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真田十勇士

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巻ノ九十六 雑賀孫市その八

「あの方ならば太閤様を止められたのですが」
「そういえばそうじゃったな」
「はい、雑賀殿もこのことはご存知ですな」
「聞いておった、大納言様が太閤様を止められていたとな」
「何かと」
「その大納言様もおられなくなり」
「そのうえで唐入りをされ」
 幸村の言葉が次第に詰まってきた、そのうえでの言葉だった。
「しかも利休殿も関白様も」
「聞いておる、自害されられたな」
「お二方共、特に」 
 幸村は言葉を詰まらせた、そうして言ったのだった。彼のことを。
「関白様が」
「あれはな」
「雑賀殿もですな」
「聞いておるだけだったが」
 それでもという返事だった。
「しかしな」
「そう言われますか」
「実に無念であられただろうな」
「何とかお助けしたかったのですが」
「そういうことか」
 ここでだ、雑賀もわかった。幸村が何故ここにいるのか。
 そしてだ、こう言ったのだった。
「わかった、わしもな」
「左様ですか」
「そういうことであったか」
「無念でした」
 幸村も言ってだ、その横では穴山も同じ顔になっていた。
「まことに」
「そうであろうな」
「それがしを認めて下さった方ですが」
「しかしあの方とはあまり」
「はい、お話したこともお会いしたことも少なかったです」
 幸村もこのことは認めた。
「実に」
「そうであったな」
「しかしです」
「それでもか」
「そうです、それがしを認めて下さったことは事実dす」
「士は己を知る者の為に戦う、か」
 雑賀はこの言葉を思った、このことを。
「そうなるか」
「そうです、つまりは」
「そうか、だがあえて言おう」
 雑賀は幸村を確かな声で見つつ彼に告げた。
「生きよ」
「我等に」
「わしが思うに貴殿達は死ぬにはあまりにも惜しい」
「その時にですか」
「そうか、だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「何があってもな」
「生きよと言われますか」
「うむ」
 その通りという返事だった。
「そうされよ」
「そうですか」
「死ぬには惜しい」
 これが雑賀が幸村達に思うことなのだ、そしてそれ故にというのだ。 
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