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真田十勇士

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巻ノ九十六 雑賀孫市その十二

「速く正確に投げてな」
「敵をですな」
「倒すのじゃ」
「そうする様にします」
「一度に幾つも投げられるか」
 雑賀は穴山にこのことも問うた。
「どうじゃ、それは」
「はい、それはです」
「出来るか」
「この通り」
 こう言ってだ、穴山は炮烙を三つ同時に出してそれを投げてみせた。勿論火を点けてそのうえで、である。
 三つ一度に爆発させた、そうしてみせるとだ。雑賀も満足して言った。
「見事じゃ」
「炮烙のこうした使い方もですな」
「よいのじゃ、あと短筒と鉄砲も絶え間なく使えばな」
「よりですな」
「よい、そうしたことも覚えてもらう」
 これからはというのだ。
「わかったな」
「承知しました」
「あと少しじゃ」
 雑賀は微笑んで穴山に語った。
「御主の免許皆伝までな」
「あと少しですか」
「うむ、だからな」
「これまでより励み」
「そこまでいってもらうぞ」
「それでは」
 穴山は頷いて今度は鉄砲と短筒を絶え間なく使ってみせた、それもまた雑賀の満足がいくものだった。彼等がそうしたことをしている間に。
 大坂では家老の片桐且元が疲れた顔でだ、彼の家臣達にこう漏らしていた。
「相変わらずじゃ」
「茶々様も大野殿もですか」
「そして大蔵局殿も」
「うむ、どなたもか」
 その疲れた顔のまま言う。
「天下のことがわかっておられぬ」
「ですか」
「今天下は徳川に傾いていてです」
「諸大名もなびいているのに」
「それでもですか」
「あの方々は」
「わかっておられぬ」 
 一切という言葉だった。
「どなたもな」
「強きことは言われますが」
「それでもですな」
「天下のことを何一つわかっておられぬ」
「そして豊臣家のことも」
「豊臣家はもう力はない」
 かつて天下人であったがそれも昔というのだ。
「だからもうな」
「家のことを考えますと」
「幕府に従い」
「そしてそのうえで」
「一大名としてですな」
「生きるべきじゃが」
 それでもというのだ。
「あの方々はじゃ」
「全くわかっておられず」
「幕府に強いことばかり言われる」
「そうなのですな」
「幕府は四百万石、それだけで十万の兵を集められる」
 片桐は兵の話もした。 
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