提督はBarにいる。
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夏の素麺レシピ特集・その1
「どうか助けて下さい、提督」
執務室に入ってくるなり、深々と頭を下げてきた鳳翔に俺は困惑する。
「いや、助けてと言われりゃあそりゃ吝かじゃねぇが……一体どうした?」
「じ、実は……」
話の概要はこうだ。ブルネイでも本格的な夏を迎え、気温の高い日が続くようになった。暑い日には冷たくサッパリした物が食べたくなるだろうと、夏の定番メニューである素麺を『居酒屋 鳳翔』で大量に仕入れたらしい……が、その目論見が大外れ。ほとんど誰も注文して貰えず、大量に在庫が余ってしまって困っているらしい。何で頼まないのかと理由を聞けば、
『素麺?あ~……味が単調すぎて飽きちゃうんだよね』
と言われて愕然としたらしい。確かに素麺の味付けと言えばめんつゆに薬味のネギや山葵、生姜や茗荷がせいぜいといった所。味に変化が無さすぎて飽きている奴が多いのも事実だろう。
「それで俺の所に来たってワケか」
「はい……提督ならば良いお知恵をお借り出来るのではと思いまして」
鳳翔の眼差しは真剣そのものだ。店の売り上げよりも持て成す客の満足度を求めたい……そういう顔だ。仕方無い、こういう熱い願いってのに弱いんだ俺は。
「解った、けど今は執務中だ。その話は店を開けてからな」
「は、はい……よろしくお願いします」
もう一度深々と頭を下げた鳳翔は、執務室を去っていった。さぁて、素麺か……どうすっかな。
そしてその日の執務終了後、店を開けると同時に鳳翔はやって来た……4人のお供を引き連れて。
「鳳翔は解るが……何でお前らがいる」
鳳翔の両サイドに座るのは、大和に武蔵、それとニ航戦のバカ喰いコンビ。
「私と大和はアドバイザーだ。鳳翔に頼まれてな」
「私も提督のアレンジした素麺に興味がありまして……」
成る程、大和に武蔵は飯ウマだから解る。だがそっちのミドレンジャーとキレンジャーは食い専だろうに。
「私達は、鳳翔さんが試食して食べきれなかった素麺を代わりに食べる係です!」
と、堂々と言い放つ蒼龍。ようするに……
「なんだ、残飯処理班か」
「ひどっ!……否定できないのが悔しいけど」
「すみません……本当は私が全部食べられればいいんですが」
と、申し訳なさそうに謝る鳳翔。いや、別に鳳翔の胃袋の小ささは知ってるし、色々な種類の味を食べてもらうにゃ丁度良いのも事実だしな。
「まぁいいや、早速作っていくか」
「提督……キッチンの方にお邪魔しても構いませんか?メモを取ったり工程を確認したいので」
「あぁ、構わねぇよ」
「では……」
そう言って鳳翔は手帳を片手に厨房の方に入ってきた。
「まずは何種類か、素麺のつけ汁のアレンジしたのを見せようと思う」
「はい、よろしくお願いしますね?」
《冷凍トマトで和風ガスパチョ風つけ汁》※分量2人前
・冷凍トマト:中くらいの1個
・キュウリ:1/4~1/3本
・甘酢らっきょう:小さめのを1個
・らっきょう酢:小さじ1~2
・オリーブオイル:大さじ1
・ゆず胡椒:小さじ1
・冷水:150cc
※お好みでおろしにんにく、バゲット等を少々。
このつけ汁のメインになる食材を、冷凍庫から取り出す。
「提督、それは?」
「こいつは冷凍トマト。まぁヘタを取ったトマトを冷凍庫で1晩凍らせただけの代物だ」
だが、こいつを凍ったままおろし金なんかですりおろして、塩やオリーブオイルをかけて食べるだけでもちょっとしたツマミになるってお手軽食材だ。こいつを使って今日はガスパチョ風のつけ汁を作る。冷凍トマトは冷凍庫から出して少しの間放置しておき、少し溶けたらざく切りにしておく。キュウリはぶつ切りだ。
フードプロセッサーを準備し、冷凍トマト、キュウリ、らっきょうとその漬け汁、オリーブオイル、ゆず胡椒、水、にんにく、バゲットを入れて撹拌。目安としてはトマトを完全に砕いてしまうのではなく、少しシャリシャリが残るシャーベット位にしておくのがオススメだ。水の量は少なくすれば濃い目にも出来るので、好みで調節してくれ。後は器に盛り付ければ完成。
「さぁ出来たぞ。『ガスパチョ風つけ汁』だ」
予め茹でておいた素麺を、渡されたつけ汁に浸けてズルズルと啜る。
「ん!」
「ちめたい!おいひぃ!」
無我夢中で啜り続けているアホ2人はともかく。
「成る程、シャーベット状のトマトがそうめんに絡み付く訳か」
「トマトの旨味で食べるんですね、これは」
大和と武蔵の分析が鋭い。鳳翔も無言でズルズルと啜っている。
「どうだ?鳳翔」
「大変面白いと思います。お酒を召し上がる方にも好んで頂けるかと……ただ」
「ただ?」
「もう少し辛味がある方が美味しいと個人的には思いますが?」
「一応誰でも食べやすい味付けにしてあるんでな。辛味が足りないと感じる時には、食べる直前にタバスコとか黒胡椒……後はゆず胡椒の分量をもう少し増やすといいだろうな」
「成る程……各自の好みに調整すればいいと」
鳳翔は細かくメモしていく……真面目だねぇ。
《焼きねぎが香る!ネギ豚つけ汁》※分量4人前
・長ネギ:1本
・豚ばら薄切り肉:100g
・水:1200cc
・酒:大さじ2
・砂糖:大さじ2
・ほんだし:大さじ3
・醤油:大さじ3~
・七味やラー油、きざみ海苔等:お好みで
さて、夏場は冷たい物ばかり食べて体内が冷えて内臓が弱ってしまう……よくある夏バテの典型的パターンだ。それを解消するには温かい物を食べて体内を温めてやればいい。そこでそうめんに温かいつけ汁を付けようと考えたのがこれだ。まず、長ネギは5cm位の長さにぶつ切り、豚バラは一口大の大きさに切り揃える。
鍋に油を引かずに熱し、ぶつ切りにしたネギを焼いていく。油を引くとこのあと加える豚バラの脂と合わさってくどくなっちまうからな、こんがりと焼き色がつくまでじっくりと焼いていく。
ネギに焼き色が付いたら鍋の端に寄せて、空けたスペースで豚バラを焼いていく。この時、余分な脂がかなり出るのでキッチンペーパー等で拭き取っておく。
豚バラにもしっかり火が通ったら水を加えて煮立たせていく。恐らくアクもでるから、しっかりと取るようにな。沸騰して来たら酒、砂糖、ほんだしを加えてひと煮立ちさせ、仕上げに醤油を味見しながら適宜調整しつつ加えていく。目安としては麺を入れる事を考えて少し濃い目の味付けにするといいだろう。
器に盛り、仕上げに七味やラー油、きざみ海苔等の薬味を添えたら完成。
「おらよ、お次は『豚ネギつけ汁』だ」
「ほう、夏場に敢えて温かいつけ汁とはな」
「でも、美味しいですよコレ。素麺だけじゃなく冷や麦とかうどん、お蕎麦なんかにも合いそうです」
しっかりと分析しながら味わう大和と武蔵に対して、ニ航戦コンビはがむしゃらにズルズルと啜っている。
「う~ん、この味付けなら麺を食べきって物足りなかったら、ご飯を入れても美味しいかも……?」
「あ、それいい!すっごくいい!天才か蒼龍!?」
いや、バカだろ。主に脳味噌と胃袋が。
「てなワケでぇ~……」
「提督、ご飯下さい♪」
「炊いてねぇよ」
「「なんで!?」」
綺麗にハモりやがった。そもそも今日は鳳翔の為の素麺メニュー試食会なんだ、米なんて炊いてあるワケがねぇだろが。
「ほら、蒼龍に飛龍ちゃん。私の分の素麺食べてちょうだい?私は味見が出来れば十分だから」
そう言って鳳翔は自分の分の素麺を2人に分けてやる。まぁ、この後も沢山レシピを出す予定だしな。ペース配分としちゃあ正しいが、なんか釈然としねぇ気分だ。
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