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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
1節―超常決戦―
  森羅万象と百合の花

「『森羅万象(ズクィス)』――!」

 ルリが地面にそう叫ぶと、地面から木の枝が出現しガブリエルを突かんと突き進む。

「『護り給へ百合の花(リリィ・プリテクスト)』ッ」

 それに対し、ガブリエルは百合の花を模した障壁を即座に数個創り上げると木の枝を防いで見せた。
 防ぐ際に見せる一瞬も無い隙でルリはガブリエルの懐に入り込み、地面から創造した鋼鉄の短剣を振るう。
 だが、確かに隙を突いて行われた攻撃はガブリエルの障壁に阻まれてしまった。

「『我は森羅、我は守護」
「――――ッ!」

 攻撃を障壁によって防ぐ中、ルリが呟く内容を聞き取ったガブリエルは慌てて地面を踏み付け、障壁を“発射”。
 あらゆる攻撃を防ぐ盾は、高速で打ち出されることにより簡易的な物理武器となってルリに襲い掛かった。

「ぐっ……!?」

 まさかそんな攻撃方法を仕掛けてくると思わなかったルリは、まともに障壁を食らい多少吹き飛ばされる。
 けれど、ただ吹き飛ばされるのだけは許さなかった。

「我が放つは全てを切り裂く森羅の一撃』」

 詠唱二節目を終わらせたルリは、吹き飛ばされた衝撃を地面に叩きつけながら手を置く。
 その間に構成されるのは、架空の鉱石によって創り出された“必殺の鎌”。

 ルリが行えるのはただそれのみ。
 地面に“在る物”を操り、創造し、振るうだけだ。
 森羅万象、その全てと生と共にする存在……それが“守護者”と呼ばれる者。

 下手にフェイントを入れず、ルリはただ姿勢を低くしながらガブリエルに突撃する。
 地を這うかのような低姿勢で懐に入り込むと同時に、ルリは銅色の鎌を振るいながら叫ぶ。

「――『偽・全て切り(アダマス)()く地神の一撃(フェイクション)』ッ!!
「『護り給へ百合の花』ッ!!」

 しかし、必殺の一振りは百合の花によって防がれる。
 当然だろう。
 百合の花は“あらゆる攻撃”を担い手から護るのだから。

 “あらゆる攻撃”とは“こうあるべき”という概念ですらその領域に入る。
 故に、“必ず殺されるべき”という概念を擦り付けることすらこの百合の花は許されない。

「――――」
「――――」

 方や“神域の守護者”。
 方や“楽園の守護者”。

 けれど片方が行うのは“殺す術”。
 けれど片方が行うのは“護る術”。

 故に彼女は殺す術しか知らず、護る術を知らない。
 故に彼女は護る術しか知らず、殺す術を知らない。

 “殺す守護者”と“護る守護者”、どちらがより勝っているか……この戦いはそんな一面もあった。

 ―あの障壁、邪魔ですね……。
 ―あの攻撃、邪魔です……。

 互いに互いの唯一の術に完全に対処してしまうが故に、互いに相手の術を嫌う。
 もう魂レベルで真逆の存在と言っても過言ではないだろう。

 ―障壁を壊す確実な手段は、『神技』のみ。ですが魔力量的に多用は出来ません。

 なら、とルリが地面に手を置くと『森羅万象』が発動し同時多面攻撃をガブリエルに行う。
 1ミリの誤差も無い密度攻撃にガブリエルは、“自身を覆う障壁”を創り出すことで防いで見せた。

 ―やはり多方面同時攻撃に切り替えてきましたか。ですが私の障壁は絶対、半端な攻撃では対処すら出来はしない。

 『神技』レベルではないにしろ、『森羅万象』の発動にもある程度の魔力量を消費する。
 ならば、ガブリエルが行うのはただ“耐久”。
 そうすれば攻撃を全て魔法に振っている相手は、魔力切れを起こして行動できなくなるはずだろう。

 ルリがガブリエルに“必殺”を入れるのが先か、ガブリエルがルリに“耐久”仕切るのが先か。
 この勝負の行方はそこで決まると言っていい。

 ―“ただの戦闘なら”、ですが。

 今現在、深春とレーヌは中級、または下級の天使の殲滅を行っている。
 それが終われば、一気に形勢はルリ達が有利となるだろう。

 また、ルリ達の本来の役目は「“神門”の防衛」である。
 防衛をしている間にソウヤがウィレスクラに打ち勝ってしまえば、そこでこちらの勝負も自動的に付く。
 そのことを考えるならば、勝負の行方は先ほどと真逆だ。

 ガブリエルがルリに“勝つ”のが先か、ルリがガブリエルに“耐久”仕切るのが先か。

 ―圧倒的に今は私たちが有利。ですが、逆に言えばそこまでしてようやく私たちは熾天使と戦い合える。

 頬を流れる汗を、ルリは手の甲で掬い取って飛ばしながら心の中で苦渋の表情を浮かべた。

 ここまで敵を追い詰めて、初めて“申し子”と“熾天使”は対等。
 それほどまでに、“熾天使”というのは圧倒的な存在だった。

 ―ソウヤさんの背中は、まだまだ遠いのですね……。

 妖精でありながら魔族と対等に戦い、人間でありながら天使と対等に戦うソウヤ。
 彼が本気を出せばガブリエルどころか、ラファエルと同時に相手しても余裕で勝つことができるだろう。

 遠い、本当に遠い英雄の姿にルリは苦笑を抑えきれない。
 それでも、だからこそ、ルリはソウヤに恋をした。

 ――だからこそ、ルリは彼女(ガブリエル)を倒したい。

 ルリは両手に短剣を想像し、その柄を握りしめる。
 彼と出会い、彼と旅をしてからのルリの視線は常にあの背中だった。

 支えたい。
 護りたい。
 助けたい。

 そんな想いが重なって、重なり続けて“恋”となった。
 あのあまりな“英雄”らしさに、心を強く惹かれていたのだ。

「ガブリエル」

 だからルリは彼を支えたい。
 だからルリは彼を護りたい。
 だからルリは彼を助けたい。
 ――だからルリはソウヤを越えたい。

「行きます」
「――――ッ!」

 自身の足元の地面を勢いよく盛り上げ、その衝撃を利用し加速までに必要な時間を一気に短縮する。
 今までにないスピードでガブリエルに近づいたルリは、そのまま両手の短剣を振るう。

 だが、それは創り出された障壁に阻まれた。

 硬い障壁にそのまま力を込め、自身の体を浮かせるとルリはガブリエルの上空を取る。
 誰も“体を着けなければ力を使えない”とは言っていない。

 視線が上に向いた瞬間、『森羅万象』を起動し地面から攻撃。
 ――防がれる。

 地面から射出された短剣を空中で握りしめ、そのままガブリエルに向けて投射。
 ――防がれる。

 落ちる速度を利用して、もう一度創り上げた短剣でガブリエルに斬撃を放った。
 ――防がれる。

 その瞬間、予め詠唱二節目まで準備しておいた『神技』を発動、必殺の一振りを放つ。
 ――防がれ、障壁が剥がれた。

「――ここ!!」

 脚を踏み付け、鋼鉄の棘を創造し剥がれた障壁の間を縫ってガブリエルに攻撃――!

「惜しかったですね」
「――――」

 ――が、防がれる。

 “2枚目”の障壁を起動したガブリエルは、したり顔でルリに笑う。
 けれど、それでは終わらない……“終われない”。

 ガブリエルの後ろの地面から、もう1つの鋼鉄の棘が出現し今度こそ彼女の体を貫き――

「それを含めて言ったのです、“惜しかったですね”と」
「――――」

 ――防がれる。

 “3枚目”の障壁を創り出したガブリエルは、慈愛の笑みでルリを讃えた。

「えぇ、えぇたかが妖精の力で、良くここまで私を追い詰めました」

 呆然とするルリの体に急に襲い掛かる衝撃。
 “4枚目”の障壁でルリを吹き飛ばしたのだ。

 ―手加減、されていた……?

 ウィレスクラがソウヤに倒されるかもしれないという、この状況で。
 “時間を引き延ばされる”という行為自体がタブーな、この状況で。
 ――この熾天使は手加減していたというのか。

「すみません、私には“7枚の百合の花”があるのです」

 “7枚”。
 ルリの『神技』を使用して、壊せるのはそのうちの“1枚”のみ。
 壊したとしても、ガブリエルを護り続ける“6枚の花”を越えることは出来ないのだ。

「私の力の真名、それは“全て護り防(アイアスリリィ)()七輪の百合(ガブリエル)”」

 ―……私、は。私は……!

 自身の無能さに、自身の無謀さに悔むルリにガブリエルは“慈しむ”。

「心配なさらず、妖精よ。“我が世界神がソウヤに負けることはありません”」
「――――」

 勝てない。
 そう言い切ったのか、目の前の天使は。

 ―そんな訳、ないです……!

 勝てないのならば、彼の今までは何だったのか。
 彼の想いは何だったのか。
 彼の願いは何だったのか。
 彼の宿命は何だったのか。
 彼の背負った呪いは何だったのか。

「だって――」

 死んでいった人々は、取り残された人々は、戦い続けた人々は、一体何のために……!

「――遊戯ですもの」

 その笑みに、ヒトカケラの“慈しみ”は無かった。 
 

 
後書き
〇”全て護り防ぐ七輪の百合|(アイアスリリィ・ガブリエル)”
 …担い手に害なす全てを”必ず防ぐ”障壁を、同時7枚展開できる能力。 
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