指
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第四章
姿が消えた。そのうえでだった。
二人で壁を跳び越えた。二メートル五十以上はあったがその瓦を足場にして二段ジャンプの要領で跳び越えたのだ。そうしてからだった。
その見事な庭の中に入った。そこで役が言った。
「案内しよう。それではな」
「はい、それじゃあ」
こうしてだった。役の案内で二人は屋敷の中を進んだ。そしてだった。
屋敷の中も和風だった。畳に木の廊下だ。役がそこで案内した場所は。
奥の部屋だった。そこも和風の見事な部屋だった。だが。
壁も天井もだ。指で飾られていた。白い指が付け根からこれでもかと飾られていた。
壁にあるものはそこから突き出ている感じだ。天井にあるものは下を向いている。どうやら剥製にされているらしくそれは蝋の様になっている。その指達でだ。
部屋が飾られているのだ。それを見てだった。
本郷は納得した顔になりだ。こう役に言った。二人の姿は消えたままだ。
「何ていうかですね」
「予想していたか」
「予想はしていなかったですよ」
それはなかったというのだ。
「けれど驚きませんでしたよ」
「慣れているからだな。こうしたことには」
「ええ。いつものことですからね」
彼等が引き受けた仕事ではだ。これ位の猟奇はいつものことだからだ。
「本当に。ただ」
「ただ、だな」
「何でこんなことをするかですね」
「そうだ。ではだ」
「ホシですね。そのキチガイを捕まえますか」
「犯人はこの屋敷の中にいる」
彼等にとって都合よくだ。いるというのだ。
「ではその犯人をだ」
「ええ、今からですね」
「捕まえるとしよう」
「それで今そいつは何処にいるんですか?」
「屋敷のリビングで昼食を食べている」
丁度そうした時間だった。今は。
「結構いいものを食べている」
「やっぱり金持ちなんですね」
「そうだな。しかし今はだ」
「捕まえますか、そいつを」
「そうするとしよう」
こう話してだ。二人は指があちこちに飾られた無気味な部屋を後にした。
そのうえで屋敷のリビングに向かいそこで昼食の肉や野菜、和風に料理をしたそれを優雅に食べている老人の前に姿を現してだった。
老人を捕まえた。これで犯人は確保した。
だが問題はそれからだった。本部長は犯人を逮捕して警察署に連れて来た二人にこんなことを言ってきた。
「有り難うございます。それでは」
「はい、後はですね」
「犯人のことを調べることですね」
「お願いします。宮里先生と一緒に」
「わかりました。それでは」
「今からはじめます」
二人もこう応えてだ。そのうえでだった。
彼等は宮里と共に犯人のことを調べにかかった。三人で密室に入ることが多くなった。
その密室の中で取り調べの結果判明した犯人の身元について本郷が二人に言った。
「ホシは伊藤照道、六十五歳ですね」
「酒問屋の主ですね」
「ええ、そう書いてますね」
身元調査にはだとだ。本郷は宮里に答えた。
「相当な金持ちでしかも」
「市会議員でもあります」
「市の名士ってやつですね」
「はい。ただ家族はありません」
宮里もその身元調査を見ながら言う。
「子供は生まれず奥さんも五年前に他界しています」
「店も番頭さんが経営して引き継ぐことになっていて」
「男やもめでした」
「孤独ってことですね」
日本によくいる孤独な老人、それだというのだ。
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