大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第二十五話 悪所進出&園遊会
前書き
今回は少し気合を入れて大容量(当社比)となっています。
誤字脱字等啞しましたらコメントにてご指摘いただけると嬉しいです。
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誤字脱字を修正しました。
”悪所”………。
帝都の南東に位置するこの地区は帝都内で唯一亜人の生活が保障されている地区である。
しかし同時に貧民街でもあり、暴力と犯罪の巣となっていた。
そんな現実では警察沙汰名事件が日常茶飯事なこの地区には帝都の一般市民は誰も近づかず、他の地区とは高い城壁で隔離されている。
そんな治安が悪いこの場所に、ロンディバルト軍の帝都における活動拠点が設置されていた。
そこに配置されている部隊は200名、市街地での武装組織やゲリラとの戦闘を主任務とする都市型戦闘特殊任務大隊所属である。ロンディバルト軍内でも4つしかない数少ない部隊で、今回特別に特地に派遣されていた。
拠点設営から1週間が経ったある夜。
悪所の顔役の一人であったベッサーラの一家が、”余所者が入り込んできた”という情報を聞きつけて部下とともに乗り込んできた。
『こちらT1。武装した集団を確認。数は50から40、屋根伝いにも分隊規模が移動中』
「こちらHQ。確認した。対応はこちらで行う。T1は監視を続行せよ」
『こちらT1了解。監視を続行する、アウト』
通信が終わると本部ではすぐに迎撃態勢に入った。
「彼らは我々流儀で最大限持て成してやろう」
大隊長であるアイザック・アヴロフは銃に暗視スコープを取りつけながら呟いた。
アヴロフの指示で迎撃態勢を整えている頃、既に気づかれているとも知らずベッサーラの一団は徐々に拠点へと近づいて行った。
後50メートルと言う所まで近づくと、一団の中からハンマーを手にした大男が現れ、扉を破壊するために入口へ近づいた。
が、ハンマーを大きく振りかぶった瞬間室内から一斉に銃撃が加えられた。
大男の体にH3A1やH160の5.56mm弾が貫き、ハチの巣の如く穴だらけにしていった。
一斉射が終わるとすぐに二階と三階からその後方にいた一隊にも銃撃が加えられ、一人、又一人と道には死体が重なっていった。
屋根から弓矢を放とうとした一隊には、拠点屋上にいる狙撃班が的確な狙撃を加え、脳髄に弾丸を食らわせていく。
室内へと逃げた者たちはグレネードによってその建物ごと爆殺させられた。
後に死体確認で判明したことだが、この爆発でベッサーラ自身も一緒に吹き飛んでいた。何ともあっけない最期であった。
この数分間の銃撃によって、外に動くものは何一つ残っていなかった。文字通りの全滅である。
この戦闘の後、ベッサーラ一家は統領を失ったことで壊滅し、他の顔役はその財産と縄張りを分け合って以来、ロンディバルト軍に手を出すことはなくなった。
それどころか進んで協力を申し出るようになり、悪所での活動はとても順調なものとなっていった。
■□■□■□■
所変わって帝都の皇室庭園では現在、ピニャとロンディバルト外交官の菅原浩治による講和派議員達の家族を招いて園遊会を取り行なっていた。
本土から持ち込んできたサッカーボールやボーリング、輪投げなどの催しは子供だけでなく大人にも好評であった。
第三偵察隊所属の隊員達も参加しており、栗林は女性向けに護身術の講座を開き、黒川は緊急時に簡単にできる応急処置の仕方をレクチャーしていた。
古田は入隊前に一流料理店で働いていた経験を活かして来賓達に料理を振舞っていた。
中でも本土から持ってきたマスタードやケチャップで味付けされた串焼きは大好評で、出来た途端に無くなってしまうという状態であった。
古田が料理を出すと知ったペルシャールは、だったら俺もと競うようにお菓子職人を目指していたと豪語して大量のデザートを作った。ショートケーキやクッキーからホールケーキまで多彩なデザートがテーブルを飾った。ピニャはそれを見て”貴国では皇帝が自ら食事を作るのか!?”と菅原に迫ったという。
そんな大盛況な園遊会の端では、ペルシャールが自身が作ったクッキーを講和派議員に手渡しつつ彼らに自分たちの武器について説明を行っていた。
シェーンコップ率いるローゼンカヴァリエの隊員達が一列に並び、H3A1とH160を構えて25m先にある帝国兵の鎧一式に5.56mm弾を撃ちこんでいた。
自国の装備をいとも簡単に貫通する様子に議員たちは驚愕し、説明を続けるペルシャールにクッキー片手に走り寄った。
「如何でしょう?これが我々が使う”銃”の威力になr「売ってくれ!!」え!?」
「いや、こんなものをどうやって作るのだ!?」
「い、いやぁ……作り方は説明しかねまして……」
突然迫ってくる議員たちに驚くペルシャールに議員たちはさらに質問を浴びせた。
「この銃と言うものを貴方方はどの程度保有しているのだ!?」
「く、詳しくは申せませんが……、一人一丁はもっていると考えていただければ」
一人一丁という言葉に驚く議員達を横目にペルシャールは説明を再開した。
「次は”迫撃砲”をお見せしましょう」
その言葉に議員達はペルシャールから離れ、元の位置からRM117 120mm迫撃砲に目を向けた。
「半装填!!」
「半装填よし!!」
「発射!!」
特別に帝都まで派遣されてきた砲兵隊の迫撃砲部隊がRM117 120mm迫撃砲から120mm榴弾を発射させ、1.5km先に配置された鎧一式に着弾させた。その射程距離と威力の強さを目の前で見せつけられた議員達は暫く話し合った。
「……デュシー候」
「うむ……これ以上彼の国と戦えば我らは敗れる」
デュシー候は様子を見に来ていた菅原とピニャに近づいた。
「これはデュシー公爵、御家での晩餐以来ですね」
「菅原殿、堅苦しい挨拶は抜きだ。講和交渉におけるそちらの条件を教えてほしい」
菅原はデュシー候の後ろにいるペルシャールを一度見た後デュシー候に視線を合わせた。
「承知いたしました」
議員たちは菅原が条件を言うだろうと耳を傾けた。が、それは彼らの後ろから聞こえてきた。
「我々の条件は5つ」
菅原ではない者の声が聞こえた議員達は一瞬混乱した。が、それが聞きなれた声だと気付くのにそう時間はかからなかった。それもそうだろう、ついさっきまで彼らに銃についての説明をしていたのだから。
議員達は急いで後ろを振り返った。
「……おっと、驚かせてしまったようで申し訳ない」
そこには先ほど説明を行っていたペルシャールの姿があった。
「ミースト殿、何故貴殿が条件を?外交官は菅原殿だったはずだが…?」
デュシー候は自身の疑問をペルシャールに投げかけた。
「これは、紹介が遅れました」
ペルシャールは一度言葉を切って礼をした。
「私がロンディバルト国の大統領、ペルシャール・ミーストです。以後お見知りおきを」
「……大統領……?」
「つまり、貴方が皇帝陛下……」
一人の声に他の議員ははっとなった。
「こ、これは!先ほどはご無礼をっ!」
「どうか寛大なご処置を賜れれば……」
議員達は先ほどペルシャールに攻め寄ったことを謝した。
「あぁ、いえいえ何とも思っておりませんのでどうぞご安心を。あの程度で私の心は変わりませんから」
ペルシャールはあくまでも笑顔で頭を下げる議員達を止めた。
一通り落ち着くと改めて条件を口にし始めた。
「先ず一つ、帝国は戦争の責任を認め謝罪し、責任者を処罰すること」
「二つ目は帝国は賠償金として5億スワニもしくは相当の地下資源の採掘権を譲渡すること。三つ目はアルヌスを中心に半径100リークロンディバルト国に割譲し、その外側10リークを非武装地帯とし双方不干渉とすること」
「四つ目は亜人への差別を禁止すること。もし確認された場合はわが軍が現地へ赴き対処することになります」
「そして最後に通商条約の締結、これら5つがこちらの提示する条件となります」
「5億スワニ!?」
「無茶だ!!国中の金貨を集めても到底足りん!!」
「それに亜人への差別を禁止しろだと!?」
ペルシャールの言う条件に驚愕の言葉を口々に漏らす議員達、ピニャも5億スワニと言う言葉を聞いて改めてロンディバルトとの差に絶望してショックで倒れてしまった。
ペルシャールはまた先ほどのように揉みくちゃにされては敵わんと菅原を置いてさっさと後ろへ下がってしまった。
そんな戦術的撤退をする大統領を後目に菅原は5億スワニはは貨幣でなくとも地下資源の採掘権でも良いということを説明して何とか議員達を落ち着かせようと奮闘した。
菅原の活躍もあってようやく議員達が落ち着いてくると、警護としてペルシャールの横にいたシェーンコップの無線に通信が入ってきた。
『アヴェンジャー。こちらアーチャー、送れ』
「こちらアヴェンジャー。どうした?」
『騎馬の小集団五騎が警戒線を超える。招待客ではないが、身なりはよく盗賊の類には見えない。此方で対処するか?』
「アーチャー。監視を続行せよ」
『了解』
「閣下?」
「ああ聞いていた。直ぐに議員達を退避させようか。我々はまだ表向きには接触していないことになっているからな」
「では悪所に近い南東門に。あそこなら気づかれにくいでしょう?」
「ふむ、確かにそうだ。そうしてくれ」
シェーンコップは急いで部下たちに撤退準備を始めさせると倒れたピニャを担いでいるペルシャールに手を貸した。
「手のかかるお姫様ですなぁ」
「あぁ、全くだ」
二人の意見が一致した瞬間、部下が車を回してきた。中にはすでに議員達も載っているようで、皆少し不安そうな表情であった。ペルシャールは議員達に安心するよう声を掛け、車列を見送った。
二人は議員と部下の撤退を確認するとピニャを少々手荒に揺さぶって意識を戻させた。
ピニャの意識が戻ったのを見るとペルシャールは彼女に手っ取り早く状況を説明し、園遊会はこのまま続けるように指示すると、ピニャは直ぐに園遊会へと引き換えした。
起きたばかりでふらついていたので菅原が横でピニャを支えながらと言う形ではあったが……。
ピニャと菅原が園遊会に戻ると、そこにはゾルザルの姿があった。
「おぉぉおおおおお!!!!これは上手い!!素晴らしい味だ!!」
古田の焼いたマ・ヌガ肉を両手に持ち、マスタードをこれでもかと言うほどかけまくると、それを口に放り込んだ。そして最後にワインで流し込むという荒業である。
そんな豪快な食べ方を古田は苦笑いしながら見続けるのであった。
ピニャと菅原の二人は”何しに来たんだこいつ”と言わんばかりの表情で遠目からゾルザルを見るのだった。
「ではなっ!!フルタよ、例の件しかと考えておいてくれ!!」
30分ほど鯨飲馬食するとゾルザルは馬に肉とマスタードの入ったツボを幾つも括り付けて帰って行った。
ピニャと菅原はゾルザルを寄越したのは皇帝の右腕と言われるマルクスだということを重く受け止め、早急に講和交渉を進めなければと改めて思うのだった。
園遊会も終わり、拠点に戻ろうとする菅原は古田に先ほどの事を聞いていた。
「そう言えば、古田。さっきゾルザル皇太子に何か言われていたが、あれは?」
「えぇ、私の焼いた肉を大層気に入られまして、”俺の料理長になってくれ!”と」
「そうか……」
後にこの話を聞いたハイドリヒが古田にゾルザルのスパイを命じるのだが、それはまだ少し先の話である。
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