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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第4話 武士道プラン発動せり

 
前書き
 ある日を境に世界の女性達は等しく幼女となり、老いと言う概念が焼却されてしまった。
 さらには幼女となった女性達のみ、不死となった。
 これにより、人は次代の子に意思を託せなくなり世界は停滞してしまう。
 そんな間違いを正し、人理を修正する果て無き旅。
 Doom/Best Proposition
 幾つもの試練を乗り越えた先に待っていたのは、どす黒い性別の業を抱え込むエロスの大敵、性欲まみれの大災害の二。
 獣性は回帰(年齢的な意味で)のエロス・ビーストⅡであった。

 『我が偉業(全女性達からの老いと言う概念の焼却及び永遠の幼女化)!我が理想(ワールドオブロリコニアの実現)!我が根底の真意(純粋無垢な幼女への愛)を知れ!!』
 『この星は変性する、あらゆるBBAは過去となる!称えるがいい。我が名は井上準!幼女愛好式、ロリコニア守護神、井上準である・・・・・・!!」

 と、言いながらベットの上で起床と同時に立ち上がる準。
 それから数秒。

 「何だ、夢か」

 夢幻であったことにショックを受ける準だが、自分の分も含めて3人分の弁当を作らなければならない事を思い出したので、頭たれながら自室を後にするのだった。

 驚きました?これから先が本番です。
 このネタは極点の流星雨クリア後に思いついたものです。 

 
 今朝の百代の心境は複雑怪奇だった。
 九鬼財閥が発動させた『武士道プラン』は勿論詳細など知らないが、義経のクローンが現れたと言う事は他の英雄のクローンの登場も期待できると言う事――――即ち、新たな強者と出会えると言う事に他ならない。
 これに、まだまだバトルジャンキーの気が抜けない百代に高揚するなと言う方が無理らしからぬことだ。
 その一方で百代は苛立っていた。
 一昨夜に京極から聞いた話に出て来た士郎を押し倒そうとした女性の話に。
 別に、百代は恋人では無いのだから、士郎が何所の誰かと付き合おうが彼女に怒られる謂れは無いのだが、兎に角苛立っていた。
 そんな百代は苛立ちながらも何時も通りの時間帯に衛宮邸の庭に来たのだが、士郎が出てこない。

 「まさか、アイツ・・・ッ!」

 焦燥感に駆られた百代は士郎の部屋まで一直線。玄関から入らず縁側の戸を開けて、声もかけずに襖を開けた先で見たモノは――――。


 -Interlude-


 士郎は今日も抱き枕のように抱きしめられていた、リザに。
 リザの両手は士郎の後頭部にかけて、全身を士郎に預けて満足そうに寝ていた――――いや、もう半分以上起きているだろう。

 「リザ。もう起きなきゃならないから、退いてくれ」
 「ん~?しょうがない」

 語尾にな~と付けて。士郎の言葉に応じようとした瞬間に襖が開き、そこに立っているのは頬をヒクヒクさせながらご機嫌斜めの百代が見下ろしていた。

 「ほぉ~?私を何時もの時間に呼び出して習慣づけさせといて、良い御身分じゃないか衛・宮・君♡」
 「っ!?」

 最後の二人称が二番目の魔術師の師匠の怒っている時の呼び方そっくりだったもので、士郎は必要以上に反応した。

 「ま、待て、百代!これには理由が・・・」
 「どんな理由があるのか、聞かせてもらおうじゃないか衛宮君♡」
 「いや待て。その前に如何してそんなに怒ってるんだ?掃除も鍛錬も俺がいなくても始められるだろ?」
 「別に怒ってなんかない。痛快愉快なくらい苛ついているだけだ!」
 「それを怒ってるって言うんだろ!」

 百代と士郎がぎゃあぎゃあ言い合う中、それを喧嘩するほど仲が良く見えたリザは、恋のライバルだと確信している百代にある一手を繰り出す。

 「羨ましいのかい?」
 「・・・・・・・・・・・・は?」

 百代はリザから言われた言葉の意味がよく理解できなかったが、彼女は構わず続けて言い放つ。

 「羨ましいなら反対側開いてるから、百代も士郎に抱き付けばいい。それでお相子だろ♪」
 「(パクパクパクパク)(・・・・・・・・・・・・・・・)

 今度こそ意味は理解出来てしまった百代は、顔を見る見るうちに真っ赤にさせて――――。

 「うっ、羨ましい訳あるかあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
 「あっ、百代!?」

 自分の感情を制御できず、気恥ずかしさから百代はその場――――衛宮邸から飛び出して行ってしまった。

 「~~♪」

 リザの思惑通りに事が運び、結局百代は今日の早朝、衛宮邸に戻ってくる事は無かった。


 -Interlude-


 風間ファミリーは登校中、全員何時も通りで元気だった。百代を覗いて。

 「如何したの姉さん?」
 「別に」

 大和に素っ気ない態度にファミリー全員訝しむ。

 「モモ先輩如何したんだ?」
 「何時ものモモ先輩なら『英雄のクローンと戦える!』ってルンルン気分なんじゃねぇか?」
 「確かにおかしいですね。一子さん、何か知ってますか?」
 「今日のお姉様、食事も朝の鍛錬も川神院(うち)だったのよ。最近は衛宮先輩での家でしてたのに」
 「なら衛宮先輩と何かあったって事か」
 「ハハ、ザマァ見ろ!フラグはやっぱり折れていくモノなんだっ!」
 「何時も丁寧に自分からフラグの立ちそうなところを根元から破砕しているガクトが言うと、説得力があるね」
 「なんだとーっ!」

 皆が百代の元気のない理由に話してる中、京は確信を以て舌打ちしていた。

 (ちぃぃッ!またしくじったのか士郎さん!モモ先輩がふらついてると、私の計画にも支障が出ると言うのに!)

 そんな京の企みに全く気付いていない百代は、皆の心配通り非常に不機嫌で破壊衝動に駆られていた。

 (あーッ!むしゃくしゃする!それもこれも士郎の奴のせいだ!あー、誰か殴らないとこのいらいらが収まらないぞ!)

 そんな苛つき全快の百代の進路上――――俗称・変態の橋の前にガタイの良さそうな男が待っていた。

 (よぉぉぉしっ!いいぞいいぞ、グッドタイミング!)

 挑戦者らしき(・・・)男が待っていた事に嬉しく思う百代。
 その挑戦者らしき(・・・)ガタイの良さそうな男にだんだん近づいて行くと、上半身が裸である事に気付いた。百代以外も気づいた。流石は変態の橋と皆、納得した。
 さらに近づいて行く。その挑戦者らしき(・・・)男が昨夜にて、東西交流戦で戦った天神館の西方十勇士が1人、長宗我部宗男である事に気付く。
 耐久値ならそこらの武術家より在りそうだと、百代はさらに嬉しくなる。
 しかしさらに近づいて行っても、全く名乗って来ない。
 そして横を通り過ぎる風間ファミリー。まだ名乗って来ない。
 今度は距離が離れて行く。まだ名乗って来な

 「――――って、ちょっと待てッ!!」
 「「「「え?」」」」
 「「「「ん?」」」」
 「んん?」

 百代の叫びにファミリー全員と長宗我部が反応した。

 「確かお前はオイルレスラーの・・・」
 「長宗我部宗男だ、武神。長ければチョーさんとでも呼んでくれ。それで俺に何か用か?」
 「い、いや、お前こそ私に用があったんじゃないのか?」
 「いや?無いが」

 長宗我部の素の返答に、ガックシと項垂れる百代。
 代わりにならばどうして此処に居るのかと、大和が聞く。

 「おう!よくぞ聞いてくれた。とは言ってもこの辺りで住んでいる筈の一つ年上の親友に、四国土産を渡すのを忘れてから、ここを通るだろうと予想して待っているだけの事だがな」

 ガッハハハハと豪快に笑う長宗我部。
 それを項垂れていた百代が、女の感が働きそれに従って聞く。

 「・・・・・・もしかして、士郎か」
 「応とも!その通りだ!流石は俺の親友!かの武神にまで名前を憶えられているとは、流石だぜ・・・・・・?」
 「ん?如何した?」

 長宗我部は親友と呼ぶ士郎の人間性を理解出来ている。加えて、噂のみによる考察だが武神の性格面も。そして彼は決して脳筋ではなく、外見に似合わず冷静な判断も出来る。
 そんな長宗我部が士郎を呼び捨てにする百代にある疑問をぶつける。

 「もしかして武神は士郎の女か?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 百代は何を言われたのか理解できず、停止する。
 しかし何故か長宗我部は、百代のその反応を肯定と受け取ったようで、先程の様に豪快に嬉しそうに笑う。

 「ガッハハハハ!やっぱりそうか!こんな極上の女をものにしてるとは、流石は俺が認めた漢だ!!」
 「・・・・・・・・・って!待て待て!誰が士郎(アイツ)の女だ!?勝手な妄想で話を進めるな!」
 「ん?違うのか?」
 「ち、違うに決まってるだろ!」

 一瞬僅かに躊躇いながらも、長宗我部の疑問を否定する百代。
 だが長宗我部は何所か残念そうに言う。

 「まさか違うとは・・・・・・。俺の中では士郎の番として、しっくりくると思うんだがなぁ?」
 「・・・・・・ど、何所がだ?」

 以前までの百代であれば不快感丸出しの疑問だったが、今の百代にとっては長宗我部の根拠が非常に気になった。

 「何所も何も、良くも悪くも有無を言わさぬ自分の我を貫く所なんて特にだが?」
 「それは私が横暴だと言いたいのか・・・?」

 しかし期待していた言葉とは違っていたので、機嫌を悪くする百代。
 だが露骨に不機嫌ぶりを隠そうともしない百代に臆することなく、長宗我部は続ける。

 「言いたいも何も、その横暴ぶりが士郎の性質にぴったりくるんだがな」
 「如何いう意味だ?」
 「把握してるかは知らぬが、士郎の奴は自己犠牲過ぎるところがある。その辺は本人も少しは自覚がある様だが、今のまま行けば、確実に早死にするって俺は見ている」

 いきなり重い考察に風間ファミリーはそれぞれ何とも言えぬ顔をしており、士郎をよく知る京でさえ、『そんな所あるかな?』と疑問符を浮かべている。
 そして百代は余計に訝しむ。

 「仮に士郎にそんな隠れた人間性があったとして、何故私がしっくりくる?」
 「そこで武神が必要なんだ。そんな早死にまっしぐらの道に曲がろうとしたら、殴る或いは蹴り倒してでも進行方向を矯正させることが可能な女がな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 少々失礼な理由だが、自分しかいないと言われたのが何かしらの影響を与えたのか、先程の長宗我部の暴言じみた言葉に加えて朝の件での不愉快さが今では消えていた。少なくとも破壊衝動は綺麗サッパリ無くなっていた。

 「おっと、足を止めさせちまったな。登校中なんだろ?俺に構わず行ってくれ」
 「あ、ああ・・・」

 長宗我部に促される形でその場を離れる風間ファミリー達。その中で大和は相変わらず複雑そうな顔をして、京はガッツポーズを取っていた。
 それから数分後、士郎とシーマの2人が長宗我部のいる変態の橋の端に辿り着いた。

 「よぉ!遅かったな士郎!」
 「やっぱり宗男か。如何したんだこんな処で?」
 「土産を渡すのを忘れてな」
 「俺の家の場所知ってるだろうに。直接来てくれればいいものを」
 「なに、これでも少し遠慮したんだが――――それより、良い女の手綱を離すなんて如何いう事だ?」

 長宗我部は先ほどの百代の態度で、二人が友達以上恋人未満と言うびびょうなラインに居る事に気付いていた。

 「何の話だ?」
 「いや、いい。どうせお前にその当たりを期待しても無駄な事は理解してるからな」
 「よく解らないが、酷く中傷された様な気がするんだが」
 「気にするな。どうせ無駄だからな」
 「・・・・・・」

 2人のやり取りを黙って聞いていたシーマは、今朝珍しくいなかった百代の事だなと直察知した。

 「もう行くぞ、シロウ。結構ギリギリで来たから、そろそろ行かないと不味いのではないか?」
 「む。それはそうだが、まだ話が終わってな」
 「「終わってるだろ。どうせ士郎に期待するだけ無駄なんだからな」」
 「2人とも初対面なのにどうしてそこまでハモれるんだ」
 「士郎の事だからな」
 「シロウの事だからな」

 シーマは士郎を引きずりながら自己紹介もせぬまま、長宗我部に挨拶をしてから学校に向かう。
 当の士郎も長宗我部に別れの挨拶をしながら言う。

 「納得いかん」


 -Interlude-


 川神学園第一グラウンド上で、HRの時間帯に全生徒が集まる臨時の学校集会が開かれていた。
 勿論理由は新聞などで既に持ち切りの武士道プランでの転入生たちの事でだ。
 その事で学長である鉄心が話す前、士郎は何故か五メートルも離れていない位置に居る百代にジッと見られていた。

 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 (なんなんだ?)

 士郎が困惑に囚われている間に、鉄心が壇上に上がって全生徒に向けて説明を始めていた。

 「では、葉桜清楚。出番じゃ」

 鉄心に促されて1人の美少女優雅な足取りで壇上に上がって来た。

 「葉桜清楚です。皆さんに会うのはとても楽しみにしていました。今日より宜しくお願いします」

 彼女のお淑やかな立ち振る舞いと物腰に、男子生徒の多くが色めき立ち、美少女に目が無い百代も、

 「なんだよ!あんなにかわゆいのに~、Fに来てくれ~」

 先程まで士郎に注視していたのに、一転して眼中に無くなる百代。
 士郎としてはありがたい事ではある。
 そうして彼女の説明が始まる。
 如何やら意図的に彼女が誰の英雄のクローンなのか隠されている様だが、士郎としては呆れるばかりで、隣にいた最上旭(もがみあき)に話しかける。

 「最上。九鬼財閥は本気で隠す気あるのかな?」
 「さあ?まあ、でも、士郎の言いたい事も解るわ。彼の英雄の異名を読み方を変えて名前に変換したり、頭についてるのは恐らくヒナゲシでしょうし、単純に考えるなら一択でしょうからね?それで彼女に教えてあげる?」
 「いや。俺は立場上ある意味藤村組の一員だからな。下手な騒ぎを起こして藤村組にマイナス的な原因となるのは避けたいところだ。それに・・・」
 「それに?」
 「まだ話したことも無い人間が上から目線で話しかけるなんて、人のする事じゃないと思うんだ。だから話すにしても隠す判断をするにしても彼女と接してからだな」

 一見まともな考えだが、何故か旭は呆れるように言う。

 「そうやって外堀から埋めて誑して行くのね?罪作りな(ヒト)
 「なにがさ?」
 「無意識な所が余計に性質が悪いわね。私の事情に深く聞かないのも、その一環なのでしょう?」
 「一環って何だよ?誰にでも秘密にしておきたい事なんて一つくらいあるもんだろ?特に女性のその関係なら詮索しないのが男ってもんだろ」
 「ねぇ?今のって私の事口説こうとした?」
 「断じて違う」

 士郎と旭が話している途中にも武士道プラン関連の話は続く。
 次に壇上に上がって来たのはポニーテールの美少女武士、源義経だ。
 彼女の簡単な自己紹介と挨拶も終えてから出てきたのは、まだ十七歳と言う歳で色っぽさ溢れる癖毛の美少女、武蔵坊弁慶と名乗る美少女だった。
 それからすぐに学長から那須与一の登場も発せられたが本人が出てこない。
 暫く待っても出てこない。
 如何やらサボった様だと言う事が察せられる空気が漂ってきた。
 そんなサボったらしい本人は、

 「ふぁ~」

 屋上にて欠伸をしていた。
 そんなマスターたる与一を見かねたジャンヌは、

 『いいのですか、マスター』
 「何が?」
 『学友たちへの挨拶です。疎かにしていい事では無いと思いますが』
 「俺と関った奴はそれだけで組織に狙われる可能性が出てくるかもしれないだろ?無関係の奴を巻き込むのは俺も本位じゃない。俺のこの考えは間違ってるか?」
 『それはそうなのですが・・・』
 「何だよ歯切れの悪い、何か他に言いたい事があるのか?」
 『主に恥をかかせたと言う事で、弁慶から制裁を受けるのでは?』
 「!!?」

 ジャンヌの指摘に激しく動揺する与一。

 『今からでも行けば、少しは彼女の態度も和らぐのでは?』
 「あ、あああああ姉御がそ、そそそそそそんなに優しい訳無ぇだ、だだだだろろろろろ!?」

 余程恐ろしいのか震え上がる与一。

 『怖いのでしたら矢張り・・・』
 「こ、こここ怖くなんて無ぇええさささ!そ、そそそそれに俺には組織と戦う使命があるんだだだだだだ!?ア、ああ姉御の制裁程度で臆してられるかかかかかかか!!?」

 変に意地を張ってこれから起きる未来に慄く与一を、ジャンヌはなんとか慰め始めるのだった。
 そんな主従から源氏の主従に戻る。
 義経は与一のサボりを懸命に弁護し、生徒達がそのひたむきな態度に許そうとしようとした所で、弁慶が川神水を飲んでいることがバレる。
 しかしバレても開き直る態度に、生徒の一人が特別待遇過ぎるのではと疑問を呈するので、そこに鉄心が説明する。

 「その代わり彼女は期末テストで4位以下なら、それ以降の期末テストで3位以内の結果を出せるまで学園内での川神水の飲水禁止。6位以下で退学と決定されたぞい。本人もそれでいいと了解を得取るし。―――まあ彼女はこれから先も川神水を飲み続けるために3位以内をキープし続けることを目指すじゃろうのぉ」

 この鉄心の言葉に同じ2年生――――特に50位以下なら即Sクラスから落第を言い渡される2-Sのほぼ全員が反応した。
 舐められていると言う屈辱だったり、弁慶に勝ちたいと言う好戦的な志で、彼女を上らせまいと皆、楽しそうに嗤う。
 それを同じく聞いていた士郎達は、

 「競争意識を刺激してるんでしょうけど、常に学年3位以内とは大きく出たわね」
 「ホントにな。その道がどれだけ厳しいのか理解してるのかな?」

 2人は軽い感じに言う。それを京極彦一がすかさず突っ込む。

 「今日まで常に全教科満点だった2人がそれを言うと、説得力が有る様で無い様にも思えるな」

 その言霊使いの言葉を、

 (((((((京極君も人の事言えないと思う)))))))

 彼の言葉が届いていた3-Sのクラスメイト達全員の意見だ。
 京極は常に全教科満点を取り続けて来た士郎と旭の2人には僅かに劣る点数だが、それでも全教科の内幾つかを取りこぼす程度で、ほとんど満点と変わらず、常に3位を維持してきた猛者で、現3年生代でのこの3人の学期末テストの成績は不動のものなのだ。
 そんな3年生たちに構わず、相変わらず登場しない与一を除いた武士道プランの3人の大和撫子が挨拶をしてから壇上から下りて行く。
 次に武士道プランの関係者が1-Sに入ると説明された直後、グラウンドにとある高名な交響楽団が入って来て演奏が始まる。
 そしてさらに何人もの燕尾服を着た男達――――九鬼従者部隊(男のみ)が来て、自分達の体を使って壇上までの道を作り上げる。
 その即席の道を悠然と歩いて来る女の子が壇上まで昇って来た。

 「我、顕現であるぞ!」

 如何やらこの女の子は九鬼英雄の妹である九鬼紋白らしい。
 それとは関係なく、準を始めとする何人かが、

 『オォオオオオオオルッ・ハァアアアアアアイルッ・ロリクォオオオオオオニィィアァアアアアアアアアアアアア!!!』

 と興奮しながら絶叫した。
 そんなロリコンどもを置いといて、九鬼紋白が自己紹介を始めた。
 その強烈な紹介に圧倒される一年生たち。
 その後に百代が胡散臭そうに聞く。

 「爺ぃ、もう1人の転入生は?」
 「さっきから紋ちゃんの後ろに控えるよう立っているじゃろ」
 「やっぱりそんなオチか」

 予想通り過ぎて呆れる百代。
 勿論百代の反応など構いもせず、紋白に促されて殺戮執事が自己紹介する。

 「この度学園に入る事になりました。ヒューム・ヘルシングです。どうぞ皆さん、宜しくお願いします」

 これに百代は突っ込もうとしたが、もう突っ込みを入れたら負ける気がしたのか、胡散臭そうな表情を保ちつつも自制した。
 しかし百代がツッコまずとも疑問を呈する声がチラホラと聞こえた。
 それにヒュームが親近感を持たせようと自身の好きなゲーム機種を上げるが、それはゲーム世界ではアンティークモノだった。

 「あの人がヒューム・ヘルシングか・・・」

 呟く百代から僅かの闘気を感じた弓子が聞く。

 「強いので候?」
 「当然!九鬼家従者部隊の永久零番だ。しかも現在の最強の座はあの人の称号の筈だが・・・・・・爺の話から聞いたほどの強さのイメージを感じ取れないし、そこはやっぱりお歳だから仕方ないのかな?」

 そう、百代が疑問を呈した直後、
 
 「百代、後ろに来るぞ」
 「は?」

 自分の方へ振り向かないままの士郎に、いきなりに声を掛けられたことに驚く百代だが、言葉の意味するところを理解する前に、

 「クク、打撃や(ストライカー)としての筋肉が足りておらんぞ?川神百代よ」
 「なっ!?何時の間に後ろに」

 突如背後に現れたヒュームの気配の消し方と速さに、驚きを隠せない百代。
 そんな予想通りの百代の反応に、殺戮執事は落胆しながらも嗤う。

 「フン、そこの衛宮士郎(小僧)に指摘されたにも拘らずその程度の反応とは。貴様の事はほぼ把握した。矢張りまだまだお前も赤子よ」

 そうして言い返す百代を待たずに紋白の下へ神速で戻るヒューム。
 その当事者たちの想いも構わず、今度はクラウディオがいつの間にか壇上に上がっていて、今日から自分たち九鬼家従者部隊の人員が現れるが、それは武士道プランの成功の為であり、学園生徒達の味方であると言う説明だった。
 これにより武士道プランの説明もあらかた終わり、朝の臨時の全校集会もお開きかと思いきや、鉄心が再び壇上に上がって来た。

 「すまぬが最後にまだあと二人程紹介したいので待って欲しい。断っておくが武士道プランとは関係のない留学生での、全校生徒の前で自己紹介したいと希望しておるのじゃ」

 鉄心の説明に生徒達が疑問の声を上げる。
 たかだか留学生程度じゃ、武士道プランの申し子や九鬼財閥の関係者程のインパクトに欠けるんじゃないかと言うモノだ。
 そんな生徒達ではあるがそれ以上に怪訝さを露わにしているのは、九鬼財閥組――――特にヒュームである。
 留学生が入ると言う情報自体は掴んでいたが、素性が伏せられていたので情報を探ろうとしたが今日まで掴めなかったからである。
 精々掴めたのはその留学生2人がEUの何処から出身なのと、下宿先が衛宮邸だという位だ。
 そして解せないのがこの全校集会の前で堂々と自己紹介をすると言う点だ。
 ともあれ、どれだけ推測を重ねても今となっては無意味な事。自分達の次に自己紹介をするその留学生の豪胆ぶりを括目させてもらおうと、壇上を注視する。
 その様々な二兎人が注目する中、最初に現れたのは猟犬部隊の軍服姿のリザである。

 「彼女は留学生の護衛のリザ・ブリンカー君じゃ」
 「紹介に上がりました。リザ・ブリンカーです。本日から宜しくお願いします」

 意外と礼儀正しく自己紹介するリザに、またもや(ほぼ男子)生徒達から歓声と絶叫が上がる。

 『よっしゃー!また美女だー!』
 『お姉さん属性とかマジドストライク―!』

 明らかな性欲丸出しの声とは言え、リザは笑顔で其方へ手を振っていた。
 勿論上辺だけで内心は、

 (何でこんな盛りの付いた猿みたいなやつらに愛想振りまかなきゃならねぇんだか?それに美女ならなんだっていいってのかよ・・・。これだから男は!)

 と蔑んでいた。
 勿論既に士郎に恋をしている身なので、男と言う名の生き物に対する偏見は以前より弱まったが、まだまだ男嫌いの性格のままである事に変わりはない。
 リザの愛想笑いはあくまでも今の護衛対象の名誉を、貶めず傷つけない為である。
 無論それを理解しているマルギッテは、

 「それではあの女子(おなご)、マルギッテの部下なのじゃな?」
 「ええ。部下であり、親しい同期です」
 「ほぉ?流石はマルギッテの部下だな。中々いい眼をしている」
 「それにしてもお前の部下にしては礼儀が正しいではないか?」
 「含んだ言い方に聞こえましたが、そこは流しましょう。それで、本当のリザは部隊一のギャンブラーで一人称は俺です。女性に対してはある程度大らかですが、基本的には男嫌いなので誰であれ気を付けた方がいいでしょう」

 クラスメイトの身を案じて――――と言うよりも、リザを起因としたトラブルを極力抑えさせるために説明したマルギッテ。
 その同僚とは別口で反応する者がいた。最上旭だ。

 「あの人、チラチラと士郎を見てるようだけど、何時彼女を誑かした(と何時知り合った)の?」
 「何かおかしな風に聞こえた気がするんだが・・・」
 「気のせいよ。それで如何なの?」

 だが最上の疑問に答えたのは何故か京極彦一だ。

 「あの風貌は・・・・・・確か葵の話に出て来た少しの間衛宮の家で一時的に滞在していたドイツ軍人だった筈だ」
 「あら、そうなの?じゃあ、その短い期間で誑かしたのね。流石は士郎ね」
 「全くだ。流石は我が親友」

 この話はそれでも止まらず、当人抜きで2人は会話を続ける。
 話題の当人たる士郎自身は否定したいのに口を挿む余裕がない上、後ろから何故か百代に睨まれていて、居心地を悪そうにしている。
 だが本番はこれから。九鬼財閥が結局素性を洗い出せなかった本人が登場する。
 鉄心に促されて現れたのはゲームや漫画で出て来そうな魔法使いの様なローブに身を包み、出店の屋台で売ってそうな仮面をつけたふざけた誰かだった。

 「もったいぶらずに顔見せて見ろよー!」

 生徒の誰かがそう叫ぶと、

 「――――では、お言葉に甘えて」

 言うと同時に姿を現したのは金髪の美少年――――レオだった。

 「「「「「キャー―――!!!」」」」」

 これに女生徒達の8割以上が可愛いと黄色い悲鳴を上げるが、1・2・3年のSクラス陣のほぼ全員が驚愕している。

 「なっ!?」
 「オイオイ嘘だろ!?」
 「いやいや、そっくりさんでしょ?」

 あまりに予想外の事で、今もこの現実についていけていないSの生徒諸君。
 まあ、それ以上に驚いているのは九鬼家従者部隊の面々である。

 (あの子供――――いやあの方は!?)

 余程の事でも驚かないヒュームの反応をよそに、レオが口を開く。

 「ボクの事を知ってる方々も知らない方々もいらっしゃるようですから、軽く自己紹介をさせて頂きます。僕の名はレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと言います」

 レオのフルネームにさらに気付く者達が続出する。
 その中には風間ファミリーの参謀の大和も当然入っていた。

 「オイ大和、如何して驚いてる奴がいるんだ?」
 「そりゃ驚くに決まってるだろ?ハーウェイと言えばEUを中心とした有名な企業連合の盟主の家だ。それに俺の記憶が確かなら、レオナルドと言えばハーウェイ家の次期当主だった筈だからな」
 「だからそれの何所に驚く要素が有るんだ?」

 ガクトは事の重要性を未だに把握できずにいる。
 しかしそれも無理らしからぬ事。常識外れの百代とよくつるんできた風間ファミリーの一員として、その当たりが一般人に比べて麻痺しているのだ。

 「いいか?西欧財閥は九鬼財閥のは劣るが、それでも世界経済を支える重要な支柱の一つだ。そんな財閥の次期当主が突然九鬼財閥の懐直前までくれば、どう対応すればいいか判断しかねるところだろう。もしこれで彼に何かあれば、九鬼財閥や川神院は非難を待逃れないだろうし、実際暗殺なんかもあるかもしれない。事の重大性がこれで解ったか?」
 「あ、ああ。けどよ、そんな重要人物を受け入れる所なんて、あんのか?そもそもあの留学生、何所で今暮らしてるんだ?」
 「あっ!?」

 その疑問に答えたわけでは無いだろうが、

 「彼は今、衛宮士郎君の家で下宿しとる。もし今後レオナルドに何かある時は、衛宮士郎()を通すと良いじゃろう」

 丁度良く説明が入った。
 しかし大和の杞憂は消えない。

 「い、幾ら衛宮先輩の家だからって・・・」
 「大和、多分大丈夫だと思うわよ?」
 「ワンコ?」
 「だって今の衛宮先輩の家は川神院(うち)と同じくらいの戦力が揃ってるわよ?総合的に言って」
 「ワンコ・・・・・・」
 「信じてくれた・・・・・・って!何で泣いてるの!?京まで!!?」

 演技では無く本気でちょっと涙を流す2人。

 「いや、感動してるんだ・・・!」
 「うん。だってワンコが“総合的”なんて言葉使うんだもの」
 「泣く程!?と言うか、喰いつく所そこッ!!?」

 大和達が何時もの感じを出しているのをよそに、幾人かの生徒が声に出して疑問を言う。

 『冬木の藤村組は西欧財閥の傘下に入ったのか?』と。

 その疑問に対してレオ自ら、

 「その様な事実はありません。僕が川神学園に留学を希望したのは、以前九鬼英雄さん――――いえ、此処では英雄先輩と呼ぶべきですね。英雄先輩からの話でこの学園に興味を持ち、留学を決めました。ですが僕は自分がどれ程のVIPかくらい自負が有りますから、戦力が整っている下宿先を希望して目に留まったのが士郎さん――――衛宮先輩の家だったんです。ですからあくまでも今回の事は、僕個人の我儘であり、傘下への強制や提携などはありません。納得いただけましたか?九鬼財閥の皆さんも」
 「了解しました。レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ様」

 レオへの返事をクラウディオが代表して言う。
 その相方であるヒュームは凶悪な笑みを浮かべて呟く。

 「やってくれたな雷画ッ・・・・・・!!」

 虚を突かれた一手に悔しさと喜悦が入り混じる。

 「本当に喰えない奴だ」

 吐き捨てる様に言うヒュームは、これからこの学園で紋様を護衛しながら過ごす日々に、大きな波乱が起きる予感を感じずにはいられなかった。 
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