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【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。

作者:炎の剣製
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0113話『たった一日の指輪の奇跡』

 
前書き
更新します。
文字数多めです。 

 



朝になってまどろみの中、目を覚ます。
するとなにやらいつも体の中で感じていたものが無くなっているような違和感を感じた。
それはなんなのかと思う前になにやら私の腕に重みを感じる。
なんだろうと横を向いてみると、そこには……、

「てい、とく……むにゃ……」

可愛らしい寝言を呟いている榛名の姿があった。
その事実に私は困惑していた。

「はっ……? なんで……?」

それで間抜けな声を出すことしか出来ずに唖然としていると榛名(?)も目を覚ましたのか目を擦りながら、

「あ……提督。おはようございます……提督? どうされましたか……?」
「あ……榛名、だよな……?」
「はい。私は榛名で間違いあり……あれ?」

そこで榛名も違和感に気づいたのだろう自身の身体を何回も触っている。

「私……体が、ある……?」
「榛名ッ!!」

どうしてこんな事態になったのかはわからない。だけど今、榛名がいつもの透明の姿ではなく実体を持って目の前にいる。
その事実が嬉しくて私は榛名の事を思いっきり抱きしめる。

「きゃっ!? て、提督!」
「よかった……本当によかった……」

私はただただ榛名の事を涙を流しながらギュッと抱きしめていた。
それで榛名も何かを想ったのか私の背中に腕を回して、

「提督……榛名も嬉しいです」

それで私と榛名はお互いに喜びを分かち合っていた時に、入ってくる空気を読めない誰か。

「ヘイ! テートク、榛名! グッモーニングデース!……ってワッツ!? 榛名が二人いますデース!?」

金剛が色んな意味でこのいい雰囲気をぶち壊してくれたおかげで私と榛名も冷静になれた。
それで榛名が、

「金剛お姉さま……こうして会うのはとても久しぶりですね」
「ホンモノの榛名、デスカ……?」

金剛の声もどこか震えていて榛名が「はい!」と答えると金剛も感極まったのか榛名に抱きついた。

「榛名デース……本物の榛名デース……」
「もう、金剛お姉さまったら……」
「よかったな、榛名」
「はい。あ、でも……この現象は一体何なのでしょうか……?」
「これは一回明石に調べてもらった方がいいな」
「その通りデース! テートクと榛名は先に明石の工廠へと向かうデース。その間は私が皆に知らせるデース!」

そう言って金剛は部屋を出ていった。
部屋を出ていった先の方から金剛の声で「みんなー! 大変デース!」と叫んでいるのが聞こえてくる。

「とりあえず、私達も明石の工廠へと向かうとするか」
「はい、提督」

それで見分けがつくように私は提督服に袖を通して向かった。






そして工廠へと着いて明石にさっそく事情を説明した後、

「……うーん。理由は不明ですけど突然二人は分離をしてしまった訳ですね?」
「ああ。それでなにか分かるか明石?」
「そうですねー。私としましても予測していなかった事態ですのでうかつに判断するのも迷いますね。ただ、一つ分かっている事があります」
「それは……?」
「教えてください明石さん」

私と榛名が明石に理由を聞く。
すると明石はとある部分に指を差して、

「おそらく指輪の効果だと思いますね」
「指輪……?」

それで私はケッコンカッコカリの指輪に目を向ける。
すると今まで気づかなかったけどいつもはただの指輪なのに今だけは淡い光を放っている。
榛名の方もそれは同様のようだ。

「そして重要なのは今日がお二人のケッコンカッコカリした日です。ですから私の予測が正しければ二人が分離していられるのは今日限りではないかと思います」

明石の非常な、でもしかし納得のいく説明を受けて私はそれで残念な思いになる。
でも榛名が私の手を取ってくれて、

「提督……今日だけというのはとても残念ですけど、こうして提督と触れ合えるだけでも榛名は嬉しいですから」
「榛名……榛名はそれでいいのかい?」
「よくはないですけど、今日だけという日でも奇跡のようなものです。だから今だけはこれで我慢しておかないといけないではないですか」
「そう、だな……榛名がそう言うんだったら私ももう何も言わない。けど……」
「はい。辛かったら隠さずに言いますね。分かっています。これでも今までずっと提督と一緒にいたんですよ? これくらいは理解できます」

と、そこで話が落ち着くのを待っていたのだろう、みんながこちらを覗いていた。
私達の視線に気づいたのだろう誰かの「やばっ!」という声で急いで隠れる一同。
それなので、

「榛名。ちょうどいいからみんなと楽しんできなさい。後で私との時間も作っておくから」
「はい。それでは榛名、行って参ります」

それで榛名はみんなの方へと向かっていった。
みんなも一様に喜びの表情で榛名に抱きついている光景を見て、

「よかったな、榛名……」

私はただそう呟くのであった。
と、そこで明石がとある事を聞いてくる。

「ところで提督。一つお伺いしたいんですけど……」
「なんだ?」
「艤装って出せます……? さっきに榛名さんと一緒に確認しておけばよかったんですけど今回は提督だけでもと思いまして」
「わかった。出してみる」

それで私はいつものように偽装を顕現するように念じてみると艤装は普通に出現した。
けど、なんかなぁ。違和感を感じるというかなんというか。

「一応は出せるけど、なんだろうか? いつもより力強さを感じられないようなそんな感覚がある」
「そうですか。多分榛名さんの部分が抜けてしまったので今は提督だけの練度で艤装が構築されているんだと思います」

それで明石がなにかの機材を弄って私の艤装へとセットしていき、

「ふむふむ……榛名さんが抜けてしまったせいで今の提督の練度はちょうど70くらいですかね?」
「榛名のサポートが無くなってもそんなに私は練度を持っていたのか……?」
「はい。おそらく春の大規模作戦から今日まで暇があれば皆さんと一緒に出撃していたから自然と提督自身の練度も上がっていたんだと思います」
「なるほど……妖精さんにも聞いてみるか」

それで妖精さんを呼ぶと艤装から顔を出してきたので、

【なんでしょうか、提督?】
「今回の現象は君も理解しているんだろう?」
【はい。私も今は本体のコピーの状態ですから今だけは提督だけの妖精です】
「ということは榛名の方もちゃんと艤装は出せるという事だな?」
【はい。特に不備はないですので出せると思います】

そんなやり取りを聞いていたのだろう明石が、

「それでは妖精さん。今後の課題のためにもどうして指輪のおかげで提督と榛名さんが分離できたのか意見を交わしませんか?」
【いいですよ。私もぜひ解明したいですので協力します】

それで妖精さんと明石は二人で話し合いを始めていた。
私はどうすればいいだろうかと思っていると明石が、

「提督は自由にしていてください。せっかくの貴重な一日なんですから榛名さんと楽しんできてください」
「わかった。それじゃ妖精さん、また後で」
【はい。提督も楽しんできてください】

それで二人はさらに話し合いを加速しているようだったので邪魔にならないように工廠から出ていくことにした。
そしてみんなと一緒に出ていった榛名がどこにいったのか探そうと思って、いつもの癖で榛名に問いかけようとして、

「っと、そうだな。今は榛名はいないんだったな。なんて間抜けな事をしているんだ私は」

もういつもの状態が慣れきってしまっていたために自然になってしまっていたんだな。
普通なら異常な状態だから余計にって感じで。
少し寂しさを感じるもこれが本来あるべき姿なんだから習慣を抜いておかないとな。
それで一人で探そうとしている時に、

「司令官さん」
「電か。どうした?」
「はい。それが……榛名さんが司令官さんがそばにいなくてとても寂しがっていたので探しに来たんです」
「そうか。榛名も今までの状態が抜けきっていなかったんだな」
「その通りだと思います。ですからすぐにいきましょう。榛名さんも今は皆さんに囲まれて食堂にいますので」
「わかった。それじゃ向かうとするか」
「なのです」

それで電とともに食堂へと顔を出していった。
来てみれば代わる代わる榛名はみんなに質問にあっていて少し参っているようであった。
そして私に気づいたのだろう、「あ、提督……」と少し寂しそうな声を出す榛名。
それで周りにいたみんなも道を開けてくれて私は榛名のところまで来て、

「大丈夫か、榛名?」
「はい。でも、提督がそばにいないと思うととても胸が苦しくなってしまって……」
「榛名。それに司令。それはおそらく二人とも共依存のような状態になっていると思うのですが、間違いないですか?」

霧島の推測した状態については私も心当たりがあったので「多分、そうだろうな」と言葉を返していた。

「やっぱり。多分ですが今までずっと提督と榛名は一緒に過ごしてきましたからもうどちらか片方が一緒にいないとすぐに不安になってしまうという状態にまでなっていると思うんです」
「ひぇー……それじゃもう榛名は提督と一心同体みたいなものって事ですか? 霧島?」
「おそらく。比叡お姉さま」

それで霧島の話した内容を周りで聞いていたみんなも、

「それじゃそれじゃ! とっても大変ってことでしょう!?」
「司令官! 榛名さん! 大丈夫!?」

暁と雷がそれで心配の言葉をかけてくる。

「確かに……これまでいつも一緒にいたから気づかなかったけど私と榛名はお互いに依存していたんだな」
「はい。榛名もこうして分かれてみて気づきました」

そこで長門がらしくないけど一つの提案をしてきた。

「それでは提督に榛名。今日の残り一日はずっと一緒にいればよいのではないか?」
「ちょっと、長門? そうは言うけど提督も仕事があるのよ? それじゃ榛名の事を構ってあげられないじゃない……?」

陸奥がそこに心配をしているけど長門は「心配ない」と言葉を出して、

「なんのために私が提督が出撃する時は提督代行をしてきたと思う? こういう時こそ私が今日だけは提督代行をするべきだろう。大淀、補佐を頼んだぞ?」
「わかりました、長門さん」

なんか長門がとても頼もしく思えてくるな。
それからもなんかいつもより積極的に私と榛名の周りの環境をよくするためにみんなが話し合っていて、結局午後には私と榛名は仕事もなくなって二人で過ごすことになった。

「それじゃ榛名。今日は鎮守府内を散歩でもしてようか?」
「はい、提督……」

それで今日一日は色んな所を見学していた。
見学するたびにその場所にいた子達に冷やかされるという事もあったけどみんなは意地悪をしていないというのは分かっていたから笑って許してあげていた。
ただ榛名は恥ずかしいのか私の背後に隠れていたけど。

そんな事で時間は刻一刻と過ぎて行って夕暮れ時、沈んでいく太陽を見ながら、なんだかんだで楽しんでいた私と榛名。
そして一緒に夕食を摂って、そのまま後少しで時間も十二時を過ぎてしまうという時に私は榛名に今日が終わる前に、

「榛名……ケッコンカッコカリの贈り物だ。受け取ってくれないか?」

私はネックレスを榛名に贈った。

「提督……嬉しいです。その、つけてもらってもいいですか?」
「わかった」

それで榛名の首に触れてネックレスをかけてあげる。
そして鏡を見て、

「とても綺麗です……」

榛名はネックレスを見てそう呟いていた。
これで私も『榛名も綺麗だよ』と少し気の利いた言葉を言えればよかったのだけどさすがにそんなきざなセリフは言えなかったので、

「似合っているよ榛名」
「ありがとうございます、提督」

そしてふとそこで私と榛名の薬指に嵌められている指輪の輝きがどんどんと消えて行っているのを見て、

「そろそろ時間か……一日ってなんだかんだで短いよな」
「はい。提督……少し、目を瞑っていてくれませんか?」
「わかった」

それで私は目を瞑った。
そして次に感じたのは唇への感触。
それがなんなのかを分かった上でしばらくそのままでいた。
時間が経ち感触が消えたのを確認して目を開けてみるとそこにはもう榛名の姿はなかった。
代わりに私の隣で顔を赤くさせながらも照れている透明な状態の榛名の姿があって、

《えへへ……提督の唇、頂いちゃいました》
「貰われちゃったな……それよりお帰り、榛名……」
《はい。ただいまです提督》

先程まで感じられなかった榛名との繋がりがしっかりと実感できる。
ああ、そうだな。認めよう。
私は榛名とのこの関係が一番しっくりくるんだな、と。

「榛名。また来年……こうして楽しもうな」
《はい。今度はもっといい思い出を作りましょうね提督!》

それで二人で約束をして来年の記念日がまた一つ増えた最良の一日だった。


 
 

 
後書き
こんな感じで来年も続いていたらまたこの話を書きたいですね。
一年に一度だけ出会えるような演出にしました。



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