銀河英雄伝説〜門閥貴族・・・だが貧乏!
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第15話 後宮入り?
第15話 後宮入り?
帝国暦482年4月1日
■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間
この日、国務尚書リヒテンラーデ侯、宮内尚書アイゼンエルツ伯、典礼尚書アイゼンフート伯、内務省警察総局次長ハルテンブルク伯、フォルゲン伯がノイエ・サンスーシに呼び出された。
ハルテンブルグ伯は妹エリザベートの婚約者にして、サイオキシン麻薬密売組織の胴元であった、カール・マチウス・フォン・フォルゲンをその兄フォルゲン伯と共に謀殺したばかりであったために2人共々呼び出された事に生きた心地のしない状態で有った。無論フォルゲン伯も同じ考えであるようで、しきりに汗を拭きまくっている。
リヒテンラーデ侯が代表してフリードリヒ4世に質問をする。
「陛下におかれましては、本日の招集如何致しましたでしょうか?」
丁重なリヒテンラーデ侯の言葉ではあるが、節々にくだらない事で呼ばないで欲しいという感じが滲み出ていた。
陛下は鈍いのか鋭いのか判らない表情で皆を見回しながら話し始めた。
「先年の宴で、おうた、ハルテンブルグ伯の妹エリザベートは、フォルゲン伯の弟の婚約者で有ったな」
その言葉に、フォルゲン伯、ハルテンブルグ伯の顔色が変わり、リヒテンラーデ侯は苦虫を噛みつぶした様な顔になる。
「御意、しかし我が愚弟カール・マチウス・フォン・フォルゲンは先だって、
最前戦カプチャランカにおきまして名誉の戦死を遂げております」
陛下への答えを青い顔をしながらフォルゲン伯は答えていく。
「そうか、それは気の毒な事じゃ、マチウスは立派に働いたの」
「ありがたき幸せ、弟も喜びましょう」
その掛け合いにリヒテンラーデ侯は本題を言うように誘導する。
「陛下、その事と本日の集まり何か関係が有りますでしょうか?」
「そうよ、ハルテンブルグ伯の妹は婚前未亡人となってそうじゃな」
「御意」
「其処でじゃ、婚前未亡人では辛かろうと思うて、そちの妹にアインツベルン侯爵号を授けようと思うてな、さすれば、エリザベートも少しは心安らぐであろう」
既に呼び捨て状態の陛下の態度に、集まった者達はウツラウツラし始めた典礼尚書アイゼンフート伯以外は、陛下の意図するところを適格に判ったのである。曰く陛下はハルテンブルグ伯爵の妹エリザベート嬢に侯爵位を与える代わりに、自らの寵姫になるようにと命じている事を。
リヒテンラーデ侯はブラウンシュヴァイク公との話し合いで、先代ブラウンシュヴァイク公の隠し子、ラミディアを寵姫としてねじ込む事を計画していたのであるが、あの日の陛下の態度では全く興味が沸かなかった事が在り在りと判ったために計画を再検討中だったのである。しかし、この状態から逆転をするのは難しい状態で有る事を知ったのである。
ハルテンブルグ伯とフォルゲン伯はどうしたらいいか判らなく成っていた。マチウスを謀殺以来エリザベートは生きる気力を失い、日々亡き伏せっているだけなのだから。今のままのエリザベートを陛下にお会いさせたら、どの様な事になるか判らないと混乱に拍車がかかっていた。
そのような思惑も関係なく、フリードリヒ4世の命令により、エリザベート・フォン・ハルテンブルグはエリザベート・フォン・アインツベルン侯爵夫人として後宮に館を与えられる事まで決まってしまった。
「宮内尚書、典礼尚書、アインツベルン侯爵夫人の為の支度を直ぐさま始めるのじゃ、良いな」
普段は仕事も余りしない二人が飛び上がるように返答を行った。
「「御意」」
その陛下の態度に意志の強さを感じたリヒテンラーデ侯は心の中で、エーリッヒ・フォン・ブラウンシュヴァイク公に詫びていた『済まぬ、儂でも陛下をお止めする事敵わん』と、そんなリヒテンラーデ侯の心も知らずにフリードリヒ4世は命じる。
「国務尚書、エリザベートの後宮入りは、7月までに致すように、ハルテンブルグ伯とよく相談する様に致せ」
「「御意」」
最早返答するしかない、リヒテンラーデ侯とハルテンブルグ伯であった。
リヒテンラーデ侯は計画の狂いをどうしようかと考え。
ハルテンブルグ伯はエリザベートをどう宥めるかを考えていた。
「そうじゃ、フォルゲン伯、そちの弟たち2人とマチウスに特別に子爵号を与えよう、判ったの」
つまり、陛下はエリザベートとマチウスの婚約自体を無かった事にせよとの、ご命令だと、此処は受けておくのが賢明であると考えたのである。
「ありがたき幸せにございます」
「よいよい」
こうして、フォルゲン伯爵4弟カール・マチウス・フォン・フォルゲンとハルテンブルグ伯爵妹エリザベート・フォン・ハルテンブルグの婚約自体が無かった事とされ、エリザベートは婚前未亡人と呼ばれなくなった、まさか陛下の寵姫と成るエリザベートを侮辱する訳にも行かずに貴族社会ではなかった事にされたのである。
ハルテンブルグ伯爵はこの日から3ヶ月近くエリザベートを説得し続け、結局貴族の義務だという論理でエリザベートを説き伏せて、後宮入りさせたのであった。この後ハルテンブルグ伯は直ぐに内務省警察総局長に昇進しているのは、エリザベートを説き伏せた褒美としてであったが、本人としては些か嫌な気分であったろう。彼は実力でそれ以上いける人間なのだから。
帝国暦482年7月1日 エリザベート・フォン・ハルテンブルグ
私、エリザベートは、愛する人カール・マチウス・フォン・フォルゲンの戦死後ズーッと泣きながら過ごしてきました。そんなある日、兄様であるハルテンブルグ伯が非常に思い詰めた顔で話があると言ってきた。
「兄様、いったい何の用ですか?」
兄は済まなそうな顔をしながら話しかけてくる。
「エリザベート、お前に皇帝陛下から、侯爵位を与えると話が来た」
何と仰いました兄様、皇帝陛下が私に侯爵位を与えると言う事は、幾ら私でも判ります、寵姫になれというのですか、確かに昨年の宴で陛下と1時間以上お話ししましたが、それが元因でしょうか、私にはマチウス様が居るのに、彼は私の心の中に生きているのですから、兄様に断って貰います。
「兄様、その様なご無体お断りしてくださいませ」
「そうは言っても、既に陛下の勅命のようなモノだ」
「人妻を寝取るのが陛下なのですか」
「不敬な事を言うでない」
「私は嫌です」
散々兄様に物を投げつけました、兄様はじっとして当たり続けていました。
その時判りましたわ、兄様もお辛いのだと、けど嫌な物は嫌でした。
それからしょっちゅう兄様の説得は続きましたが、私は頑として断り続けました。
けれども、卑怯な事に私とマチウスさんの婚約が元から無かった事にされてしまいました。あの時は本気で兄様を殺したい気分になりました。
けれども、マチウスさんの兄上フォルゲン伯爵が訪ねていらして、マチウスさんの本当の姿を見せてくれたのでした。
私は目と耳を疑いました、マチウスが家のメイドといかがわしい行為に及んでいる映像や他の貴族令嬢を弄ぶ姿が映し出されていたのです。私は己の浅はかさに天を仰ぎました、なんて私は子供だったのであろう、オママゴトのような恋にあこがれながら、実際はとんでも無い男に捕まっていたと言う事を、私は知ってしまったのです。
フォルゲン伯爵は大変神妙な顔で頭を下げられ謝罪なさいました。『エリザベート殿には取り返しの付かない事をして、申し訳無い』と土下座為さいました。此処まで見てしまった以上、マチウスに恋い焦がれていた馬鹿な私は遙か彼方へと消え去っていきました。
私の人生を危うく滅茶苦茶にされるところだった、カール・マチウス・フォン・フォルゲンは死んで清々したと今では考えられる様になりました。此からの人生は皇帝陛下の寵姫として生きる気持ちになりました、陛下は多くの寵姫がいらっしゃいますが、請われて愛して頂けるのであれば、それも運命と受け止める事に致しました。兄様は貴族の義務だという論理で私を説き伏せたと思っているようですけど。
此から後宮に入り私は、アインツベルン侯爵夫人として生きる事に致します。
帝国暦482年7月1日
■オーディン さる人物
陛下が又新しい寵姫を後宮に迎え入れた、やっぱりあのグリューネワルト伯爵夫人じゃ嫌気がさすんだろうな、まさにやりたい放題の悪外戚だものな、ああ言うのは早めに処分しないと銀河帝国全体に害悪が蔓延しかねないのだから。願わくば新たな寵姫アインツベルン侯爵夫人がまともな方で有るように。
私の方は妻と子の喪が明け、ラミディア嬢が今年の10月10日に16歳になるため、その時を狙ってプロポーズしようと考えているが、未だに接点がない困った。
此処はやはり年の功で、リヒテンラーデ侯にでも相談してみよう。侯爵も私の再婚を進めているのだから、身分の違いはいざとなったら侯爵の養女とでもして貰えば何とかなるはずだからな。
善は急げだ、早速リヒテンラーデ侯を探そう。
恐らくは父上の所であろう。
帝国暦482年7月1日
■オーディン 装甲擲弾兵総監部 ヘルマン・フォン・リューネブルグ
何故だ!俺が国を捨ててまで、欲しかった女、エリザベート・フォン・ハルテンブルグが皇帝の寵姫になるとは、此では俺の野望も潰えるではないか!!
後書き
エリザベートが後宮入りしました。
当初のプロットから、完全に逸脱中です。
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