とある3年4組の卑怯者
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7 招待
前書き
今回からまる子の友人で藤木に好意を寄せる、みどりちゃんが登場します。
藤木はある朝の登校中、前にリリィがいるのを見つけた。
「あ、リリィ、おはよう」
「藤木君、おはよう」
リリィも笑顔で挨拶を返した。
「あのさ、日本の小学生ってこのランドセルを背負って登校するのね。イギリスではそういうことなかったから日本人らしく感じるわ」
「へえ、そうなんだ。ランドセルって日本特有なんだね」
藤木は日本固有の特徴を改めて学んだ瞬間と感じた。そして後ろから・・・。
「やあ、おはよう、藤木君」
「ああ、山根君」
クラスメイトの山根強だった。
「藤木君、リリィともうそんなに仲良しになったんだね。君が羨ましいよ」
「え、そうかな。そういえば、山根君はリリィとはあまり話してはいないんだよね」
「ええっと、山根君だったね。それじゃあ、3人で行こう、いいよね、藤木君?」
「え、あ、うん・・・」
藤木は心底ではリリィと2人きりで行きたいと考えていた。
(僕だけのリリィが・・・、リリィが山根君を好きになったらどうしよう・・・)
藤木は勝手な不安を感じてしまった。
休み時間、藤木はクラスメイトの「まる子」ことさくらももこから声をかけられた。
「あのさあ、藤木」
「さくらか、何だい?」
「今日うちにみどりちゃんが遊びに来るんだけどさ、藤木にも会いたいと言っていたんだ。アタシんちに遊びに来てくれない?」
「ええ、あのみどりちゃんがかい?」
藤木は思い出したかのように驚いた。みどりちゃんとは、まる子の祖父の友人の孫で、藤木達とは別の小学校に通う女子、吉川みどりの事だった。彼女は藤木に好意を寄せているのだ。
「うん、アンタ今日これといった用事ないでしょ~?」
「ああ、そうだけど・・・」
「もし来なかったらアンタまた卑怯ということになるからね。待っているからね」
「う・・・、分かったよ」
やや脅迫まがいの誘いに藤木はやむなく承諾してしまった。自分の代名詞であり、弱みでもあり、悩みでもある「卑怯」と言う言葉に動揺されて。
後でまる子から聞いた話ではあるが、みどりが藤木を好きになったのは、学校のスケート教室でたまたま藤木達の学校とみどりの学校が同じ日であり、滑り転びそうになったみどりを藤木が助けたことが始まりだった。そして、上手に滑る藤木にみどりが見惚れてしまい、みどりはまる子によって自分と引き合わせてもらい、バレンタインデーにチョコレートとマフラーをプレゼントしたのだ。
(僕に会いたいって一体何がしたいんだろう・・・)
藤木は気になって今日一日中そのことを気にしていた。給食の時間もそれで元気がなさそうにしていた。
「藤木君、君どうかしたのかい?」
永沢が尋ねた。
「え、何でもないさ!」
藤木は慌ててごまかした。
「君全然給食食べてないからね、食欲ないのかい?」
と、その時・・・。
「おう、藤木、お前食う気がねえのか??なら俺が食ってやろうか??」
食い意地のはった男子、小杉太が急に現れた。
「い、いや、結構だよ!」
藤木は慌てて給食に手をつけた。
放課後になった。
「そんじゃ藤木、待ってるよ~」
まる子がそう藤木に声かけて去っていった。
「あ、うん・・・」
藤木は教材をランドセルにしまい、家に帰ろうとした。
家に帰り、ランドセルを置いて、藤木はさくら家に赴いた。藤木は複雑な気分になっていた。
(僕はみどりちゃんから好かれているけど、僕は笹山さんとリリィが好きなんだ。でもそれをみどりちゃんに伝える勇気がないしな。それを言わないのも卑怯かもしれないけど、言ってしまえばみどりちゃんを悲しませてしまうかもしれない。そうしたら女の子を泣かせたとしてどのみち卑怯呼ばわりされるよな・・・)
さくら家に到着した。藤木は玄関の戸を開けた。
「こんにちは。藤木です」
「あら、いらっしゃい、藤木君。みどりちゃんも来てるわよ」
年上の女性が出迎えた。まる子の姉であった。まる子の姉に連れられて藤木は居間に入った。
「ああ、藤木」
まる子が藤木を見て言った。もちろん、みどりもいる。そしてまる子の祖父もその場にいた。
「藤木さん、どうもご無沙汰しております」
みどりが挨拶をした。礼儀作法の稽古でもつけられたかのような畏まった口調と態度だった。それが彼女の特徴でもあるのだが。
「やあ、みどりちゃん、久しぶりだね」
藤木も挨拶を返した。
(それにしても一体何の用があるというんだろう・・・?)
藤木はみどりが何を意図しているのか疑問に思っていた。
藤木は緑茶と饅頭をご馳走になっている時、みどりが照れくさそうに話しだした。
「あ・・・あの・・・まる子さん、藤木さん・・・」
みどりは非常に緊張している様子だった。
「何だい?」
藤木が聞いた。
「恥ずかしがらずに言いなよ」
まる子も催促する。
「まあ、まあ、みどりちゃん、みどりちゃんのおじいちゃんとわしは知っているからわしが言おうか?」
まる子の祖父が言った。しかし、みどりは「いえ、自分の口から言います」と言った。
「あの、私のおじいちゃんが今度の日曜、デパートに連れて行ってくれて、そしたらまる子さんとまる子さんのおじいさんも一緒に行こうかと誘ってくれたんです。他に友達を誘ってもいいか聞いたらいいと仰っていたので、是非藤木さんにもおいでいただけたらなあって思いまして・・・」
藤木は返答に詰まってしまい、困惑した。まる子と密かに相談した。
「さくら、どうしよう?」
「みどりちゃんの誘いとなると断ったらまた大泣きするからねえ、もう行くしかないよ」
「そんな・・・」
藤木は暗い顔をした。その顔を見てみどりは哀しみをすぐ表してしまった。
「そ、そんな・・・ぐす・・・、やっぱり急に誘ってやっぱりご迷惑でしたでしょうか・・・?」
みどりは半べそとなった。まる子と藤木はさすがにこれは断ったらまずいと思った。
「いや、そんなことないって、行けるよね?藤木?」
「う、うん、日曜は特に用はないから大丈夫だよ!!」
「そうですか、ありがとうございます!」
みどりは泣き止んだ。藤木もまる子もやれやれと心の中で思った。
「あ、そうだ、お姉ちゃんも行かない?大勢で行けばきっと楽しいよ!」
まる子は自分の姉に振った。
「残念でした。私はよし子さんたちと映画を見る約束あるんで」
まる子の姉はあっさり断った。
「それじゃあ、五人で決定じゃな」
「ありがとうございます、まる子さん、藤木さん」
みどりは今度は嬉し涙のようだった。藤木は作り笑いをしていたが、心の中では溜め息だった。
(やれやれ、結局行くことにしちゃったよ・・・)
こうして日曜の予定が決まったところで藤木は家に帰ることになった。
夜となり、両親が帰って来ていた。藤木は既に寝る時間であったが、日曜に予定が入ったことを伝えなければならない。
「あの・・・父さん、母さん」
「何だい、茂」
父が応答した。
「今度の日曜、さくらたちとデパートに行く約束だけど、行っても大丈夫かな?」
「あら、いいじゃない、行ってきなさい、さくらさんに迷惑かけるんじゃないよ」
母が承諾した。
「でも、何か乗り気がしなくて・・・、やっぱり断ろうかなと思って・・・」
ところが、父が「は?何言ってんだお前は」と藤木を睨んだ。
母も顔を変えた。
「何を考えているんだね、約束したんでしょ、なのに後で断るなんてどういう事よ!?だからアンタは卑怯って言われんのよ!」
藤木は凍り付いた。親にまで「卑怯」と呼ばれる羽目になってしまった。行くしか選択肢がなく、仕方ないと思う藤木であった。
後書き
次回:「百貨店」
まる子とみどり、そしてそれぞれの祖父と5人でデパートに行くことになった藤木。藤木は複雑な思いを持ちながらも店内を楽しむが、彼らはとんでもない事に遭遇する・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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