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武装少女マキャヴェリズム~東雲に閃く刃~

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第一話 夜明け前の茜色

 
前書き
はじめまして!鍵のすけくんと申します!
武装少女マキャヴェリズムやしなこいっが好きで書き始めました! 

 
 ――私立愛地共生学園。

 元は女子高だったが、共学となった際に共に生きる事となる男子を恐れた女子たちの『武装』が許されている聞く者が聞けば異様と言える学び舎である。
 その門戸に立つは一人の少女。

「ここが今日から私が通う私立愛地共生学園……」

 校舎に一礼。そして、歩みを進める。


東雲(しののめ)紫雨(しう)(まか)り通る」


 登校時間というのもあり、右を見ても左を見ても『武装女子』達が闊歩していることの何たる仰々しいことか。
 少なくとも、自分が知っている学生という存在は警棒など携帯しない。
 かくいう紫雨もその一般的な存在ではない。手には鞄、背負うは三尺八寸の“東雲紫雨の魂そのもの”。刃が付いていなければ武器は自由に選択できるとのことだったので、迷わずコレを選ばせてもらった。
 向かうは職員室。そこから自分の教室に案内される手筈となっている。

 それにしても、と紫雨は少々拍子抜けをしていた。
 男子に辱しめを受けぬよう武器を手に取った武装女子達の気性ならば、例え同性だろうが自分のような異邦人を見つけ次第、すぐさま鎮圧行動を取られるものと想定していた紫雨である。


 ――この身、既に迎撃態勢。


「……むぅ」

 しかして紫雨の殺伐とした予測はやがて杞憂へと変化していく。歩いても歩いても、耳に入ってくるは笑い声や他愛のない世間話。
 自分の“目的”はこんなに平和な場所にいるのかと、紫雨は僅かな不安に駆られてしまう。
 気づけば立ち止まっていた。悩んでいても仕方がない。
 時は水の流れのように。考えることも大事だ。だが、些事に気を取られるほど、この紫雨の人生は平穏ではない。

「お。キョロキョロしてるってことはおたく、もしかして俺と“同じ”かい?」
「何奴」

 一目見て分かった。この男は相当にデキる、と。見る者は軽薄そうだと陰口を叩くだろう。しかし、それは外見だけ。その眼の力強さは何たることか。この眼が分からぬ者は等しく戦いに身を置いていないと断言できてしまえる。

「何奴、とはおっかないねえ。俺は納村。納村(のむら)不道(ふどう)だ。アクセントは頭にお願いするぜ。ま、それはともかくまずはその綺麗な手と握手してみたいもんだねぇ」
「それは善き。私は東雲紫雨。私も貴方のような者とは知人になりたいと所望している」
「おぉっと。払われるかと思ったが、意外とノリが良いねおたく」

 手を握ってみて、紫雨の予想は確信へと変わっていた。自分の知っている限り、これほど“手の皮が厚い”男はいない。相当な鍛錬を積んできたことが良く分かる。それはもう、凄まじいと。

「流派は?」
「何の事かねぇ?」
「……失敬」

 言うが早いか、紫雨はいきなり身体を触りはじめる。

「うぉっ!? ちょ、あんた何やってんの!? 朝っぱらからおっぱじめる趣味は俺にはないぞ!」
「安心して。私もそんな趣味はない」

 言いつつ、ベタベタとそれはもうベタベタと。逆セクハラと称されてもなんら反論出来ないくらいにねっとりと触診をする紫雨。
 身体、特に足回りを念入りに調べてみてよく理解した。剣士ではない。そして、やはり一般人でもない。否、訂正しよう。この男は――。

「――無礼を詫びたい」
「それは、何に対してだい?」
「過酷な訓練をしたのですね」
「生憎と、もうそういうもんとは何ら関係ない身分なんだ」

 それ以上は紫雨も心得ていた。人には言いたくないことが山ほどある。今回、その地雷を踏んでしまった事。ならば、丁重に足を踏み外す以外ない。

「そういうおたくは?」
「意味が分かりかねる」
「恍けんなよ~。あんたの眼と、今楽しげに登校している武装女子達の眼と、ぜーんぜん違うんだよねぇ」
「……目つきが悪いと言われているようで、少々傷つくというのが正直な所だ」
「おいおい、そう捉えるなよ。個性としては一級品だってことを言いたかったのよねぇ」

 どうやら化かし合いには向こうに一日の長があるらしい。踏み込んだつもりが、逆に踏み込まれてしまっていたようだ。しかして不愉快ではない。
 謎の魅力だと、皮肉抜きで思う紫雨。


 ――刹那、東雲紫雨を射貫く眼光有り。


「――ッ」
「うん? どした? パパラッチでもいたのかい?」
「そちらの方がまだ歓迎出来たのだけど……」

 校舎の高い方、あれがどの部屋なのかは分からないが。明らかに感じた視線。確実にこちらを見ていたと言える。そして少々の不覚をしたのもまた事実。

「……反応しない方が良かったか」
「もーしもーし? 視線がお空へ行っちゃってますよ~」

 そこから歩くこと数分。ようやく職員室へ辿り着いた二人は、担任の教諭からまだHRへ行く準備が出来ていない旨、話をされてしまう。
 だったらと、納村は先に教室を出て行ってしまう。
 
「あっ行っちゃった……! 男子だからまずは私が付いていってあげないとと思ったのに!」
「先生、それはどういう意味ですか?」
「えっとね……」


 ◆ ◆ ◆


「……見取り図だとこの辺り」

 『2-13』。ここが自分の教室にして、納村の教室。
 この胸の内に灯る不安が現実となっていないように祈りながら、紫雨は扉を開いた。

 その光景を何と例えようか。多対一。鬼の面をした女生徒を先頭に、皆が武器を納村に突き付けている。
 納村と目が合い、そして鬼面女子と目が合った。

「何者だ? ……と、そうかそう言えば今日転入してくる者は二名だったか。失敬」

 彼に向けているような敵意を込めず、鬼面女子は刀を構えたまま話を続ける。

「悪いが少々立て込み中だ。HRが始まるまで、空いている席に座っていてくれ」

 敵意無数、しかして受ける相手はただ一人。
 これは反している。
 何故。その言葉だけが無限に反芻する。この学園の事は聞いている。女の立場が限りなく上で、男が下。だが、それだけで認められるほど、東雲紫雨は――。


 ――人道逸脱。容認不可。


「武器を持つ者が寄ってたかって何事かッ!」


 発した一声で、クラス中の視線を集めてしまった。呆気に取られたようなそんな感情が丸見えの顔ぶれに対し、紫雨は全く恐れを感じることもなく、流暢に話を続ける。

「丸腰の相手へ向けるソレを何と心得る。一目する限り警棒の数々。……特に鬼面を被りし我が同級生」
「……私か?」

 名もまだ知らぬ相手へ紫雨はきっぱりと言う。その相手が、“どんな者”かも露知らず。

「貴方にとって、その手に持つ一振りは相手を脅すに過ぎないものなのか?」
「なっ!?」

 返答に窮する所に、取り巻きの女子生徒達がガヤを囃し立てる。

「ちょ、ちょっと! いきなり何なのよ!?」
「鬼瓦さんに失礼でしょ!」
「天下五剣筆頭を知らないの!?」

 数人が紫雨へ警棒を向ける。
 結論から言うのならば、紫雨は失敗も失敗。大失敗をしていたのだ。

 ――鬼瓦(おにがわら)(りん)

 武装女子の頂点に立つ五人の剣客。そのまとめ役と言える人物に唾吐く言動をしたのだ。そんなことをして、ただで済む訳にはいかなかった。
 今ならまだ間に合う。自分の吐いた言葉を認め、そして頭を下げればこれから先、無事平穏に過ごせることは約束されていただろう。
 しかし、そのような安寧を享受できるほど、東雲紫雨は潤ってはいなかった。

「知らぬ。どのような崇高な名でも、このような非道が罷り通るには至らぬ」
「あ、あなたっ!」
「お、おいっ止めろっ!」

 数人の武装女子が警棒を構え、鬼瓦の制止の声すら無視し、拘束すべく駆け出してきた。
 いずれも敵意をむき出し。重傷を与えるとまではいかなくとも、傷つける意思がはっきりと読み取れる。警棒の威力は推して知るべし。
 ただ黙って受け入れる訳にはいかない。そのような物言わぬ暴力に屈する程、この身はやわに鍛えてはいない。

「数の利に任せて来るか……」
「おいおい。おたくは関係ないだろ! 大人しくしとけって!」

 まさかのここで納村からの声掛け。この土壇場で自分を心配してくれることに、有難さを感じたと共に――この窮地に絶対に屈してはならぬと自分へ言い聞かせる。
 背中に提げていた袋から取り出すは紫雨の魂である――竹刀。
 腰の鞘に納めるかのような構え。そこから丹田に気を溜める。己が研鑽し続けてきた流派には、時に多対一という絶望的な状況も想定されていた。
 状況によっては苦し紛れも良い所。しかし、そのような状況も打開しうると確信され、紫雨の剣術は研ぎ澄まされてきた。


「東雲一刀流――複式六の型」


 大振り。線引くような横一閃にほんの一瞬。ほんの一瞬だけ気を取られた隙。その度し難い隙を突くのがこの東雲一刀流の真骨頂。
 まずは手近な女子の手の甲、そして喉を打つ。次に足を打ってからの顎。そして最後の女子には、手の甲を打ってからの切り上げ。
 二撃。複数相手に対し、手近な相手から確実な二撃を入れ、次の相手へまた二撃を入れる。対応する時間と、次の相手へ移るための時間を鑑みての最善中の最善。

 これぞ多対一の戦闘を想定した東雲一刀流複式六の型――『朧雲』。

 技の優美さも精密さもない。“生き残る”と言うことを主軸に据えた生存の為の剣。だが、その生き汚さは何物にも勝る。

「……ほう」

 斬り荒ぶ紫雨を見て、鬼瓦輪が興味深げに吐息を漏らす。

「貴様、名は何という?」
「東雲一刀流、東雲紫雨」
「東雲……?」

 その名に、鬼瓦は確かに聞き覚えがあった。


 ――東雲一刀流。


 彼の時代、死骸で城を作り上げたと言われる剣客、東雲玄羽(げんぱ)が開祖とされる剣術流派。時の将軍お抱えの剣客であり、主に暗殺の任務を命じられていたという性格上、『確実、不可避』の攻撃を絶対としている。
 抜刀術の主軸に、あらゆる苦難の状況を想定された剣法は、殺人剣でも、そして活人剣でもなくもはや――――。


「生き残り、果たすべくを果たすために練磨されたこの剣は、今のこの理不尽を打開するための鐘なり」


 三人を倒した。それはもう言い訳も何もなく、ただのありふれた“戦線布告”なのだ。本来、そんな真似など絶対に行わないのだが、この理不尽を目の当たりにしてはそのよう正常な判断など出来はしない。
 否。むしろ沸騰に沸騰した上で、冷を被り、頭をさっぱりさせたからこそ出来た行いなのかもしれない。 
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