提督はBarにいる。
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キスの味はさくらんぼ?・その3
「うん、おいし♪」
「クリームチーズの爽やかな酸味を、さくらんぼのコンポートが引き立ててますね。アクセントのラム酒や赤ワインも軽く香ってくる程度で……絶妙です」
出してやったレアチーズケーキを夢中で頬張る2人。荒潮は『ハンター』を飲みつつチビチビと摘まむように食べている。まぁ、ツマミ代わりに出してやったんだから当然か。
「提督、お代わりぃ♪」
「あいよ。しかしよく飲むなぁ……ったく」
んじゃまぁ日本生まれのカクテルをひとつ。
《チェリー・ブロッサムのレシピ》
・チェリー・ブランデー:30ml
・ブランデー:20ml
・レモンジュース:2dash
・グレナデンシロップ:2dash
・キュラソー:2dash
チェリー・ブロッサム。意味は『桜の花』……その名の通り、桜の花をイメージして考案されたカクテルだ。本来の桜の花よりも鮮やかな紅い色とサクランボ、ブランデー両者の香りがふんわりと立っている。生まれたのは大正時代の横浜で、考案者は日本のバーテンダーの草分け的存在と言われる『田尾多三郎』。生まれも名前の由来も日本なのに、何故フランスのリキュールばかりなのかと言えば、田尾が修行したのがフランスであり、店の名前も『パリ』だったからだと言われている。作り方は全ての材料をシェイカーに入れ、シェイクしてカクテルグラスに注いだら完成。
「ほらよ、『チェリー・ブロッサム』だ」
「甘くていい香りぃ♪」
チェリー・ブロッサムはアルコール度数はキツいものの、口当たりはチェリー・ブランデーとグレナデンシロップのお陰で甘い。それに合わせるなら何か酸味のある……そうだ、ヨーグルトアイスでいくか。
《ひんやりさっぱり!さくらんぼのヨーグルトアイス》
・さくらんぼ(軸、種を取った状態):300g
・プレーンヨーグルト:500g
・生クリーム:200cc
・グラニュー糖:80~100g
さぁて、作っていくぞ。普段のレシピだと生のさくらんぼを使うんだが、今回はレアチーズケーキの時に作ったコンポートがあるからな、そっちを使っていくぞ。コンポートを半潰し位にして、ヨーグルト等と混ぜやすくしておく。生のさくらんぼを使う場合には、種を取り除いて半潰しにして汁を出しておく。
生クリームにグラニュー糖を加えて8分立て位に泡立てる。グラニュー糖の量は好みで調節してくれ。
泡立てた生クリームにコンポートとヨーグルトを加えて混ぜる。泡立て器等を使わず、ゴムへら等でサックリと混ぜるようにな。
後はタッパーなんかの容器に移して、冷凍庫に。1時間毎に取り出して、空気を含ませるようにかき混ぜるのを忘れずに。この工程を2~3回繰り返せば食べ頃だぞ。
「そら、口直しだ。『さくらんぼのヨーグルトアイス』……さっぱりしてて食べやすいはずだぜ?」
スプーンで掬って頬張れば、ヨーグルトの酸味とコンポートの甘味が溶け合って口に広がっていく。
「これは……清涼感があって暑い時期にはピッタリですね」
「そうねぇ、朝潮ちゃん達にも食べさせてあげたいわぁ」
「なら今度連れてきな。連れてくるのを予め伝えておいてくれれば作っとくから」
「うふふふふふ、楽しみにしてるわぁ♪」
「それにしても荒潮、お前中々に強いな?」
強いな、とは勿論艦娘としての戦闘力ではなく酒の飲みっぷりの話だ。朝潮は下戸だったはずだし、満潮、霞、大潮の3人は人並みに飲める程度。姉妹だから似る、とは言わないが荒潮がずば抜けて強いようだ。
「最初の内は飲んだ事無かったんだけどぉ、明石さんの酒保に缶ビールとか簡単なおつまみを置くようになってからかしら~?」
「何、明石の奴そんな商売もしてたのか?」
詳しく聞けば、ちょっとしたお菓子やジュース、トランプ等の遊び道具の他に冷蔵用の棚が増設されて缶ビールや缶チューハイ等、手軽に手を出しやすい酒の種類が増えたらしい。それち伴って酒のツマミコーナーもスペースを増やしており、さながらコンビニのようになっているという。荒潮はそっちで酒やツマミを購入し、他の駆逐隊の連中なんかと部屋飲みでアルコールに馴れていったらしい。
『まぁ、変な商売やってなけりゃあ俺が止める義理も筋合いもねぇんだがな。まぁその内チェックしに行くか……』
頭の隅に『明石酒保の抜き打ちチェック』というのを書き加えておく。そんな会話をしている内に、荒潮は『チェリー・ブロッサム』を飲み干したらしく、お代わりをご所望だ。さてさて、そいじゃ作りますかね。
《ボルガ・ボートマンのレシピ》
・ウォッカ:20ml
・チェリー・ブランデー:20ml
・オレンジジュース:20ml
さて、作っていこう。名前の由来はロシアを流れるヨーロッパ最長の河川であるボルガ河の船乗り、という意味らしい。だからロシアらしく使われるのはウォッカだ。ウォッカとオレンジジュースを同量混ぜれば、有名なカクテル『スクリュードライバー』になるが、そこに同じ量のチェリー・ブランデーを加えると味が大きく変わる。作り方は3つの材料全てをシェイカーに入れてシェイクし、カクテルグラスに注げば完成。オレンジとチェリーのミックスされたフルーティな香りと、ブランデーの香りが合わさって、よい香りと仄かな甘味が楽しめる一杯だ。
「ほら、『ボルガ・ボートマン』だ」
「店長、私にも何か作って頂けますか?」
おっと、早霜にしては珍しいな。まぁたまにはそんな日があってもいいだろう。
「勿論だ、チェリー・ブランデーを使った奴でいいのか?」
「はい、お願いします」
なら、昔の名作映画をモチーフにしたカクテルを。
《ブラッド&サンドのレシピ》
・スコッチ・ウィスキー:20ml
・スイートベルモット:20ml
・チェリー・ブランデー:20ml
・オレンジジュース:20ml
コイツは昔の闘牛士を題材にした映画『blood and sand』がモチーフになったカクテルらしいぞ。グラスに入った深紅のカクテルが、闘牛士と闘牛の流す血を表してるとか何とか。実際はそんな血生臭い物じゃないから安心してくれ。作り方はシンプルに、全ての材料をシェイカーに入れてシェイク。ブランデーグラスに1~2個氷を入れ、シェイカーの中身を移したらスライスしたオレンジやチェリーを飾って完成。
「さぁ出来たぞ、『ブラッド&サンド』だ」
「頂きます……」
早霜はまるでテイスティングでもするように、少量を口に含むと舌の上で転がし、ゆっくりと味わっていく。やがてゴクリと飲み込むと、
「甘口ですがしっかりとスコッチの風味が活きてました。このカクテルレシピは存じ上げませんでした……流石は店長」
と言ってきた。やめろ、本職でもねぇのにそんなに褒めるなよ。照れ臭いだろうが。
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