大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第二十三話 アルヌスの日常と交渉の始まり
地説明会から1週間が経ち、俺は今アルヌスに戻ってきていた。
留守中にも案の定難民は増え続け、現在は9千人を超え1万人に達しようとしている。
取敢えずアルヌス郊外で大規模な整地を行い、そこに住宅を建設して今ではちょっとした町になっている。軍の管理下の元で特別に許可された十数社の企業が進出してきており、人員派遣は未だ行っていないものの、大量の商品がここアルヌスに送られてきている。
ハイドリヒの話では一部の商品が商人達によって各地で転売されており、帝都の貴族たちの間でも珍重されているらしい。
しかし良い事もあれば悪い事もある。
町が急速に発展しすぎたせいで常に人手不足になっている。そこでフォルマル伯爵家のメイドたちも駆り出されているのだが、それを知った一部の若い兵士たちが一目見ようと通っているらしい。これだけならまだ許せる範囲なのだが、メイドたちが働く場所の中には酒を出すところもあるようなのだ。
ハイドリヒはここは引き締めを行うべきと言ってきたのだが、たまには息抜きも必要だろうとある程度許容するように言った。イタリカに駐屯している部隊の奴らがメイド達との交流を深め、アルヌスの部隊にいる兵士は羨ましがっているようだ。ここで引き締めなんてしたら兵士からの苦情が殺到するだろう。そしてその処理をするのは司令官であるこの俺なのだ。ただでさえ多い書類がこれ以上増えることだけは御免被りたい。しかし流石に無制限にと言う訳にもいかないので、あまりに出すぎたら注意をする程度に留めることにした。
「何すんだいっ!!!」
ハイドリヒと町を散策しているといきなり酒場から背の低い男が吹き飛ばされてきた。
どうやら揉め事らしい。念のため腰にある銃に手を掛けた。
男が起き上がると酒場の出入り口からヴォーリアバニーだろうか、男っぽい女性が出てきた。
「一昨日きやがれ!!このデリラ様の尻はアンタみたいな三下が触れるほど、安くはないんだよ!!」
どうやら放り出された男が酒の勢いでこのヴォーリアバニーに対してセクハラ行為をしたようだ。暴力沙汰に発展しそうな勢いだったので止めようと前に出ようとした。
だがその前に男の首元にハルバートが突きつけられた。
「貴方ぁ、見かけない顔だけどぉ。私が誰だかお分かりかしらぁ~?」
男はハルバートの持ち主を見た途端震え始めた。
「エ、エムロイの……」
「大人しくしてくれるなら、このまま見逃してあげるけどぉ?暴れたりないって言うなら、お相手するわよぉ~?」
「け、結構ですぅううう!!!!」
男は叫びながら路地裏に向かって走り逃げた。
「…意気地なし……」
少し残念そうなロゥリィに近づいた。
「見回りか、ロゥリィ?」
「最近出入りする人間が増えたから、ああいうお馬鹿さんも混じってて大変なのよぉ~」
やはり街の入り口には関所を作ったほうが良いか……。単なるお調子者が入ってくるだけなら良いのだが、これで帝国の工作員が入って来て町で騒ぎを起こされたら大変なことになる。ハイドリヒを見ると彼も同じようなことを考えていたらしい。基地に戻って早速手配するようだ。
■□■□■□■
ロゥリィと別れ、俺は基地に戻り報告を受けていた。
「ふむ、一先ず接触は成功と言った所か」
俺の言葉に特地派遣外交官の菅原が答えた。
「はい。ピニャ殿下の協力の元、既ににキケロ・ラー・マルトゥスの中立化工作には成功致しました。明日、部下と共に帝都に戻り本格的な講和派多数化工作を進めていきます」
「よろしい。くれぐれも焦らず、慎重に進めてくれ。万が一帝国に悟られたら講和交渉がご破算になりかねんからな」
「心得ております。それでは、失礼します」
菅原は一礼すると振り返って部屋を出て行った。
今回、帝国に派遣する外交官の中で要職に就いているのは現在副外務省長の白百合玲子だけだ。これは万が一帝国にこの講和交渉を察知された場合、最初に標的になる可能性が高いからだ。本当は副外務省長も入れたくなかったが、あまりに下っ端だけだと講和派が本当に講和の意思があるのかと疑念を持たれてしまうので致し方ない。
「さて……外交による勝利か。または武力による勝利か。それとも……」
「まぁ……流石にないよな魔法があるが、これだけ技術差が離れているのだから………」
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