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提督はBarにいる。

作者:ごません
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キスの味はさくらんぼ?・その4

「ねぇ提督?」

「なんだ?」

「朝潮ちゃん達へのお土産にぃ、何かお菓子作ってもらえないかしら~?」

 ほう、作ってやるのは一向に構わんが、そりゃまた何で?

「朝潮ちゃん達、あんまりこのお店に来ないしぃ……提督のスイーツチケットが当たらなくて残念がってたからぁ」

 あぁ、そういやまだ朝潮型には当たった事なかったっけな?バレンタインデーのお返しに入れてるスイーツチケット。※詳しくは『艦娘とスイーツと提督と』を読もう!

「別に作ってやるのはいいんだがな……何を作るか」

「う~ん……出来たらケーキとかパイみたいに、皆で切り分けて食べられたら嬉しいわぁ♪」

「あぁ、それなら『さくらんぼのクラフティ』にするか」

「クラフティ?なぁにそれぇ」

 クラフティってのは、フランスのとある地方に伝わる伝統的な焼き菓子でな。タルト型にタルト生地とフルーツを流し込んで焼き上げる菓子だ。

「まぁ簡単に言えばフルーツ入りのカスタードプディングみたいなもんだ」

俺がそう言うと、荒潮と早霜はピンと来ていないのか首を傾げている。

「プリン……ですか?」

「プリンって、あの冷たくてプルプルしてるあれよねぇ?」

 あらら、この二人もちゃんとしたプリン……プディングってのを知らないクチかい。

「あのなぁ、プリン……正確にはプディングが正しいんだが、蒸し焼きにするか茶碗蒸しみたいに蒸して作るのが本式の作り方だからな」

「あらあらぁ、それは知らなかったわねぇ」

「お菓子好きとして恥ずかしいです……!」

 いや、早霜よ。そんなに悔しがるような事でもねぇからな?ウン。プディングってのはイギリスで生まれた牛乳や卵、バターを大量に使って生地を作り、蒸し固めた料理の総称だ。お菓子のカスタードプディングはその内の1つってわけさ。そしてそれが各国に伝わる内に焼いて固める製法が生まれた。これがクラフティやブリュレの起源とも言われているな。ある意味クレームブリュレはプリンの親戚って訳さ。

 そして食品化学工業の発展と共に、新たなプリンが生まれた。ゼラチン等のゲル化剤を使って冷やし固める『ケミカルプリン』だ。焼いたり蒸したりという工程が無い分手軽に作れる上に、プルプル、ツルツルとした食感が受けて、今じゃケミカルプリンが伝統的なプディングよりも流通している。一般的なプリンのイメージがケミカルプリンなのも頷けるな。だが今回は焼き菓子のクラフティを作るぞ。




《混ぜて焼くだけ、簡単!さくらんぼのクラフティ》※分量22cmのタルト型用

・さくらんぼ:50個位

・卵:2個

・グラニュー糖:80g

・塩:ひとつまみ

・薄力粉:50g

・バター:20g

・牛乳:200cc

・生クリーム:50cc

・バニラエッセンス:数滴



 さて、作っていくぞ。今回は荒潮のリクエストもあってさくらんぼ……アメリカンチェリーを使っているが、無ければラズベリーやリンゴ、苺、バナナなんかでも美味しく焼けるぞ。


 まず最初はバターだ。固形のまま使うのではなく溶かしバターにして使うので、電子レンジで加熱して溶かしておく。その間に生地を作り始めていくぞ。ボウルにグラニュー糖、塩、卵を入れてかき混ぜておき、そこに薄力粉を混ぜて粉っぽさが無くなるまで混ぜておく。

 粉っぽさが無くなったら溶かしバターを加え、更にかき混ぜる。バターが馴染んだら牛乳と生クリーム、バニラエッセンスを加えてここに一工夫。

「あら?提督、その透明なのってお酒?」

「それは……キルシュですか」

 ご名答だ、流石は早霜。キルシュってのは前にも説明した通り、さくらんぼから作った醸造酒を蒸留したブランデーの事だ。香りがいいから良くお菓子作りにも使われるし、今回はさくらんぼを使ったお菓子だから相性の良さは尚更だ。こいつを少々生地に加える。キルシュ売ってるトコは中々無いからな。無ければ入れなくても十分美味いんだが、あるなら断然入れる事をオススメするぜ。全体が良く混ざったら、生地は完成だ。

 オーブンを180℃に余熱しつつ、お次はさくらんぼの種を取っていく。取らなくてもいいんだが食べ難いしな。しかし50個もあると手間なんだよな……。


「あの、お手伝いしましょうか?店長」

「私もやるわぁ~♪」

「おぉ、すまんな」

 そう言って2人にも割り箸とさくらんぼ、種と実を分けて入れる容器を手渡す。暫く無言でプチプチと種を取っていたが、不意に荒潮が口を開いた。





「そういえば提督」

「何だ?」

「提督のファーストキスって、金剛さん?」

 藪から棒に何を言い出すんだこいつは。

「なんだいきなり?まさかの恋愛相談か?」

「うふふ、違うわよぉ。ほらぁ、よく『ファーストキスは甘酸っぱい味がする』とか聞くでしょ~?」

「あ~……たまに見るな、ラブコメ漫画やらの描写で」

「本当の所、どうなのかなぁって思って」

「そういうのこそウチの嫁連中に聞けよ。ほとんどの奴が俺がファーストキスの相手だし」

「もちろん聞いたわよぉ。でもねぇ、み~んな『煙草の匂いとバニラみたいな甘い味がした』って言ってたのぉ」

 あ~、それは完全に俺のせいだわな。ウン。俺の吸ってる煙草にゃバニラとかのフレーバーが含まれてるからな。当然っちゃ当然か。

「だからぁ、提督のファーストキスの味が解ればその謎が解けるかな~って」

「ファーストキスか……金剛だ、と言いたい所だが違うな」

「えぇ~?まさかの浮気ぃ~?」

「違ぇよ、学生時代……高校の時だよ」

 あれは高校2年の時だったろうか?俺は当時遊ぶ金欲しさでバイトを幾つも掛け持ちして忙しい毎日を送っていた。そのバイトの内、喫茶店のバイト先で知り合った1コ下の女の子が相手だ。

「つ、付き合ったんですか?」

 早霜が真っ赤になりながら尋ねてくる。

「いや、俺その頃はあんまり恋愛とかに興味なかったしな。俺は調理場担当だったし、彼女はホール担当でふれ合う機会もほとんどなかった」

 そんなある日、バレンタインデーの近くなった頃にバイト終わりに呼び止められた。その子は真っ赤になりながら、俺に自分でラッピングしたんだろう、手作りのチョコを渡してきた。んで、ありがとうって俺が言ったら、頭にゴミが付いてるから取ってあげると言われたんだ。頭下げたら不意打ち気味にチュッ、とな。

「うわぁ……ドラマのワンシーンみたいねぇ」

「それで、その子とはどうなったんですか!?」

「それっきりだよ。その子は親の都合で引っ越してったらしい」

 今思えば、あの子は俺の事が好きだったんだろうな。今になって思い返せば、あんな態度取ってんのに気付かねぇとか……鈍感すぎんだろ当時の俺。

「不意打ちだったからな、味なんぞ覚えとらんよ」

 金剛と初めてキスした時にゃ、その日食ったカレーの味がして随分とスパイシーなファーストキスだったな、と思い出して2人で笑ってたりするが。そんな話をしながらも作業は進んでおり、さくらんぼの種取りは完了。

 種を取ったさくらんぼをタルト型に敷き詰め、そこに生地を流し込んでいく。この時、タルト型に溶かしバター(分量外)を塗っておくと焼き上がりに型から外しやすくなるぞ。後は余熱したオーブンで35~40分焼けば出来上がりだ。





「提督ぅ、待つ間にもう一杯……お願い♪」

「しゃあねぇなぁ」

 さっきキスの話題が出たし、名前にキスの入ったカクテルにするか。

《キス・イン・ザ・ダークのレシピ》

・ドライジン:20ml

・スイートベルモット:20ml

・チェリー・ブランデー:20ml



 キス・イン・ザ・ダーク……直訳すれば暗がりでのキスって所か。実は同じ題名でピンクレディーが歌を出してたりするが、まぁ因果関係は無い。ハズだ。作り方としては全ての材料をシェイカーに入れてシェイク。カクテルグラスに注いで完成。甘口が苦手な場合はチェリー・ブランデーを減らしてジンを増やしてやればいい。

「さぁ出来たぞ、『キス・イン・ザ・ダーク』……本当にキスの味かは知らんがな」

「あらあら、素敵な事するのねぇ♪」

 荒潮は軽く一口味わうと、

「提督、ちょっと顔近付けて?」

「ん?こうか」

 俺が顔を近付けると、俺の唇に自分の唇をチュッと当ててきた。

「荒潮のファーストキスよぉ?どうかしら~?」

「……何やったんだお前は」

 悪ふざけが過ぎるっての、ったく。お仕置き代わりに軽くデコピンをしてやり、痛がる荒潮をよそに唇をウェットティッシュで拭く。意外とアイツ鋭いからな。

「お味はどうでした~?」

「知るか」

 まぁ、何というか気恥ずかしくて甘酸っぱく感じたのかもなとは、ほんの少し思ったが。 
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