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提督はBarにいる。

作者:ごません
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不幸お茶の会・定期総会その1

 
前書き
今回は飯テロ要素が皆無であり、提督というか作者の嗜好がだだ漏れになっています。その辺に留意して読みましょう。 

 
 ウチの鎮守府、運営のほとんどは艦娘達の独立と自治に任せた運営を行っている。総務や主計なんかの事務方は勿論、酒保や各種施設の管理まで、艦娘達の裁量に任せている。その結果として明石の暴走で酒保がアレな事になっていたりはするが、まぁ概ね良好と言える経営状態だ。

 そんな中でも変わっているのが『サークル』の存在だろう。大学などに見られるサークル活動のように、一定の目的・目標の為に集団を作って活動する事を鎮守府として公式に認知しているのだ。その種類も多種多様で、最大の規模を誇る『嫁艦連合』を始め、九州に所縁のある地名や長崎造船所生まれの艦や佐世保所属だった者の集いである『九州艦娘の会』、走るのが好きな艦娘の集まりである『ランニング同好会』や俺に格闘戦で挑んで勝利したいという格闘バカの集まりである『提督に勝ち隊』等の趣味のグループまである。最近だと秋雲の奴が『同士』を募って同人サークルを作る!と息巻いてたっけな。さて、今宵の『Bar Admiral』に集った連中も、そんなサークルの1つなワケなんだが……

「でね?聞いて下さいよ。この間コンビニでピノ買ったら、幸せのピノが1箱に2つも入ってたんですよ!」

「まぁ、それは凄いわ」

「本当ですね姉様!」

 飲み過ぎて顔を真っ赤にした大鳳が、ジョッキをカウンターに叩き付けながら最近あったラッキーな出来事を語っており、扶桑・山城の姉妹がその話に食い付く。その隣ではどんよりとした雰囲気を漂わせる陸奥が、翔鶴に慰められている。ドイツ組のレーベとマックスもやけ酒なのかビールをグビグビと水のように飲んでいる。何ともカオスな空間で、この連中にも統一性が無さそうに感じるが、彼女らには『不運』という共通項があったりする。

 この集まりの名前は『不幸お茶の会』。立ち上げ人は扶桑で、普段から不運に悩まされている連中や前世で不幸な沈み方をした連中に声をかけてメンバーを募っているらしい。活動内容は不定期でのお茶会の開催。美味しいお茶と茶菓子をしばきながら、最近あった不幸を互いに語って笑い飛ばしたり、小さいけどこんなラッキーな事があった!と幸運のお裾分け大会をやっているらしい。……なんというか、活動内容を聞いてて切なくなってきたぜ、俺ぁ。




「……で?陸奥は何でそんなに凹んでんだ」

「ほら、最近姉さんに改二の改装が来たでしょ?」

 それは俺の記憶にも新しい。三笠教官が来ていたコートの様な外套を羽織って、凛々しさが増したと長門本人は喜んでいたのをよく覚えている。

「それがどうかしたか?お前だって嬉しそうにしてたじゃないか」

 長門本人が喜ぶのは当然だが、嬉しそうな長門を見て陸奥も喜んでいたと思ったのだが……何かあったのだろうか?

「……提督、姉さんのあの服装見てどう思った?」

「どうって……そりゃあ、格好良くなったとか、凛々しさが増したなぁとか。そんなトコだな」

「……正直、『番長が着てる長ランみたいだな』とか思ったわよね?」

「ぶっ!」

 俺も付き合って飲んでいたウィスキーが、噎せたせいで変な所に入ってきやがった。ゲホゲホと咳き込んで吐き出すと、長門には悪いが、正直に言えば見えてしまった。スケ番ではなく、男の方の番長が着てる服装に。

「まぁ、別に服装についてとやかくいうつもりは無いわよ?本人は気に入ってるし」

 陸奥が言うには、普段は羽織ったりせずにハンガーに掛けてあり、たまに眺めながらニヤニヤしているらしい。想像してみたが正直可愛いよりもキモいと思ってしまった辺り、長門の普段の残念っぷりが窺える。

「それは解った。だが、何で陸奥が落ち込んでんだよ?」

「だって、私も改二になったら着る可能性が高いのよ?アレ」

「あっ……(察し)」

 そういう事か。今までの改二の改装の際には、艦娘の艤装が刷新されるのに合わせて、制服のデザインも変わる事が多いが姉妹艦で同じようなデザインの制服になる事が多い。という事は、陸奥が着る事になるのだ。あの長門が着ているような長ラン(仮)を。

「どう考えたって、私にあの手の格好いいデザインが似合う訳ないじゃない!」

 そう言って嫌な物を流し込むようにグラスに注がれた達磨を煽る陸奥。確かにな……長門は凛々しい感じの美人だが、陸奥はどちらかといえば女性らしい色気を感じる美人だからな。長門に似合っても陸奥に似合うかどうかは微妙な所だろう。

「ま、まぁまぁ。まだ陸奥さんの改二が来た訳では無いですし、まだ希望はありますよ……」

 と、隣に座っている翔鶴が慰め……というかフォローに入る。しかし陸奥はそんな翔鶴をキッ!と睨むと

「姉妹揃って可愛い制服の翔鶴には、この気持ち解んないわよっ!」

 と叫んで泣き出してしまった。陸奥のセンスからすると改二の迷彩塗装も改二甲の紅白のミニスカ弓道着も可愛い制服の部類らしい。




「でもホラ、去年の陸奥さんの浴衣姿!提督も美人だって誉めてましたよね!?」

 チラチラとこちらに視線を送って、フォローしてくださいと懇願してくる若干涙目の翔鶴。仕方無い、助け船を出してやるか。

「あぁ。陸奥はショートヘアだろ?俺の個人的な好みかもしれんが、浴衣とか和服はショートの方が似合うと思うんだよな」

 和服とか浴衣の類いだと、髪がショートやアップになっていると、うなじの辺りが襟元からチラリと覗くだろ?あれがまた何とも色気を感じてな。個人的には浴衣姿は髪の短い女が好きだったりする。

「ホントに?ふふっ、お姉さん本気にしちゃうぞ~?」

「俺よか歳下の見た目でな~にがお姉さんだ。そういうのは若い男をたぶらかすのに使っとけ」

「あら、私は提督にぞっこんだもの。他の男を口説く気なんて無いわよ?」

 わぁお、何とも情熱的だこと。

「オーバーヒートして、第三砲塔爆発させんなよ?」

「ちょっと、ひどくない!?」

 ニヤリと笑いながらからかうのも忘れない。それにムキになって反論できる所を見ると、どうやら機嫌は直ったらしいな。それに顔を真っ赤にしている陸奥の膨れっ面も、滅多に見られない可愛い表情だしな。こういう時に堪能しとかないと。

「ショート……ショートに浴衣」

「山城、後で髪を結うのを手伝って貰えるかしら」

「勿論です姉様!」

 ……何だか余計な情報が他の連中にも出回ったような気がしないでもないが。

「あら提督、ショートヘアの方がお好みなんですか?私もバッサリ切ろうかしら……」

「止めとけ翔鶴、お前はロングヘアーの方が似合う。それにそんなに綺麗な銀髪なんだから勿体ないだろう」

 浴衣姿にはショートの組み合わせがいいと言ったが、髪型が似合うかどうかは人それぞれだというのが俺の持論だ。前に加賀の奴がロングヘアーにしようかと言っていたのを必死で止めたりもした。艦娘が生まれた当初の髪型が、一番似合っているように感じるんだよな、どうしても。髪の長い奴がアップにしたりポニーテールにしたりしているのは気分転換にもなっていいと思うのだが、バッサリと切ってしまうのは勿体無く感じてしまうからな。

「そうですか?じゃあ長いままにしておきますから、今度の秘書艦の時にはまた梳いて下さいね?」

「またか?……まぁいいけどよ」

「提督、今のお話詳しく教えて頂けますか?」

 扶桑がこちらの会話を聞いていたらしい。しかも、目が笑ってない。

「あ~……その日の秘書艦の奴にな?頼まれたら髪を梳いてやってるんだ。忙しくない時に、休憩時間にな」

 滅多に頼んで来る奴も居ないので殆どやる機会はないが、赤城や翔鶴はタイミングを見て毎回頼んで来る。金剛?アイツはわざわざ店の営業中でも寝る前には来てせがんで来るので、ほぼ日課と化しているし、そのついでに早霜も躊躇いがちに頼んで来るので、こっちもほぼ日課と化してるな。

「そ、そんな事を頼んだらして貰えたのね……不幸だわ」

 お決まりの台詞を吐いて、扶桑が落ち込んでしまった。 
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