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機動戦士ガンダム・インフィニットG

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第十六話「パーフェクトガンダムVS紅椿」

 
前書き
あと、二、三話ぐらいでおわるかもです。

                    ↓今作のパーフェクトガンダム
 

 
「あーあ……」
宿場での夕食を食べている中、僕はしょんぼりしていた。なにせ、宿場はどこぞのサラリーマンが止まる一般的なビジネスホテルであり、出る食事は無くてコンビニで買って来たものを食べるばかりだ。
「ふむ、さすがは私が作ったパーフェクトガンダムだ! 予想以上のデータがとれたぞ!?」
データの書類を見ながら、缶ビールを片手にご機嫌な父さん。そんな父さんの後ろではベッドに座りながら弁当を食べる僕が居た。
父さんいわく、仕事だから当然なのだ。当然なのだが……
――今頃、一夏たちは旅館で海鮮の御馳走をたべてるころだろうな……?
それに比べて、僕の夕飯は弁当にサンドイッチと緑茶、デザートにプリンだ。
「どうした? アムロ、浮かない顔をして……」
そんな僕に気づいたのか、父さんは僕の方へ振り向いた。
「いや……別に何でもないよ?」
父さんと一緒に居られる貴重な時間だから、雰囲気を壊したら行けないかと思った。けど、父さんは相変わらず僕と会話をする様子なんてなさそうだ……
「……アムロ、やっぱり私と来たのは嫌だったか?」
「え?」
父さんはそう寂し気に言った。図星を突かれた僕は、どういえばいいのか選ぶ言葉を失う。
「まぁ……こんな、仕事にしか己を見いだせない父親だから、お前や母さんには申し訳ないことをしたと思ってるよ」
「父さん、酔ったのか?」
僕は、そう父の顔を見た。やや顔が赤くなっているも、父さんは真顔であった。
「私は、いつも仕事で忙しいから参観日や運動会、遊園地へ連れていくにもみんな母さんが連れて行ったな? 私は、そのころ職場で設計図と睨めっこしていたさ……」
「……」
僕は、そんな嶺テムという父親を目に、前々から聞きたいことを訊ねた。
「……ねぇ? どうして、父さんはこの仕事を選んだの?」
MS技師、確かに憧れを抱かれる仕事でもあるが大抵こういうことに励む人間と来たら変人が多い。もちろん、父さんは変人だ。しかし、ある一面では父親らしい素振りをしないこともなくはない。
「ハハハ、『好きだから』っていうのは理由にならんか?」
「うん」
「そうか……そうだなぁ?」
父さんは、缶ビールを台の上に置いて天井を見た。そして過去を振り返るかのように僕へこう話す。
「……昔、尊敬してくれた同僚がいてな。いつも一緒に研究や開発に没頭してくれたのさ? だが、そんな彼……彼女とは、ある日を境に私とは違う道を歩んでしまったのだ」
「どんな道?」
「それは……おっと!」
ふと、父さんは天井際につけられた時計を見た後、自分の腕時計もみた。
「もう、こんな時間か? アムロ、今日はもう遅いんだ。明日に備えてはやく休みなさい?」
父さんは、すぐに布団の中へ入ってしまった。
「う、うん……」
――父さんと一緒に働いていた同僚の人、誰なんだろ……?
気にはしたものの、そこまで気に悩むこともないと思って僕は明日に備えて、やや堅いベッドの上に横たわった。


翌朝、IS学園宿場にて

「……ん? セシリア、何してんだ?」
宿場の縁側を歩いていると、庭でセシリアが何かを見つめながらしゃがみ込んでいる。
「あら、一夏さん?」
「どうした?」
「これ……何でしょう?」
「ん?」
そこには、いかにもというほど作り物の「人参」が地面に突き刺さってる光景である。そして、それを見た一夏には心当たりがあった。
「これって……」
一夏は青ざめる。
「何をしている? 二人とも……」
そこへ、一夏の後を追って浴衣姿のマリーダも歩み寄る。すると、彼女は地面に埋まる人参を目に、即座のごとく浴衣越しの胸元から拳銃を取り出して……
数発の発砲音が聞こえた。突然目の前で銃を撃ったことで、隣にいた一夏とセシリアは腰を抜かして驚いている。また、その銃声を聞いて生徒や教員らが駆け寄ってくるではないか?
「何事ですか? マリーダさん!」
千冬が何をしでかしたと、怒るかのように問うが、そんな彼女よりもマリーダは真っ先にMS側の教員たちへ振り向いた。
「どうしたんです? マリーダ中尉!」
マットが銃を懐へ戻すマリーダを見て、尋常じゃないことを悟る。
「……マット教官、ドクターTがこの付近に潜伏している可能性があります」
「なに……?」
「これを……」
「……?」
マットは、バラバラになった人参を象った造形物の残骸からチップらしき物とモニターらしき物を目視した。
「これは……!」
だとすれば、一夏をさらいに? マットの目は強張った。そして、一瞬千冬へ目を向ける。
MSの教員らは一時騒めいたが、マットは冷静に指示を出した。
「MS側の生徒たちは指示があるまで部屋で待機していなさい。それと……一夏?」
「はい……」
「俺達やマリーダさんと一緒に来てくれ?」
「……」
やはり、束が関係しているのだと知った一夏は不安になる。
「大丈夫だ。俺たちが付いている」
「一夏、心配するな? 常に私が傍にいる」
「マリーダさん……」
マリーダは、微笑みながら一夏の肩に手を添えた。
「一夏……」
そんな、一夏とマリーダの光景を見て、向こう側の縁側から見つめる箒は悲しい顔になった。そして、実の姉の千冬でさえもそんな二人を見てやや不服に思った。
――何故だ一夏、お前には私が付いているはずだ。何故、あのジオンの女将兵にばかり頼ろうとするのだ!?
千冬には、今の一夏の心境を理解することは無理だった。教員としての業務の多忙もそうだが、もとより男と女の考え方では異なる差が大きすぎる。
千冬も、そこまでは理解している。肉親よりも、どうして異性の、それも自分と同じ年上の女性で、マリーダという女性にだけは心を開くのかがわからなかった。自分と自宅で暮らしている時と比べて、一夏はマリーダと話すことが多くみられるし、彼女といるときだけ一夏は笑顔になっている。
その後、一夏はマットら教員達とマリーダに囲まれて厳重に警護され続けることになっていたのだ。
「一夏、何か必要なものがあれば、遠慮なく私に言ってくれ? 無断で部屋の外へ出ることはご法度だからな?」
「はい、わかりました」
「……」
そんな、慣れた一夏の態度にマリーダはどこか罪悪感を感じてしまった。
「……すまんな? 監視されるような目に合わせてしまって」
「いいえ? もう慣れちゃったっていうか……マリーダさんがいつもそばに居てくれないと、逆に落ち着かなくなっちゃいましたし?」
「ハハハ、それは難儀だな?」
「……あ、すみません」
「どうした?」
むずむずする一夏は、恥じらいながら言う。
「トイレに行っても……?」
「ああ、待っていろ? 今、男性の教員を呼ぼう?」
携帯を手にマット達へ連絡しようと、一夏から目を背けたときのことだった……
「ああ……って、何だ貴様か? フォルド……」
期待外れの教員にため息をつくマリーダ。
『おいおい? まるで俺が軽蔑されてるみてぇじゃねぇかよ?』
「そのままの意味だか? まぁいい……ん? 一夏!?」
ふと、マリーダは一瞬にして一夏の気配が消えたことに気づくと、慌てて振り返った。
『どうした……!?』
「しまった! 一夏が……」

とにかくも、一夏を含むMS側の生徒たちは今日一日部屋で待機する形になり、一方のISの代表候補生らと箒は模擬授業のためある岩だらけの海岸へと向かった。なにせ、千冬が彼女らに見せたいものがあるのだというではないか。それも箒関係でだ。
「……ッ!?」
しかし、生徒たちを背に先頭を歩く千冬は、前方に横たわっている人影を見つけた。
それは、まぎれもなく自分の身内である。それも、МS学園の制服を纏ったまま横たわっていたのだ。
「一夏!?」
弟がなぜこんなところで横たわっているのか、理解できずとも千冬は真っ先に彼を叩き起こした。
「起きろ! 一夏!?」
「ん、ん……?」
すると、千冬は呆れた顔をして彼を見下ろしている。
「こ、ここは……!?」
ゴツゴツした寝心地の悪さにハッとして、一夏は飛び起きた。すると、姉以外にも代表候補の女子と箒が自分を見つめている。
「一夏、なぜお前がここに!?」
箒が問う。
「し、知らねぇよ! 確か、旅館で……え!?」
そうだ、確か旅館で教員らに警護されながらマリーダと一緒に部屋で待機していたはずだ。それが……
「全く、さてはアイツの仕業か……」
千冬は、ため息交じりに犯人が誰であるかを思い当てた。ターゲットを強制的に目的地へ転送させる。そんな芸当ができる存在といえば……
「イヤッホォ~! ちぃーちゃ~ん!!」
後ろの急な崖坂を滑りながらこちらへダッシュで駆け寄ってくる。ウサミミのカチュウーシャにワンピースを着た、ISの開発者「篠ノ之束」である。
「束、一夏をここへテレポートさせたのはお前の仕業か?」
千冬の問に、束は胸を張って「大正解~!」と答えた。
「そうだよ! イッ君にはどうしても白式を使ってもらいたいから~……」
そんな彼女の登場に、周囲の候補生らは一斉にざわめきだした。何せ、あのISの生みの親として現在は失踪して国際手配されている人物である。
「束さん! 今度ばかりは許しませんよ!?」
一夏は、束を睨みつけた。いくら、姉の親友とはいえ二度も行う誘拐行為にさすがの一夏も堪忍袋の緒が切れそうになる。
「えぇ~!? だってぇ~!!」
「とにかく、俺を『マリーダさん』のところへ返してください!」
「……ッ!」
一夏の、「マリーダ」という名に千冬はとっさに反応した。
「あ~んな怖いプルシリーズのどこがいいの~!? 性格悪そうじゃん?」
「マリーダさんは、とても優しいお姉さんです! 感情を表に出さないだけで、性格は悪くなんてありませんし、誰にでも人当たりのいい人なんです!!」
「一夏……!」
すると、二人の間に千冬が割ってきた。
「な、なんだよ……?」
余りにも真剣過ぎる目をして、千冬は一夏の肩をガシッとつかんだ。
「マリーダという女がそんなに気になるのか?」
「何だよ? 姉貴には関係ないだろ?」
「警告する。ジオンの女なんぞ信用するな」
「はぁ! それこそもろ関係ないだろ?」
「あの将兵は、ジオンの特殊部隊というではないか?」
「もういい。俺、行くよ……?」
と、最後に一夏は束へ振り向く。
「束さん! 引き留めようとしたら、俺絶交ですからね!?」
「ちょ~……ちょっとイッ君~!!」
「待ってくれ! 一夏」
すると、彼の袖を真っ先掴んだのが箒であった。
「せめて、私のISだけでも見てくれないか?」
真剣に言う箒に一夏は断れず、それが見終えたら返してくれるんだと信じて、とりあえずこの岩場に少しだけ留まった。
「姉さま……」
「うんうん! 箒ちゃんの専用IS持ってきたよ~!!」
箒は束へ振り向くと、束もそれに合わせて手にしたリモコンを押して上空から飛来する何かを呼び出した。それは、直径5メートルもの巨大な菱形の物体であった。
高速で地上へ降下し、そのままこちらへ激突するかと思いきや、先ほどの勢いはそれはピタリと途切れて一夏達の地上で制止した。
「これぞ! 箒ちゃん専用IS,『紅椿』なのだ~!!」
赤い装甲で彩られた鮮やかなIS,それも第四世代機だということに一夏は警戒という意味で驚いてしまう。
「マジかよ……! こいつは、手ごわいな?」
その脅威は、MSの社会を脅かす女尊男卑の凶器と一夏は悟った。
「さーさー! 箒ちゃん、早くこの紅椿に乗って! 乗って!」
束に勧められながら、言われずともと箒はすぐさま紅椿を展開してその紅い甲冑を身に纏った。
新たな、それも巨大な力を得た箒からして自身は輝いていると自尊した。無理もない。紅椿の空中戦は候補生らが度肝をぬくかのようなトリッキーかつ優雅な機動戦で次々に束が用意したホーミングミサイルも両手にする二刀の刀、雨月と空裂で次々に撃ち落としていくではないか。
しばらくした後に、箒は優雅に一夏の元へ降り立って誇らしげに彼へ感想を問う。
「どうだった? これで、私も他の代表候補生に劣らぬように見えるだろ?」
「そう……だな?」
機体の調整ができず、ただ単にバーニアや攻撃力を大出力を引き出して暴れ続けていたにすぎない。しかし、それがあまりにも恐ろしかった。何せ、彼女が得意とする剣術戦による剣劇はすさまじい。アレを直に受ければ自分のユニコーンなら無事であるか否か……

「飛行速度良好、エネルギー漏れは無し、動力コアも未だ以上ないよ? 父さん」
高度上空を飛行中のパーフェクトガンダムを纏うアムロは試験状況をこまめにテムへ伝えながらその後の試験航行を続けていた。
「そうか……よし、それならこの辺で休憩をとってくれ? この先降下すれば地上の海辺に岩場がある。とりあえずそこへ行け?」
「なぁ……? 父さん、前々から気になってたんだけど?」
「何だ?」
「その……護衛のМSはないの? さっきから俺だけ一機だけでなんだか不安なんだよ?」
「心配いらん。操作は切り替えでこちらから遠隔操作できる」
「そうじゃなくって、何か……襲われたりでもしたらさ?」
ISかMSのテロに遭遇したらどうするんだ? 僕はそっちの方で不安であった。
「ああ……そういうことか? まぁいい。どうせ、MSのテロがお前を攻撃したりはせん。ISのテロさえも、下手にお前を襲えば、連邦軍やジオン軍、はてはソレスタルビーイングをはじめ、各地で武力行使を続けているMSのテロ組織が一斉に報復を求めにISテロを殲滅しにかかるだろう」
確かにありえないことはない。しかし、テスト機ならそれ相応の護衛をつけてもいいんじゃないか?
「でも、僕ってテスト機パイロットだよね? 念のために護衛とかつけないの?」
「んなもん付けたらIS委員会の連中がうるさいからな? まぁ、知っているとはいえ上の連中が目で見て、さらに写真でも撮れば、連邦政府に対して嫌がらせをしにくるんだよ? それが嫌だから、できるだけ目立たないようにしているだけだ。ちなみにパーフェクトガンダムには強いステルス機能が搭載されている。そう簡単には見つかりはせんよ」
「ふぅん……?」
不安とはいえ、父さんがそういうのなら別に気にはしなかった。
しばらくして、地上に岩場らしき場所が現れた。たぶん、そこが休憩場所だとおもう。
「よし、休憩だ……」
ごつごつした岩場へ降り立って、パーフェクトガンダムを解除した僕は、汗だくの身体を拭くため、ハロの中からタオルを取り出した。
「フゥ……パーフェクトガンダムは従来のガンダムと比べて結構体力使うな? やっぱ追加アーマー装備の重さだよ」
長時間飛ぶにはやや疲れる、まぁ軍人が使うことを考えれば彼らの強靭な肉体なら長時間の稼働は問題ない。僕の場合だと少し疲れる。
「ん……?」
すると、ふと向こう側の岩場から何やら数人の人影を見つけた。そのうちの一人は僕と同じМS学園の男子生徒だ。つまり……
「一夏!?」
何故一夏が? ISとは関係ないはずじゃないか?

「……あ!」
一方の一夏は、箒に問い詰められている中で唯一の助け舟を見つけた。岩場から隠れて除き込んでいる同級生の一人だ。
「アームロー!」
「やば……!」
僕は知らんふりをしようとした。厄介なことに巻き込まれそうだし、それも僕の苦手な千冬先生や箒たちまでいるじゃないか? あれ、もう一人のウサミミの人は誰だろ?
「だれだ……?」
僕は、それを見て好奇心から一夏達の元へ歩み寄ってしまった。
「一夏、その人は……?」
「ああ、この人? 姉貴のダチだよ。それよりも……パーフェクトガンダムの性能はどうだ?」
一夏は、やはり紅椿よりもアムロの乗る最新のパーフェクトガンダムのほうに興味があった。
「ああ、もう凄いってもんじゃないよ? 武装が……あ、ごめん秘密なんだ」
「えぇ!? 教えてくれよ? お前のお父さんが作ったガンダムだから超スゲーに決まってんじゃん!!」
「ダメダメ! 僕と父さんたち以外は企業機密なの。わるいけど、忘れてくれ?」
「いいじゃんか? 頼むよ! 誰にも言わないからさ!?」
「じゃ、じゃあ……父さんと相談してみる」
僕は、ケータイを取り出して父さんに連絡を取った。
「い、一夏! 私のほうを見てくれ!?」
アムロの方へ視線を奪われてしまった箒は、やけになって一夏へ怒る。
「ご、ごめん……箒のも凄いって? 第四世代機なんだろ?」
しかし、焦った発した一夏の表情を、箒はよく思っていなかった。
「何だ……その態度は! もっと、自然に笑ってくれてもいいじゃないか!?」
「自然って……悪いけど、箒?」
一夏は、飽き飽きした顔で箒にこう告げる。
「幼馴染だってことはわかるけど、俺たちは通ってる学校が違うだろ? 俺はMSでお前はISだ。勉強することも違えば興味も違うんだし、それに俺はMS学園の生徒だから、ISに関しては詳しくないんだ」
「……!?」
「ごめん。ちょっと俺……急にこんなところへ呼び出されたから急いで旅館へ帰らないといけないんだ。先生達やマリーダさんが心配しているし……」
やや、言い過ぎてしまったのか、箒は下を向いて黙ったままだ。しかし彼とて戻らなくてはならない場所がある。仕方ないと、一夏は今度こそアムロと一緒に彼女らへ背を向けようとしたのだが……
「イッ君~!?」
「!?」
刹那。一夏の頭上から表れた巨大な鉄格子の檻が現れると、地響きと共に彼のもとに落下、一夏を閉じ込めてしまった。
「な、なんだ!?」
「もしもし父さん……って、一夏!?」
父さんと通話を始めた僕だったが、すぐさま一夏の元へ駆け寄って、その鉄格子を掴んだ。もちろんびくともしない。
「イッ君? さっきの態度見て、束さんちょ~っと来ちゃったかな?」
「あの、一夏に何するんですか!?」
「黙れよカス」
「……!?」
すると、その女性は……僕に対して凄い冷たいまなざしを向けた。それと同時に彼女の感覚も悟ってしまう。とても、個性の激しすぎる歪んだ感情だった……
「姉さま! さすがにこれは強引です!!」
妹の箒も、一夏を解放させろと束へ迫るが、束はまったく彼女の言葉は聞こえない。
「束! いくら何でも悪戯が過ぎるぞ?」
千冬も呆れて怒るが、今の束はやはりこだわりとプライドのスイッチが入ってしまって誰の言葉も聞こえていない。
「一夏、今これをビームサーベルで……」
僕は、一夏を助けるためにガンダムを展開しようとするが、それも千冬に制止させられた。
「よせ嶺! 束の前で下手な真似はするな?」
「そーだっ! いいこと考えたよ? 箒ちゃんがそこのアフロパーマーと戦ってくれたらイッ君を釈放してあげてもいいよ?」
「アフロパーマー……? 僕のこと?」
「箒ちゃんと本気バトルしたら考えてもいいよ?」
「どうして、僕なの?」
「MSはISの仮想敵キャラなんでしょ? なら……一度、ボコってみたかったのよね?」
再び束の表情が冷たくなる。これは、アムロに対する敵意でもあった。
「……わかった。戦えばいいんだな?」
『どうした! アムロ?』
切らずにポケットへしまい込んだケータイを取り出して僕は父さんと改めて連絡した。
「ごめん、なんだか……戦闘になった」
『わかった。今すぐ部隊を送る』
「いや、その……篠ノ之さんと戦うことになってさ?」
『篠ノ之? まさか……そこに、篠ノ之束が居るっていうんじゃないだろうな!?』
父さんは途端に驚いた物言いになる。
「よくわからないけど、ウサミミのカチューシャした女の人がいるよ?」
『やはりか……! アムロ、すぐにその場から逃げろ? 彼女は危険だ!!」
「でも! 一夏が……」
『くぅ! そうきたか……わかった。私が来るまで持ちこたえろ? パーフェクトガンダムの性能なら大丈夫だ』
「戦えばいいの?」
『そうだ、だが無理はするな!?』
「うん! 気を付ける……」
僕はケータイを閉じて、再び束の方へ振り向いた。
「……勝敗によってはどうなるの?」
「本気でバトればいい。ま、勝負は決まったも同然だけど?」
と、見下ろす態度で言う束に、僕はややムッとするが、一夏のためにここは絶えた。
「よし! 頼むぞ、ガンダム!!」
僕はパーフェクトガンダムを展開して纏った。
二体の機影が上空へ浮上し、何故が箒が僕を睨んでくる。
――嶺アムロ、こういう形で対戦するつもりはなかったが、しかし好都合だ。今ここで、一夏に相応しい存在が誰なのかはっきりさせてやる!
そんな、敵意と闘争心丸出しの箒を見て、アムロはやや顔が強張った。
――やっぱり、僕のことを嫌っている。一夏に対して凄い執着だ……!
そして、束がならずブザーを合図に僕のパーフェクトガンダムと箒の紅椿は互いの刃を向け合う。
「嶺アムロッ!!」
二刀の刀を掲げて僕に迫る箒、それを右腕のシールドで難なく受け止めるが、パワーが強すぎる!
「アムロ! お前とは前々から渡り合ってみたかったのだ!」
互いの刃が重なると同時に激しい火花が散り合って、そこに激しい光が生じた。
「何で僕となんだ!?」
「私はつくづく思うんだ……お前を超えれば一夏が私に振り向いてくれるって!」
「なんつう考えしてんだよ! 意味が分からないって!?」
「お前がいるから一夏が私に振り向かない。お前を倒せば……!」
「僕と一夏は、そこまで仲良しじゃないってーの!?」
互いの刃が弾かれ、双方は新たに距離をとる。
「フンッ、まぁいい……前々から『ガンダム』という存在が憎らしかったんだ。ここらで決着をつけてやろう!」
双方の剣先を僕に向けて箒は叫んだ。
「いざ、尋常に勝負!!」
「戦いを楽しんでる!? こんな奴に……!!」

無人の砂浜に佇む一軒の家にて

「どうだ? 例のMSは……」
赤い軍服に金髪の青年が、目の前で連邦のMS「ガンダム」と、赤い第四世代機なるISの格闘の映像を宥める少女の元へ歩み寄った。
軍の研究施設で暮らす彼女には、ときに休暇というものが必要とされたので、目の保養と気分転換のため、休暇を用いて日本の浜辺で寛がせているとのことだ。
あいかわらず、物静かで休暇を満喫しているのかどうかはわからないものの、この青年が来てくれたことで、少女は先ほどまでとは違ってやや微笑みが増した。
「偶然、戦闘が行われていたということで小型の飛行カメラを用いて撮影しているのだが……君は、この戦闘で双方のうちどちらが勝つと思うかね? ララァ・スン」
赤い青年が、目の前でその映像を見る少女へ微笑みながら問う。
「そうね? 『白いの』が勝つわ」
即決でララァは返答した。
「ほう、ガンダムが? 確かに……あの装備は伊達じゃないな?」
MSサイズにIフィールドと、なおかつフルアーマー装備に機動力を生かした改良などジオンでは考えられない。一様、ジャマー機能を搭載した機体はあるものの、それでもIフィールドと比べたら、その存在は桁違いである。
「それもそうですけど……『白いの』のパイロットから何か感じるのです。私と同じなようで、でもとても強い力も……」
「……」
青年は引き続き、ララァの言葉に耳を傾ける。
「それに、『赤いの』は何だか激しい感覚と、どこからともなく強烈な印象が伝わってきます。感情的になりすぎて周りが見えてないみたい……」
「ほう? 確かに、動きが尋常ではない。ふふ、ララァは賢いな?」
「いいえ? キャスバル様ほどでは」
「今の私は、シャア・アズナブル大佐だ。赤い彗星という異名でしられるMSのパイロットだよ?」
「大佐のような姿の軍人は珍しいと私は思います……」

一方で、岩場の上空で行われるガンダムとISの激闘は今は決着がつくことを知らない。
どちらも、互いに引かない戦いである。
「このぉ!」
紅椿の刀がパーフェクトガンダムの頭上から襲い掛かるも、それを盾で受け止めるガンダムはそれをはじいて、距離を取り、右腕のダブルビームライフルで反撃に出る。
しかし、その図太いビームを箒は両手に握る二刀の刃で切り裂いていくではないか。
「くぅ!」
パーフェクトガンダムの両足に取り付けられた無数のミサイルが発射し、迎撃を加える。
「笑止!」
だが、箒はそれに怯むことなく突っ込んでくる。それも、被弾したかに思えたがダメージらしき手ごたえは見当たらない。
「このぉ!」
パーフェクトガンダムは腰に取り付けられたパワービームサーベルを抜いて紅椿の二刀を受け止めて切り払った。
「やるな! ガンダム!!」
「こいつ! 違うぞ? ほかのISなんかと比べて装甲もパワーも!!」
「今の状態でもまだまだ戦えるぞ? お前のガンダムも健在だな?」
「やめろ! 僕は君とそこまで戦うつもりはない!!」
「ならば、負けを認めるか! ガンダム!?」
「……篠ノ之さん、そんなことをして一夏が本当に振り返ってくれると思ってるんですか!?」
「なに……?」
「どうしてもって言うなら本気でやりますよ?」
確かに紅椿の性能には驚かされたが、それは単に小手調べである。
「手加減してただと? バカにして!」
そのとき、二体の通信にこの対戦の制止を促す声が響いた。
「やめるんだ! 直ちに双方の機体を解除しろ!?」
テムであった。その声にアムロが真っ先に叫ぶ。
「父さん!? よかった……」
「やめるんだ、束君!」
テムは、岩場へ数人の連邦兵とともに駆け出してきた。
「て、テム!?」
と、束は目を丸くして叫んだ。
「テム、どうしてこんなところにいるの!?」
なんとも意外なことに束は驚く。そんな光景に周囲は目を丸く見開いていた。ちなみに、束があれほど他人に対して興味がないというのに、テム博士に対してあれほどの顔をするとは千冬としても驚きであった。
「束君、今すぐ一夏君を解放しなさい?」
「テム! どうしたの!? 束さん、あのあと必死でテムを探したんだよ!?」
「君から姿を隠すために強固なステルスを纏って今まで生活していたのだよ」
「ど、どうして!?」
「君が、歪んでいるからだよ……」
「た、束さん歪んでなんかないもん!!」
「束君……君は、ISをあのような形に変えてしまってから他者や異性を拒絶し、そして数少ない友人や知人だけで視野の狭い考えでしか物事を判断することしかできなくなった……」
「だって! だって!! 汚いじゃん!? 知らないやつなんて何もかも、束さんは……」
「束君、自分が多くの人々に支えられて生きていることを、まだ理解できないのか?」
「んなのカンケ―ないし~!?」
「君は知らないだけで、実際は大勢の知らぬに人々と支え合って生きているんだよ? それも数えきれない人たちにね? 君だけではない、私や周囲にいる子たちでさえ同じなんだよ?」
「そんな哲学ききたくないよ!? テムこそ、どうしてMSなんかを作ったの!?」
「君の、歪んだ野望を阻止するためだ。これ以上、ISによる支配はこの私が許さん」
「むぅ~!」
束は、頬を膨らませて完全に怒った状態になった。そして、吹っ切れたかのようにこう言い残す。
「じゃあ、いいもーん! 束さんは束さんでやっていくから? もうテムなんて知らないもんねー?」
そういうと、束は指を鳴らすと一夏を閉じ込めていた鉄格子の檻は光になって消えてしまった。
「イッ君、まだまだ束さんは諦めていないから♪」
と、いって彼女はテレポートで消えていった。
嵐が去って、周囲は騒然としていた。しかし、これでようやく一夏が救出されたのでアムロはほっと胸をなでおろした。


宿の部屋にて

「まったく、心配させおって」
マリーダは、心配しながら一夏の肩に手を添えた。
「す、すみません……」
「まぁ、一瞬でも目を離した私の責任でもある。今後はさらに油断できないだろうな?」
「そうですね? 束さんも、諦めが悪いようですし……」
一夏が連れ去られた途端、MS側の生徒や教員、マリーダは突然の睡魔に襲われて眠らされていたのだ。おそらく、束の仕業だ。
「マリーダさん?」
「ん?」
一夏は、もし知っているのならとマリーダに問う。
「その……アムロのお父さんで、テム博士をご存知ですよね?」
「ああ、ジオンにも技術提供してくださっている方だから軍で知らぬ者はおらんよ?」
「だったら聞きたいんです。テム博士と束さんって知り合いなんですか?」
「テム博士と?」
「はい、実は今日テム博士と束さんが会って……」
「そうか、私も詳しいことはそこまで知らんのだが……ドクター・Tは、かつてテム博士の……」
「一夏さん!? マリーダさん!?」
血相を書いて部屋へ入ってきたのは真耶である。
「山田先生?」
「緊急事態です! すぐに織斑先生のところへ来てください!?」
――いったい、どうしたんだ!?
一夏は、何やらよからぬ予感を抱いた。


数時間前、ハワイ沖にて

ハワイ沖の上空を滑空する銀色のISの姿が見えた。アメリカとイスラエルが共同開発した試験稼働中
の新型機「シルバリオ・ゴスペル」である。
しかし、様子が尋常ではない。通称「福音」と呼ばれるその機体は、突如として謎の暴走を起こし、母艦からの命令に背いてハワイ沖の上空から離脱しようとしていた。
「ナターシャ大尉、応答せよ!?」
「ダメです……応答がありません!!」
「機体状況は!?」
「原因不明のプロテクトがかけられていて確かめることができません!」
「くぅ……何が起きたんだ!?」
「艦長!」
「どうした!?」
「ナターシャ大尉の前方に巨大な機影を発見! これは……!?」
「モニターに出せ!?」
大型まにたーに映し出されたその映像、暴走する福音の前に突然ともなくその機影が立ちふさがった。
浮上するそれは、巨大な四枚の羽根に包まれた紫色の蕾状の物体であった。サイズからしてISやMSより数倍も巨大である。
「な、なんだ……これは!?」
そして、巨大な蕾から僅かに開いた隙間より不気味に鋭く睨む``逆さま``の視線が福音を覗き込んだ。
 
 

 
後書き
次回
「悪魔の子」 
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