終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?赤き英雄
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この世界が終わる前に
この世界が終わる前にA
き言のひとつも漏《も》らせないくらいには。
「だからさ。
おとーさんたちが、これから、星神《かみさま》と戦いに行くっていうならさ。そんな後ろ向きのジンクスなんかじゃなくて、もっと確かなものに縋《すが》ってよ。
そうじゃないと、私……明日、笑っておとーさんを送り出せる自信、ないよ」
「と、いわれてもな」
言わんとすることは、わかる。
気持ちを汲《く》みたくも思う。
しかしまあ、だからといって、結婚の予定は語られない。相手が要《い》ることでもあるし、場の勢いや流れで決めていいものだとも思えない。
かといって、『じゃあ向こうでいい名前を考えておくから、俺が戻《もど》ってくるまでに赤ん坊を用意しといてくれ』みたいなことを言って収まるとも思えない。というか、間違《まちが》いなく全力でひっぱたかれる。
別の手を探す。
「……バターケーキ」
「はい?」
「お前の焼くあれは、けっこう好きだ。次の俺の誕生日にも、特大のを頼《たの》む」
「はぁ」
娘は、目に見えて肩《かた》を落とした。
「そんなもんのために、生きて帰ってくるの?」
「何か間違ったか?」
「いやまあ……なんかこう、シリアスさが足りないっていうか……」
ぽりぽりと頬《ほお》をかいてから、
「ま、いいか。妥協《だきょう》してあげる。そのかわり、言ったからには、来年には胸焼けするくらい食べてもらうからね、ケーキ」
だから絶対に帰ってこいとまでは、もう、今さら言わなかったけれど。
少しだけ翳《かげ》っていたけれど、ともあれ笑顔を見せてくれた。
「ああ、任せとけ」
保証の言葉を返しつつ、シチューを食べる手は休めない。
夜は更《ふ》ける
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