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真田十勇士

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巻ノ九十六 雑賀孫市その六

「必ずな」
「そう言って頂けますか」
「はっきりと感じる、そなた素質だけではない」 
 自分に完全について来る穴山のその動きを見ての言葉だ。
「相当な鍛錬を積んできたな」
「はい、これまで」
「それが出ておるわ」
 その動きにというのだ。
「相当なものじゃ、その為素質が伸びたわ」
「はい、殿に言われております」
 共に駆ける幸村を見てだ、穴山は答えた。
「素質だけでは駄目であると」
「日々の鍛錬がじゃな」
「はい、それが力になると」
「そうじゃ、幾ら才があろうともじゃ」
「何もせぬならば」
「何もならぬ、しかし御主は違う」
 穴山、彼はというのだ。
「その鍛錬、普通のものではない」
「殿とお会いしてから常に鍛錬をしてきました」
「ならばな」
「その鍛錬によるもので」
「御主はわしの全てを授けられるまでの者になった」
 こう言うのだった。
「だからな」
「雑賀殿はそれがしに」
「わしの術の全てを授ける」
 あらためてだ、穴山に告げた。
「金の術の全てをな」
「では」
「ついて参れ、そして術を身に着け」
 そしてというのだ。
「その力で御主達が目指すものを掴むのじゃ」
「それがし達のですな」
「そうじゃ、ただ強くなりたいのではあるまい」 
 雑賀にはわかっていた、このことも。
「御主達は何かを目指しておるな」
「義です」
 幸村は雑賀に一言で答えた、彼は鉄砲を放っていないが共に駆けている。それはまさに忍の動きだった。
「義の、武士の道をです」
「歩むか」
「そして時が来た時には」
「その術でか」
「働きます」
「だからじゃな」
「はい、今は家臣達に術を授けさせております」
 十勇士、彼等にというのだ。
「そうしております」
「わかった、ではな」
「その金の術をですな」
「穴山殿に全て授けよう」
「有り難きこと」
「もうわしはここから出るつもりはない」
 熊野、この奥からだというのだ。
「世のことには興味がない」
「そうなのですか」
「完全な世捨て人じゃ、それでもな」
「しかしですか」
「御主達はここまで来てくれた」 
 だからだというのだ。
「その想いに応えよう」
「それでは」
「うむ、是非な」
「小助にですな」
「わしの全てを授けてじゃ」
「そしてそのうえで」
「時が来れば戦われよ」
「そうさせて頂きます」 
 幸村も頷く、そしてだった。
 雑賀はそのまま穴山に彼の術を授け続けた、熊野の深い山の中を駆け回りつつ鉄砲や短筒、炮烙を使い続ける。 
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