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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第60話『一年生VS.三年生』

「腕が鳴るぜ」バチバチ


そう自信ありげに言う終夜の両手からは、文字通り黒い火花が散っていた。今にも落雷を落とされそうな恐怖を感じる。


「一応手加減はしなきゃダメよ?」

「わかってるよ」

「ホントに? アンタってすぐ熱くな──」

「それじゃ、早速始めだ!」


緋翼の言葉を無視して、終夜自ら開始の合図が出す。

──と同時に、終夜が特攻してくる。


「一瞬で終わらせてやるよ!」バチッ


低い姿勢で駆けてくる終夜の右手が、黒い電気が纏い始める。彼の能力(アビリティ)である"夜雷"だ。アレは攻撃だけでなく、麻痺の効果も持ち合わせているから、被弾は避けたいところ。


「結月!」

「うん!」ジャキン


晴登は咄嗟に結月に氷壁を張らせる。一応防御のつもりだが、どう出るか──


「甘いぜ!」バリン

「…やっぱ無理か!」


やはり終夜の"夜雷"は侮れなかった。黒い電撃は結月の氷をいとも容易く破壊する。


「喰らいな!」バリバリ

「……! 下がれっ!」


直後、終夜が自分を中心として周囲に放電したので、急いで距離を取る。たぶん、当たれば即麻痺だっただろう。


「厄介だな──」

「どこ見てんの?!」ザシュッ

「なっ……がぁっ!?」


放電を避けたと思っていた矢先、先回りしていた緋翼によって晴登は吹き飛ばされる。何とか倒れずには耐えた。
"斬撃"・・・というよりは、"衝撃"だった。刀による攻撃のはずだったのに、鈍器で殴られた様な威力。逸脱した剣術だ。


「ハルト! …この!」ズガァ

「ふっ!」バリン


晴登が吹き飛ぶ様子を見た結月は、緋翼に向かって地面から氷柱を幾つも突き出した。

しかし、それは終夜によって破壊される。


「ちょっと、邪魔しないでよ」

「良いだろ。俺はレベル5の力を見てみたいんだ」

「はぁ…もう勝手にして」


そう言って、緋翼は結月から離れる。代わりに終夜が相手になった。
晴登はその様子を見て、急いで援護に向かおうとしたが・・・


「良いわよ、私は男2人を相手しててあげる」

「…っ!」


目の前に緋翼が立ち塞がった。右手に鋭く光る刀を持ち、こちらを見据えている。


「三浦、お前はあっちに向かえ」

「え?」

「こっちは引き付けてやる。その間に向こうを片付けてこい」


突如、隣に居た伸太郎からそう言われる。向こうをすぐに片付けて、3対1に持ち込もうという策だろう。
きっと彼は真っ向からではなく頭脳で戦うから、緋翼相手でも時間は稼いでくれるはず。


「……わかった」


「よし、決まりだ!」ピカーッ

「!!」


晴登が肯定するや否や、伸太郎は目眩しで隙を作る。唐突だったため緋翼はそれには対応できず、目を塞いでやり過ごしていた。

晴登も目を塞ぎつつ、結月に加勢しようと駆けた。





「・・・どうして、行かせたのかしら」

「アイツらは2人で組んだ方が、絶対に強いっすから」

「その代わり、私は1人で充分と?」

「別に。3人メンバーなら必然的にそうなるっすよ」


自分を軽く見られたと思って、少し苛立ちを見せる緋翼。確かに終夜の方を重視してはいるが、緋翼が決して弱くないというのは、さっきの晴登への一撃で確認済み。
実力で言えば断然向こうが上だから、気を引き締めなくてはならない。


「あらそう。じゃあ私もさっさと終わらせようかしら」ボワァ

「!?」


緋翼が呟いた途端、彼女の周囲を焔が覆っていく。"焔の鎧"とでも言うべきか。


「なに驚いてるの? まだまだ本気じゃないからね?」

「……当たり前っすよ。俺だって…!」ボッ


まだ少し使い慣れない炎を、伸太郎は右手に纏う。


──炎と焔の一騎打ちが始まった。







「弾けろ! 冥雷砲!」バシュン

「ぐっ…!」バリン


終夜の指から放たれた雷は、結月の張った氷壁によって相殺されて、消失する。結月の氷壁も、貫通こそ避けられたものの、破壊されて霧散した。


「レベル5とはいえまだまだ未熟だな。力が込められてねぇ。ま、それでも俺の攻撃が届いてないけど」

「力が込められてない…?」

「気持ちだよ気持ち。防御する時も、ただ防げれば良い、じゃダメなんだよ」


独りでに語り出す終夜。それはご最もであり、結月も納得する。

そして彼は、とある方向を見て呟いた。


「…ったく、ちゃんと足止めしとけよ、辻」


言い草の割には薄らと笑みを浮かべている。

結月も終夜の視線に合わせて見てみると、一人の少年が走ってこちらに向かって来ていた。


「結月!」

「ハルト!」


結月は晴登を見るだけで、表情を和らげた。嬉しさが見て取れる。
終夜はその様子をじっと眺め、「やれやれ」としていた。


「逢瀬の途中悪いけどよ、2人でも容赦しねぇぜ。覚悟はできてるな?」


終夜の言葉に2人は身構える。遠距離で来るのか、はたまた特攻で来るのか。どちらにせよ、行動は即決で決めなければならない。


「…じゃあ行くぜ! おらぁっ!!」バリバリ

「「っ!!」」ヒュ


終夜は両手に黒雷を纏ったかと思うと、一気に振り下ろす。すると、その黒雷は大地を穿ちながら2人を襲った。

辛うじて避けたが、高威力であったことは容易にわかる。


「まだまだぁ!!」バリバリ

「結月!」

「うん!」ジャキン


間髪入れずに終夜は黒雷で薙ぎ払う。リーチが広く、結月の氷壁で何とか防いだ。


「このまま防戦一方じゃダメだ。結月、攻めるぞ!」ビュオ

「わかった!」


晴登は足に風を纏わせ、いつぞやの素早さバフを付ける。その速さは疾風の如し。風に紛れて、敵に迫ることができる。


「ふっ!」ヒュン

「っ…!?」


晴登は地面を思い切り蹴り出す。その瞬間、身体が弾丸の様な速さで飛んだ。
終夜が驚いているようだが、実は速すぎて晴登自身その表情は見えない。

つまるところ、ブレーキは結構大変なのだ。ヒョウとの戦闘の際は、逆風を起こして止まっていたりする。逆に言えば、ブレーキさえできれば機動力がグッと上がるのだ。


「おらぁ!」バキ

「がっ…!」


まぁ、今回に至っては勢いで殴ったが。

弾丸に殴られた終夜の身体は、浮きながら後方に吹き飛ぶ。晴登もまた、着地に失敗してゴロゴロと無様に転がった。


「痛てて……今の攻撃は中々──って」バリッ

「力づくで破られた…!?」

「タイミングは良かったが、まだヤワだ。もっと気持ちを込めろ」

「うっ…」


倒れている終夜を凍らそうと、結月は地面からの氷結を狙ったが、放電によって無理やり防がれてしまう。
気持ちを込めろと言われて試しているのだが、いまいちピンとこない。


「吹っ飛べ!」ブワァ

「お前は隙だらけだ」ドガッ

「うっ…!」


晴登の起こした突風を終夜は掻い潜り、彼の腹に一発をかます。あくまで晴登は遠距離型。内に攻め込んでしまえば、対処に遅れるのだ。


「おいおい、二人がかりでその程度か? もっと楽しませてくれよ」


晴登と結月はそれぞれ、煽ってくる終夜を見据える。もちろん、本心から言っている訳では無いということはわかる。あくまで彼は、自分たちの力を引き出そうとしているのだろう。


「けど、全然策が浮かばねぇ…」

「……ハルト、ボクがやろうか?」

「え?」

「ハルトの為だったら、ボクは"力"を使うよ」

「力って・・・」


そのまで言いかけて、晴登は結月のある言葉を思い出す。


『ボクは、鬼の血を引いている』


結局その時は詳しく聞かずじまいだったが、きっと彼女の言った力とはそれではないだろうか。

──見たい反面、恐怖があった。


「どうする、ハルト?」

「その…副作用とかはないのか?」

「そうだね・・・制御できるかわからない」

「……っ」


この答えでは使わせようとは思えない。
大体、晴登に言わせてもらえば、鬼だとか隠された力はボス相手に使ってほしいと思う。例えばヒョウだとか。
増して、遊びとまでは言わないが、この戦闘はテスト。全力でやって大怪我でもしたら、ひとたまりもない。


「だ、大丈夫だよ! たぶん・・・」

「そこで『たぶん』はダメだろ」

「きっと・・・」

「変わってない」

「だと良いと思う・・・」

「ただの願望じゃねぇか!」


テスト中だというのに、図らずもノリが生まれてしまう。

晴登は気を取り直し、もう一度結月に問う。


「俺はその力についてよくわかんないけど──任せて良いんだよな?」

「もちろんだよ、ハルト」

「……正直、打開策は思いつかない。結月、頼めるか?」

「ありがと。任せて」ヒュオ


その瞬間、結月が禍々しいオーラを包まれるのを、晴登は見た。







「紅蓮斬!」ボゥ

「っ…!」ヒュ

「まだ避けるのね。中々しぶといじゃない」

「そりゃどうも…」ハァハァ


一方その頃、伸太郎は緋翼と一進一退の攻防をしていた。

・・・と言っても、明らかに緋翼が優勢である。

ちなみに『紅蓮斬』というのは、いわゆる"焔の衝撃波"だ。焔の塊なので、触れると火傷する。


「おらぁっ!」ボワァ

「無駄よ!」ジャキン

「くっ…!」


炎を放ってみるも、ついに刀ですら両断されてしまう。しかも、よくよく見ると緋翼は未だに焔の鎧の中。炎が効かないのは当然だ。


「三浦にはカッコつけちまったけど、こりゃ勝機がねぇぞ……」


相性的には五分五分。それは即ち、実力で差がつくことを示す。そして、伸太郎と緋翼の実力の差は一目瞭然。つまり伸太郎の発言が、現実味を帯びていく。


「……バカ、諦めちゃダメだ。こんなに楽しいんだから、すぐに終わらせちゃつまんねぇだろ」


勉強だと敵無し。運動だと全員敵。──ただ、魔術だけは平凡。伸太郎はその事実にを、実は密かに嬉しく思っていたりする。やっと対等に、人と渡り合えるのだと。


「考えろ。姑息な事なんて、幾つでも思いつくだろ?」


さっきから・・・いや、以前から見てきた緋翼の動きを洗いざらい思い出す。言葉、動き、癖・・・全てが策の糧となるのだ。
そして、それに対する自分の魔術の使い方を熟考しろ。


「つまり、炎の攻撃は愚策。てことは──光で攻めるか」


伸太郎はそう思いつくや否や、周囲に光の粒子を出現させる。それらは燦々と輝きながら、伸太郎を包み込んだ。


「眩しい…!」


この技の利点といえば、相手から視認されないこと。最大限活用できれば、ノーダメも夢ではない。


「けど、結構キツい……」


ただ、継続的に魔術を使い続けるということは、体力のない伸太郎にとっては苦そのもの。常に集中し、全身を気張らせ続けなければならないのだ。


「まぁ楽じゃねぇことはわかってるよ。だから俺はやるんだ」


伸太郎は右手で指鉄砲を構える。そしてその指先に光を凝縮させた。


「部長の受け売りだけど・・・弾けろ!」パシュン


刹那、弾丸が放たれた。光速で進むそれは、緋翼の焔の鎧を貫き、


「きゃあっ!?」


──命中する。

威力はまだ弱いが、緋翼の纏う焔は消せた。放った衝撃で、伸太郎の纏う光も消えていたが。


「中々…面白いじゃないの」スクッ

「やっぱ、決定打には程遠いか…」


"光の弾丸"というのは、終夜の"冥雷砲"を見てからずっと考えていた技だ。練習する機会が無く、お蔵入りしかけてたのが事実だけども。ただ初めて使った割には、形も良くできていたのではなかろうか。


「練習あるのみ、ってか。まさか俺がこんな台詞吐くなんてな」


部活なんて、生まれてこの方入ったことがない。即ち、練習ということすらあまりしなかった人生。

だけど、今ならわかる。

もっと魔術を使えるようになりたいと。もっと強くなりたいと。もっと──楽しみたいと。


「っしゃあ!」ポワァ


伸太郎は両手に光を纏わす。今回は身体には使わない。
ゆっくりと深呼吸し、集中力を高めていく。


「『攻撃こそ最大の防御』。その言葉の真実、確かめさせて貰うぜ!」ニッ


今までで一番大きな声で、そして笑顔で伸太郎は叫んだ。
 
 

 
後書き
あれ、夏休みってこんなに忙しかったっけ? 進学すると、こんなにも変わるんですねぇ…。お久しぶりです、波羅です。
1ヶ月に2話とか楽勝だろとか思ってたいつかの自分を殴りたいです。正直こんな有様です。もう読者消えちゃいますよ(´・ω・`)

・・・とまぁ、辛い話は置いといて。

せっかくの魔術バトルなんで、次回に持ち越します。伸太郎君が何の脈絡も無しに魔術大好き人間になってしまったのは自分の文才不足です。なんかそう捉えといて下さい(投げやり)

でもって再び実現、晴登&結月。やっぱりこれがしたかった。相手は終夜ですんで、もしかしたら勝機が・・・ってとこですけど、別に終夜は弱い設定じゃないですから、白熱した戦いを繰り広げていくことでしょう。もうね、俺が大変(´;ω;`)

さて、今回も雑に後書きして終わります。また次回会いましょう、では! 
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