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スリラ、スリラ、スリラ

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掴む(つかむ)

「ちょっと待ってアギト!私、気づいちゃった」
急に素っ頓狂な声を出すカイナに驚いて、アギトが目を丸くした。
「…何?」
「私が打たれた殭屍ウイルスが、第一號でないとしたら。他にもたくさん、殭屍になるかもしれない人が、中には殭屍になった人も居るんじゃないかって。…だとしたら…中には恨みを持って居る人だって居ると思うの、そういう人は」
「仲間に、なってくれるかもしれない?」
カイナは小さく頷いた。その瞳には、一縷の光が覗かれる。殭屍ウイルスを作った者を、殭屍ウイルスを以て戒めるなどと言うのは、今の彼らには最適な作戦であった。

赤く錆びた建物の中、カイナとアギトは月夜を見ている。カイナが偶然持ち合わせていたチョコレートを二人で分けて、それ以外は口にしていない。当然腹も減るわけだ。
「…あー…」
「分かってるわよ、お腹すいたんでしょ?…私だってお腹鳴るの我慢してるのに」
「知ってる、けどそれじゃなくて…」
イラつきながらカイナがアギトの方を見る。
「あー…やっぱり…」
「…何よ」
アギトが引き攣った笑顔で、カイナの顔を指さす。
「…カイナ、鏡見て」
「…失礼な奴」
苛々を抑えるのも忘れて、カイナはポケットからコンパクトを取り出した。二つ折りになっているのをパカッと開けた瞬間、カイナはきゃあと声を上げた。
薄青い夜の明かりの中、見慣れた自分の顔、右目が赤く変色していた。 
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