衛宮士郎の新たなる道
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第3話 新時代前の前日
前書き
東西交流戦は軽く流します。
だって内容ほとんど変わらないもん。
衛宮士郎は女性からの好意に鈍感である。
だが、去り際に突如ディープキスをされたり、ここまでされれば流石に気づく。
「・・・・・・・・・・・・」
藤村組と九鬼陣営のトップ5人との話し合いが行われた翌日の朝。
いや、正確にはまだ日は明けていないので、夜中の時間帯に士郎は浴衣姿で寝ていた。
ただし布団の上には士郎だけでは無く、もう1人の女性が居た。
その女性――――リザは添い寝をするように士郎の隣――――では無く、士郎の左腕に絡みつくように抱きしめて、顔と豊満な胸を鍛え上げられた逞しい胸板に預けていた。
「ふにゅ~♪」
「・・・・・・・・・・・・」
郷に入っては郷に従え。
折角日本で暮らすと言う事なので、寝間着を士郎と同じく浴衣に身を包んでいるリザは態とかどうかまでは分からないが、ある程度はだけており、その部分が見えるようで見えないチラリズム的にエロいモノだ。
「・・・・・・・・・」
そんな状態なモノだから士郎としてはドギマギもの――――では無かった。
この様な状況はスカサハからの揶揄いで慣れている。
それに士郎は女慣れしているので、突発的に唇を奪われるなどしない限り赤面したりすることも無い。
そして(一応)紳士なので、この状況を口実に押し倒すなど有りえない。
まあ、リザ本人は押し倒されたいのだろうが。
取りあえず士郎は、今も直自分の胸板を枕にして寝ているリザのために、為されるがまま現状を維持することを決めた。
だがもう一つ決めた事がある。それが、
『護衛の任務において私情を優先するな』
と言う、説教である。
-Interlude-
朝日が昇り、朝食前の九鬼財閥極東本部の与一に与えられた部屋にて、霊体化したままのジャンヌが話をしていた。
「――――昨夜、魔術師が九鬼極東本部に来ただと!?」
『正確には九鬼極東本部の敷地外であるゲート前までです』
ジャンヌにはルーラーとしての責務を果たす為、自身の半径五キロ圏内の索敵能力が備わっている。
本当は十キロ程なのだが、ルーラーとしての多くの能力が何故か召喚当時から弱体化していて、索敵能力もその一つである。
それでも強力なその索敵によって魔術師の気配を感じ取れたのは見事な成果と言えるだろう。
しかし報告を聞いたマスターである与一はそれどころでは無い。
「まさか《組織》か!?」
『それは分かりませんが、義経や弁慶、それに清楚を狙っている何者かの偵察だと思われます。それともう一つ』
「なんだ?」
『近くに別の誰かが数人いまして、中にはここで働いている執事服を着ていた者も何人か見えましたよ』
「・・・・・・つまり、此処に裏切り者若しくはスパイが紛れ込んでいるって言うのか?」
『恐らくは。それと裏口からでは無く、真正面のゲートと言うのも気になります』
ゲートには当然の様に幾つもの監視カメラが設置されている上、人の目による監視もある。
それにもかかわらず、わざわざゲート前を選んだと言う事実がジャンヌを悩ませていた。
勿論それを聞いた与一も、
「まさか数人どころか十数人以上の間諜が紛れ込んでいる可能性があるって言うのかよ!?」
『・・・・・・・・・』
与一の疑問にジャンヌは答えられない。
推測でしかないが、その可能性が十分に高いと思っているからだ。
だからこそ疑問には答えずに、別の言葉を言うしかない。
『不安に囚われる事を言って申し訳ありませんが、これから今まで以上に気を付けてください』
「・・・・・・分かった。そう言えばお前が言ってた、義経達にお前の事を伝える件は如何する?」
『延期した方がいいでしょう。ただし予定を変更して、マスターたちの生みの親であるミス・マープルに伝えると言うのはどうでしょう?マスターたちが生まれた理由による計画立案者ならば、スパイと言う事は無いでしょうから』
「そう・・・だな。だが今すぐは無しだ。間諜の目が何時何所にあるかも判らないからな」
『分かりました。時期はマスターに任せます・・・・・・マスター』
「分かってる」
主語が抜けているジャンヌの言葉に、動揺を見せずにドアへ視線を向ける。
それとほぼ同時に、ノック音のすぐ後からドア越しで義経の声が聞こえる。
『与一。もう朝食の時間だぞ?』
「分かってる。直向かうから先に言っててくれ」
『む、早くするんだぞ?』
言質を取ったため、不承不承で与一の部屋の前から離れて行く義経。
それを確認した与一はジャンヌに言う。
「今日より一層の警戒、頼んだぞ?」
『はい。マスターも気を付けて』
そうして2人はまだまだ勘違いしながら部屋を出るのだった。
-Interlude-
ほぼ同時刻、衛宮邸でも朝食中であった。
日曜日くらいはと言う事もあって、学校がある日よりも遅い朝食。
そんな朝食の中で、大河と仲良く話しながら食事を進めるリザに士郎は横目で様子を見る。
「この焼き加減は絶妙ですね」
「そうでしょう?やっぱり士郎の料理が一番おいしいのよね~」
また新たに女性が住み込むと言う事もあって、藤姉が暴れる可能性を考えていたのだが、記憶喪失の時にそれなりに中を深めていたので、大・咆・哮は免れた。
勿論、士郎とリザが一緒に寝ている現場に鉢合わせされれば、結末は容易に想像できるが。
そして、そんな危うい状況へ焚きつけた元凶――――レオを盗み見る。
「・・・・・・・・・」
リザに説教した時にレオが自分が促したのだと笑顔で暴露したのだ。
その当人は、郷に入っては郷に従えを実践して、朝食を皆と同じように和食に合わせて行儀よく満足そうに食べている。
士郎の視線には気づいているだろうに、敢えて無視して満足そうに。
だが士郎が注視しているのはそれだけでは無い。
昨日の自己紹介時、リザを落ち着けてからレオがいきなりの爆弾発言をしたのだ。
『ボクは魔術師であり、転生者でもあります』
ハーウェイ家次期当主が魔術師だと言う事も驚きではあったが、それ以上に転生者だと名乗った事が一番度肝を抜かれた事だった。
レオの護衛であるリザも知らされていなかった事実だったようで、彼女もすこぶる驚いていた。
そんなレオが何故暴露したかと言えば、
『士郎さんも転生者なのでは?』
そう指摘を受けたのだ。
正確には違うが、遠からずでもないこの指摘。
レオは衛宮士郎と言う人間を調べさせた時、弓術と料理人としての才覚以外平凡であるにも拘らず、肉体面においても精神面においても知識面においても超人の域に居る事を訝しんだ。
だが自分と同じ転生者であれば、一度目の生での経験を引き継いでいるとすれば、色々と納得する事が出来たのだ。
この指摘に関して士郎は否定も肯定もせずに、さらには疑問にも応えず何故暴露したのかと尋ねたが、結局誤魔化されてしまった。
「レオナルド、これをどう思うね?」
「今すぐ売りさばいた方がいいですよ?今は辛うじて体裁も保っていますが、近いうちに下落するでしょう」
エジソンと仲良く談話しているレオだが、何でも以前の世界で“聖杯戦争”を経験している為に、サーヴァントの気配が分かるためにエジソンとシーマがサーヴァントであることがバレた。
しかもその指摘に黙っとけばいいモノを、
『如何にも!私こそが発明王――――トーマス・アルバ・エジソンである!』
と名乗り上げてしまったのだ。
これにスカサハは呆れ、士郎は頭痛に苛まれるように頭を押さえたものだ。
ちなみに、シーマは真名を未だに思い出せないので、名乗り上げたエジソンを密に羨ましく思っていたとか。
兎に角、色々衝撃的な事があったが、仮初とは言えレオも立派にこの家に馴染んでいた。
「それで、レオは今日如何するんだ?」
「そうですね。“サプライズ”が有るので外出は出来ませんし、士郎さんの魔術師としての工房を見学してもいいですか?」
普通は魔術師が他の魔術師の工房を見学したがるなど有りえない。
魔術師の工房とは、そこの主にとっては自らの研究成果の秘中の秘の保管場所であり、よそ者からすれば幾多の凶悪な罠が待ち構えているであろう堅牢な要塞であるからして、見せ合うなど、ほとほと有りえないのだ。
「まあ、特別面白いもんなんて無いが。それで構わないなら」
だが士郎は色んな意味で常識外れの魔術師、人によるだろうが容易く了承してしまった。
「ありがとうございます」
「俺もついて行っていいか?」
「リザもか?物好きばかりの様だが、それで良いと言うなら」
「よっしゃ!」
レオとしては純粋な興味であり、リザとしては好きになった男と極力傍に居たいからという理由だった。
こうして新たなる住人を迎えた初日の朝が始まったのだった。
-Interlude-
時刻は夕方。
川神工場地帯にて、東西交流戦の大一番が始まっていた。
「如何やら押されている様だが、準もユキも冬馬頑張ってるな」
「・・・・・・・・・」
「参加できなくて不満だろうが、仕方ないだろ?シーマが出たらお前の一人勝ち状態になるんだから」
「むぅ」
そう、今夜は二年VS二年なのだが、士郎の指摘通りサーヴァントであるシーマが加われば川神学園側の圧勝となる為、鉄心による独断でシーマの不参加が決定されてしまったのだ。
当人であるシーマは感情と理屈は別物として、理解は出来ても納得できずにひたすらに不満そうだった。
別に百代の様なバトルジャンキーでは無いシーマだが、観ているだけと言うのが不満らしく、露骨に機嫌が悪そうだ。
「そうむくれるなよ。それにマスターを守るのがサーヴァントの務めって言ってたのは何所の誰なんだ?俺から離れてあそこに言ったら、サーヴァント失格なんじゃないか?」
「わ、分かっているとも!」
「なら今回は我慢してくれよ」
「ぜ、善処しよう」
「まるで政治家みたいな言い回しだな」
それからさらに事態は進み、天神館側の強者たち――――西方十勇士が各個撃破されて状況は逆転し、最後は空で飛んでいた九鬼のヘリから源義経と名乗る美少女武士が飛び降りて来て、彼女が総大将の石田三郎を、副将の島右近を一子が仕留めて、二勝一敗で東西交流戦は川神学園の勝利で終わった。
その帰り道、冬馬達3人は士郎の運転する車で自宅まで送られていた。
「今日は3人ともよく頑張ったな」
「でしょでしょ!」
「ですが、すげー疲れましたよ。これで明日は休みならいいんでしょうけど、そうじゃ無いっすからね」
「だろうな。まあ、その特性ドリンクで気休めとしてくれ」
運転中の士郎の代わりに、士郎オリジナルの特性栄養剤ドリンクを助手席に座っていたシーマが3人に配る。
「う~ん!美味しい!」
「栄養剤ドリンクとは思えない美味さだよな」
「ですね。そう言えば士郎さん」
「ん?」
「留学生の件は落ち着いたんですか?」
今回の週末は留学生を受け入れるにあたり、士郎の邪魔にならないように何時もの宿泊を3人は遠慮したのだ。
「ああ、気を使わせて悪いな」
「いえ」
「確かその留学生の付添いがリズ――――リザなんでしょ?」
「あ、ああ。リザも3人に逢うの楽しみにしてたようだし、留学生の護衛として編入するからよろしくやってくれ」
「勿論です」
「それで結局、留学生は誰なんですか?」
「明日までの秘密だ」
「え~?良いジャン!教えてよ、シロ兄!」
そんな風に楽しく談話をしながら士郎は3人を自宅に送り届けたのだった。
-Interlude-
東西交流戦が終わってから一時間後。
マスターピースの執務室に居るトワイスは、日本支部から通信連絡を受けていた。
「そうか。遂に源義経のクローン及び武士道プランの情報が公になったか」
『正確には一部だけですが、如何しましょう?』
「対策は此方で検討する。君たちは引き続き、正規の仕事と武士道プランの状況の監視に努めてほしい」
『了解しました』
日本支部からの通信連絡を終えてからトワイスは溜息をつく。
「結局一月経っても返答は無しか」
「予想通りだろうに」
執務室にはトワイスだけかと思いきや、やや離れた地点で壁にもたれかかるように立っている黒子がいた。
その黒子に驚く事なく言葉を返す。
「出来れば外れて欲しかった予想だ」
「それは残念だったな。で?動くのか」
「私がこの地を離れるには時期が早過ぎる。そのくらい判っているだろうに・・・・・・挑発のつもりか?」
「さてな」
同じマスターピースの一員だが、所詮は利用しあう関係でしかないので内容は冷めたものだ。
「まあ、貴様には何も期待していない。――――私だ。すまないが、エレンホス副代表の今月のスケジュールをこちらに回してくれ」
『少々お待ちください』
黒子との会話中に当人にも目もくれず、映像通信である部署に自身の用件を伝えた。
それを黒子は冷めた言葉で攻めたてる。
「フロガを向かわせる気満々じゃないか。何が外れて欲しかった予想だ。寧ろ予定通りの進捗状況と言った所か、悪趣味め」
「何とでも言うがいい。立場上、最悪の未来を予想した上で対策を立てるのが私の責任だ。それ以上にこれは“世界の為”なんだぞ?何故それを理解しない」
トワイスの言葉にこれ以上付きあってられないと言わんばかりに、退出しようとドアを開ける。
そして去り際に、
「“世界の為”?よく言う。貴様自身の理想の為だろう」
そう言い残して黒子は去った。
それに言い返すどころか愚痴すらも口にしないトワイス。
もとより黒子の理解を得られるとは思っていない。
今日も今日とてトワイスは、人類の黄金期実現のため、今まで通り冷酷かつ大胆に書類に目を通しながら物事を決断して行った。
様々な思い思惑が蠢く中、波乱に満ちた初夏が始まろうとしていた。
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