一の葦の年
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第一章
一の葦の年
アステカの者達は覚えていた、その話を。
「私は必ず戻って来る」
緑の身体に翼を持つ蛇の姿をした神がこう彼等に言ったというのだ。
「一の葦の年に」
こう言って彼は長い髭を持つ白い肌の男の姿にもなった。彼は人間の姿になる時はこの姿になるのが常だ。
そのうえで今は彼等の前を去った、そして。
彼等はこの神を待つことにした、それはこの国の誰もがだった。
「一の葦の年だ」
「この年に神は戻って来るのだ」
「我等の神ケツアルカトルが戻って来られる」
「その時を待つとしよう」
こう言ってだ、彼等はその一の葦の年を待った。その間にだ。
彼等が気付かない間に東の海から新たな者達が来ていた、馬に乗った者達は苦しい顔で彼等の道を進んでいた。
「相変わらずだな」
「何処に何があるかわからない」
「獣が多い」
「しかも空気が薄くなってきた」
「厄介な場所だ」
「実にな」
こう言い合いつつ先に進む、その彼等を指揮する者達もだった。
野営しているその場所でだ、苦しい顔で言い合っていた。
「黄金があるというが」
「そんなものは何処にもない」
「いるのは獣や虫だけだ」
「そして森や野蛮な者達だけだ」
「兵達は減っていくばかりだ」
「疫病も厄介だ」
まさにというのだ、そしてだった。
彼等の中でとりわけ目立つ者達の中でもだ、一際目立つ白い肌に長い髭を持つ顔の男がこう言ったのだった。
エルナン=コルテスという。彼は部下達に鋭い目で言った。
「しかしここで退いてもだ」
「得るものは何もない」
「そういうことですね」
「そうだ、ここまで来たのだ」
スペインから大海原を越えてというのだ。
「それでも苦労したな」
「はい、実に」
「あの海を越えるだけでもです」
「命懸けでした」
「それだけでも」
「そうだったな、そしてここに来てだ」
新たな大陸、ここにというのだ。
「このまま何もなしでどうする」
「そう言われますと」
「やるしかないですね」
「戦い勝ち得るべきものを得る」
「そうしなければなりませんね」
「そうだ、その為にはだ」
まさにとだ、コルテスは部下達にこうも言った。
「わかるな」
「はい、どの様な敵でもですね」
「何とか勝ちそしてですね」
「得るべきものを得る」
「そうすべきですね」
「そして祖国に帰りだ」
スペイン、この国にだ。
「王に栄誉を授けて頂くのだ」
「勝てばそれが得られる」
「それ故にですね」
「何としても勝つべきですね」
「こうした状況でも」
「勝利か死か」
コルテスはこの言葉も出した。
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