合うっていってもね、私アイドルだよ?』という発言が、そもそも俺の告白を受け入れ、かつ楽しみにしているように聞こえるのだが。
なんの抵抗もせず、頬を赤らめて俺の隣に座る彩。
時間と、経験と、彩を知っている俺だからこそ、よくわかる。彩は今、どうしたいのか、どうなりたいかを俺と繋がっている手の温もりが教えてくれる。俺を捉える濁り一つないピンクの瞳が教えてくれる。
「なんだよ、嫌なら手を離せばいい」
「だって……こうして手を絡めとられたら離せないじゃない」
「そうしてきたのは彩ちーだろ?」
先に手を繋いだのは俺。でもこうして俺の隣に座って、手を絡めてきて、しまいには肩と肩がぶつかる距離まで接近してきたのは彩。こうして触れていると、恋愛のいろはすら疎い俺でも『恋愛っていいな』と思ってしまう。
「いつも私を支えてくれてありがとうね?アイドル……もっと頑張るから」
「良いのか?アイドルが恋愛なんてして」
「さ、先に言ってきたのは優菜君でしょ!?それに……」
何事もきっかけはある。
例えば、向田優菜と丸山彩が出会ったきっかけだとか。
例えば、彩がアイドルを始めることになったきっかけだとか。
例えば、彩が所属するパスパレがネットで叩かれていたきっかけだとか。
例えば、その危機を乗り越えることができたきっかけだとか。
……彩は、すぅっと小さく息を吸ってこう言う。
「私も……ゆ、優菜君の事が好き、なんだから」
……例えば、あがり症の彩が俺を好きになってくれたきっかけだとか。
後書き
次回予告
まんまるお山に彩りを与える女の子がアイドルバンドを結成するお話。
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