Fate/Heterodoxy
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S-7 勝者/────
オレの目の前には一人の勇者、そして奥にその勇者が生前に殺した邪悪なる竜が聳え立っている。
その圧力に気圧される。いつの間にか十数歩は後ろに下がっていた。
『Gruaaaaaaaaaaaa!!!!!』
咆哮────それだけでもオレの足はこの場から逃げ出そうと後ずさる。だが、オレの召喚した英霊ジークフリートは依然として剣を腰の位置に構えてファヴニールを迎え撃とうとしている。
「マスター! 自身に毒耐性と麻痺耐性の魔術礼装か魔術を使って出来るだけ後方に下がってくれ!」
ジークフリートの声にオレは無言で頷き、一気に後退する。防護魔術の練習としてそれらに類する魔術礼装を造っておいた事を思い出し、指輪型のソレらを次々と嵌めていく。更に防護魔術を何度も詠唱して更に下がる。その間にも咆哮は止まらず、所々が燃えていくのが見えた。
しかし、ジークフリートと繋がっているオレに喪失感や乱れは感じない。上手く立ち回っているのだろう。
「頑張れ……ジークフリート……」
巨大なる竜の口から熱気のブレスが放たれる────。それに対し、竜殺しの英雄ジークフリートは避けず、そのブレスに飛び込んでいく。
普通ならば射程範囲外まで避ける。生前のジークフリートも背後に回る等してファヴニールの脅威であるブレスを攻略していた。しかし、『英霊』のジークフリートと『ニーベルンゲンの歌』のジークフリート─厳密に言うのならファヴニールと対峙していた時のジークフリート─は決定的に違う。
それは宝具とスキルによる防御力だ。今のジークフリートには竜属性に絶対的な優位を取れる『竜殺し』スキルと対峙しているファヴニールの血を浴びて授かった宝具『悪竜の血鎧』がある。これによりファヴニールのブレスはジークフリートにとってただの突風と同じだ。
ジークフリートはファヴニールの懐に潜り込み、勢いよく剣を振るう。今のファヴニールの巨躯ではジークフリートを捉えきれない──。
「────ッ!」
鮮血が飛び散る。竜種のどす黒い血がジークフリートの視界を一瞬だけ染めるが、彼の勇者は足を止めない。直ぐにサイドステップをして今度は神速の斬撃を撃つ。鮮血また飛び散る。
__不味いな。
ジークフリートはそう思いながら剣撃を何度も何度も繰り出す。
確かに、ジークフリートは鉄壁だ。ある程度の攻撃も効かず、ファヴニールに負ける要素は今のところ無い。
だが、その防御力を与えたのは他でもないファヴニールだ。ファヴニールと言う幻想種は圧倒的防御力に加え、回復力も並外れている。
__あの時とは違うのは俺だけではないと言うことか。
ジークフリートのその考えは的中していた。ファヴニールが反英霊となって得たものは多く、生前よりも回復力が上昇し、あらゆるステータスも上がっている。
__攻撃が通らなくなってきたな。
ファヴニールに幾度と無く斬撃を与えているが重ねるにつれて刃が通りづらくなってきていた。
見ると、ファヴニールの漆黒の竜鱗が変質して、まるで鎧のようなモノになっていく。それは黄金の輝きを纏っていた。
ジークフリートが攻撃を与える度に砕ける。そして、ファヴニールの肉や鱗のように修復される。それだけではない。更に凶悪なフォルムになり、強靭になっていた。
──ファヴニールの第二宝具《悪竜の鱗鎧》 ある一定ランク以下の攻撃を無効にする、に加えて並外れた回復力と防御力向上能力を所有者に与える──
ジークフリートのソレの上位互換──否、その基礎となったからこその圧倒的能力を《悪竜の鱗鎧》は有している。
「一気に攻めるか……?」
ジークフリートは跳躍し、距離を取る。既に思考回路がまともに機能していないファヴニールは本能のままに、ジークフリートを潰そうと巨大な前足を上げる。
だがジークフリートの攻撃はソレを凌駕する。一瞬の溜め、剣が輝きを帯びる。
「幻想大剣ッ!」
黄昏の衝撃波がファヴニールの巨躯に直撃する。数十メートルはあるファヴニールの巨体が浮き、数メートルだが吹き飛ぶ。
「Gyaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
叫びにも聴こえる咆哮。ファヴニールは今度は少し溜めブレスの構えに入る。
「再び、満ちろ──」
しかしジークフリートの宝具による猛攻はまだ終わらない。再び、短い溜めをした直後────
「幻想大剣──」
三度目の衝撃波がファヴニールを捉える。その攻撃にファヴニールはなんとか耐えたが、鱗鎧は大方剥がれ、大量の血が噴き出している。
だが、ファヴニールの紅の瞳は死んでいない。宿敵を捉え、殺そうとしている。ファヴニールは顔を上げ、口を開ける。
「Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
一際大きな咆哮がジークフリートの鼓膜を刺激する。
__何かが来る!
_そう直感するが、ジークフリートは二連続の宝具使用で少しの硬直をしている為、反応ができない。
直後、空が突然暗くなる。見上げると黒い雲がファヴニールを中心に渦巻いていた。
ジークフリートの本能がこのままではいけないと警鐘を鳴らす。それに従い、重い斬撃をファヴニールに喰らわせるがファヴニールの視線はいまだに空から離れない。
────そしてファヴニールの最後の宝具が舞い降りる。
それは黄金だった。見たものを全てを魅了するような輝きを持つ財宝だった。だが、その輝きは禍々しく、そして恐ろしい。惹き付けられる。だが、近寄れない。自分の物にしたい。だが、出来るわけがない。その黄金の財宝を見たものは誰しもそのような矛盾を感じるだろう。
その黄金の宝具の名は──《無意味なる黄金》──ファヴニールが守り、ジークフリートが手にした財宝の山がファヴニール最後の切り札だ。
財宝は天から堕ち、ファヴニールの背後に無造作にばら蒔かれた。
すると今までは気配さえ無かった野性動物達が一斉にその黄金目掛けて走り出してきた。その中には管理者が用意したのか一部幻想種も含まれていた。
「Grua!!!」
その一声で喧騒が一気に静まる。野性動物達は逃げてはいない。黙ってもいない。ただ息絶えた。先程までのファヴニールならば一声で全てを殺すことは不可能だっただろう。しかし、今はそれが出来る。何故? 決まっている。財宝を守る為、守るべき財宝が自分の背後に存在するからだ。
「……クッ!」
ジークフリートもそのプレッシャーに圧倒される。ファヴニールの今の身体に関するステータスは間違いなく全て規格外だろう。
「Gruaaa!!」
ファヴニールのその咆哮でジークフリートは我に返る。そこで恐ろしい光景を目にした。
何十もの剣が、槍が、斧が、鎚が、矢がジークフリート目掛けて翔んでくる。一部は不規則な動きで背中を狙うものもある。
「────ッ!」
一瞬だけ躊躇したが、先ずは不規則な動きで背中を狙っている数本の剣や槍を素早い動きで弾き飛ばす。そして直ぐに身を翻して残りの武器をその身で全て受ける。
計八本の武器がジークフリートの身を武器が突き刺さり、吹き飛ばす。
ジークフリートは数メートル吹き飛ばされたところで大木に当たり、やっと止まった。
ランクB++以下の武器ならば無効にし、それ以上でもB++分は軽減する《悪竜の血鎧》は貫かれ、ジークフリートは吐血した。どう見ても軽傷では済まない傷だ。
それもその筈。ファヴニールの翔ばした武装は全てがランクA以上、更に能力によりそのランクも神秘も跳ね上がっている。
ジークフリートの得意戦略は自身の不死性を利用した特攻だ。それが不可能に近い。
「ならば……一撃に賭けるしかないか」
ジークフリートは駆ける。強化された筋力、敏捷でファヴニールに迫る。その軌道は一直線ではなく、ジグザグに移動していた。
だがファヴニールらそんな事を気にした様子はなく炎の玉を数発口から放つ。それを器用に躱していくと着弾した瞬間、目眩ましのようになり視界が狭まる。そして死角から武器が迫る。
「……っ!」
魔力を纏わせた剣で回転しながらそれらの武器を弾こうとする。低い幸運値ながらもジークフリートはほぼ全ての武器を弾き飛ばし、背中を貫くようなものは無かった。
しかし数発は完全にヒットし、足を止められた。中には深く突き刺さっているものもある。
「────ッハァァァァァァッ!!」
まだ距離はある。だが彼の宝具は対軍宝具だ。
既に間合いに入っている。しかし、その距離ではあの鱗鎧に効果は無い事は明白だ。
だがこのままでは何も出来ない。ならば、小数点以下の可能性に賭けるしかない。
宝具を放つには無理な体勢だ。だが気合いでそれをカバーし、宝具を解放する。
剣から真エーテルが流れ出す。彼の宝具がまた、解き放たれる────
「幻想大剣!」
通常は降り下ろしで黄昏の剣気を放つ宝具だ。今回は無理したこともあり、真横に剣を振ったことにより真一文字状の斬撃がファヴニール目掛けて翔ぶ。
黄昏の斬撃はファヴニールの翼に当たる。幸運にも翼は鱗鎧により守られていない場所だったようで翼に孔を開けた。
これで、もしどちらが逃げたとしてもジークフリートに有利になる。だがそれは「逃げる状況で」だ。依然としてジークフリートの劣勢であることに変わりはない。
「Sieeeeeeeeeeeeegfrieeeeeeeeeeeed!!!!」
自分の翼に傷をつけた宿敵の名前を叫びながらファヴニールは暴れ狂う。その姿はまるで災害。炎が、毒が、武器が、爪が、牙が、その身体全てが災厄となりただ一人の宿敵に押し寄せる。
ジークフリートは一瞬で理解する。あの攻撃の嵐を受けたら死ぬだろうと。
__だが、諦める訳にはいかない。もし俺が死んでも、この邪悪なる竜が次に駒を進めることが出来ないように戦力を大幅に削る事くらいは出来る。
そして、最後の幻想大剣の構えに入る。
まだ来ない。ならばより強い力で押し留められるようにジークフリートも溜める。迫る。迫る迫る迫る。だが、まだ溜める。
そして、彼はその災厄に呑まれる直前に無限の魔力を使い、宝具を放つ────
「『幻想大剣──────」
黄昏の剣気が災厄を押し返そうとする。両者の攻撃は拮抗している……かのように見えるがジークフリートは苦悶の表情を見せている。段々と押し込まれていく。
_すまない……マスター……
最期に、彼は自身のマスターへと遺して災厄に呑み込まれる────
だが、彼は呑み込まれていなかった。当然疑問に思い、周囲を見渡す。自分に襲いかかってきた武器はあちこちに飛ばされ、炎も毒も見当たらない。
「……水?」
そこら中に水が飛び散っている。そして、最もおかしいのはファヴニールの躰を矛が貫いていることだ。
「第4のセイバーか……!」
ここまでくれば誰が何をしたかは明白だ。新たなセイバーが自分を助け、ファヴニールを貫く程の攻撃した。
矛の角度から見て丁度ジークフリートの背後の木からだと推測して、確認するが誰もいない。
「ハァァァァァァッ!!」
ならば駆けるしかない。確認出来ないのならば今目の前の敵を倒す事に尽くす。そう決め、ジークフリートは大地を駆ける。
魔力を剣に留め、ジークフリートは剣を何度も振るう。その連撃は的確に竜種の弱点を切り裂く。その中にディルムッドが付けた傷や先程の矛の周囲を切り裂くものも含まれている。
直後、ファヴニールは大きな叫び声を上げた。その巨体は光に包まれ、徐々に小さくなっていく。
「ジークゥ…………フリートォォォ!!!」
宿敵によく似た姿で、宿敵の名前を叫び、突撃していく。
「もう一度、眠れ。願わくば二度と……姿を現してくれるな」
既に血塗れになった剣を、掲げる。─その剣は先程の攻撃から真エーテルのエネルギーを溜めている─
そして、ジークフリートは最期ではない、最後の一撃を放つ。
生かさないように、完全に葬れるように、ただ一点に全ての力を収束させる。
────その宝具の分類は前例のない『対竜宝具』。ただの剣を一振りするだけだ。ビームが出るわけでも、剣気が放たれるわけでも、一瞬で三回の斬撃を放つわけでもない。
だが、この一振りには通常のバルムンクの十数倍のエネルギーを秘めている。そして、この剣は竜種を攻撃する際にある特殊効果が付与される。
「…………Aaaaaa!!?」
人型ファヴニールはその剣の持つ異様なエネルギーの危険性を察知して回避行動を取る……自分の場所を察知できないように血を飛ばして。
「『竜葬大剣・天魔失墜』」
だが、そんな小細工は通用しない。それがこの一撃の特殊効果。『竜の因子を持つ者を確実に捉える』単純で、最大の効果。
ファヴニールは追随する剣を再度避けようとするが、避けられるはずもなく、両断された。
「俺の……勝ちだ」
竜殺しの勇者は膝をつき、弱点である背中を完全にむき出した状態で勝利宣言をした。
S-7 勝者/ジークフリート
後書き
遅れました。
次回かその次でセイバー編が終了する予定です。
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