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ドリトル先生と悩める画家

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第十二幕その十一

「そちらをお願いします」
「そういうことで」
「先生も浮世絵がお好きですか」
「素晴らしい芸術だと思います」
「そうですね、ですが江戸時代は」
 その浮世絵はといいますと。
「まさに巷に出回っていた」
「そうしたものでしたね」
「町人のものでした」
「格式があるとは思われていませんでしたね」
「北斎も歌麿も写楽もです」
 有名な浮世絵の画家達もというのです。
「当時はです」
「幕府に召抱えられたり等はですね」
「ありませんでした」
「そうでしたね」
「そうした本当に所謂大衆のものだったんですよ」
「しかしその大衆のものがです」
 先生は美術館員の人、若くてハンサムな男の人にお話しました。
「あそこまで素晴らしいことがです」
「そのことがですか」
「これまた江戸時代の日本文化の素晴らしいところです」
「そう言われるのですね」
「江戸時代程大衆文化が花開いた時代はそうはありません」
「そうなのですね」
「世界的にも」
 こうも言うのでした。
「それも二度もでしたね」
「元禄文化に化政文化ですね」
「そうです、ですから」
「それで、ですか」
「そこまで考えますと」
 まさにというのです。
「浮世絵も然りです」
「大衆文化だからこそですか」
「素晴らしいです、あれだけ素晴らしいものが一部の人達だけの娯楽でなく」
「多くの町人の人達のですね」
「娯楽、そうしたものでの芸術であったことがです」
「素晴らしいというのです」
「そのことを書かせてもらいます」
 是非にというのです。
「論文に」
「それではお願いします」
「幸い今書いている論文の後は空いていますので」
 論文のお仕事が入っていないからというのです。
「ですから」
「すぐにですか」
「今書いている論文が書き終われば」
 その時にというのです。
「すぐにかかります」
「有り難うございます、それでは」
「はい」
 こうして先生は次の論文のことも決まりました、そしてそのうえで。
 先生は実際に今書いている論文を書き終わってからでした、すぐにその浮世絵の論文を書きはじめたのですが。
 またご主人のお仕事で日本に来ていたサラにこう言われました。
「あら、またなの」
「そう、論文を書いているんだ」
 先生は浮世絵の本を読みつつサラに答えました、お家のちゃぶ台に座って向かい合ったうえで。
「今度は浮世絵のね」
「兄さん日本に来てからずっとよね」
「論文を書いているね」
「イギリスにいた時なんて」
「それこそだったね」
「論文を書くことなんて」
 それこそというのです。 
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