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真田十勇士

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巻ノ百 後藤又兵衛その一

                 巻ノ百  後藤又兵衛
 後藤は服部達が見た通り細川家を出なくてはならなくなった、さしもの細川家も黒田家に執拗に言われて止むを得なくだった。
 それで後藤は再び浪人となったが幸村はその話を聞いてそのうえで彼が今何処にいるのかを知った。それでだった。
 すぐにだ、清海を呼んで彼に言った。
「次は御主じゃ」
「まさかと思いますが」
「そのまさかじゃ」
 まさにというのだ。
「御主を後藤殿の御前に連れて行ってな」
「そのうえで、ですな」
「あの方の槍術、もっと言えばじゃ」
「錫杖のですな」
「その術を身に着けてもらう」 
 こう言うのだった。
「よいな」
「はい、待っておりました」
 清海はその大きな口をさらに大きく開いて笑って応えた。
「わしもまた」
「今か今かとじゃな」
「はい」
 その通りという返事だった。
「ですから」
「そう言ってくれるか、ではな」
「これよりですな」
「御主を連れてじゃ」
 そうしてというのだ。
「後藤殿のところに参上するぞ」
「してその場所は」
「堺じゃ」
 そこだというのだ。
「今はそこにおられる」
「堺ですか」
「意外か」
「はい、細川殿のところから随分と離れられましたな」
「あの方は大層な母親思いでじゃ」
 幸村は後藤が堺にいると聞いていぶかしんだ清海に話した。
「母君が大坂の生まれでな」
「だから大坂に近い堺にですか」
「今はおられてな」
「そうしてですか」
「そこで母君を養わつつ暮らしておられるという」
「そうなのですか」
「そうじゃ、無論家を出る時の共の者達もおる」
 後藤の周りにはというのだ。
「そしてな」
「そのうえで、ですな」
「母君もおられる」
「そうですか、あの方はお強いだけでなく卑怯未練を卑しみ仁愛の心もお持ちと聞いていましたが」
「噂通りの方じゃな」
「まさに天下の豪傑ですな」
 文字通りのというのだ。
「見事な方ですな」
「そしてじゃ」
「その後藤殿のところにですな」
「今から行くぞ」
「わかり申した」
 清海は再び大きく笑って応えた。
「それではこれより」
「堺に行くぞ」
「そうしましょうぞ」
 こう話してだ、そのうえでだった。 
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