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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv52 仲間との別れ

   [Ⅰ]


 地上に出た俺達は暫しの間、脱出した穴のある丘で体を休めた。
 空を見上げると日も傾き始めていた。感覚的にだが、日没2時間前といったところだ。
(……もう少し休みたいところだが、あまり長くここに留まるのは良い選択ではないな。冒険者や魔導騎士団は、まだあの林にいるのだろうか……。何れにしろ、そろそろ動いたほうが良いな……)
 俺はアヴェル王子にその旨を伝えた。
「アヴェル王子、日が少し傾いてきました。明るい内に移動をした方が良いと思うのですが、あの林はどの辺りなのか、わかりますかね?」
「すいません、俺はこの辺には少し疎いんですよ。ウォーレン、わかるか?」
 ウォーレンさんは周囲を見回しながら、困った表情で答えた。
「それが、今どの位置にいるのかがわからないので、私も少し困っているところなのです」
 と、ここで、バルジさんがある方向を指さした。
「多分、この先でしょう。この方角を暫く進むと林が見えてくる筈です。そこが、先程の林だったと思います。だろ、ラッセル?」
「バルジの言う通り、このまま真っすぐ進めば、先程の林ですよ」
 アヴェル王子はその方角を見詰めた後、神妙な面持ちで皆に告げた。
「ここにいる皆に話がある……」
 全員がアヴェル王子に注目する。
「今日……この洞窟で見たあの遺言についてだが……あれは他言無用でお願いしたい。今は王都を混乱させたくないのだ。この約束を守ってもらえるだろうか」
 暫し、無言の時が過ぎてゆく。
 程なくしてバルジさんが口を開いた。
「わかっております、アヴェル王子。絶対に他言はしません。皆も良いな? これは絶対だぞ」
 その言葉に皆が頷く。
 アヴェル王子は安堵の表情を浮かべた。
「……ありがとう、皆。さて、では疲れているところ悪いが、コータローさんの言う通り、日も傾き始めている。そろそろ戻るとしようか」
「ええ、そろそろ移動を始めましょう」
 俺達は頷き、のっそりと立ち上がる。
 そして、戦闘のあった林に向かい、行軍を開始したのであった。

 俺達は道無き雑草地帯を進んでゆく。
 周囲に目を向けると、葦のような背の高いイネ科の植物が、至る所に群生していた。
 その為、ローブなどが引っかかって進みにくかったのは言うまでもない。
(はぁ……地上にでてホッとしたが、正直、こういう所は進みたくないなぁ……)
 俺はそこで、斜め上にいるラティに目を向けた。
 ラティは涼しそうな顔で、パタパタと羽ばたいていた。
(……考えてみると、ラティはこういう時って良いよな。何の障害もないし……)
 ふとそんな事を考えていると、ラティと目が合った。
「どうかしたん、コータロー。ワイの顔になんか付いてるん?」
「いや、そうじゃないよ。こういう時、ラティは飛べるから良いなと思っただけさ」
「へへへ、まぁそら、しゃあないわ。ワイの能力やもん。でも、ワイらドラキー族は、コータロー達みたいに力はないさかい、そこが逆に羨ましいけどな」
 俺達がそんな会話をしていると、シーマさんが話に入ってきた。
「でも本当、コータローさんの言うとおりね。ラティが羨ましいわ」
「なんや、ネェちゃんもかいな。まぁこればっかりは種族の違いっちゅうやつや。どうにもならへんで」
「確かにね……」
 と、そこで、シーマさんは俺に視線を向けた。
「コータローさん……さっきの遺言だけど……アレって、貴方はどう考えているの? 本当だと思う?」
「本当かどうかは、流石に、今の段階で断言はできませんよ」
「そ、そうよね」
「ですが……物事というのは、原因があって、必ず結果があります。これは、世の絶対的な法則と呼べるモノです。例を挙げるなら、俺達が今、こういう結果になっているのも、あの林でヴィゴールと戦ったという原因があって発生したものです。ですから、最終的に彼が洞窟であのような姿になってしまったのも、必ず原因があるのですよ。その原因とは、あの遺言の中にあるのかもしれませんし、そうじゃないのかもしれない。ですが、彼の遺言に記されている謎かけを解いて、あの杖が出てきた事は無視できない事実です。とはいえ、それだけでは断定できません。何しろ、1000年前の事ですからね。その原因を特定するのは並大抵な事ではありません。でも、可能性はあります。ですから、あの遺言で彼が訴えたかった事が間違いないと裏付けがとれた時に、あの内容が真実だったのかどうかが、わかるんだと思いますよ。長々と話しましたが、問題はどうやってその裏付けをとるのかって事です」
 話し終えると、皆が俺に視線を向けていた。
(な、なんだ一体……俺、なんか変なこと言ったか……)
 アヴェル王子のしんみりとした声が聞こえてくる。
「……原因があって……結果がある。そうか……俺は大事な事を忘れていた」
 と、ここで、ボルズに背負われるバルジさんが、俺に話しかけてきた。
「コータローさん……1つ聞きたい。俺にバスティアンの財宝話をしたのはゴランではなく、イシュラナ大神殿で治療していた冒険者だ。もしかして、その冒険者も……魔物なのか?」
「恐らく、その可能性は高いでしょう。これは俺の想像ですが、あの話は冒険者達を呼ぶ為の餌の1つだったのではないでしょうか」
 バルジさんの表情が曇る。
「……かもしれないな。バスティアンの隠し財宝伝説は、多くの冒険者が挑んだ伝説だ。そこを魔物達に付けこまれたのかもしれない……」
 と、ここで、ラッセルさんが訊いてくる。
「コータローさん……貴方はこの間、ゼーレ洞窟にいる魔物達を見て、知っていると言いました。正直に答えてください……貴方から見て、あれらの魔物達に、王都の冒険者は太刀打ちできると思いますか?」
 これは難しい質問である。
 戦い方で変わるからだ。
「1対1ならまず無理でしょうね。単純な力や能力は魔物達の方が上です。ですが、どんな強い魔物でも、数の力と弱点を攻められる事は脅威だと思いますよ。要するに、戦い方次第だという事です。力が強くても、ラリホーのような眠りの魔法に弱い魔物もおりますしね。その辺の事を見極めるには、経験も必要ですが……」
 まぁ俺の場合、ゲームでおぼえた経験が殆どだが……。
「そう考えると、コータローは相当経験があるのだろうな……。アウルガム湖やあの林での戦闘もそうだったが、コータローは魔物達の弱点をよく知っている。どんな魔物と遭遇しても、慌てずに淡々と弱点を突き、そして、戦いを有利に進めてゆく。王都の第1級宮廷魔導師や魔導騎士でも、あんな芸当ができる者は、そうはいない……」と、ウォーレンさん。
 続いてミロン君も。
「コータローさんはすごく優秀な魔法使いだと思います。どこかで見ていたかもしれないアシュレイアという魔物も、あの戦闘で脅威に感じたんじゃないでしょうか……」
 確かに、そこが懸念事項であった。
(ミロン君の言う通り……俺はアシュレイアにロックオンされたかもしれない。が……俺の推察が正しければ……アシュレイアはあの時、俺が使ったデインの魔法剣を見る事が出来なかった筈……ン?)
 ふとそんな事を考えていると、アヴェル王子の声が聞こえてきた。
「前方に林が見えてきた。あれがそうなのかい?」
「はい、あの林がそうです」
「まだ皆いるかな……」
「いるといいわね。あんな事があった後だから、今日は賑やかな所にずっといたい気分だわ……」
「私も……今は1人でいたくない」
 今日は色々と嫌な事を経験した日だから、皆、心細くなったのだろう。
「魔導騎士団と宮廷魔導師は、多分、まだいるとは思うが……冒険者達はどうだろうな」
「……いてくれると助かるな」
 と、そこで、アヴェル王子は困った表情で1人呟いたのであった。
「帰ってこれたのは良いが、俺の今の姿を見ると、皆、驚くかな……」
「まぁ確実に驚かれるでしょうな」
「ふぅ……今は変装道具がないし、諦めるしかないか」――

 そんなやり取りをしながら、俺達は暫く草原を進み、林の中へと入っていった。
 そして、ヴィゴールと戦闘のあった場所まで行くと、魔導騎士団や宮廷魔導師に加えて、冒険者達もちゃんと待機していてくれたのである。
 俺達の姿を見た魔導騎士や宮廷魔導師に冒険者達は、ホッとした表情を浮かべると、こちらに駆け寄ってきた。
 だが、アヴェル王子の姿を見た魔導騎士や宮廷魔導師達は驚くと共に、慌てて跪き、頭を垂れたのである。それは、冒険者達にしても同様であった。
 予想していた事ではあるが、アヴェル王子はその光景を見るなり、苦笑いを浮かべていた。
 ちなみにだが、アヴェル王子はこの時、残念そうにこんな事を言っていたのである。
「ふぅ……ハルミアとして活動する事はもうできないな。仕方ない……騎士ハルミアはもう終了だ。暫くは、王城で静かに公務をこなすか……」と。
 今回はバレた数が凄いから、こうなるのも無理ないだろう。っていうか、それが本来の王族の姿じゃないの? と思ったのは言うまでもない。
 まぁそれはさておき、その後、アヴェル王子とウォーレンさんの口から、ヴィゴールを倒したという報告が皆にされた。
 その場にいた者達は皆、歓喜の声を上げた。あのとんでもない魔物が倒されたと聞いて、皆、心底ホッとしたのだろう。
 そして、粗方の報告を終えたところで、俺達は王都へと移動を開始したのである。


   [Ⅱ]


 山に日が落ち、辺りが薄暗くなり始めた頃、俺とラティは屋敷へと帰ってきた。
 アヴェル王子とウォーレンさん、そしてミロン君はそのまま王城へと向かうようだ。ヴァリアス将軍という方に、今回の一件を報告するためだろう。
 ちなみにだが、アヴェル王子はフードを深く被って顔を隠しながら、オヴェリウスに入った。
 とはいうものの、アリシュナに入る時だけは言い訳が通じないので、アヴェル王子も素顔を晒していた。その後、どうなったのかは言うまでもない。
 まぁそれはさておき、屋敷へと帰ってきた俺とラティは、そのまま寝室へと行き、とりあえず、休む事にした。
 あんな化け物と戦った上に、洞窟に閉じ込められてしまったのだから、もう動きたくないのだ。
 つーわけで、俺は寝室の扉を開け、中へと入った。
 するとその直後、2人の女性が俺達を迎えてくれたのである。
「おかえりなさい、コータローさんにラティさん」
「お疲れ様でございました、コータローさん。それからラティさんも」
 アーシャさんとサナちゃんだ。
 俺も笑顔で答えた。
「只今、戻りました」
「ありがとう、アーシャねぇちゃんにサナねぇちゃん」
「朝早く出ていかれましたが、今日はウォーレン様達と何をされたんですの?」
(……今は2人に、あの話は出来ないな。適当に誤魔化しておこう……)
 俺はラティに目配せした。
 ラティは小さく頷く。
「以前言っていた、アウルガム湖関連のやつですよ。まぁそれほど大したことはしてないです」
「せやで。湖の調査手伝ってただけや」
 アイコンタクトがうまく通じたようだ。
「あら、そうでしたの」
 と、ここで、サナちゃんが訊いてくる。
「明日はどこにも行かれないんですよね?」
「うん、明日はどこにも行かないよ。2人と一緒にいられる最後の日だから、予定は入れてない」
 2人共、ホッとした表情になった。
「ここ最近、コータローさんは忙しそうでしたから、もしかしたら明日も……と考えてしまいましたわ」
「私もです……」
「それは大丈夫ですよ。ところで、明日はいつ頃、使者がお見えになるんですか?」
「私は昼過ぎと聞いておりますが」
「私もそのくらいです」
 どうやら同じような時間帯に、お迎えが来るみたいだ。
「昼過ぎですね。了解しました。それまではどこにも行かず、皆と一緒に過ごす事にしますね」
「コータローさん……」
 サナちゃんはそこで俺に抱き着いてきた。
「あ!? サナさん、またですか!? なら……」
「へ?」
 するとアーシャさんも俺に抱き着いてきたのである。
 なんか知らんが、両手に花の状態? であった。
(……お、俺ってもしかして……今、モテてるのか……ふわぁ~、2人共、良い香りだな……)
「鼻の下伸びてるで、コータロー」
「ほっとけッ……ン?」
 と、そこで、扉がノックされたのである。
 続いて、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「コータローさん。レイスにシェーラだ。お疲れのところ申し訳ないが、今、良いだろうか?」
 その声が聞こえるや否や、2人はササッと俺から離れ、身なりを整えだした。
 流石の2人も、この状態は恥ずかしいのだろう。
「ええ、構いませんよ。どうぞ、お入りになってください」
「では失礼する」
 扉が開かれ、レイスさんとシェーラさんが中に入ってきた。
 2人はサナちゃんに気付き、頭を下げる。
「やはり、こちらにおられましたか、イメリア様」
「はい」
 サナちゃんは屈託のない笑みを浮かべる。
 レイスさんとシェーラさんはそんなサナちゃんを見て、穏やかで優しい表情を浮かべていた。
 なんとなく、我が子を見守るような表情であった。
 これまでの逃亡生活で、こんな風に微笑むサナちゃんを見る事がなかったのかもしれない。
 まぁそれはさておき、要件を聞いておこう。
「どうされました、レイスさんにシェーラさん。留守中に何かありましたかね?」
 2人は、いつにない畏まった表情で口を開いた。
「コータローさん……我々は明日の昼過ぎ、この屋敷を出て、イメリア様をフェルミーア様の元へとお連れする。貴殿とアーシャ様のお陰で、我々は無事、任務を達成する事できそうだ。こんな間際になって申し訳ないが、礼を言わせてほしい。……王都まで我々と共に旅して頂き、誠にありがとうございました。我々は貴方がたに救われました」
「レイスさん、そんな畏まった礼は必要ないですよ。俺達は目的を共有した旅の仲間だったんですから」
「そうですわ」
 シェーラさんは頭を振る。
「そういうわけにはいかないわ、コータローさん。私達はザルマの一件で、貴方がたに大変な迷惑をかけてしまったのだから。あの時は本当に申し訳ありませんでした」
 2人は深く頭を垂れた。
「お顔を上げてください、2人共……それについては、もう良いです」
「しかし……」
「良いんです……それに俺、実は皆に感謝しているんですよ。楽しい旅ができましたからね……。短い間でしたけど、気の合う仲間とする旅って、良いもんだなぁって……ずっと考えてました。また、こんな風に旅が出来たらいいな、てね。だから、礼を言いたいのは俺もなんですよ。皆にね……」
 この場にいる俺とラティ以外の4人は、少しジーンときているようだった。
「確かに、楽しい旅だった。今までで一番……」
「本当ね……楽しかった。実は私も……コータローさんと同じ事を思ったわ」
 レイスさんとシェーラさんは少し目が潤んでいた。
 続いてアーシャさんとサナちゃんも。
「私も、皆さんと旅が出来て、本当に楽しかったですわ」
「私もです……今までで一番楽しい旅でした。本当に、一番……」
 サナちゃんは大粒の涙を流す。
 そして、俺に抱き着き、身体を震わせて、静かに泣き続けたのであった。
「サナさん……」
 アーシャさんはそれ以上何も言わなかった。
 もの悲しくもあり、感慨深くもある静寂が、この部屋に漂い始める。
 だが次の瞬間、ラティがKYぶりを発揮したのであった。

「そっかぁ……皆、そないに涙出るほど、楽しい旅やったんか……ワイも今度、コータローと旅してみよっと」

 これを聞いた瞬間、皆がガクッと肩を落としたのは言うまでもない。
 相変わらず、空気を読まない奴である。
 まぁそれはさておき、ここで仕切り直しとばかりにレイスさんが言った。
「コ、コータローさん……まぁそういうわけでだ。我々は明日、フェルミーア様の元へ向かうわけだが、この屋敷を出る前に貴方に渡したいモノがあるのだ」
「渡したいモノ? いいですよ、別に……。そんなに気を使わないでください」
「そういうわけにはいかないわ。これはイメリア様からの贈り物だから、絶対に! 受け取ってもらうわよ!」と、シェーラさん。
「え、サナちゃんから?」
 俺はそこでサナちゃんに目を向けた。
 サナちゃんは頷く。
「私にはもう必要ないモノなので、是非、コータローさんに受け取ってもらいたいのです。レイス、お渡ししてください」
「ハッ、イメリア様」
 レイスさんは懐から、純白の布に包まれた何かを取り出す。
 そして布を解き、小さな水差しを思わせる小瓶を俺に差し出したのである。
 瓶の中には、仄かに光を放つ黄色い液体が入っていた。
 何の液体かはわからないが、どことなく魔法薬のような印象を受けた。
「これは?」
 サナちゃんが答えてくれた。
「これはラミナスに伝わりし、古の魔法薬であります。消耗した魔力をすべて回復させる魔法薬で、【エルフの飲み薬】という名で伝わる、非常に貴重なラミナスの秘薬であります」
「エルフの飲み薬……」
「はい。古代魔法王国カーペディオンより更に昔……グアルドラムーン大陸に豊かな森が広がっていた頃、そこにはエルフと呼ばれる種族が住んでいたそうです。ラミナスの伝承では、我等ラミリアンの祖先は、古の種族・エルフであると伝えられております。そして、この魔法薬は、その祖先が残した遺物の1つなのでございます」
「エルフが祖先……」
 ある意味、納得の話である。
 見た目がモロにそんな感じだからだ。 
(まぁそれはさておき……エルフの飲み薬か……そういえば、こんなのあったな。懐かしいなぁ……でも、これって物凄いレアアイテムやったような……。まぁそれはともかく、この魔法薬は、サナちゃんの言っている通りの効能だったな。これが手に入るのなら凄いことだが……いいのだろうか)
 とりあえず、確認した。
「これ……かなり貴重な魔法薬だと思うけど、俺が貰ってもいいモノなのかい?」
「構いません。お収めになってください。私にはもう必要ないモノですので、どうぞ、役立ててください」
「そうですか……では、有難く頂戴いたします」
 ここでアーシャさんが話に入ってきた。
「よかったですわね、コータローさん。次は私の番ですわね。私も、貴方に渡すものがございますの」
 アーシャさんはそう言うと、部屋の片隅に行き、青い布に包まれた何かを持ってきたのである。
(なんだろう、一体……長細い箱みたいだが……」
 俺がそんな風に考える中、アーシャさんは布を解いた。
 すると中から、美しい銀色の箱が姿を現したのである。
「これは兄からの贈り物ですわ。どうぞ受け取って、中をご覧になってください」
「では、早速」
 箱を受け取った俺は、上蓋を捲る。
 すると中には、銀色に光輝く美しい像が入っていたのだ。
「お兄様曰く、これは銀の女神像と呼ばれるものだそうですわ。どうぞ、お受け取りになってください」
「銀の女神像……」
 これまた懐かしい名前である。
 ドラクエⅣの第3章における金策アイテムだ。
 とはいえ、ゲームに出てきた銀の女神像と同じ物ではないだろう。だって、女神イシュラナの像だし……。
「良いのですか? こんな高価そうな物をもらって……」
「ええ、構いませんわよ。それから、お兄様が言ってましたけど、女神イシュラナ像の収集家に売ると30000ゴールド以上になるそうです。ですから、お金に換えてくださって結構だと言ってましたわよ。というか、お金に換えてくれってお兄様は言ってましたわ」
「30000ゴールド以上ですか……すごいですね」
 どうやらこの世界でも、金策以外の何物でもない扱いになりそうだ。
 つーわけで今度売ってしまおう。
「なんか悪いですね……俺ばかり、皆から、こんな貴重な物を頂いてしまって……」
 4人は頭を振る。
「気になさらないでください。貴方がいたからここまで辿り着けたのですから」
「コータローさんの機転に何度救われたことか」
「そうよ、コータローさん。これじゃ足りないくらいよ」
「シェーラの言う通りです。それに私は、日を改めて、コータローさんにお礼をしたいと思ってるのですから」
 サナちゃんはそう言って、また俺に抱き着いてきた。
「あぁ!? サナさん、またですか? さっきのは良いですけど、この空気の中では駄目ですわよ!」
「先手必勝です」
「なら私も」
 俺は2人に抱き着かれた。
(なんか複雑な気分だ。嬉しいような……悲しいような……まぁいいか)
 と、ここで、サナちゃんが俺に話しかけてきた。
「コータローさん、それはそうと、昨晩の話の続きが聞きたいです。今いいですか?」
「へ? 昨晩の話の続き……何の話だったっけ?」
「忘れたんですか。昨晩話してくれたじゃないですか。確か……ローレシアとかいう国の王様が、実の息子に50ゴールドと銅の剣だけを渡して、お供も付けずに、1人で魔物討伐に行かせたという、凄い話の続きですよ」
「あ、それ、私も気になってましたの。確か、サマルなんとかという国の王子と、どっかの街でようやく合流したところで終わってましたわ。その続きを聞かせてください」
 そういえば、昨晩、そんな話をしたのを思い出した。
 ここでラティがボソリと呟く。
「なんやねん、その話……王様が息子に、50ゴールドと銅の剣だけで魔物討伐って……ある意味、虐待やがな。ワイが寝た後、そないな恐ろしい話してたんか」
「ほ、本当ね」
 ゲームだからあまり気にならないが、リアルだと、ラティとシェーラさんの反応が普通だろう。
 まぁそれはともかく……。
「ああ、あの話の続きか。いいよ。ええっと合流した2人の王子はね、その後……」――

 とまぁそんなわけで、俺は彼女達に、悪霊の神々という物語の続きを語る事となったのである。


   [Ⅲ]


 翌日の昼食後、晴れ渡る空の元、ラミナス公使とアレサンドラ家の使者がウォーレンさんの屋敷に訪れた。
 一緒に旅をしてきた仲間達とも、とうとう別れの時がやってきたのである。
 その去り際、俺はアーシャさんとサナちゃんに、この言葉を贈った。
「またお会いする事になると思うので、その時はよろしくお願いしますね、2人共」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
「私も、その時は、よろしくお願いしますね」
 アーシャさんとサナちゃんは、目が潤んではいたものの、涙は流さなかった。昨晩の話が効いたのだろう。
 実は昨晩、俺は2人だけに、とあるお願いをしたのだ。そこで今後についての話を色々としたので、また会えると安心したのかもしれない。とはいえ、詳細を語れないので、かなりボカシた話にはなったが……。
(2人には言えなかったけど……恐らく、次に彼女達と再開するのは、かなり意外な形でとなるだろう。ヴァロムさんの計画通りにいけば、だが……)
 その後、アーシャさんとサナちゃん達は、ウォーレンさんと屋敷の使用人達に挨拶をし、使者達と共に、第3階層のヴァルハイムへと向かった。
 そして、俺とラティは、2人を乗せた馬車が見えなくなるまで、ずっと手を振りながら見送り続けたのである。

 馬車が見えなくなったところで、ラティの声が聞こえてきた。
「あ~あ……2人共、行ってもうたな。なんか、寂しくなるなぁ」
「まぁな。でも仕方ないよ」
 と、そこで、ウォーレンさんが俺に話しかけてきた。 
「コータロー……話がある。ラティと一緒に、ちょっと俺の部屋まで来てもらえるだろうか」
「わかりました」
「ン、ワイも?」
「ああ。では行こうか」
 俺とラティは、ウォーレンさんの後に続いた。

 ウォーレンさんの部屋に入ったところで、俺とラティはソファーに座るよう促された。
「そこに掛けてくれ」
「では」
「ほな」
 俺達がソファーに腰を下ろしたところで、ウォーレンさんは話を切り出した。
「話というのは他でもない、昨日の件についてだ……」
「そうだろうと思いました。で、何についてでしょう? やはり、遺言の内容についてですか?」
 ウォーレンさんはコクリと頷いた。
「ああ……実を言うとな……あの遺言に関しては、まだヴァリアス将軍の耳には入れてはいない。あまりに衝撃的すぎるのでな」
「でしょうね。俺もその方が良いと思います」
「ワイも正直、信じられへんもんなぁ……」
「まぁそれでだな、俺と王子は、あの手記の対応について悩んでいるのだよ。正直、どう手を付けていいのかがわからんのだ。何か妙案はないか」
「妙案と言われましてもねぇ……」
 ウォーレンさんが悩むのも無理ないだろう。
 なぜなら、あの手記はモロに異端審問案件だからである。存在そのものが危険なのだ。
「あの遺言は今、アヴェル王子が保管しているのですか?」
「ああ、今はな。だが、あれは非常に危険な代物だ。どうしたもんかと思ってな……」
「今はどこかに隠しておいた方が良いでしょうね。ところで、あの杖について、何かわかりましたか?」
 ウォーレンさんは溜息混じりに答えた。
「……遺言の通りさ。アヴェル王子が昨夜、宝物の管理記録を調べさせたよ。そしたら、盗まれた雨雲の杖で、まず間違いないだろうとの報告が、今朝がたあったそうだ」
 なんとなく、ウォーレンさんは面白くなさそうな感じであった。
 多分、間違いであって欲しかったのだろう。
「雨雲の杖であった事が不味いのですか?」
「……あれがただの杖だったならば、俺も深く考えずに済んだが……本物という事になると、話が違ってくるんでな……フゥ」
 そう言って、ウォーレンさんは疲れたようにソファーに背をもたれた。
「ところで、あの魔物達の事は、将軍に報告されたんですか?」
「ああ、したよ。俺達の報告を聞いて、ヴァリアス将軍も頭を押さえていた。どうしてこう、次から次へと問題が出てくるんだ、と嘆いていたよ」
「確かに……そうなるでしょうね」
「ああ。ン? おっと、そうだった……」
 何かを思い出したのか、ウォーレンさんはそこで背を戻した。
「これを言うのを忘れてたよ。ラティ、お前は暫く、俺の屋敷にいてもらうからな。今後、俺が良いと言うまで外に出ることは厳禁だ」
 今の言葉を聞き、ラティは目を丸くした。
「ええ、何ででっか!?」
「理由は勿論、あの一件を一部始終見ていたからだよ。おまけに、あの遺言も見ていたし。だからだ。それに、お前なんとなく、口が軽そうだし」
「そんな殺生なぁ。ワイ、口は固いですって。ホンマですって。なぁ、コータローもなんか言ってや」
 俺は頭を振った。
「今回は諦めろ、ラティ。それに、こうなった以上、ここにいた方が安全かもよ」
「安全て、どういう……ア!?」
 自分の置かれた状況に気づいたようだ。
「お前、今まで気づいてなかったろうけど、結構、危険な事に片足突っ込んでるんだぞ。魔物達にとって色々都合が悪いことを見てきたからな」
「せ、せやった……ワイ、ごっつ危ないやんか……」
「だから、ここはウォーレンさんに従っておくといい」
 ラティはしょんぼりと返事した。
「はぁ……そうするわ」
「ところで、ウォーレンさん。ミロン君はどこかに出かけてるんですか? 朝から見ないですが」
「ああ。ミロンには、ちょっと調べ物をお願いしたんでな」
「そうですか」
「ミロンに何か頼み事でもあったのか?」
「はは、まぁそう思いましたが、大したことじゃないんで自分で調べる事にしますよ」
「すまんがそうしてくれ。さて……」
 ウォーレンさんはそこで手帳のようなものを取り出すと、何かを確認し始めた。
「コータロー……今晩、夕食が終わって暫くしたら、何か予定があるか?」
「いえ、何もないですよ」
「では今晩、俺の部屋にもう一度来てくれ。恐らくその場に、アヴェル王子も来られると思う。色々とお前の意見を聞きたいそうなんでな。よろしく頼む」
「わかりました」―― 
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