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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第五章 Over World
  ウチ…来ます?



「マミがやられたって?」

「うん。それでいろんな魔法少女に声をかけるつもりだったんだけど、まずは君にと思ってね」

「そーかい」



送電線の鉄柱で、一人の少女がキュゥべえと言葉を交えていた。

手に持つたい焼きを、むしるように齧って食べる。
そしてニッ、と笑って眼下の街を見下ろした。


光のない夜の闇に、街が抵抗して光を放つ。

見滝原


昔、この街ではいろいろとあった。
戻るのは実にシャクだが、ここはいい狩場でもある。


「マミのやろーがいなくなったんなら、そりゃあたしの縄張りだね。ほかの魔法少女はいないんだろう?」

「いや・・・・いることはいるんだけど、彼女は仕事をしない」

「はぁ?魔女を狩らないってことかい?そいつバカか?・・・・・ま、知ったこっちゃないけど」

「今から行くのかい?」

「当然さ。いいタイミングだし。これであの面倒な奴ともおさらばだね」


そう言って少女は鉄塔から飛び降りる。

向かう先は、眼下の街。
高さはかなりあったが、着地の瞬間の一瞬の光で、少女への衝撃は緩和された。


そして


《キューイ》


その後を、小さな赤い鳥が追いかけて行った。



------------------------------------------------------------



そして夜は明け、朝になり、昼となり


そして放課後。


「今日はご一緒します!!」

「はあ・・・・どうもよろしく」


学校が終わってダッシュしたのか、翼刀の前にさやかが息を切らして走ってきた。
後からはヒィヒィ言いながらまどかが追い付いてきている。

何があったかと少し焦る翼刀だが、どうやら魔女探しのパトロールに付き合うそうだ。


「ってか、よくオレがここにいるってわかったな」

「マミさんのお見舞いには来てるかなって思いまして!!」

「なるほど」


三人が話しているのは病院の前。

マミは、ボロボロの身体で今だここで眠り続けている。
当然、彼女たちはマミのそんな容態までは知らないのだが。



「さやかちゃんは無理に魔女退治しなくていいんだけどな」

「でもやっぱりいざという時には・・・・少しは何かできるようになりたいんです」

「まどかちゃんだって付き合う必要はないんじゃ?」

「そんなことないです!!さやかちゃんががんばっているところ、ちゃんと見てないと!!」


そう言って、指で目を開いて「見るヨー!」と意思表示するまどか。
かわいい。


「あー、もうほんとにこいつはいい子だねぇ~!!もうほんとにまどか、私の嫁になっちゃわない!?」

「え?でもさやかちゃんは上条君の嫁だろ?」

「ばブゥッッ!!」

「ウわっ!?むせた!?」

「さやかちゃん!!鼻水出てる!!」


まどかの取り出したティッシュでグシグシと鼻を拭くさやか。

彼女の話だと、彼はすでに退院しているらしい。
しかしもう二、三日は病院に通い、経過を見、同時にリハビリも進めるとのこと。

そしてその後、無事に復学という流れだそうだ。


「いや~よかったよ。ホントよかった」

「ですね~。翼刀さんがいなかったら恭介もマミさんも大変なことになってましたよ~」

「そう・・・・だな」


さやかの言葉に、すこしどもってしまう翼刀。
返答が、すんなりと出せなかった。



「それでですね!!いくら翼刀さんに・・・・その・・・・まあ転校生がいても、やっぱり私の目の前で魔女が現れることだってあるかもしれないじゃないですか」

「まあそだな」

「二人が来るまでの、その間くらいは・・・・私でもできることがあるかなって」

「それでさやかちゃん、張り切ってたんですよ!」

「せっかく誰かを護れる力があるのに、護れたはずなのに護れないのは・・・すごく悔しいので」

「・・・・そうだな。じゃあ、いっちょがんばるか!!」

「はい!!」

「おー!!」


さやかの決意。
何かできたかもしれないのに、それだけの力があるのに、何もできないのは悔しいから。

その思いは、翼刀もよくわかった。


聞くと、さやかの武器は剣、固有魔法は治癒らしい。


「そっくりだな」

「まあ・・・・翼刀さんに憧れてた、ってのもありますし」

「え?」

「あ、いや、なんでもないです!!」

「ふーん・・・む」


翼刀が顔を上げ、脚を止める。
二人が少し先に進むが、すぐに止まって翼刀の隣に。


翼刀が睨み付けているのは、今歩いている道から逸れた脇道だ。
ビルとビルの隙間に出来た、小さな路地裏の道。

その壁は、前衛的な芸術家たちが買い込んだスプレーで塗りたくった色彩に彩られている。


「どうしたんですか?」

「っと・・・まどか、これ」

止まった翼刀の顔を伺うまどか。
隣でさやかが取り出したソウルジェムの、その中身が揺らめいているのを見て、この先の脅威を推察する。


「ま、魔女?」

「いや、使い魔・・・かな」

「・・・・・うん。この結界の荒さだと、使い魔レベルかな?」

「荒いんですか?」

「多分力も何もない、襲い掛かるだけの使い魔だ。結界も取り込むんじゃなくて、奇襲みたいに身体を隠すだけ。近くを通ったら飛び出してくるんじゃないか?あれ」


そういって翼刀が指を差して、その指先がホゥッ、と光る。
するとその先が水面のように揺れ、その先に何かあることがはっきりと分かった。


「この距離からこれっぽっちの力で揺さぶってあれだからな。相当弱い」

「で、でも普通の人からしたら・・・・」

「まあ、八割の確率で死ぬ」

「し・・・・」



はっきりとした翼刀の言葉に、まどかの言葉が詰まる。
さやかの顔も少し青いが、あえて翼刀はそのまま言葉を進める。


「ここは人通りも少ないし、そんな感じで力をたくわえていくんだろうな。使い魔は」

「人が通らないのに、力が集まるんですか?」

「使い魔も魔女も、絶望を糧とするからな。数人が行方不明になって、此処がある種の心霊スポットみたいに有名になる。すると気になった人は必ずいるだろうから、その人が調べに来る。そしてそれも食う」

「そ、それで「ここは恐ろしい場所だ」ってさせてですか?」

「そう。それで力を集め、さらに被害者の絶望も喰らう。あとは雪だるま式に増えていく」


ザッ、と


翼刀が一歩、道を外れて路地裏に足を進める。
その後を、二人はおっかなびっくりついて行く。


「まどかちゃんはさやかちゃんのそばに。さやかちゃんは向かってきた相手だけを斬ってればいいし、最悪逃げてもいい」

「わ、私も戦え」

「戦えるだろうことはわかるけど、さやかちゃんの力は戦うことよりも守ることの方が強い力だ。誰かを癒し、救う力だ」

「翼刀さんは?」

「俺の治癒はあくまでも剣の力だからな。俺自身の力じゃないし」


まあとにかくそういう方向で、と言葉を打ち切り、さらに歩を進める翼刀。



すると、道の中腹で案の定



「ギギギッッ!!」

使い魔が飛び出してきた。

壊れかけたラジオのような、歯車のかみ合わないような
そんな声ともいえない音を上げながら、見るからに化け物が飛び出してくる。


だが、それを翼刀は最初からわかっていたのか、右手で鷲掴みにして左側の地面に叩き落とした。

捕まれた瞬間に不動拳が指から放たれ、頭部を破壊。
更に叩きつけて消滅させるという、初歩的なコンボ。


が、この場に潜んでいた使い魔は一体だけではなかったようで


「ギッ!!」「ギギギッッ!!」「ギィ~ッッ!!」


更に数体飛び出してきた。
縄張りを荒らされたからか、仲間を殺されたからか、なんとなく怒りが感じられる。

二体を翼刀が蹴り飛ばし、一体はさやかに向かっていく。


そして三体目を翼刀が殴り飛ばした時には、さやかはもう二体目を相手にしていた。


「なかなか筋がいいな!!剣は棒じゃないからな。振り下ろすだけじゃなくて、身体ごと引きながら降ろすとよく切れる!!」

「は、はい!!」


向かってくる使い魔は怖いが、翼刀がそばにいることが安心につながっているのだろう。
背後にまどかもいる、ということもある。

さやかは無理に前に出ようとせず、向かってきた使い魔だけを確実に斬り倒していく。


だが、弱い分大量にいるのだろうか。
出てくる使い魔の数がなかなか減らない。


とはいっても、やはり弱いものは弱い。

こういってはなんだが、翼刀もさやかも、そして眺めているまどかもそろそろ飽きてきてしまっていた。


だが


「ダメだダメだ!!いいか?こうやって単調な時にもしかしたら敵の奇襲が来るかもしれない!!だから絶対に気は張ってないとダメだぞ!!」

「ハッ!?はい!!う~、やっばい今あたしボーっとしてた!!」

「こんな相手だからな~・・・さやかちゃん、今やってみたい攻撃法とかある?」

「あるにはあります!!」

「じゃあやってみて?」

「いいんですか?じゃあ、行きますよ!!」


ドンッッ!!と翼刀の拳が使い魔の波をいったん引かせ、その場から下がる。
しかしそれでも後から押し返してくる使い魔たち。


それを見ながら、さやかが腕を振るった。
するとスカートの中から現れたかのように、地面にストトトトン、と剣が数本現れて刺さった。


そしてそれを手にして


「おぉリャァ!!」

連続で投げつけて行った。
効果音をつけるなら「ビシュッッ!ドッ!!ビシュシュシュシュバァッッ!!!」と言ったところか。


しかも剣を抜いた後にまたさらに剣が出てくる。
剣の元はさやかの魔力なので、いくらでも出しようはあるのだ。

そうして波を押し込んでいき、さらには結界の中にまで剣は飛び込んでいった。

中に入って見えないが、時たま消えきっていない使い魔の破片が外に転がってきているところを見ると、中では大変なことになってるらしい。


そうして一分程して。

ついに使い魔はいなくなり、結界もなくなったのか投げた剣がビルの壁に一本刺さった。



「フゥッッ・・・どうですか?翼刀さん!!」

汗を爽快に飛ばし、キラキラした目で評価を求めるさやか。
さやかわいい。

一連の攻撃を見ていた、その翼刀の感想はというと


「しゅ、舜さんみたいだ・・・・・」

「? それってどういう評価なんです?あと舜さん誰?」

「いや・・・・たくさん剣を使う人がいてさ、その人も結構投げる人なんだ」

「マジですか!!」

「まあその人の場合、投げた先で剣が龍とかに変わるから更にタチ悪いけど」

「マジですか!?」


その話に「そんなとんでもない人がいるのか・・・・」と唖然としてしまうさやか。
そのとんでもない人は、遠くでくしゃみしてました。



「評価としては・・・・あの人知ってると、幸先が不安すぎる・・・・」

「そう言う評価なんです!?」

「ってかその舜さんってどんだけやばい人なんですか!?」

「聞いた話だと、キャンプファイヤーで砂浜にクレーター作ったらしい」

「「それはヤバい!!」」


声をそろえてビビる二人。
正直、話を直接聞いた翼刀も信じたくない話だ。


ともあれ


「まあいいと思うよ。さやかちゃんは接近戦もできるけど、その時ネックになるのは相手との距離だからね。ああやって一方的に殴れるなら全然安心でしょ」

「いいんですか?」

「自分と、そして友達に危害が及ばないならそれが一番だぜ?」

「あ・・・はい!!」



肩をバシン!と叩いて激励する翼刀。
それに対して、元気よく答えるさやか。

いいな~とそれを眺めるまどかだが、翼刀はまどかに向かっても「よくあの場で逃げなかったなぁ」と感心した声でまどかの頭に手を伸ばし――――


「何をしているの?」

「にゃぉンッッ!?」


ほむらの声で跳ね上がった。
ちなみに今の悲鳴、翼刀のです。


「こっちが心配で見ていれば・・・鉄翼刀、あなたは一体何をしようとしているのかしら?」

「ふ、普通に頭撫でようとしただけだって!!なにか?いかがわしいように見えたのか!?」

「まどかを褒めると、まどかはこっちに憧れを持ってしまうわ。それでまどかが魔法少女になりたい、なんて思ったらあなたどうするつもり?」


ほのぼの(?)としていた空気に、投げ込まれるほむらの一言。

突如現れたほむらだが、その声には明らかな非難の意志が込められていた。



「そ、それは飛躍しすぎじゃないか?」

「飛躍なんかじゃないわ。この子はちょっとしたことですぐに魔法少女になるような子なのよ」


が、その光景に我慢ならなかったのか、さやかが口をはさむ。


「ちょっと転校生!!」

「なにかしら」

「なんであんたはそうやって言いがかってくるのよ!」

「言わなきゃわからないからよ。鹿目まどか、あなたは今、魔法少女になりたいと思う?」

「え・・・・」


さやかの言葉をサラリと返し、まどかへと視線を向けるほむら。
昨日の屋上での一コマが嘘だったかのような、まるで別人かのような言葉の鋭さ。


「ほんの少しでも。みんなみたいに街を護りたい。そんな風に思ってない?」

「お、思って・・・」

「ない?本当に?」

「そ、それは・・・・・」

「思って悪いか?」

「翼刀さん・・・・・」


が、次の言葉はまどかの返答ではなく、翼刀の問いだった。
その言葉には、少しばかりの怒気がある。


「誰かを護りたい。何かできることはないか。どうすれば助けられるのか。そう思うことが悪いと言いたいのか?」

「そうはいってないわ。ただ、その為に自分の身を破滅させることはない。私はそう言いたいのよ」

「そうは聞こえなかったけどな」

「この子は自分を軽く見すぎるのよ。そうね・・・・車にひかれそうな猫一匹助けるために、その人生をすべて魔法少女に捧げるなんて言ったら、それは」

「それでも。守りたいとここが叫んだら守るべきだ」

ここ、と言いながら胸を指す翼刀。
その瞳には絶対に譲らない、硬い意志があった。


「その結果、誰かが悲しむとしても?」

「・・・・・」

「あなたがいなくなって、悲しむ人がいるとして・・・・それでもあなたは自分の命を投げ出すの?」

「だからそうならないようにするんだろ」


ほむらの言葉に一瞬黙った翼刀だが、返答そのものは即座に口から出てきていた。


そう


何かを護って、誰かが、もしくは自分が犠牲になる。

よくあることだ。
そう、自己犠牲は美しく尊い。

だが、その結果悲しむ人がいては意味がない。


暁美ほむらはそう言う。

残された人の悲しみを考えてと。



だが、鉄翼刀はそれを踏まえたうえで言い返す。


「だったら強くなればいい。自分も含めて護れるだけの。それができないなら」

「・・・・助けるべきではない、ということ?」

「いや?そこは誰かに助けてもらう。それが仲間だろ?」



あくまでも前向き。
そして、決してあきらめない。

翼刀のその視線は、決してほむらを非難する者でも、言い負かそうとするものではない。


むしろ、その視線はほむらを含めた全体を見ているようにも見えた。

まるで、彼女の背負う「不条理」が目に見えているかのように。


そしてその視線に込められたのは、それを越えた先を求める、まっすぐな光。



「・・・・・・あなたは知らないから――――」

「ん?」


が、それを知っても、ほむらは翼刀に向かって頷くことが出来なかった。

彼女だってそんなことは知っている。
ただ、彼女は裏切られた回数の方が多すぎた。



仲間に?
否、自分自身の希望や期待にだ。




「あ、あの・・・・」


重々しい空気の中、まどかがオズオズと手を上げて発言する。

あのさやかだって黙ってしまう重さだというのに話しかけられるあたり、まどかの方が肝は座っているかもしれない。

とりあえずこの場で無視する理由はない。
ほむらが言葉を返す。


「なに?まどか」

「使い魔が逃げようと・・・・・」

「「「え」」」


バッッ!!と
三人が振り返った。


すると三体くらいの使い魔が、まるで夜逃げのように結界から出てきていた。

というかどう見ても夜逃げである。
風呂敷を背負っているし。


「ギ!?」

ヤベ、バレタ!!とでも言っているのか。

ビックゥ!と身体を跳ね上げた使い魔が、体裁も何もなくスタコラさっさとその場を去ろうとする。


「に」「が」「すかァ!!」



翼刀とほむらが、刃と銃弾を使って遠距離の二体を屠り、残る一体に向かってさやかが飛び掛かっていく。

ジャンプからの、下に向けた剣の突き刺し。
まあ確実に仕留められるだろう。


使い魔に避けるだけのスピードはなく、さやかがそれを外すこともない。






バキィッッ!!

「うぁっ!?」

「ギギッッ!!」


さやかが何者かによって弾かれた。

その隙に使い魔は逃げ出した。


見ると、視線の先には一人の魔法少女がいた。



色は赤。
手に持つ武器は槍なのだろうが、今は形状が変わっている。
多節棍にもなるようで、ジャラジャラとそれをつなぐ鎖が舞う。


それには翼刀たちも驚いた。


地面に座り込むさやかに、その後ろで新たな少女を見る翼刀たち。



「なあ」

「なに」

「魔法少女って魔女を狩るんだよな?」

「そうね。でも、それは何のため?」

「・・・・・そういうこと」


冷や汗を垂らしながら、翼刀がほむらとの会話を終える。
まどかとさやかはまだよくわかっていないようだ。

それを感じ取ったのか、めんどくせーなー、と頭を掻き、棒状の菓子を咥える少女。


「なあ、なんで使い魔をそんな一生懸命狩ってんの?」


一言。
それだけを、少女は聞いた。


さやかはその質問に意味を見いだせなかった。

魔法少女は魔女を狩る者。
人に危害を加える彼らをほっとけないのは事実じゃないか。


だが、目の前の少女は「本当にそれがわかっていないかのような振る舞い」だ。

とはいえ、その口調からおちょくっていることだけはわかる。

つまり


「あんた・・・わかってて聞いてんでしょ!?」

「はぁ?じゃあなにか?本気で人を護るため~!だってゆーのかい?」

「グッ・・・・」




「魔法少女が魔女を狩るのは、グリーフシードのためだったっけ?」

「翼刀さん!」


と、言葉に詰まったさやかの代わり。というわけではないだろうが、翼刀が前に出て話を引き継ぐ。

翼刀の言葉に「お?」と少し興味を持ったように目を開く少女。


「つまり、あのままほっとけば人を食って魔女になる。グリーフシードを蓄える。そこを狩った方がいい。豚は太らせてから食え、ってことだろ?」

「あんたわかってんじゃん!!そゆことだよ。あたしら魔法少女にはグリーフシードの有無は死活問題だからね。つまんない正義感で・・・・あんた死ぬ気?」

「お前ッッ!!!」


眼の前の少女の言葉に、歯ぎしりするさやか。
今にも前に飛び出して斬りかかりそうな勢いだが、座り込んだまま立ち上がることもままならない。



「は!!一回弾かれただけで腰が抜けて立てない奴に睨まれても、怖くないねぇ~」

「こッ、の!!(グッ!・・・ドテン!)った!?」

「え?」


「ちょ、違うから!!今のはこけたんじゃなくて!あと臆病でもないッッ」

「あ、うん・・・・」

「今そっちに行って・・・った!!翼刀さん!!足離してください!!」

「だってこうしないとさやかちゃん、行っちゃうでしょ」

「ぐぬぬ~~~~!!!」


両手両足でバタバタと地面を掻くさやかだが、立ち上がることもできない。

まあ当然である。さやかの後ろでは、そのマントを翼刀が踏んでいるのだから。


「う、うわぁ~~~ん!!」

「あ、泣いた」

「翼刀さん!!さやかちゃん泣かしちゃだめですよ!!」

「え!?俺悪いの?俺が!?」


ギャーギャーと騒ぎ出す目の前のアホ集団。

まどかはさやかのもとに向かおうとするが、ほむらは「見ちゃいけません」の体勢でそれを遮る。

翼刀もさやかを離す気は無いようで、さやかは翼刀の足を退けようとグイグイと押し込んでいた。
さやかわいい(二回目)




「・・・・・・」

その光景を見ていた少女―――佐倉杏子は、唖然としていた。

自分は斬りかかって行ったはずだ。
そして、ケンカを売るような言葉も言った。

魔女狩りをしない魔法少女、というのには正直頭に来ていたし、追い出すにもちょうどいいからそれはいいのだ。



だがどうだろうか、目の前の光景は。

「あたし・・・完全に無視されてる・・・・?」



襲撃から、ものの一分ほどでこの光景。

今や彼らの頭からは杏子のことは抜け落ちていた。



「あ・・・・」

すると、杏子の中で何かがキレた。
周囲を覆うように展開していた鎖を、槍へと戻して構える。


「あたしを・・・・」

その先の言葉はすでにのど元まで来ている。
それを意識するだけで、自然と腕には力が入った。

そして、肺が空気を溜めこんで

「無視・・・すんなーーーーー!!!」


一気に吐き出し、槍を思いっきり突き出した。

先端に付いた刃は、トランプのダイヤのような形をしている。
槍は鎖を伸ばし、翼刀に向かって一直線だ。



確実に命中コースだ。

と、吐き出したからか。
ここで彼女は正気に戻る。


痛めつけようとは思ったが、命を取ることまではしようとなんて考えてなかった。

街頭のテレビを見て「カッとしてやった」なんてよく聞くが、要はこれがそう言うことなんだろう。
そんな今は要らないことを考えながら、杏子は刃の行く末を見ていた。


槍は確実に翼刀の頭部に向かう。
きっとさやかの目の前で、翼刀の頭は上半分がなくなるのだろう。






杏子は見た。そして、声が詰まった。
翼刀の目が、こっちを向いた。

「ッ!?」


それは驚きか、恐怖か。

翼刀の手は一瞬で頭の高さに挙がり、手が開かれる。

掴み取る気なのだ。
そう杏子は理解した。

それはきっと成功する。








「セイヤー!!」

ドォッッ!!!


真上から落ちてきた何かが、その槍を地面に叩きつけた。


いきなりのことに、ポカーンとしてしまう翼刀。
ビビって固まるさやか。驚くほむらとまどか。
嫌な感じの顔をする杏子。

そして、翼刀がパタリと倒れた。


「翼刀さん!」

「び、びっくりした・・・・って今の声・・・・」



モクモクと上がる土煙。
その中で、人型のシルエットが立ち上がった。

鉤爪のようなものが杏子の槍を挟み込んでおり、その進行を阻んだのだろう。


まあそもそも、あの勢いで落ちてきたら確実に挟まずとも止まるだろうが。



「あ・・・あ・・・あんた・・・・」

「や」

「まだあたしに付きまとう気なのかい!?」

「だって・・・杏子ちゃん何しだすかわからないし。偏った食生活してないかなって」

バシュゥ!!



土煙が晴れたところで、シルエットが確実に人だとわかるものに変わる。

そして、振り返る。
その顔には、お互いよーく、見覚えがあった。


「火野さん!?」

「翼刀君!!」


やってきたのは、火野映司。
そう、確かに彼は翼刀よりも先に見滝原に来ていた。


来ていた・・・・はずだったのだが。



「もういないのかと思ってましたよ!!何してたんですか!?」

「いや、途中の街でこの子に会っちゃってさ。あと杏子ちゃん、また使い魔逃がしてたよ」

「逃がしたんだよ!!また潰しやがったのか!?」

「うん。それが俺の欲望だし」

「アぁああもう!!あんたはーーー!!!」

ウガー!!と頭をガッシガッシと両手で抱えてかきむしる杏子。
どうやら彼女にとって、火野映司は苦手な相手らしい。



「で、翼刀君はなにしてるの?」

「あ・・・・っと・・・・」


と、そこで翼刀が改めて周囲を見渡す。

なかなかにカオスな光景となってしまった気がする。
展開も含めて。



そして、とりあえず一息入れないとまずい、と結論を出した。


「と、とりあえず・・・・」

汗を垂らしながら翼刀が提案したのは



「ウチ・・・来ます?」



お茶会のお誘いだった。




to be continued
 
 

 
後書き

杏子出てきましたよ杏子!!
アンコじゃねぇ!!杏子です!!

作者はまどマギのキャラではさやかが好きです。
杏子もいいです。

でも本編だとなぁ・・・・
キャラ崩壊できないじゃないかっ(ぷんぷん)


まあきっと五章終わったら大いに崩壊してくれるでしょう



冒頭で街に向かう杏子の後を追ったのはタカカンです。
映司と杏子の出会いは次回に語りますよー!!

火野
「ああ。やっぱり出会いっていいよね!!」

ま何も決めてないけどな。

火野
「はぁ!?」


書きながら決める。
武闘鬼人にはよくあること。

蒔風
「そして気付いたら次回予告と内容が変わってた」

ショウ
「それも武闘鬼人にはよくあること」

アリス
「経験者は語るですねぇ、うんうん」



それにしてもまあ・・・展開のテンションがおかしい。

ほむら
「その日本語もおかしいと思うけど」

だまらっしゃい



ほのぼのしてたらほむらがやってきて

シリアスキターーーーーーーーーーーーー!!

だと思ったらさらに杏子やってきて

これはシリアス決定キターーーーーー!!

と思ったら



さやかわいい(三回目)



シリアスの霊圧が・・・・消えた・・・・!?

杏子
「なん・・・だと・・・?」




これもキャラが少なからず丸くなってるからですね。

ほむらはまだまどかが魔法少女になるかもしれないからピリピリはしてますけど、さやかに関しての心配事がないから(原典に比べると)柔らかくなってます。
まどか、さやかはマミの容体を知らないから明るいまま。


蒔風
「杏子!!君が原典の最後の砦だ!!」

だがそれもすでに火野によって破壊されている!!
おのれ火野映司ィぃぃイイイイイイ!!!


映司
「ってことで、次回は俺と杏子ちゃんのお話!!」

杏子
「なんでこんな奴と関わっちまったんだ・・・・・」



ではまた次回

 
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