グランドソード~巨剣使いの青年~
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最終章
1節―超常決戦―
神さえ怖れた天使
前書き
すみません、小説家になろう様では終了させたのですが、こちらの存在を忘れていました。一気に最終話まで投稿させていただきます。
光速さえ超え“神門”を潜ったソウヤは、妖精の世界でエレン達が戦っている中で神界へと脚を進めていた。
「……静かすぎる」
異様な雰囲気を持つ、神々しい世界に疑問を覚えながら。
神の世界、故に“神界”と呼ばれる世界は当然の如く神がいるはず。
けれど今ソウヤの視界の中には、一柱たりとも神の姿が見えないのだ。
―何かがおかしい。
“神界”と呼ばれる世界を一言で表すのなら、“宇宙”が相応しいだろう。
真っ暗の空間の中で星が煌めき、その星々の間を縫うように極光の道が出来ていた。
まるで、誰かを招いているかのように一本の道が。
「――綺麗だと思わないか、人よ」
「――――」
そう、それは確かに“ソウヤを招いていた”。
愛おしむように、慈しむように“彼”は星々を眺めて目を細める。
分かっていた、解かっていたのだ。
この“星の数だけ世界がある”のだと。
この“星はすべて世界を表す”のだと。
「お前、確か堕ちたんじゃないのか――」
だからこそ、この世界に彼が居ることは不思議だった。
だからこそ、世界の管理空間に居る事が可笑しかった。
「――なぁ、ルシファー」
「よく来たな、神殺しの力さえ得た“最も世界神に近しい男”よ」
美しい12枚の翼をはためかせ、白銀に染まった美しい造形の男は訪問者を歓迎する。
―……あまりにも、神話と異なりすぎてるな。
神話の中でのルシファーとは、熾天使の中でも特別に12枚の翼を持ち最上級の天使だった。
しかし、彼は堕天し悪魔の王……“サタン”へと変貌したはず。
それ故に彼の像は悪魔の翼を持っていた。
ならば今ソウヤの目の前にいる天使は何なのか。
左右に6個ずつ…計12個もの金輪と黄金に輝く12枚の翼を持つ、目の前の天使は何故存在しているのか。
「私が堕ちていない理由、それは簡単なことだ」
天使はそこでようやく視線を星々からソウヤへと移す。
その顔が、その表情が、その体躯が、その声が、その体の動かし方さえ、ソウヤには余りに美しく思えた。
“まるで生きていない”かのように。
まるで人形を見ているかのような気分になったソウヤは、少し厳しい表情になる。
それに気付かない……いや、“気付かぬ振りをした”天使は言葉を続けた。
「何故なら私は“初めから堕ちていない”」
「――やっぱり、そうなるか」
堕天していないのなら、彼が今その恰好でその美しさを保てている理由にも納得が付く。
ならば何故、神話では彼が堕ちたと描いているのか。
そうソウヤが質問するまでもなく、彼は「いや……」と言葉を濁した。
「……初めから“堕ちる場所なんてない”んだがな」
“堕ちる場所なんてない”。
堕ちる場所、という言葉が指すのは考えるまでも無く“悪魔の世界”のことだろう。
そもそも初めから“堕ちる場所”が無ければ、堕天することも出来ず現状維持のままに済まされる。
もしこの天使が何かをやらかしたとしても、堕ちることは無いということだ。
「なら何故、神話で堕ちたと言われた?」
「ふむ。それでは今からそれを証明しようか」
威圧。
瞬間ソウヤは圧倒的な威圧に呑まれかける。
今、目の前の天使が放っている殺気はそれほどまでに“黒く濃密”で……“無理由”だったのだ。
―あぁ、やっぱりこいつは本当にルシファーなんだな。
今までの天使とは全く別物の、“神々しい殺気”ではなく“禍々しい殺気”。
使命があるから殺すのではなく、ただ殺したいから殺すだけ。
生きるため、食べるため、飲むため、場所を得るため、強くなるため……そんな原始的理由さえ“コイツ”にはない。
――今、この天使は人形ではなくなった。
その異様に整った口を、限界まで歪めて堕ちた天使は笑う。
「私の名は“神の恐怖”。怖れよ、怯め……これが今からお前を蹂躙する力だ」
神さえ怖れた天使。
それ故に、彼は堕天使と神話で謳われ熾天使からも外れた。
“こんな猛獣を枠に収めよう”なんて考えが、まず見当はずれなのである。
「君を殺せば、私は晴れて封印から解き放たれる。故に君を殺そうじゃないか」
「はっ、馬鹿言え殺人鬼。お前はただ“殺したい”だけだろう」
ルシファーの顔が、更に獰猛に……醜く変化した。
それだけソウヤの言葉が、自身の心を表現していて嬉しいのだろう。
その顔は、その表情は、その体躯は、その声は、その体の動かし方でさえ、この異様さを閉じ込める檻。
本性は美しさとは無縁であり、彼の根本はただの“血”だ。
だからこそ、ソウヤは躊躇う必要さえ無い。
“殺したいから殺す”なんていう人道から逸する考えを持つ奴相手に、最初から手加減するつもりは毛頭ないのである。
雪無を取り出し巨剣化させ、ソウヤはルシファーと対峙する。
「あぁ、良い……凄まじく素晴らしい力だ。良くここまで鍛え上げた」
ルシファーは瞳に初めて“生”を宿すと、12枚の翼のうち1枚を“引き千切った”。
異常な行動に、ソウヤは度胆を抜かれ――
「私も、本気を出すに値する力だ」
「クソみたいな力の出し方しやがって……!」
――黄金に輝く槍を持ち、引き千切られた部分から黒い翼がルシファーから出現するのを見て、寒気が止まらない。
12枚の翼はそのまま、“12個の力”となる。
そのそれぞれが熾天使1人分の力であり、引き千切ることでその力を開放するのだ。
4人しかいない熾天使、その12人分もの力を持つルシファー。
故に、彼は“神の恐怖”と言われた。
神さえ殺しかねない、圧倒的な力を持った彼を神々は恐怖したのだろう。
「……そうだ、良いことを教えてやろう」
黄金の槍を肩に置いて、ルシファーはそう言った。
言葉の意味を理解できないソウヤはそれに対して、眉を潜めることで応対。
「私に勝ったら、面白い話を1つ聞かせようじゃないか」
「――なら、教えて貰うぞ」
圧倒的な質量を持つ巨剣を、片手で持ったソウヤは突撃する構えを取る。
それを見て、ルシファーは「出来るかな」と“良い笑顔”で答え槍を構えた。
「出来るに決まってるだろ」
「――――」
最後に、ソウヤはそう言って“嗤う”。
「お前が俺に勝つことは無いからな」
今、ここに神を除く最強決戦が――
――始まる。
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