世界をめぐる、銀白の翼
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第四章 RE:BIRTH
Longing Story
なんの変わり映えもない通路。
頭上からは蛍光灯の光が射し、奥には「非常口」と書かれたお馴染みの緑が見える。
その通路を少しの警戒心を以って進むのは
「(お、押すなって!)」
「小声で何言ってんですか。先に進んでください」
「(そっちが先に行ってくれよ!!)」
「だからなんで小声なんですか。そもそも、あなたに吹っ切れてもらうためにでもあるんですよ?これ」
「(解ってるけど荒療治すぎねぇ?)」
「どこが」
あなたが今まで各世界で暴れてきたことに比べれば、まだ優しいです。
と、そんなことを口ずさんで、アリスが蒔風をグイグイと押していく。
それに表立って抵抗しないあたり、蒔風も少しは「戻った」ようだが、それでもまだ自分から行こうとはしない。
その後ろの方では佳景山と初原が銃と拳を構えてついて行っていた。
「なぁ、怖い怖い言ってて情けねぇぞ?」
「うるっせぇ。怖いもんは怖い」
「彼の場合、恐怖を長らく忘れていたせいでその耐性を失っている状況ですからね」
「つまり今まで感じなかった分、ドバっと?」
「そう言うことですね」
「そりゃ難儀な」
そんなことを話しながら、三人は歩を進める。一人は押される。
そうしていると
「なんとまぁ広い・・・・」
「広いというか」
「広大だな」
その言葉通り、広い場所に出た。
太い柱が天井まで伸びており、それがこの空間に等間隔でびっしりと並んでいる。
天井までの高さはざっと五十メートルだろうか?
これだけ広いと、いくら天井からライトがあっても足元は薄暗い。
「どっかで見たことあるような光景だな」
「あれだろ?でっかい都市の地下にある貯水池だろ?」
足元にはいくつかの水たまりもある。
壁を見渡すが、穴はない。狙撃の心配はなさそうだが―――――
ガシュン!
「―――――――――!」
「お出ましですかぃ」
「やっとまともな人間相手かな?」
柱が開き、その中から黒スーツの男たちが何人も出てきた。
手には銃だったり剣だったりが握られている。
向けられる殺気からして、明らかに敵である。
その相手に向け、戦いを挑もうとする一同。
「よっしゃ行くぞォ!」
「おぉう!!」
「無茶はしないでくださいよ!!」
相手がもっているのは、普通のハンドガンだ。
恐らく剣も普通の物だろう。
まあだからと言って危険度が低いわけではないのだが。
しかし、それが相手なら佳景山と初原も打って出れる。
そうして、三人が飛び出そうとしたところで
「うわぁ!!」
ヴォン!!
「あだっ!?」
「ぐえっ」
「きゃっ・・・と?」
ゴン!バン!と佳景山と初原が、壁にぶつかって後ろに倒れる。
壁の正体は、蒔風のバリアだ。
ドーム状のそれを球に張った物だから、勢い余って二人は不意打ち気味に正面から衝突してしまった。
「って~~~・・・・」
ガキギギギギギギン!!
そして、佳景山が文句を言う前に銃撃が飛来した。
バリアを幾度もノックしながら、全方位から銃弾が火花を散らす。
蒔風はというと目をつぶってしまっていて、地面に立てた剣に縋り付くようにしてしゃがみ込んでいた。
顔色は青ざめている。
そして、バリアが耐えられていることに一瞬ほっとしていた。
「よかった・・・」
「よかったじゃない!!こっちは頭打ったぞ!?」
「いや、わりぃ。でもほら、銃危ないし。どっから来るかわかんないし」
「だったら一声かけろっての!初原もなんか言ってやれって!!」
「待った、今たんこぶにならないように押さえてるから」
「・・・・さいで」
初原もしゃがんで頭を押さえている。
こっちを向かないあたり、多分半泣き状態なのだろう。ぶつかった音も大きかったし。
一方、アリスはバリアに手を置いて状況を見ると同時に推察していた。
蒔風が得てしまった死の恐怖。
蒔風はそれで「生の異端者」から外れた。
生死に関する人間味は増えたが、弊害もある。
立ち向かおうとしないということだ。
つまり、このバリアが今の蒔風の在り方を形作ってしまっいる。
このままでは、蒔風はこのままの男になる。
文字通り「殻に籠る」
身も蓋もない言い方をすれば、引きこもりだ。
「舜」
「ん?」
「バリアを解いてください」
「えーーーーーっと・・・・・」
アリスの言っていることは理解できる。
敵を倒そうというのだ。
だが、それは同時に危険に身をさらすということだ。
それは怖い。
すごく怖い。
死ぬのは絶対に嫌だった。
「このまま進めば・・・・」
「相手がここで「あの銃」等を使ってこないのはここの柱が崩れたら施設が崩壊するからでしょう。逆に言えば、ここのエリアを抜けたら使ってきます。それに耐えられますか?」
「じゃあ!!そこまで言ったらアリスがバリアを・・・・」
「いつまで甘える気ですかッ!!」
「ッッ――――!!!」
アリスの怒号。
あーだこーだと言い訳を述べる蒔風に、ついに飛ぶその言葉。
それは甘えだと。
信頼している。
頼りにしている。
助け合う。
それはいいことだ。
だが、それしかしようとしないのは甘えだと。
「いい加減脱却しなさい。見せてください、あなたの戦いを」
「う・・・・・」
「言いましたよね?主人公は世界の柱。その人物を中心にして、ほかの世界でこの世界(ものがたり)は知られていってるんです」
「・・・そうだけど・・・」
「あなたも憧れたんでしょう?他の世界の、彼らに」
「・・・・・・そうだ」
「だったら、あなたも見せてあげないとです」
「だが・・・・!!」
「怖いなら震えましょう。嫌だったら泣きましょう。でも、諦めることだけはしてはいけない」
「―――――!!!」
「もしもあなたの行いが、どこか遠くの、全く知りもしない世界の誰かの!!心の支えに、指針に、誇りになれるのだとしたら、それは何より素晴らしいことだと思いませんか――――!!!誰かが何かに立ち向かう時、心にあなたの姿を思い浮かべ、それを頼りにして拳を握り、まさしく希望に向かって行く・・・・そんな存在に、憧れたんじゃないんですか・・・・!!!?」
「俺は・・・・」
「あなたの翼は、煌く銀白。希望の翼。願いの翼人。あなたがそれを導くんです」
「―――――――――」
「どうです?そう考えると、魂が震えてきませんか?」
「――――――あぁ」
そうだ。
忘れていた。
誰だって、自分だけで強くなったわけじゃない。
ナニカに立ち向かう時、その理想像を心に描く。
それは成功した自分自身かもしれない。
だが本人が気づいていようといなかろうと、そのモデルは必ず存在する。
それは
不撓不屈の心を持つ空のエース
悲しみを背負って戦う仮面の戦士
天真爛漫に生きて、皆を引っ張る団長
奇怪な右手一本で敵に立ち向かう高校生
自分の未来を突きつけられても諦めなかった正義の味方
いや、そうじゃなくても、この世界にはヒーローがあふれている。
空想 創作 妄想
ゲーム テレビ 漫画
否、そうではない。
その世界は確実に存在する。
何処かにあった、ある世界の物語なのだ。
今の自分がそうであるように
これからの自分がそうでありたいと願うように―――――――――――!!!
「―――――わかったよ・・・」
「舜!!」
「俺、いくよ。がんばってみる。もしかしたら失敗するかもしれないけど・・・・」
「その時こそ頼れっての。俺たち、何度一緒にケンカしてきたんだよ」
「・・・だよな」
そうして、蒔風が剣を握る。
身体に纏いし、十五の天帝。
「逃げたいなぁ」
「まだ言うんですか」
そして、蒔風が地面に建てた「林」に手を掛ける。
息が荒い。
心臓がバクバク言ってる。
抜こうとしている手が、持ち上がらない。
その手に、アリスの手が重なった。
「行きましょう」
「・・・・応!!!」
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「うわぁぁっぁああああああああああああああ!!!」
ゴヅォァ!!!
「ぐべぁ!!」
「ごブッッ!!!」
蒔風がバリアを解き、飛び出していってから戦いはすぐに激化した。
蒔風はやったらめったらに剣や拳をぶん回して破壊の嵐と化していた。
一瞬我を取り戻して構え直すが、すぐにまたそれも乱れてメチャクチャになるのだ。
彼は後に、この状況をこう語る
「太鼓の達人でわからなくなるからいったん叩くのをやめるだろ?で、叩き直そうとしてもまたメチャクチャになるんだ。あれだよ」
殺すことにもビビッているのか、相手は死んでいないだろうがすぐに治療しないと命に係わる。
そこまでの手加減などしている余裕がないのだ。
「来るな来るな来るなよォォおおおお!!!」
まるでガキだが、相手がこの程度なら問題はなかった。
むしろ問題は味方に被害が及ばないかだ。
と言うことで、相手戦力も分散できるということで彼らは蒔風から離れて戦うことにした。
初原、佳景山は己の武器を使って確実に局員を倒していく。
局員と言っても特別強いわけではない。
戦闘訓練を積んで、ここの警備ができる程度の戦闘力だ。
それなら、土俵は同じだ。
彼等にも戦える。
パンパン!!
「グっ!?」
「ぐァ!!」
乾いた発砲音が鳴り、佳景山の弾丸が正確に局員の足や手を撃ち抜いていく。
撃たれた局員はその個所を押さえ、痛みにうめいて地面に倒れる。
痛みを伴う倒し方は一見残酷に見えるが、敵の士気を削ぐには一番効果的だ。
状況にもよるが、仲間が殺されると士気が上がることがある。
要は「あの野郎よくも殺しやがったな!!」状態になるのだ。
だが痛みを訴える仲間を見ては「こんな痛い目に合うのかよ・・・!!」としり込みしてしまうのだ。
しかも、相手は多数。最初の数人がその感情を抱いてしまえば、あとは波紋のようにそれは広がる。
さらに佳景山は相手が砲弾チョッキを着ているとわかると、なんの容赦もなく心臓の真上や胴体に発砲するのだ。
防弾チョッキは弾は防ぐが衝撃は防いでくれない。
(ちくしょう!!防弾チョッキ着てっからって気を抜いた奴ら全員十発以上撃たれてんじゃねぇか!?)
当然、そんな数を食らったら気絶か失神だ。
撃たれた衝撃で倒れた人間にも、気絶するまで容赦なく撃つ佳景山は、さながら死神に見えたことだろう。
『バカ野郎!!撃たれるってわかってんなら、覚悟のしようもあろうがよ!!』
「そっちこそバカか!?覚悟とかそんなんでどうにかなるかよ・・・・あいつ、実際にこう言う修羅場くぐってるとしか思えねェぞ!?」
覚悟しておけば痛みなんかはどうにでもなる、とはよく言われるが、佳景山は正確に脛や腿を狙っているのだ。
それでも銃を握って反撃しようとする者には手の甲まで狙っている。
「おい!!あいつ本当に「EARTH」登録されてないのかよ!?」
『今までの「EARTH」の活動には確認されていないな。しかも、こっちの計器には“No name”って出てる』
「ハァ!?あんだけの戦闘ができる人間が“No name”なわけねェだろ!!」
「“No name”ってのはあくまで蒔風の周辺の話だ」
「んなっ!?」
パンッ
「グぉッ!?」
「ほのぼの系四コマでも、たぶん世間ではいろんな事件は起きてんだろ?でもそれは主人公のあずかり知れない場所でだ。つまり、これはこういうことだ」
「おま・・・・」
「実は親父が自衛官でね。しかも銃オタの。銃のレクチャーは受けていたし、親父の権限で何度も訓練させられたよ」
ジャコッ
「佳景山 優。趣味はクレー射撃だ。人間撃つのは初めてだが・・・・」
「ッ!?」
「あまり気分のいいもんじゃないな」
「是ァッ!!」
「ごが!?」
「このっ!!」
パンッ!
「グァッ!?」
一方、初原
今、彼の周囲には銃を持った人間がいない。
ここにも対多人数という現状の優位点が現れており
「う、撃つな!!味方に当たる。近接で行け!!」
この場所にいるのは大半が敵、機関の人間だ。
つまり、流れ弾が味方同士に当たる確率も高い。
ジャキン!!と局員たちが取り出してきたのは警棒だ。
だが、それはうっすらと発光していてバチバチという音を爆ぜさせている。
「電撃か・・・・」
「いけェ!!」
バチィッ!!とことさら弾かせ、男たちが疾走する。
一気に走り寄って行けば必ず当たる。
まさに数の暴力だ。
身体に当たりさえすればそのまま倒れるし、最悪この人数なら圧殺だ。
だが
「多人数の何が優位かってのを知らないな?」
「あ!?」
初原は向かってくる敵に向かって駆けだした。
最初の一人が突き出してきたそれを身を返して回避し、腕を掴んで捻りあげる。
その腕はその一人自身に向かって行き、顎の下に警棒の先端が当たって彼の意識を飛ばす。
電撃って本当に頭蓋骨見えるんだ、と感心しながら初原はその警棒を手にして左右の男にちょんちょんと当てて身を翻す。
少し当てられただけだが、その二人は全身が痙攣したまま気絶して地面に倒れる。
そしてそのまま警棒を投げ、相手がそれを弾いたところで同時に顔面に飛び蹴りをぶちかまして抜けた。
疾走する局員たちの群れを抜ける初原。
ここまで彼は一度も止まっていない。
その場で回転などあるが、必ず少しは先に進んでいる。
「常に移動すれば集中攻撃もできないだろ?多人数の際、優位なのは圧殺できるかどうかじゃないんだよな、これが」
「なに・・・!?」
コリコリと頭を掻きながら説明する初原。
しかし、そんな隙だらけに見える彼に、局員たちは攻め込めない。
「相手が止まったらそれも優位になるんだがほら、人間は逃げるし、動くし。多人数の時はな、矢継ぎ早に投入して相手の体力削んのがセオリーなんだよ。あんたら・・・戦闘経験無いな?」
「この野郎・・・粋がりやがって!!」
「だったらどんどん行ってやろうじゃねェか!!!」
相手の怒りに火がつく。
相手を委縮させる佳景山とは正反対だ。
だが、そこで初原がにやりと笑う。
「(ピィン)っと、オラァ!!」
「ッ!?なんだ!?」
「これは――――!!」
最初に聞こえた音。
投げられたものの形。
そして、それは自分たちのド真ん中とくれば推測はたやすい
「手榴弾だ!!下がれ!!」
「チクショウ!!」
ドッ、バァッッ!!!
「ッッッ!!!」
――――――ィぃィイイイン
「ゴぁゥっ!?」
「す、閃光弾!?」
「蒔風と一緒にいーろいろやってんだぜ?あいつの騙し討ち戦法を一緒に磨いたのは、誰だか覚えときなぁ!!」
眼の見えなくなった局員はもはや烏合の衆だった。
さらには相手の警棒を奪っての攻防、足元水浸し状態での放電。
彼が武器を持たないのは、ただ格闘技戦が出来るからではない。
手八丁口八丁。武器に縛られない。それが彼の戦い方だ。
そうして五分後。
無双をしていたアリスがどんどん引き付けたおかげで佳景山達の負担は思ったよりも少なく戦闘はすぐに済んだ。
蒔風はというと
「もういない?もういないよな!?」
「はいはいいないから。とりあえずその剣危ないから早くしまえ」
剣を強く握って辺りを見渡していた。
それを佳景山と初原になだめられながら、先に進んでいく一同。
そして、幾段もの階段をのぼる。
明らかにエレベーターの深さと同じくらいの高さ。
「誰だよ。地下にあるって言ったの」
「ってかGPS見てみろよ。入った百貨店の正面にあるデパートじゃねぇか」
「・・・・・・」
「単純に入るビル間違えたんじゃ?」
「う、うるさいですねッ!舜だってここまで「戻れた」んですから文句言わないでくださいッ!!それに入口があったんですから、間違いではないじゃないですか!!」
「まあそうだけど」
そうして、階段が終わる。
そこからまた通路が通っており、その先に扉が一つ。他には扉は見当たらない。
先に進む。
終着点は、この先だ。
to be continued
後書き
地下の貯水池っぽい場所、というのはみなさんご存じ「あの」地下貯水池です。
ディケイド555とリ・イマジザビーがケンカしたところですね。
わからない人は「首都圏外郭放水路」で検索
そして何気に強かった友人二人。
今回蒔風が「戻った」のは
・とりあえず接敵(前回で)
・戦うという意思
だけですね。
蒔風
「でも恐怖は克服されてないから、戦い方メチャクチャ」
アリス
「でも向かおうとする意志だけでも芽生えたのですから、前進です」
アリスの考えでは最低、覚悟を持つくらいなら赤銅との戦いでも加勢できると考えています。
アリス
「舜の加勢なしではたぶん勝てませんからね」
で、次は敵とご対面なわけだが。
蒔風
「めんど」
アリス
「こら」
敵とぶつかる。
つまりは相手の意思とぶつかるということです。
その意思を聞いても揺るがず、ぶつかっていけるなら問題はない、ということになりますね。
さて、久々の説教パートか!?
アリス
「今回もそれっぽいのありましたよね?」
あれをそう言っていいのかわからない。
アリス
「えー?」
それを判断するのはみんなさッ(キラッ)
蒔風
「うザッ」
アリス
「次回、あの組織の生き残りだけあって高慢ちきな残党の登場です!!」
ではまた次回
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