過労
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第七章
酒屋より遥かに楽でだ、彼は家で留華に言った。
「もうずっとな」
「楽よね」
「ああ、農協の方がな」
「農協はまだね」
「それこそだな」
「あの酒屋よりもね」
遥かにというのだ。
「いいわよ」
「そうだな」
「色々なお仕事もあってね」
農協が携わっている仕事も多くてだ。
「それでね」
「だからだな」
「今のお仕事の方がいいわよ」
こう兄に言った。
「普通の時間で帰られて肉体労働ばかりじゃないでしょ」
「ああ、そこまではな」
「それならね」
「いいか」
「しかも福利厚生もしっかりしてるでしょ」
「あの酒屋はそうしたのはなかったな」
翔真は振り返って言った。
「充分には」
「お給料は?」
「そんにな」
そちらもというのだった。
「あまりな」
「そう、やっぱりね」
「使わなかったけれどな」
「それは使う機会なかっただけでしょ、とにかくね」
「ああした職場はか」
「本当に辞めてよかったわよ」
留華は真剣な顔で心から兄に言った、翔真はもう自分の姿を疲れきった中で見ることはなくなった。そして。
彼は後で聞いた、勤めていた酒屋がチェーン店全てでだ。
「潰れたの」
「ああ、労働条件やらがあまりに悪くてな」
翔真は家でだ、留華に話した。
「評判が知れ渡って募集しても人が来なくなってな」
「それでなのね」
「働く人がいなくなってな」
そうしてというのだ。
「もう全店閉店するしかなくなったらしい」
「当然ね、誰もそんなところで働きたくないから」
留華は兄に真剣な顔で話した。
「それこそ」
「不況になってもか?」
「そりゃそうでしょ、今は景気が持ち直しているし余計によ」
「そんなところにはか」
「行かないわよ、不況でもね」
そうした職場にはというのだ。
「酷使されて使い捨てにされるんなら」
「行かないか」
「そうよ、十何時間も肉体労働であれこれさせてたら」
働く者の負担を考慮せずにだ。
「潰れるわよ」
「そうなるんだな」
「そうよ、まあそんなところに最後までいないで」
留華は笑ってだ、翔真に言った。
「よかったわね」
「そうなるか」
「ええ、じゃあ明日もね」
「頑張って来るな」
今の職場でとだ、翔真は留華に笑って応えた。そうしてその日もぐっすりと寝てだった。そのうえで明日に備えて英気を養うのだった。
過労 完
2017・2・18
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